私は何をしているのやら……
エルキア王国。人類最後の砦にして最期の国。
俺が最初に訪れた街はそのエルキアの一部だったらしい。
この世界はテトの作ったルールによって縛られ、十六の種族は互いに生存を賭けてゲームをやり続けた。
そんな上位種や公式反則手段だらけの世界で、エルキア前国王はそのゲーム戦争に勇敢にも立ち向かい、民より愚王と呼ばれた。
理由は納得できなくない。何せ前王は負け続け、国土の半分以上を失ったのだ。
こうしてエルキアを残すのみとなった人類は打ちひしがれ、ゲームから逃げ、一時の形だけの平和を迎えていた。というか、そうするしかなかった。
だがそこに、ある救世主が現れた。
彼らは次期国王選定戦、国民によるゲームのバトルロイヤルを勝ち抜き、どころか魔法を使う
その後、彼らは二人で王となり全世界に向けて宣戦布告した。
『人類の領土を返してもらう』――と。
……全く、馬鹿げたことを始めたものである。
そもこの世界には魔法という公式チートが存在し、何らかの方法でそれらを出し抜くことができるとしてもだ。それをあと16回繰り返すなど無理難題が行き過ぎて奇々怪々である。
「とはいえ、この二人があの魔法行使に関してのみはそれなりに才がある
散々だな。まぁバケモン性能のジブリールに言わせればそんな所なのだろうと勝手に思ってみる。
俺はそこら辺に生えていた食べられる果物を
「……」
「……何か?」
「いや……」
台詞をガン無視したのが気に食わなかったのか、それとも俺が悲しいほど変な顔をしていたのかは定かではないが、ジブリールは読み切ったラノベを置いてこちらを覗き込んで来た。やめろ、近い。
俺はジブリールを見ることなく、彼女の反対側にある今日の分の食料を眺める。昨日の内に集めた山菜もとい森菜だ。主は果物類だが。
「……肉が欲しい」
「確かにここ数日は植物や果実しか口にしていませんし、飽きるのは無理ありませんね」
「まぁ、それもあるが……」
餓死寸前から蘇ってから数日。俺が口に入れているのは殆どが栄養素不明の草や実だけ。そりゃ飽きる。
だがそれ以上に問題なのは栄養だ。俺はそこまで敏感というわけではないが、たんぱく質を一切取らずに生きていけるほどベジタリアンじゃない。
「お前と違って非力な人間は食べることで生きるための栄養を補給しなきゃならないんだよ」
「なるほど。興味がなかった故、忘れていました」
「お前の興味の有無は知らんが……そういやどうなんだ?」
「はて、何のことで?」
「この世界って肉とか食えるの?」
今更だが、この世界は盟約によって殺しや権利侵犯が禁じられている。ならば牛や豚、果ては虫まで殺せない。不自由過ぎる。
こんなことを食事を必要としないこいつに聞くのはどうなのだろうか。
その辺は知識でカバーするらしく、ジブリールは戸惑いなく答える。
「盟約はあくまでも
「納得だし安心した」
よかった。これで少なくとも肉は食えるし蚊も殺せる。蚊が存在するのかは知らないが。
ともかく、俺の明日の予定は決定したのであった。
翌日。ありがたいことに天気に恵まれ、俺は図書館から街へと足を運んだ。
エルキアの城下町は思っていたよりも賑やかだった。てか人類最後の砦の割には明るすぎないか?それともヤバすぎて空元気を出しているのか、ゲームさえしなければ負けないと鷹を括っているのか。まぁいいや。
ちなみに今日は馴染みに馴染んだ単独行動だ。マジで幼い頃から馴染んでるから幼馴染じゃねぇかこれってくらい馴染んでる。
まぁ単にジブリールが来なかっただけだが。ってか
そんなわけで一人、俺はエルキアの街を徘徊する。
予想通り街では豚や牛らしき肉も売っていた。ついでに言葉も通じるみたいだな。日本語という名の人類種語がジブリールに通じてたんだし当たり前だが。
ようやくたんぱく質が取れる。……と、そう思っていたのが間違いだった。
これもまた当然な事なのだが、この世界で日本円は使えない。俺は実質無一文である。これでは買い物なんてできるわけがない。
する気もないが万引きも出来ず、俺はベンチに腰を下ろした。
