ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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読み切り風のため短いです。
細かなところは全然書いていないのでご想像にお任せします。




幕間―マッカン―
忘れ去った過去で彼と彼女は再会する


 世界は意外にも単純だ。これは僕がそう作ったからとか、そういった事ではない。

 もっと普通に、根源的に単純なのだ。

 けれど、どれだけ単純なものであろうとも、それが多く集まり、それぞれが独立すれば、事は複雑に見えてくる。

 僕は観察者であり傍観者。

 世界を見渡す神様は、ある日イレギュラーを見つける。

 それがいつからイレギュラーだったのか、元々イレギュラーだったのか、イレギュラーになったのか。そんな事は分からないし、分かる必要も無い。

 だって、その方が楽しいだろう?

 この世界は酷く単純な、ゲームの世界なのだから。

 

 そういえば、名乗り忘れていた。いや、必要ないかな。

 僕は物語の語り部ではないからね。語るのは彼で、これは彼と彼女の物語だ。

 それでも、僕と彼女の出会いくらいは話しておこうかな。

 先立っては、やはり名乗らなきゃならない。

 僕はテト。この世界の神様さ。

 

 さて、そんな神様の僕はある日、自分が創った世界に違和感を感じた。

 世界は単純で、だからこそたった一つのピースが違うだけで大きく変化してしまうものなんだ。

 そのピースの存在を探していくと、ある一人の少女(と言うには歳を重ねてきるけれど)に行き当たった。

 一方的にだけど、僕は彼女を知っている。

 名はジブリール。十六種族の中で天翼種(フリューゲル)と呼ばれる彼女は、傍若無人な性格と破壊的思考、そしてそれらを完遂できるだけの力を持った種族の一人だ。

 そんな種族だから、彼女は他種族の感情の機微に疎い。もしかしたら自分自身についても。

 そんな彼女は自分でも分からない何かを、いつの間にか持っていることに気付いた。

 呼び名を敢えて選ぶなら、感情。

 ジブリールという一人の感情を、しかし彼女自身は理解できていない。その感情の名前も、分類も、真意も、知りはしない。

 ただ、自分はその正体不明な感情を持っていると。たったそれだけのことしか、彼女は知らない。分かっていないのだ。

 だから――

 

「僕が、その感情の答えを示してあげよう!」

 

 そう――優しい神様は救いの手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な図書館、といえば分かるだろうか。

 どこにでもいる普通のぼっちである比企谷八幡、すなわち俺は今そこにいる。

 が、不思議と言っても限度がないだろうか。

 だって、本棚が宙にあるんだよ?取れねぇし、飛べねぇよ普通。

 まぁ異世界ファンタジーだからで説明できるからいいんだけど。え、何が?

 とりあえず、ここは異世界だ。

 どっかの神様を自称する謎の少年は、全てがゲームで決まる世界とか言ってたが、真相はまだ分からん。

 そんなわけで情報収集に来たのだが、色々と問題があった。

 まず――

 

「ビッチがいた」

「その胡乱な表現は何でしょうか」

 

 いや、何を言ってるのか分からないだろうけど俺もよく分からん。

 異世界転移された後。色々あってそこら辺を散策してたら俺はいつの間にかその不思議な図書館にたどり着いたのだが、そこは所有地だったらしい。

 勝手に入ったことは謝り、少しばかり互いの状況確認に務める。

 極端に露出の多い服を着た館主は、寛大なのか俺にある提案をして来た。

「では、ゲームをしましょう」

 そう言って、彼女はチェス盤を空中から取り出した。……え、空中?

