最近文字が浮かんで来なくて⋯⋯そうか、これが、スランプか。
と言い訳してみました。
今回、短めです。
ゲームを始める前に一つ、ちょっとした前説にお付き合い願いたい。なに、そこまで長くない、ただの
端的に言って、俺は弱い。俺には並外れた高速計算も、化物じみた心理誘導もできない。
だからきっと、どれだけ努力を重ねても、死力を尽くしても、彼らには遠く及ばない。
俺がゲームに勝つことはない。
分かっていることだ、知っていることだ。それはただの事実で、変えようのない現実で、疑いようのない真実だ。だから逆らおうとも思わないし、とっくに諦めている。
そこまで踏まえてのこのゲーム。はなから結果を捨てた、『 』とは対極の勝負。いや、これはもう勝負にすらならない。
俺がこの勝負ではない何かをする理由は、後ででいい。重要なのはただ一つ、決着はもうついているということだ。
これは
さて、では始めようか。そして終わらせよう――この茶番劇を、どう転んでも
巫女さんとジブリールには、空に頼んで席を外してもらった。彼自身も、どうやら最初からそのつもりだったらしいが。
作られたゲーム盤を挟んで座る一人と二人。
こうして彼らと並ぶのは、何度目か。日常的に、だがそこまで多くはない回数だが、俺たちはこうしてゲームをした。どれも結果は同じである。
「始める前にルールの確認を一つ、聞いときたいんだけどいい?」
「あぁ」
断る理由はなく、空も応じて言う。
「発生したイベントは全員に見えるように開示される、でいいんだな」
「それでいい。むしろ条件発動のマス移動だった場合とか、証明するためにも必要だろ」
おーけーと、普段から見せる軽薄な笑顔で頷く空。その膝の上の白は、俺から受け取ったダイスをコロコロと手の上で転がしている。
「先行は譲る」
「まぁ、あんまし意味無いからな」
すごろくにおいて先攻後攻の優劣は少ない。むしろ無と言っていい。ルールにもよるが、どのみち出目で全てが決まるためだ。
それに、今回は本当に意味がない。いやあるにはあるが、それも究極どうにでもなることで。
「よっしゃっ。んじゃまぁ行くとしますか」
「……れっつ、ごー」
11歳の手から零れるように振られた
「6が2つ。まさか初手から最大とはなぁ〜」
「わざとらし過ぎる」
茶化す空はこの際無視していい。
白が降ったダイスは両方とも6。出目は12となる。
確率論に物申したいところでもあるが、実際に三六分の一を完璧に引いてしまう少女がいる。
「……素材、重量……その他の条件、から……出目の出し方……おおよそ、わかる」
訂正、導き出せる少女がいる。
全ての面が均等な確率で出るようにされたダイス。本来なら確率的に出にくいそれを、彼女は計算だけで割り出し、引き出した。
『血壊』のようなスキルなしでこれなんだから、全くチートもいいところである。そんな能力俺にもくれよ神様。
この世界の神様は信用出来ないけどな。しないけどな。
「12っと。え〜っとイベントは、『プレイヤーは50メートル全力ダッシュ』。おい、嫌がらせが過ぎるだろ」
「運動不足のお前らには丁度いいだろ」
「……鬼ガヤ……はち、まん?」
「名前は覚えててくれてありがとう。ついでに苗字も覚えてね?」
部屋の構造上カーブをつけながら、空は持てる筋力をフルに使って走る。当然ではあるが、終わった頃には肩どころか全身で息をしていた。
「ハァ……ハァ……」
「……ターン、交代……次、ゴー……」
「わかってる」
用意したダイスは4つ。そのうちの二つを俺は右手に握る。
さて、ここで数学の時間だ。文系の俺が出すお粗末なものだが、なかなかの出来だと自負する。
ここにダイスが二つある。それぞれ1〜6の目があり、出る目の確率は全て均等である。
条件は以下のものとする。俺には白のような超計算力と技術はないため、任意の目を出すことは出来ない。出目はルールに従い、振って出た目の合計。
――俺は握った正方形を手放し、自由落下していくそれを見つめる。
問題、出目1〜3が出る確率を答えよ。
「なぁ空、白」
「なんだ?」
「俺って数学は苦手なんだよ」
「……それ、で?」
「けど、算数くらいなら、余裕だ」
――回転を続ける賽はやがて力を失い、赤い点、日の丸にも似たそれを真上に向けて、止まった。
答え。
「五割、50%、二分の一。半分でも可」
――出目は、1。
俺の心中を読んでいるわけもない二人は、一瞬の間を置いて問う。言ったのは空だけど。
