ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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短いです。


辿る道が無くとも彼らは迷わない

 深夜の散歩から帰れば、扉の奥には美少女がいた。

「随分と長い休憩のようで?」

 微笑みがここまで怖かったことはない。歴代、つまりあの魔王(雪ノ下陽乃)すら超えている。美少女という単語だけで羨ましいとか思った奴、代わってやるから申し出てほしい。

 俺は適度に追求されにくい感じで返した。ジブリールも別段興味はなかったようで、すぐに「そうですか」とだけ言って姿を消す。

 仕事ではないが、休んだ分は空たちを手伝おう。流石に十一歳の女の子がやっているのにサボるのは気が引ける。自分からやってんだけどな、白は。

「調子はどうだ?」

 ……。

 ……返事はない。ただのシカトのようだ。

 てかほんとにシカトかよ。空と白は互いの体を寄せあって、本棚に体重を掛けて眠っていた。

 ほう、今寝てて気が付きませんでした〜ってやつか。ぼっち相手にその手のブラフが通用すると?

 まぁ嘘だけど。どうやら本当に寝ているらしい。相当疲れたんだろう。元々白は俺がここを出る時点でウトウトしていたし、空も調べものに区切りが着いたってとこかな。

 俺も寝るか。

 そう思ったが、ここから城まで移動するのは少し面倒だな。ジブリールもいないし、どうしようか。

 まぁ1週間もいたのだ。ここで寝るのにも慣れている。

 適当な本を二冊重ね、それに頭を乗せて横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ― other side ―

 

 

 

 比企谷八幡の姿が消えた森。闇夜に紛れる如く、クラミーは足音を意識的に消しながら帰り道を進む。

 予定通り、彼は判断を保留した。最初から二つ返事で協力を得られるとは思っていなかったため、特段焦りや緊張はない。

「誰かと様子を見に来てみれば、はて。いつぞやマスターに唯一の特技である魔法を使って負けた、惨めな森精種(エルフ)の下僕様ではありませんか」

「……!」

 何故彼女がここに……!?

 面識はない。だが知識はある。今自分の後ろに降り立った存在を、クラミーは半ば確信して息を呑む。

 ジブリール。空白が倒して従えた天翼種(デタラメしゅぞく)

 比企谷八幡と接触を持ったことが早くも露見した……つまり彼がノーだと言ったのか。時間的には彼があの図書館に戻っていてもおかしくはない。

 それとも最初から監視されていたのか。自分か彼、あるいはその両方。

 推測は後を絶たないが、今はどの可能性に思考を巡らせても意味がない。

「何か用かしら?」

 平静を装って、クラミーは振り向く。

「用があったのはあなた()では?いえしかし、何かしらの思惑があったとして何か出来るわけでもありませんね」

 勝手に現れて勝手に解決して――。

「申し訳ございません。低俗な者の力量を測るのはドングリよりも微小なミジンコの背比べと同様に難題でして」

 ついでに勝手に見下してきた。何か用かと聞いただけでこの反応、理不尽の体現にも程があるだろう。

「用がないなら、もういいかしら?」

「いえ、一つだけお聞きします」

「答える義務はないわ」

 クラミーの声は届いてないように、ジブリールは表情を変えずに問う。

 

「あの男とどう言った関係で?」

 

 やはり八幡との接触はバレている。

 ……だが、その聞き方はどうだろうか。当事者である所の比企谷八幡がいれば、真っ先に別の表現で問い直すことを要求しただろう。

「ついさっき会ったばかりの、赤の他人よ」

 ――今はまだ。

 もちろん他意はなく、彼が取り引きに応じなければそれ以上の関係性に発展することはまずない。

 クラミーはそれだけを言い残して去ろうと振り向く。

 しかし、腑に落ちない点に、彼女はもう一度ジブリールを見る。

「私からも一つ、聞いてもいいかしら?」

「真実を答える義務はございませんが、それでも構わないのでしたら」

 意趣返しには触れず、クラミーはただ疑問点だけを問う。

 

