すいません、言ってみたかっただけです。という訳で、度々他のキャラ目線、三人称視点で書きます。
ポーカーの必勝法をご存知だろうか。
簡単だ。最強の役を手札にすればいい。ただし、その方法は様々で、どんな風にするかはプレイヤーによる。
そんで、今もその必勝法を持って行われているこのゲーム。クラミーの勝ちは揺るぎそうもないな。
「よぉ〜、八。宿取ってきたぜ。あと、お前の名前で登録しといたから」
空が陽気に帰ってきた。また悪どい事したんだろうな。
「いや待て、なんで俺の分も取ってんだ?」
「あれ?泊まんないの?」
「金が無いんだよ」
不思議そうな空は大金だろう、が入った袋を持ち上げる。さっき無実のおっさんから巻き上げたやつだ。なんか犯罪臭がするが、法律に則ったものだ、大丈夫。
「いや、それお前の金だろ」
「いいじゃん。困った時はお互い様だろ?」
「俺は養われるつもりはあっても施しを受けるつもりは無い」
「なんだそのよくわからんプライド」
やれやれと言った具合に頭を抱える空。だが、頭の回転が早いのか。特に熟考する間もなく言葉を繋げる。
「じゃああれだ。形の上ではさっきのゲーム、助けてもらったからそのお礼って事で」
いや、お前なら俺いなくてもどうにかなっただろ。
「それに、白もお前の事を気に入ったみたいだし」
え?驚きのあまり座っている白を見ると、コクっと小さく頷く白髪の小学生が1人。
「……はちは、泊まるの……イヤ……?」
止まるんじゃねぇぞ。いや違くて。ほんとこの子あざとい。これが天然な訳がないな。マジでいろはすが可愛く見えちゃう。いや、純粋な可愛いじゃなくて、あざとさのレベルがな。
「……そういう事なら……分かった」
渋々了承するしかない。だってこの子、妹属性過ぎるんだもん。マジで小町と張り合える。いや、小町は負けない。なんせ小町は……小町……
「……それより……にぃ……あれ、負ける……」
白は指さしながらそう言った。
「そりゃ負けるだろ」
白が指したのはステフの事。当然傍から見ても勝敗は明らかだ。だが、さっきから俺は何か違和感がある気がしてならない。
それを感じたのか、空も顔を歪める。
「イカサマか?白、あれ分かるか」
空の台詞を聞いて、俺と白はクラミーの手札に注目する。かなりの高カード、あれは勝ち確だな。しかしどうやったかは分からない。
「……計算、できない……」
白も同じ答えを出す。てか、なんでお兄さんは妹にそんな無理難題を?実はあれか、無能なのか。ないな。むしろ、雨の日だけでも無能にならないとバランス崩れちゃう。それどこの大佐?
「なんでそんな事を妹に聞くんだよ」
思わず口に出しちゃったよ。
「白は天才だからな。例えば、チェスの必勝法って知ってるか?八」
理論上存在することは知ってる。
「けどそれは理論上だろ。十の百二十乗の盤面をすべて記憶しないと不可能だ」
それはもはやコンピュータの領域だ。
「それが出来るんだよ、白には」
「は?」
ありえないだろそんなの。
「マジ?」
「「マジ」」
声を揃えていうゲーマー兄妹。俺はそんな奴に引き分けたのか。
「しかしそんな白でもわかんないとなると……」
どこかの迷宮無しの名探偵の様に、空は何かを考える。マジでこいつらは頭良すぎるからなぁ。ホントに反則的な存在になるかも。あの大佐も最終話じゃ手合わせ錬成も習得したしなぁ。完璧反則。
「まさか……魔法か?」
そんな錬金術師、じゃなくて詐欺師の空はまさかの結論を導き出す。
「魔法とかあんのかよ」
「ファンタジー丸出しの異世界だぜ?むしろ問題は」
それもそうか。それに問題は、この先、魔法とかいう公式チート相手にゲームをする必要が出てきたという事だ。
「ってか、八。あの盗賊さんたちの語り聞いてなかったのかよ」
「いやー癖で話半分にしか」
HRとかってどうしても寝ちゃうよね。だって眠いし、大半はどうでもいい話ばっかだし。でもバレたらどっかのアラサーに殴られるんだよなぁ。あれ体罰だろ。この前のガゼルパンチはホントに効いた。ボディじゃなかったらマジでやばかった。てか、あの人ジャンプ派じゃねぇのかよ。
「……にぃ……あれに勝てる……?」
魔法という結論ありきで、白はそう問うた。
だが、無言でその言葉を肯定するように、空はどこかを見据えている。
「……愚問、だった……」
「いや、なんで?魔法相手とか無理ゲーでしょ」
間違ってないよね。思わず言ってしまったが、そんな俺を悠然と2人は否定する。
「いや、問題ない」
「どこが」
「大丈夫だ。問題ない」
「なぜ言い直す」
「「空白に敗北の二文字はない!」からだ」
うわぁすごい自信。軽く引きそうです。しかしなるほど。これが都市伝説クラスの天才ゲーマーか。負けはない。故に、俺とのドローがありえなかったってことか。てか、どうやって俺こんなバケモンと引き分けたんだろ。そういえば、あれって結構ギリギリだったような?
