ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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恒例になりつつある現実逃避で投稿です。



二人は互いに理解し難い

「これで終わり、ということでしょうか?」

 目を細め、疑心を隠すことなく告げるジブリール。

 もちろん俺は、同様なく返した。本当に。

「聞きたいことはほとんど聞き尽くしたって言っただろ?後は一つだけでいい」

 この勝負、三連戦のチェスゲームはトータルで引き分け(ドロー)。故に勝利者はなく、敗者もいない。

 だが逆に言えば、互いが勝者であり敗者。つまり双方に二つの権利がある。

「これ以上聞かれたくないものでもお在りで?」

「そりゃ聞かれたくないことの百や二百あるだろ、人間なんだし」

「おや?この世界であなたが厳密に人類と証明できるので?」

「え、できないの?」

「現状では何とも言えませんが」

 ビビるからやめろよ、そういうこと言うの。俺人間じゃないって言われて立ち直れる自信ねぇぞ?

 まぁともかく、ジブリールは俺の言いたいことを理解しているようだ。話が早くて助かる。

「じゃあ、一つだけ聞きたい」

「どうぞご遠慮なく。特に聞かれたくないことは、私にはさほどありませんので」

 少しはあるのか。まぁいいや。

「……この図書館、使わせてくれないか?」

「……」

 無言の思考は予想より短く、僅かに下げられた視線はすぐさま俺へと向かう。

「こちらの条件を呑んで頂けるのでしたら」

「条件?」

 曇りなき笑顔のジブリールは、若干ヨダレを零しながら言った。

「異世界人を知る為に、私にあなたを調べさせて頂けるのならば是非!」

 どうしよう。今のこいつからは天使とか深淵とかいう感じが全く見られない。すげぇ呑みたくない。俺、何されちゃうのん?

「……調べるって、どうするんだ?」

「貴重なサンプルとしてしばらくの間ここにいて頂こうかと。その間でしたら蔵書はご自由にお使い下さい」

 極めて良心的でした。なんならこっちからお願いしたいくらいの好条件。雨風を凌ぐ術もコネもなかった俺にはありがたい。

 だが、ちょっと待ってほしい。

「……いくつか聞きたいのだが」

「別に構いませんが、これ以上の質問に偽らない義務はございません。それでも良ければお答えしましょう」

「俺が滞在している間、具体的には何されるんだ?」

「まずはゲームで負けて頂き、権利の一部を譲渡!その後はあらゆる可能性を立証あるいは反証すべく解ぼ……。……いえ、どうぞ我が家の様にお過ごし下さい」

「おい」

 めっちゃノリノリでマッドなサイエンティストの厨二な鳳凰も真っ青な思惑が零れちゃってる。つか怖い。しかもこいつマジで言ってるのが何となく分かってしまうのが余計怖い。

 まぁ盟約があるし身の危険はないだろう。ゲームにしたって受けなければ問題はない。

「他にはございますか?」

「ここに居る条件はそれだけでいいんだな?」

「ええ。強いて言えば、私が時折質問するのでその都度答えて頂きたいこと、くらいでしょうか」

「それくらいなら問題ない。まぁ、質問に偽らない義務はないけどな」

「意趣返しのおつもりで?」

 以上の条件を飲むことで、俺はしばらくジブリールの図書館に居座ることになった。

 俺の信条に従うならこいつに限らず、誰かに頼るのは避けるべきなのだが……。

 それでも、別に良いだろうとも思う。

 何せ、こいつは人類じゃない。だから人権もないとは言わないが、それこそ一人でどこかの都市を壊滅させるような奴が俺如きに何かを思うこともないだろう。有って精々、道への探究心くらいなものだ。

「そういや、期間は決めなくていいのか?」

「私が未知なる存在を認識するまで、ではご不満でしょうか」

「そっちがいいなら問題ない」

 どっかの神様に連れてこられたぼっちは、こうして超生物の居候になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジブリールとのゲームが終わり、俺の居候が決まった翌日だ。