「何故あの男を気にするの?」

 

 クラミーの天翼種(フリューゲル)に対する印象は、好奇心が強く、理不尽でデタラメな、忠誠心の塊。およそ好意的に見たイメージはないが、だからこそおかしい。そう彼女は思う。

 天翼種(フリューゲル)(マスター)意外の者を気にする――それだけのことが何とも気掛かりだった。

 あるいは、あの男が『  』(かれら)と同種の存在だからか。

 いや、だとしてもジブリールが彼に従っている訳ではない以上、不可解なことは変わらない。

 対して。到底聞かれるとは思っていなかった質問に、ジブリールは少しだけ間を置く。

 答える覚悟がなかわけでも、真実か虚偽を答えるかに悩んだわけではなかった。

 ――もっと純粋に、彼女自身が不思議だと感じた故の間だった。

 ジブリールは自分すら本当かも嘘かも分からぬ答えを、クラミーに返す。

 

「——”未知“故、でしょうか」

 

 

 

 ― other side out ―

 

 

 

 

 

 翌朝。

「マスターがお呼びです。早々に起きない場合は、この図書館ごと瓦礫の錆になって頂きます♪」

 俺はジブリールに物理的に叩き起される寸前まで迫られ、眠気すら一瞬で無かった事にした。でないと俺が亡くなる。

 起床から僅か五秒の脳内ロードの時間を置き、空間転移にて俺とジブリールはエルキア王城へと移動した。

 エルキア城の王室。そこには既に空、白、ステフが集まっており、今まさに何かが始まるようだ。

 

「間違いない!エロ本だ!」

「渡す相手を間違えましたわぁぁぁ!」

 

 いきなり絶叫って、ステフよ。お前、そういうキャラだったの?お嬢様系メイドだと思ってたわ。いやなんだそれ。

 どうやら昨日、俺が帰る前に図書館であるやり取りがあったらしい。掻い摘んで言うと、ステフが祖父から預かった鍵を空に渡した。

 で、受け取った空の反応が先の通り。ステフ、というかステフの爺さん曰く、人類の希望を託したらしいのだが、そんなのを廃人ゲーマーが気にするわけもないようだ。

「ま、何の鍵なのかは分かってんだけどな」

 そう言い放つと、空と白は部屋中を動き回る。そこからは圧巻だった。

 本当にあっと言う間すらなくことは進み、幾つもの暗号や謎を解いた兄弟は開かずの扉を出現させた。

 ステフから貰った鍵を使い、古い扉を開ける。彼らならピッキングなどで開けることもできただろうが、チートは使わない主義なんだと。

 そして開かれた扉の先には薄暗い、だが神秘的とすら表現できそうな小部屋があった。

 小さく差し込む光が照らすのは、一人用の机とイス。そしてノートらしき本だ。

 空はそれを手に取り、ページを捲る。

 書かれていたのは、前王の記憶と記録。

 ステフの祖父、国民から愚王と罵られながらも戦い、挑むこと、そして生きることを諦めなかった彼は、勝つためではなく、ただ人類のためにそれを記した。

 東部連合の秘密。その必勝の手とゲーム内容。

 計八回。国の領土を掛けてただそれらを暴くことだけに留意した男の戦歴が、そこにはあった。

「なぁ?ジブリール、いるんだよ。こういう奴が」

「えぇ。確かに、そのようです」

 空とジブリールの間で交わされる言葉の意味は分からない。多分何かしらのやり取りがあっての会話だろう。

 俺が今ここで分かるのは、前王は賢王でなくとも愚王でもなかったということ。そして、ステフの爺さんだったということだけだ。

 

 

 

 

 




なんだかどんどん短くなっている気が……。
次の更新は少し間が開きそうです。ごめんなさい。
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