 俺のリアクションをガン無視してルール説明が始まる。

 簡単にいえば、チェスの駒を取る度に相手に質問ができる、ということらしい。ゲームは三度行い、トータル勝利数が多い方が勝ち。例え先に二勝しても3ゲーム目は行う。

 おそらくだが、館主である彼女も不法侵入者の情報を集めたいから故の条件だろう。

 ゲームは白、俺の一手から始まった。

 当然の流れだが、互いにコマを取ることだけを優先し、取られることは一切気にしない。勝ち負けは度外視の戦い方だ。

 1ゲーム目は俺の勝ちだったが、質問できた数は俺の方が少ない。この世界についてそれなりに知れたので別にいいけど。

 そして2ゲーム目。両者のスタイルは変わらない。

 俺の陣営、白のルークが取られた。

「そのポケットに入っているものについて聞いても?先程目にした様子から書物だと推察しますが」

 俺がここに入って来たときの膨らみだけでそう察したらしい。すごい観察眼、通り越して変態みたいだな。

「お察しの通り、俺の地元の本だ。物語文学、って言えば分かるか?」

「えぇ。あぁ、異世界の書……かなり興味があります」

 何となくタメ口みたいになってしまったが、こいつ歳上かな?正直分からない。ただそれを聞くのに質問権を使うのも勿体ないから困る。

 大きく進んで俺のルークを取った黒のクイーンにポーンを重ねた。

「じゃあ、なんで天翼種(フリューゲル)のお前がこんな所にいるんだ?」

 さっきのゲームで位階序列や種族についてある程度聞いた。だからこそ、目の前にいるジブリールと名乗った天翼種(フリューゲル)がここにいる理由が理解できない。ついでに種族のことも聞ければ御の字か。

「もともと私達は首を収集していました」

 ……謎が増えた。てか怖い。

 

 その後もゲームは続き、互いに質問を重ねながらコマを減らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 誠に遺憾ながらぼっちは居候になりました。

 ラノベのタイトルみたいだが長文タイトルは廃れ始めてるので却下。最近は異世界チーレム無双してればタイトルなんて何でもいい感じだけど。

 居候生活一日目。

 俺は家主に要求された通り持っていた本を差し出し、代わりに図書館の本を借りる。人類種(イマニティ)語の理解は意外に簡単で、すぐにマスターした。マジで英語より楽かもしれん。

「これは水を表すという意味でいいのでしょうか?」

「それは固有名詞な」

「なるほど」

 分厚い本を読む俺の傍らで、ジブリールはラノベを読んでいる。ブックカバーの中身はこのす……以下略。

 一応見た目は美少女なだけに、隣に座れるのはむず痒いものがあった。しかし効率的に読むにはこれが一番だし、彼女相手に勘違いすることもないので既に気にならない。

 むしろ、心地いい気がする。

 それがあの部屋に似ている気がするからなのか、さっき感じたデジャブ故なのか分からないが。

 多分、これが最適な距離だからだろう。

 人間関係とは距離間だ。関係性というは、互いがどこまで近付くかで決まる。

 だから俺と彼女の関係は、距離は、これでいい。触れ合うには遠く、語るには近い、この間で。

 ヒラリ、と。また一枚とページをめくる音が重なり合い、静かな時間は感覚的にゆっくり進んでいく。

 時折交わされる短い会話は、決して楽しむことを目的としたそれではないけれど。読み進める本は、面白さを優先したものではないけれど。

 目で追う文字が、耳で捉える音が、肌で感じる空気が、重みを抱えた胸の中に染み込んでいく。

 そんな錯覚すら、今は否定しようと思わない。

 一冊を読み終えて、閉じた本から視線を上に向ける。窓からは、高く上がった日の光が射し込んでいた。

 ……ふと、久しぶりな気がする。

 

 名も無いあの感情が、何も聞かずに黙っているのは――。

 

 

 

 

 

 

 

 




2部希望との感想が多くて嬉しいです。
ただ……いくつか問題点がありまして。
差し当っては終わりが見えなくて、終わらないのが終わりのゴールド・エクスペリエ〇ス・レクイエム状態なんです。
それに一度終わらせた作品を続けるとなると、なんとなく蛇足感があって……

ちなみに今回の話は2部の一部(?)のつもりで書きました。
続きを書くとしたら今まで以上の不定期更新になると思いますが、その時はどうぞよろしくお願いします。
オレンジ!
ご愛読ありがとうございました。

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