 図書館は静かにと、そんなルールはどうやら世界共通らしい。

 異世界であるここでも、ページをめくる音だけが時折交わされる言葉と言葉の間で谺響(こだま)する。

 今、俺の隣ではジブリールが異世界の書、通称ラノベを読んでいる。

 俺が持ってこれたのはポケットに入っていた4巻とカバンの中にあった1〜3の計4冊。中身はこのす――以下略である。

「この、詠唱とは一体どんなものなのでしょうか」

「あー小説版じゃ載ってないか」

 一度自覚的に咳を吐き出して喉の調子を整える。

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が混淆を望みたもう。覚醒の時来たれり――……エクスプロージョン!」

 何故か暗唱できた。俺まるでオタクみたい。いや違うんですマジで。

 対して、誰にも聞こえない言い訳を考えしまう程のセリフをぶち込まれたジブリールは……真顔。それはもう、真顔。

「……地面にクレーターを作る程度で、人類最強……」

「それフィクションだけどな」

 実は驚いていたらしい。驚愕とか非力さに対する侮蔑とか色んな衝撃で表情が固まってしまった可能性もあるか。分かりにくい。

 こんな風に、時折彼女は俺に質問してくる。内容はほとんどが今読んでいる本についてだ。

 もちろん中身は日本語の為、読むのにやや苦労が見える。具体的には周辺に集められた人類種(イマニティ)語の資料の数が五冊。

 一方の俺は早くもこちらの人類語を読めるようになっている。ジブリールが言うには元々音声言語が一致しているらしく、習得にそこまで苦労はしないだろうとのことだったが、本当にそうだった。

 逆に、俺より遥かに頭の出来が良いジブリールがこうして資料を掘り出してまで読まなければならないというのは、それ程日本語が難しいということだろう。

「そういや……」

「何か?」

 俺は読み終わった本を閉じ、隣を向く。

 そこには思ったよりも近かった位置でジブリールの顔があった。

 勘違いする余地もない相手なので大して気にしていなかったが、鼻先が触れる寸前まで近くで美少女と言って差し支えない彼女と目を合わせるのは心臓に悪い。

 俺は身を引きなが口を開いた。

「……いや、結局この世界で俺はどんな存在なのかと思ってな」

 昨日、ゲーム中にジブリールが言ったセリフを思い出していた。

 俺は人類種(イマニティ)なのだろうか。

 ジブリールは俺に一番近い種族だと言ってたが、ならば違う部分があるとも取れてしまう。

「気になるのでしたら、私が直々に調べましょうか?」

「具体的には?解剖される気はないぞ」

「いえ、ただ性感帯を触るだけでございます」

「断る」

 即答です。なんなら食い気味に言ったくらい。

 いや、流石にね?知り合って一日未満の相手になんで性感帯触らせなきゃならないんだよ。調べるにしても他に方法はなかったのか。

 それに、ジブリールは俺を調べる為にここに置いている。ならば時間が経てば自ずと分かることでもあるはずだ。別に死活問題でもないだろうし、今は保留でいいか。

 互いに視線を外し、俺たちはまた読書に戻る。その動作に言葉はなく、ただそうすることが自然だと言うように、二人はそうした。

図書館はまた静寂にして少し音の目立つ静けさに包まれる。

そんな静けさが、少しだけ懐かしく思えた。

もちろん俺と彼女がこうするのは初めてだ。けれどデジャブの様に、あるいはあの部屋と重なるように感じる時間は、どこか心地いい。

俺と彼女の間にある言葉は互いを侵略しない。だからこそ、傷付けないからこそ、こうして交わす会話には不快感がない。

それも、距離感なのだろう。

ジブリールがそんな小さなものに敏感なタイプには見えないし思えないが、それでもいい。

今この瞬間、この距離感が、俺と彼女の距離なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が滞在して数日が経過した。