ドヤ顔の2人は人混みを切って宿の部屋があるのだろう階段を目指す。その道中、ステフに向かって空が何か呟いた様だった。
階段、と言ってもそこまで段数はないのでほとんど登ってない状態で俺は言う。
「ちょっと用事があるんだが、いいか?」
1度顔を見合わせたが、すぐに数段分前にいる空白の2人は頷く。
用事ってのは、単純に魔法ってのが気になったのだ。どんなものか、どうやって発動するか。厨二病は卒業したが、やはり気になってしまう、男の子だもん。
戻ってくると、さっきのポーカーは決着がついたようだ。もちろんドーラさんの負け。ドーラってどっかの猫型ロボットみたいだな。もしくは40秒で支度させる空賊のばぁさん。
俺は空白の2人には何も言わず、前に出る。
「どうも」
勝負が終わり、一息ついているクラミーにそう切り出す。一瞬驚いた様だが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「何かしら?」
「一勝負と思ってな。王になる権利を賭けて」
クラミーは俺の言葉に目を細める。何度も見たことがある、人を疑う目だ。よく知ってる目だ。だから当然、その対処方も知ってる。
「それにしてもあんた強いな。ポーカーじゃ勝てそうにない。だから、これで勝負しよう」
言いながら、置いてあるトランプをハートとダイヤ、クラブとスペースの2グループに分ける。
「スピード?」
察しが早くて助かる。これくらいは普通かな。
「ああ。スピードは運よりも反射神経がものを言うゲームだ。だからツキのあるあんたが相手でも、俺に勝機がある」
さっきまで疑いの目が一転、クラミーの表情に僅かながら納得の色が伺えた。
さぁ、ゲームを始めよう。
ークラミーsideー
なるほど、よく分かったわ。突然現れた目の腐った男。何を考えているのか分からなかったけど、ようはポーカー以外じゃ私がイカサマ出来ないと踏んで勝負を挑んで来たってところかしら。
けれど残念。フィーならこのくらいすぐに対処出来るわ。
「一応、盟約に誓ってもらっていいか?イカサマ防止ってことで」
男の提案、もちろん拒否するつもりはない。
「ええ、むしろ当然よ」
あくまで感情が読まれないように、私は意識的に声を出す。
「そうか、んじゃえっと……そこの2人。ちょっといいか?」
腐った目の男は奥にいる2人組を呼んだ。珍しい服装ね、何者?白い髪の少女と、ボサボサの髪で目付きの悪い男。
「この人達は?」
「さぁ?ただ公正にいこうと思ってな。ここに赤と黒で分けたトランプがある」
言って男はテーブル上にトランプを広げる。
「どっちの色がいい?」
別にどっちでも構わない。
「なら、黒で」
「よし、じゃあ俺が赤な。2人にはディーラーを頼みたい。それぞれシャッフルして俺達に渡してくれ」
そういう事。あくまで不正無しで、真剣勝負がしたいタイプかしら。けど、私は負ける訳にはいかない。バレないようにカウンターに座る彼女にアイコンタクトを送る。小さく頷いたのを見て、私は目の前の男を見据える。
白髪の少女がシャッフルしたカードの束が私に渡され、男も、同じようにカードを受け取る。
自陣に出す4枚。5、2、J、Q。相手は……6、7、10、A。まぁなんでもいいわ。どうせ勝つのは私。
「「【盟約に誓って】」」
誓約とともに始まるゲーム。ディーラーを引き受けた男の掛け声でカードを場に出す。
「それじゃあ……いっせーの、せ!」
聞いたことのない掛け声だけど、タイミングが分かるから問題ない。
場に出た2枚、Kと3。私はまよわずJ、Qと数を重ね、すぐに自陣にカードを補給。すぐに2と、補給で出てきたAを出す。
相手も反射神経は悪くないようね。すぐに10を出して補給された9を続ける。けれどそれじゃ私には勝てない。何故なら
私には次に出るカードが見えている。
透視。魔法を使えば簡単な事。それに次に来るカードさえ分かっていれば、反射神経云々より先に行動が出来る。
この勝負貰ったわ。
ディーラーが場にあるカードを回収し、再び掛け声を出す。
「いっせーの……」
次に出るのは、私がAで相手が4。私が先に3を出せば、彼は何も出来ない。
そして両者が左手に持っている束の1番上のカードを持ち、
「せ!」
場に出す。
すぐさま3を持った私は……
止まった。
……なぜ……?
