俺の知る中では最高レベルに笑うテト。この様子だと先程までの反応は全て演技だったのかもしれない。
俺の言った言葉、内容を加味していえば要求だろうか。それには答えずにテトは言う。
「答え合わせがまだだったね?」
「それはいいって言っただろ」
「違う。それじゃなくて、僕が君を呼んだ理由云々のこと」
言われてみればそうだ。思えばテトは、俺の見解を肯定も否定もしていない。それは、少し気になる。
「どこまで合ってたんだ?」
「難しい質問だけど、僕が約束を、そしてルールを絶対に守ることについては正解だよ」
「逆に言えば、それ以外は不正解ってことか」
「まぁね」
つまりテトが示した
じゃあなんで俺を呼んだのかと、俺はシンプルな質問をする。
「理由は前に言った通り、面白いものが見れると思ったからだよ。具体的には僕の知らない結末を見れるから、かな」
と、ここで彼は人差し指を立てる。何やら塾の講師のように説明するらしい。
「このことについて、君は一つ大きなミスリードをした」
「ミスリード?」
「そう。君は僕の言う
普通はそうだろう。この世界に来た時点でチート持ちの転生系主人公でない俺は、後から
「でも違う。僕が言ったのは、君に『
「は?」
一番ありえない可能性を挙げるテト。その説は俺が一番最初に切り捨てた内容だ。
そんなものが仮にあったら、テトが俺にした約束はなんの意味のなくなってしまうだろう。
「才能でチートができるなら、そもそもお前は俺とゲームすることはない」
「そうだよ。僕は君とゲームしない。いや……」
終始笑顔のテトは両手を広げ、これから空前絶後の大発見を発表するように言い放った。
「君はゲームをしない!」
「……」
……。
正直、何を言っているのか分からなかった。
この世界でゲームをしないなど出来るはずがない。いや厳密には可能だが、打倒神様を掲げたからには不可能だ。
そんな心中を察したのか、テトは続ける。
「厳密には君もゲームはする。でもそれは『種のコマ』の関係しないもの。もっと言えば、僕を倒すために必要ではないものだ」
この世界のルール上、テトを倒すには『種のコマ』を必要とし、最低でもラスボス合わせて17勝しなければならない。
テトが言うのはその『最短ルートの16勝』に含まれるゲームを、俺はしないということだ。
「そんなことはないだろ。現に一回やってるし」
「東部連合との一戦は実質『 』が起こしたもの。それに、君は一つたりとも『種のコマ』を所持していないし、君が主体的に参加したゲームでは一度も『種のコマ』は動いていない」
俺がこの世界に来て『盟約に誓って』自ら行ったゲームは、クラミーとのスピード、ジブリールとのしりとり、空とのジャンケン、巫女さんとのジャンケン、ジブリールといづな相手の鬼ごっこ、クラミーとフィー相手の鬼ごっこ。それと今日の『 』とのすごろくに、テトとのチェスか。
確かに、一度も『種のコマ』は関係していない。
「認めはするが、それと俺のチート云々がどう関係する?」
俺が『盤上の世界』攻略のゲームをして来ていないことは結果論とも言える。それにゲームをしないことが才能だとも思えない。
低めの声で出した質問に、テトは高らかに答える。
「そんな君がここにいること。それがもう、どうしようもなく
「……」
テトが言いたいことは理解できる。
ゲームをせずにゲームのラスボスと戦う。これはチートだ。確かにそうだ。
だが、今回の場合そのチートはテトの約束故に成り立つものであり、才能とは関係ない。
余程俺がわかりやすい顔をしていたのか、テトは座っている俺の周りを歩きながら話し始める。
「僕と君は約束した。次に会ったらゲームをしようと。そして君はここに来た。この世界のルール、コマを集めることを無視して」
「あぁ」
「この世界はゲームをして『種のコマ』を集めなければクリア出来ない。正確には、ゲームをしなければ僕の所へ来れない。つまり、『種のコマ』を集めることはあくまでも挑戦権であり、クリアではない」