 付き合っているわけでも、好き合っているわけでもない二人が共同生活するのは、やはり無理がある。

 何より、ここが異世界であり非日常であることを忘れていたことが致命的だった。

「やばい……死ぬ……」

 現在、俺は生命の危機に陥っていた。

 良く考えればこうなることは推測できたはずだ。なのにできなかったのは何故か。

 一つには、異世界という異常事態が精神的影響を及ぼしたことがある。

 この世界に来た俺はなんの特典も力もなくそのままの状態。いくらゲームが全てを決めるディスボードでも、知識という武器を持たない丸腰では心持たない所か自殺行為だ。

 だからこそ、俺は追い詰められていた。

 神様を自称するテトの転移から始まり、ジブリールが提示した新たな人類種(イマニティ)の王の戴冠。そして殺戮天使こと天翼種(フリューゲル)の下で居候。……異常も異常の非常事態そのものだ。

 そんな中で、俺は失念していた。

 ここ数日の間俺の隣にいた彼女は、紛れもなく天翼種(フリューゲル)であり、好奇心の亡者であり、知識欲の塊であることを……。

 そう、忘れていたのだ。

 そもそも俺は彼女にとっては実験体でしかなく、認識としてはただの異世界人サンプルだった。そんな存在に、どうすればジブリールという一人の天翼種(フリューゲル)が慈悲や他の感情を向けようか。

 事実、ジブリールは瀕死の俺を見ながらも顔には笑顔を浮かべている。

 ドSってレベルじゃない。サディスティック、サディスティッカー、サディスティケストだわ、こいつ。

 俺の必死の睨みつけすら彼女は気にする素振りはなく、何やら本に直筆で記録している。

「お前……鬼か……」

「はて。私がどうか致しましたでしょうか?」

 あぁ、本当に……。数日前の自分に言い聞かせたい。こいつはデタラメ種族の天翼種(フリューゲル)だぞと。

「なんで……」

「何故、と問われようとも私にはそれが普通でしたので」

 だからこんなことになったのか。いや、理由は分かっている。

 だが、今更だとしても後悔してしまうだろう。

「なんで……」

 紡いだ声は力なく、それでも俺は今出せる全てをぶつけるように言葉を吐き出した。

 

「なんでキッチンに何も無ぇんだよ!」

 

 俺が瀕死の理由……餓死寸前。――通称、空腹。

 

「いえ、そもそも私には不要のものなので」

「キッチンの存在意義はどこ行った……」

 幸か不幸か飲める水はあった。人は水さえあれば当分生きれるというが、それはあくまでも生命維持が可能ということである。

 つまり、食欲が満たされない。

 三大欲が封じられれば精神的にも負荷がかかり、やがて何をする気も力もなくなる。そして、餓死寸前。

 ……俺は馬鹿なのだろうか。

「いや、流石にこれはない……」

「二日ほど食事を取らなかったのはあなただと記憶しておりますが」

「キッチンがあるって聞いてたから食う物もあると思ってたんだよ」

 確かに俺にも落ち度はある。調べ物、ひいては知識が生存に直結するからこそ、最初の一日二日は食う時間も削って読むと寝るを繰り返した。

 が、いざ腹が減ってキッチンに来たらどうだ。

 食材はなく、今最も動ける彼女は何かを書きながら俺を物理的に見下している。この世界ハード過ぎるだろ。

「空腹による疲労と怒気。普通の人類種(イマニティ)と症状はほぼ同じですね」

「……それなんの診断なの?」

「これであなたがこの世界でも人類と言える材料が増えました」

「嬉しくねぇよ。代わりに命すり減らしてるんだぞ」

 ドクターというより毒盛ったの称号が似合うジブリールは満面の笑みでこちらを向いている。くそ、殴りたい。

「とにかく、何か食い物ないか?」

「では、これを」

 ジブリールはいつかチェス盤を取り出した様に時空に穴を開けて何かを取り出した。

 手に持っているのは、何かの実。大きさはりんご程度だ。

「食っても大丈夫な代物なんだよな?」

「問題ないかと。エルキアでも売られている物なので」

 この世界の人類が食ってる果物なら大丈夫だろう。

 俺はジブリールから受け取った実を芯と種を除いて完食する。味も構造もほとんどりんごだった。

 さて、空腹で死ぬことはなくなったことでやるべき事が決まった。

「食べ物が要る」

 異世界ファンタジー台無しの原始的な目標である。




日常回、みたいな感じです。
プロット完成してないのに2部書き始めてすみません。
タダでさえ遅い更新なのにゆっくり進みます。

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

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