ぐったりと背を預けて無意識的に空を眺めると、フリーになった聴力は周囲から音を拾う。
「え、じゃあ何か?前王は人類最大の武器を賭けて負けたってかっ!?バカかっ!死ぬのかっ!?死んどるけども!」
「あ、あはは……返す言葉もありませんわ」
どうやらエルキアの一民は前王への当たりに遠慮がないようだ。無理もないか。功績が功績である。
俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、メモの欄から十の盟約を確認する。
争いは全てゲームで決定する、か。
他の文も読み直してみるが、暇つぶしとしてすら質素過ぎるな。周りからの視線も気になるし、スマホはしまっておこう。あー暇だ。
ふと真っ赤な他人の買い物の様子を見てみる。
買い物ってのは究極的には物々交換だ。金ってのは全ての代用が効く便利なアイテムであり、それ一個体には価値はない。
であれば、人は無価値な物を交換して何かを得ていることになり、無価値な物例えばその辺の石ころですら買い物は成り立つはずだという逆説が言えるわけだ。
結論。無一文でも買い物はできる。
空腹というより食欲を満たすために、俺は行動する事にした。
「こっからここまで、全部くれ」
「は、はぁ!?」
一介のサラリーマン家庭の生まれでは金輪際言うことはないだろうと予想されるセリフを開口一番吐き出し、肉屋のおっさんは困惑にまな板らしき木版を殴り付けた。
「あんちゃん。それ本気で言ってんのかい?」
「まぁな。つっても俺一人にここまで売るのは不本意だろうとは思います」
「俺はそこまでの金をあんちゃんが持ってるように見えないっていってんだが」
俺は現世から付随して転移してきたサイフを上下に振り、無駄に入っていた小銭を鳴らす。
「一応全部買える位には持ってる。けどこれ全財産でさ」
そこで交渉を開始する。
「ゲームをしよう。俺が勝ったら半額で売ってくれ」
「こっちが勝ったらどうする?」
「俺の所持金全額で半分の量を買う。どうだ?」
「いいぜ?吹っかけられたから俺が内容を決めるぞ」
そう言っておっさんはトランプの束を取り出す。どうやらポーカーをしたいらしい。
「ワイルドカードは無しで頼む」
「よし、それじゃ!」
お互いが【盟約に誓って】ゲーム開始。てかどうでもいいけどまな板の上にカード置くなよ。いや本当にどうでもいいけど。
俺に配られた5枚のカードは綺麗にブタ。もちろん5枚チェンジだ。
「はぁ……」
「ツいてねぇみたいだな?」
「バケモンと同居してたら餓死寸前になって果物しか食べられないってのは確かにツいてねぇな」
「あん?まぁいいや。悪いな、あんちゃん」
おっさんは自らの手札を開示する。役はフルハウスだった。
「あーほんとにツいてねぇなこれ」
俺はワンペアの手札をまな板に落として、両手で降参を示すようにハンズアップした。
「はっは!残念だっなあんちゃん。んじゃ、どれにする?」
「じゃあこれと、それとこれで」
さっき要求した範囲内から美味そうな肉を選別し、おっさんからそれらが入った袋を受け取る。俺は負けた代償としてサイフごとおっさんに代金を払った。
「おっさん強いな?」
「ははっ!ツキがなかったな、あんちゃん」
ご機嫌そうに俺のサイフを小さく放ってはキャッチするという動作を繰り返すおっさんに別れを告げ、俺は踵を返して進んだ。
百メートルほど後ろからおっさんの怒りの咆哮が聞こえたが、気にしない。俺は何も悪いことしてないからな。
― another side ―
「それではあの二人と関係する者が現れたということなのですかぁ〜?」
「ええ、間違いないはずよ。あの男、空達の所持品に似ている物を持っていたわ」
クラミーは言いながら無意識に爪を噛む。
彼女が見た男は、人気のない森をかつて苦渋を舐めさせられた相手と同じ物を持って歩いていた。それがどんなにクラミーにとって悲報なのかは言うまでもない。
「あいつらと同種の人間がいるなんて……」
「でも〜本当に彼らが他国と繋がっていない保証はないのですよぉ〜」
確かにいくらでも偽る事はできるだろう。しかし問題はそこでははない。