それは理解出来る。だから俺は、あるいはテトは、ここに来るための権利を約束としたのだ。
「君の勘違いは三つある。一つは、あの約束が『ゲームをする約束』であって『ここに来ていい約束』、つまり挑戦権ではないってこと」
「……」
「君は挑戦権を得たのではなく、僕とゲームの出来る機会を得ただけなんだ」
テトは約束を破らないが、その分本来の意味から外れた約束を守ることもないだろう。つまり、今日ここでゲームを受ける理由がない。
「挑戦権とゲームする機会は大きく違う。何故なら後者には『盟約』に誓う必要がないからだ」
「そうだよ。だからさっきやったゲームは、約束とは関係なく、たまたま僕が釣り合ったと思う賭け金を君が提示しただけだ」
別に盟約を使おうが使わまいが約束は守られる。盟約を使えば多少の優劣がゲーム開始前についてしまうが。
あぁ、だからか。
あの時テトがフェアにやりたいと言ったのは、盟約による制約よりも俺とのゲームを優先したから。純粋に楽しみたかったから。
だとしたら、少し悪いな。
「ここまで言えば分かるかな?」
正面まで来たテトは座り直し、左手で頬杖をついて聞いてきた。
「つまり『種のコマ』を度外視して、テトの約束に関する制約も使わずにここへ来ることが、そもそもの
頷いて肯定するテトに、俺は今までを振り返る。
俺はコマを集めることはしなかった。それは必要でないと思ったから。根拠は約束にあり、それ以外はない。
なら、これは偶然の産物か?こうしてテトと向かい合うのは、奇跡的な変数が俺の知らないところで重なり合ったからか?
違うはずだ。でなければ、テトが俺を呼んだ意味がない。
「お前は方法はともかく、こういう形になると最初から分かっていた」
「肯定するよ」
「その理由はなんだ?」
「君の勘違いしていることだ」
テトは人差し指と中指、薬指を立てて左手で人差し指を握る。
「一つ目は約束について。二つ目は、さっきも言ったね――
まぁ、そうだろうな。自惚れではなく、テトが今主張してきたからこそそう思う。
だが、やはり心当たりがない。それこそ、この世界のルールを無視して進めるほどの才能なんて、空や白を軽く超えたレベルではないか。
「それこそチートくさいな」
「確かにちょっと反則的なものかもしれない。でも、それは誰にでもあるものだ。偶々君が他の人より少しだけ、その分野で秀でているだけ」
存在チートの神様がここまで褒めるんだ。なのに自覚がないってことは、多分聞いても納得ができないものかもしれない。
「教えてくれ」
それでも聞く。興味もあるし、目の前の少年が話したくてウズウズしているもの理由だ。
ならば教えてくあげようと、テトは俺に人差し指を向ける。
「君の才能は、『変える』ことだ」
「……」
……。
ふと、俺は空を見上げた。何もない、曇のない空を。
人は変わらない。
絶対ではないが、仮に変わろうとどれだけ努力しても尽力しても、変化が見えるのは上っ面の外面だけが精々だ。
人の本質は変わらない。もしも変わったと宣う奴がいるなら、きっとそいつは薄っぺらいのだろう。薄いから外面と内面を見間違える。
なのに、あろう事かこの神様は、俺が『変える』ことのできるなら人間だと言った。
ある筈が、ない。
「ある筈ないって顔だね」
「……俺は理解、分解、再構築みたいな術は使えないからな」
「ごめん。皮肉で返したってことしか分からないや」
こほんと咳払いしたテトは、いつの間にか右手にトランプの束を持っていた。それをシャッフルしながら彼は問う。
「ポーカーをする時、君はジョーカーを抜くかい?」
「その時によるな」
「僕は抜かない。その方が面白いからね」
テトは二枚のジョーカーを引き抜き、色合いの違うそれらを俺に見せた。
「ジョーカーは言わばワイルドカード。それ一枚だけで、なんの力も持たない手札が役をもつ」
どうやっているのかは分からないが、恐らく魔法で四枚、束の上から空中に浮遊させる。その四枚に統一性はなく、ポーカーならブタと呼ばれるものだ。
ここにジョーカーが加われば最低でもワンペアができる。