場にはAと
7!
しまった。予想外の状況に固まってしまった。6、5とカードを続け、さらに補給された4を出す眼の腐った男。
とにかく落ち着くのよ。冷静に3を出してカードを補給。この場はこれで終了。
しかし、何が起こったの?なぜ4ではなく7が。混乱した頭で考え、冷静さを取り戻して結論が出た。
彼の2枚目のカードは4だった。つまり、彼が行ったのは……セカンドディール。1枚目を出した振りをして実は2枚目を取っているというテクニック。何がイカサマ防止よ、あなたこそじゃない。イカサマがバレれば即負け。これでゲームオーバーね。
「あなた……」
言いかけて私は止まる。待って、なんであいつはセカンドディールを?普通にやれば裏側のカードの数字を知る方法はない。私が用意したトランプである以上、細工も出来ない。なら……なぜ?……ブラフ?
こいつは私がポーカーでイカサマをしたと思い、スピードならそれが出来ないと高を括って来た。いえ、違う。こいつの狙いは、イカサマを暴いての強制勝利が目的。セカンドディールのイカサマを証明するには、カードの配列を知る必要がある。魔法を使えば簡単だけど、そもそも魔法が使えない人類種《イマニティ》に、それは不可能。だから、魔法のイカサマを証明することは出来ない。はずだった。
しかしこの男は、セカンドディールを餌に私が魔法で透視したと証明しようとしていたのか。
「ん?どうした?」
「いえ……なんでもないわ」
そうと分かれば簡単よ。2枚目に気を付ければいい。透視なら2枚でも3枚でも覗くことが出来るわ。
「さぁ続きをしましょう」
「はい。それでは、いっせーの……」
2枚目のカードも透視する。Q……私に続くカードはないけれど、相手がJを出して、それに10を繋げられる。それに私が出すカードも相手の持ち札とは並んでいない。大丈夫ね。
「せ!」
男が出したカードは8。
なんで!?
男は7を繋げ、Qを補給する。
セカンドディールはしなかった?私が釣られなかったから?いえそれとも、私が2枚目を見ると予想した?
自分でも混乱している事が良くわかる。この男は、強い。なら、私も最終手段を使おう。私は負ける訳にはいかないのだから。
一瞬のアイコンタクト。そして私の持っているトランプの束の配列が変化する。
あまりに不自然過ぎて使いたくないけれど、こいつは危険な相手。早々に決着を付けるわ。
ディーラーがまた、お決まりの掛け声を掛ける。
「いっせーの……せ!」
ークラミーside outー
魔法とはどんなものかを試すためのゲーム。
結果は俺の負けだった。4ゲーム目から、相手のカードが怒涛の繋がりを見せ、何も出来ずに俺の敗北が決定した。
はっきり言ってお手上げだな。魔法ってのがどんなものなのか、俺には全く掴めなかった。分かったのは、ひたすらにチートって事だけだ。
「はぁ」
思わずため息が出る。しかしまぁ、これでいいか。別に俺は王様になるつもりはなかったからな。結果的に失ったものはゼロだ。
勝利の余韻に浸っていると思う、クラミーに一言いうと、俺はその場を後にした。一応のため、空から部屋の鍵は貰っておいて良かった。今日は疲れたし、早く寝よう。
自分の割り当てられた部屋に入り、ベッドに体を預ける。
ああ〜もう寝れる〜
そう思った矢先、凄まじい勢いで扉が開く。
「さあぁ!八!どういうことか話して貰おうかぁ!」
「……今夜は、寝かさない……ゾッ……」
入って来たのは天才ニート兄妹でした。……鍵閉めときゃ良かった。
あと白さん、女子小学生がそんな事言うんじゃありません!
という訳でオリ展開です。
流石にゲームの表現は難しですね。文才が欲しい。
もはや3話目にして恒例の駄文ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
感想お待ちしております。
追記
誤字の指摘ありがとうございます。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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