今彼女が危惧しているのは、現実として
「仮にあの二人と同等だとしてもぉ〜それがクラミーにとって必ずしも不幸ってわけではないのですよぉ」
「……どういうこと?」
「理由はともかく、その男が彼らと行動を共にしていないといつことはぁ〜」
「利用できる可能性がある、ってこと?」
笑顔で答えるフィールに、クラミーもそうねと応える。
一度は負けた。だからどうした。
敵が増えたかもしれない。だからどうした。
まだ終わっていない。
終わっていないのなら、と。クラミーは言葉にすることのない覚悟を決める。
― another side out ―
夕日に染まる帰り道。獣道というにはそれなりに歩きやすい森の中を進む。
俺は今、右手にスマホを左手に肉を持っている。攻撃力と守備力反転するのかな?しなそう。
俺はそのスマホを見ながら考察する。
ゲーム中の不正発覚は負け。逆に言えば、バレなきゃ問題ない。
さっきのおっさんは十中八九イカサマをして勝った。俺は何も言わなかったが、多分イカサマをすること自体は問題ないのだろう。
問題なのはそれを指摘され証明させること。そこまでしてようやく盟約は働き、負けが決定する。
ジブリールから聞いた話を元に仮定のままだった俺の予想は証明され、魔法がゲームでは使えないという希望的観測は見事に打ち砕かれた。
ため息を飲み込み、もう暫く歩いて目的地に到着する。
俺はスマホをポケットに入れ、買い物袋とは反対の右手を扉に掛けた。
が、開かない。
「……」
いつも入る時は押して開いていたはずなのたが……。
念の為ドアノブを捻りながら引く。やはり開かない。
鍵を閉められたか、実は引き戸でしたというオチか。ジブリールが留守という可能性も一度浮かんだが、彼女自身が俺の入館を認めているのならば入れるはずだ。この世界にはそもそも所有物に関しての鍵の必要性は低い。
まぁどの道開かないのなら仕方がない。しばらくどこかで時間を潰そうか。
実は追い出されたという考えたくもない可能性を振り払うべく、俺はダメ元でもう一度だけ挑戦してから去る事にした。
……。
……開いた。
いや、なんだよこれ。なんで一時的に締め出されたの?意味わかんねぇ。
中に入るが、いつもジブリールがラノベを読んでいた場所には誰もいない。奥の方にも部屋があるし、そっちにいるのだろうか。
まぁいいか……と思ったのだがキッチンにはあいつに言わないと行けないんだった。肉、どうしよう。
どうしようもないことはすぐに諦める質だ。最悪の場合魔法でどうにかしてもらおう。できるよね?だって魔法だし。
俺は定位置に座り、読みかけの分厚い本を開いた。
読み始めてから数分後。
二枚目のページをめくったところで、複数人の足音が聞こえた。
振り向き確認すると、二人の人間と一人の
「……」
「……」
「……」
「……えっと、どなたですの?」
無言の静寂を切り裂いた赤毛犬耳の少女は不思議そうな表情を浮かべている。
「それはこっちのセリフなんだが……」
お前が誰だよ。恐らくジブリールの客人だろうけど。てか、あいつに
「わたくしはステファニー・ドーラですわ」
すげぇナチュラルに自己紹介始めたんですけど。どんなコミュ力してんだよ。
俺は頷くだけに留め、彼女の隣にいる二人に視線を移した。
目の合った黒髪の青年は不敵に笑う。
「とっくにご存知なんだろ?」
「親友でも死んだか?」
俺の答えが気に入ったのか、男は破顔した。
「やっぱお前が
よく分からないが、空は俺のことを日本人だと理解したらしい。
こいつは空。エルキア王国の新しい王様だ。そんで彼の隣にいる白髪の幼女が女王の白。そしてこいつらが人類の全権代理者である。
「比企谷八幡だ」
「そうか。よろしくな、比企谷」
「……よろ、しく」
同郷の二人は親指を立て、混じり気のない笑顔で言った。
いきなり主要キャラ大量投入です。無理矢理感が凄いですよね。
恐らく次は少し間が空くと思いますがよろしくお願いします。
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