「で、それなに?」
「俺のこのゲームの成功率だ」
俺は出目に従ってコマを動かす。たった一つだけ進んだその場には、隠されていた文字が浮かび上がって来た。
「動揺なしですか」
「最初っから『ダイスは必ず二つ振る』なんて言ってねぇっしょ?」
「ご明察」
「……にぃに、
俺が言ったのは白のことだったのだが。まぁ空を信じてるなら、わざわざ取り乱すわけもなしって感じか。信頼関係ほんと深すぎ。
空にその手の策が通じるとは最初から思っていない。それでも、バレていても問題はなかった。
勝つために戦う彼らにとって、わざわざ使う賽を減らす理由はないからな。デメリットしかない手を打つほど、『 』は俺を舐めてはいない。多分、恐らく。
「で、イベントの内容はっと」
上下が逆さ文字だろうが余裕で読んだはずだ。内容を確認し、認識した彼らの表情は、しかし揺れない。
「これは驚いて欲しかったんだが」
なにせ最大火力の最初っからの最終兵器だ。これ以上のサプライズは用意していない。
「想定の範囲内。とはちょっと違ったけど、許容範囲内だッ」
「……だッ」
2人仲良く親指を立て、ウザめのキメ顔をこちらに向けた。
あぁ、やはり、俺がこいつらを出し抜いて勝つことは、できそうにない。
――『勝負終了後、勝敗に関わらず相手プレイヤーから、任意のものを一つ奪える』
俺の最大の目的であるそれが、強制イベントを表す文字によって書かれていた。
―巫女 side―
場所は隣の部屋。ジブリールの配慮で、音声は聞こえんようになっとる。こっちからも、あっちからもね。
「こうやってじっくり話せる機会っちゅんは、あん時以来か」
それで伝わったやろ、目の前ん彼女は頷いて応えた。
あん時、つまりヒキガヤが初めて来た時。いづなとの会話中、そういや今と同じく隣の部屋でやったな。
「今回のゲーム、あんたはどない思う?」
「結果から申し上げれば、マスターの勝利でしょう」
「そこは同意するわ」
当然と言えば当然やろ。もとより始めっからヒキガヤが勝ちに来とるようには、あてからも見えんかったからねぇ。
けど、聞きたいんはそこやない。
「気になるんは彼の目的、やね」
十中八九勝敗は見えとる。となればヒキガヤは何をしに来たんか。
仮にやけど、空と白、あるいはエルキア連邦と明確に対立したかったとして。それで、いくらなんでも盟約まで使うんか?少なくとも、彼が提示した条件はそうやった。
「あの男にどれだけ深い思惑があれど、それをやすやすと達成させるほどマスターは鈍くはありません」
自分が仕えとる主の優勢は揺るがんと。そん風に言った彼女は、しかしと、否定に使う接続詞を続けた。
「そんなマスターが『警戒に値する』と判断したのも、また事実。知りうるすべてを考慮しても、少なくとも今の私では答えはでないでしょう」
分からん、か。
彼女にして珍しい言い方いやな、と思う。
たとえ分からんて答えでも、普段のジブリールなら素直に言うはずや。まぁ言うほど、あてが彼女を理解しとるとも思いはせんひんけど。
「自分を理解できない」
思考ん中、そんなことを呟いたジブリールの顔は既視のない、言いよんない表情やった。
「そのような体験はお有りで?」
「明確にあるとは言えんけど、そやな。確かに、自分んが不条理な行動やったゆうて後悔したんは、少なくないな」
心変わりゆうんは、心がある以上珍しくはない。数分前ん行動を、なんでそないことて思うんは頻繁やったりもするかもしれん。
やけど、そないなことをあの
それは
「あんたは、そんなことがあったん?」
もしもそれが何かしらの変化、あるいは成長なんやとしたら。きっかけは彼らか――あるいは。
「あった。いえ、現在進行形である、と言った方が正確でしょう」
「今も自分が分からんて?」
「えぇ、今もなお。これが感情⋯⋯なのか、それすらも」
自分自身でも分からんことに口出しできるとは思わん。彼ん時みたく、あてと同じ境遇やったんならまだしもや。
「そうか」
どう考えても当然、答えは出ぇひん。
数秒間を開けたあてには、目を閉じてそう返すんが精一杯やった。
―巫女 side out―
全然書けなくて俺ガイル一巻から読み直してます。
流石本職だなと思うばかりでした。
感想、誤字報告よろしくお願いします。
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