「ジョーカーは変えるんだ。在り方を、その意味を、たった一枚で。だから面白い。たった一枚で変わる大きな未来は、未知とスリルに溢れている!」
「……俺がその、ジョーカーだって言いたいのか?」
さっきの彼の言葉を思えば、俺はここに
「いや、違う。君“達”が僕にとってのジョーカーさ」
俺の推測を否定し、ジョーカーを空中に離したテトは四枚のエースを左手に持つ。
「この世界は色んな種族がいる。彼らが僕に勝つには、手を取り合って協力し合って、僕を倒せる手札になるしかない」
彼の右手に置かれた束の中から、五枚のカードが飛び上がる。
役はロイヤルストレートフラッシュ――いや、ただのストレートフラッシュだ。
「お前がエースである以上、絶対に勝てない」
「そう。僕がゲームで“彼ら”に負けることはない。でもね……」
スペードの9の上に、ヒラヒラと舞っていたジョーカーが重なる。それによって、役はロイヤルストレートフラッシュへと回帰する。
「こうなれば僕は負けるかもしれない。もちろん、そうならないように僕も努力する――」
テトは一度カードを裏向きにし、再度俺に広げて表面を見せる。彼の手の中にはクローバーのロイヤルストレートフラッシュがあった。
「これで条件は五分と五分。どっちが負けるか分からない最高のゲームだ」
「なるほどな」
この世界でテトに勝てるものは十中八九いない。だが、そんな弱い役に一枚加わるだけで、事態は『変わる』。
俺はテトが持っている束の上から四枚、迷うことなく取る。そこに浮いているモノクロのジョーカーを合わせて、彼に見せた。
「負けるかもしれないから、楽しいってか?」
――ファイブカード。
ジョーカーを含めば最高位の一手。揃うことはまずない。だが完成すれば勝敗はほぼ確実。
まさに賭け――ゲームだ。
「そう。そしてこれが、君だ」
彼が指差し示す先には、俺の持ったファイブカードのジョーカーがある。
「僕がジョーカーを持っていない時点で、それが出たら即負けのワイルドカード。強制終了にも等しい反則級の一手だ」
「ならつまらないだろ、寧ろ」
「ポーカーで一番強い役は何を基準に決められるか。――手にする難しさだよ。当然、ファイブカードは難しい。成功なんて滅多にしない。けど、可能性はゼロじゃない」
「……」
「もちろん君がカードを引かず、降りる場合もある。でも君は乗ってきた。最も可能性の低い役に、君は
「……」
遠くない未来。きっとあの兄妹は神すら破ってこの
だがしなかった。俺は、きっと俺には無理だと諦めて、心のどこかに残った何かに拘った。あの場所に。あの部屋にいた彼女らに。
そして否定した。何度も。幾度も。本物は手に入らないと。この世界で手に入ることなんて、実現しないと。絶対に、ありえないと。
「ある少女は自分を主張することを覚え、またある少女は変化以外の解決法を見た」
脈絡なく話し出した彼を見て、俺は視線を下げていたことに気付いた。
「ある男は喜びを知り、ある少女は独りよがりな自分を恥じた。――種類も大きさも違えど、皆変化した。変わった」
テトが何を見、何を語っているのかは知らないが、そうまでして変わったと断言された者達を、俺は簡単に否定できない。
「それはこの世界でも起きた。小さな、でも確実な変化」
テトは言う。――ある
テトは言う。――ある
テトは言う。――ある
テトは言う。――ある
テトは言う。――ある
「そしてある兄妹は勝つ以外の選択肢を見つけ、ある
テトは言う。――変わったと。
「それを、俺がやったって?」
「全て、とは言わない。もとよりもう一枚のジョーカーである彼らでもできるとは思っていたことだ。ゲームという媒体を使えば、だけどね?」
彼ら、とはあの兄妹のことだろう。
テトが呼んだもう一枚のジョーカー。いや、ゲストである以上それは俺か。
「ゲーマーとゲストでは、どう考えても優劣がついたレース。一度ゲームで僕から勝った彼らが先には着くのは、確率的には九割くらいだった」
テトの言い分をそのまま受け取れば、俺たちはジョーカー二枚を所持して挑める。とんだ反則ゲームだわ。負けたいのか勝ちたいのか、全く分からない。
「でも君はここに来た。人々を変え、ルールを変え、一切ゲームをせず
――そう、まさしく『ノーゲーム』で!」
確率が低くても面白い方にベットする。それがゲーマーであり勝負師である者の本能。俺は理解できないが、その遊戯の神様であるテトなら迷わず賭けるのだろう。
――『ゲームをノーゲームでクリアしてくる馬鹿野郎に』
そして彼は賭けに勝った。その事が嬉しいのか、面白いことが今まさに起きているからなのか。テトは満面の笑みで俺を見ている。
「最後まで肯定しないね。自分を」
「最初から俺の意見は変わらねぇよ。俺に才能はない」
認めたくないとか、意地とか見栄でもない。俺はただ、知っているだけだ。
俺は大した奴ではなくて、いつも選択できる方法は限られていて。そして、いつも間違えている。
そんな俺に才能なんてものが、仮にあってもありえない。誰かを激的に、何かを劇的に変えられるほどの力があるなど、あるわけがない。
だから安心して言える。何度でも言う。
――そんな才能は、ない。
やれやれといった反応を見せるテト。彼は終始笑顔で、その事に少しだけ違和感を覚えた。
「お前が賭けに勝ったこと。それに喜んでることは何となく分かった。けど、俺の要求を聞いて笑ってるのはおかしくないか?」
「おかしくないさ。僕の目的は僕の知らない結末を見ること。それがどんな形であれ、僕は嬉しいのさ」
「……そうか」
はぐらかされた気がするが、それ以上踏み込もうとは思わない。
正直、疲れている。
昨日から数えれば
俺は組んだ両脚を伸ばし、倒れ込むように体を背中から傾けた。
このまま横になったら三日くらい寝て十五食分食いそびれる自信がある。一日五食計算とかどこの海賊だよ。
俺が両手で体を支えると、目の前のテトがゆっくりと上昇し始めた。
「僕は少し準備があるから。疲れてるみたいだし、エンディング前に倒れられても困るから休んでおきなよ」
そう言い残して彼は虚空に消えた。瞬間的に消えるのは何も魔法使いの専売特許ではないのだなとくだらないことを思う。
テトがいなくなってから数秒後。
不可抗力に欠伸が出て、重心が少しズレた。右手を動かして体が傾かないように支え直すと、何かに指が触れる。
そこには、ジブリールから渡された一冊の本があった。
――そういや、冥土の土産に貰ったんだったか。
胡座を掻き直し、手に取った本のページをめくる。1ページ目で彼女の雑な造り笑顔の理由が分かった。
「読めねぇ」
俺が読めるのが
かなりの厚さの本だが、一応1ページずつめくっていく。一枚にびっしりと書かれた文字列は、多分彼女自身が書いたものだろう。癖字というか、字の構成は同じなのに微妙に違う形で記されているのが証拠である。証拠といっても石像がスパイク履いて疾走するレベルで動くんだけど。
およそ30ページを超えてからもうしばらく経ったところで、文字の無い白紙のページが現れた。
「終わりか」
残りのページを最後までパラパラと指で弾きながら目を通す。やはりそれ以降に書き記された文字は無く、俺は彼女が最後の最後までイタズラがしたかったのだと結論付けた。
硬い背表紙に接地した最後の一枚がハラリとめくれる。
「……」
前言、さっき出した結論を一度撤回した。
何故かといえば、そこには書かれていたのだ。
たった一文。たった一行。短く、簡潔に。
それは彼女にしては珍しい、あまり見栄えの良くはない字で。
緊張したのか機嫌が悪かったのか、形のブレた字で。
それとも力の入れ過ぎか、ペンが揺れたような字で。
俺の読める、慣れ親しんだ字――日本語で。
――『あなたを愛しています』
さぁ、ようやくここまで来ました。
あと二話で終わりで、次回同時に出す予定なので実質次が最終回です。
少々期間が空くかも知れません。申し訳ないです。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
-
もっと見たい
-
別にいらない