ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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しかし彼はまだ彼らを知らない

 初めに言っておこうと思う。

 これは人伝に聞いた話であり、本来起こった事態とは細部が異なるかもしれない。

 先日、東部連合へと赴いたエルキア新国王はその大使に対し、いづな(幼女)のパンツとステフ(リア充)のパンツを賭けてゲームしようと持ちかけた。もう既に頭がおかしい。

 だが彼らの奇行は止まらず、賭け金を変更。幼女のパンツを国の領土、リア充のパンツを人類の全権とした。

 ……うん、おかしいよね?何がって、全部が。

 

「どういうことよぉ!?」

 

 そりゃ驚くよな、クラミーよ。

 これは俺が昨日帰ってから聞いた話であり、その事を知らせに早朝ここでクラミーに話したのだ。俺だって理解出来ていない。

 詳しい話は今日ジブリールや空達本人から聞く予定だからなんとも言えないが、この先どうなるのかと心配しない訳には行かない。だって、負けたら俺の人権も無くなっちゃうんだよ?

 それは人類種(イマニティ)であるクラミーも同じはず、なのだがそこまでの動揺は見られない。覚悟、ともまた違う気がする。

「結構落ち着いてるな」

 叫んでたけど、あれはヤバイ助けてくださいみたいな意味合いはなかったわけだし。

「危機感がそこまで大きくないだけよ。それよりも、これから何をする気なのかが問題だわ」

 確かに、東部連合を倒すだけなら問題はない。クラミーもそこはあまり気にしていないように思う。

 問題なのは、何故空達が人権を賭けたのかだ。

 東部連合のゲームの秘密を暴いたとして、それらの情報をあちら側が全て嘘だと切り捨てることはできる。だからこそ、逃げたら肯定とするような状況を作りたいのは分かるのだ。分かるが、何故人権そのものを賭ける?

 他でもいいはずなのだ。例えば国民を含む全領土でも、天秤はこちらに傾く。わざわざ人権まで賭ける必要はない。

「なんらかの意図がある、と見た方がいいわね」

「だろうな。あいつらは無駄なことはしないはずだし」

 あくまでも俺の勝手な印象だが。

 印象といえば。さっきの言い方からだと、クラミーが俺をやけに信頼しているようにも感じる。まぁそれも打算的なものがほとんどで、昨日俺が言った言葉と今こうして情報を提供していることからの信用のはずだ。

「とりあえず、今日は戻るぞ」

「えぇ。木の実は、それで足りるかしら?」

「問題ない」

 先に受け取った紙袋を持ち上げて応える。

 そうとだけ返したクラミーが踵を返すと、俺も城へと帰り道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、以上のことからゲームはテレビゲームだ」

 帰宅してからしばらく経ち昼頃、ようやく起床した空達から昨日の件を詳しく聞いた。今更だが、こいつら探偵かよってくらい推理してる。ゲーマー探偵とか新しいな。

 聞かされた話は納得のいくもので、完璧とすら言えるほどに東部連合を追い詰めたことは否定できない事実だ。

 だが、だからこそ聞くべきだろう。彼らが意図的、かどうかは分からないが語らない内容。かけ金の理由については。

「にしても、リスク高すぎないか?」

「ん?負けないんだし、リスクなんてゼロだろ」

「それはそうかもしれんが⋯⋯」

 やはり言いにくいことなのか。それとも単純に俺が話すに値しないのか。どちらにせよ、聞かせてはもらえなそうだ。

「しかしマスター。いくら本土を盟約によって手に入れても、そこにいる人材までは手に入らないのでは?」

「そりゃそうだろな。まぁそこらへんは追々。って言うより、残りのピースが来てからだな」

 残りのピースという表現に少し引っ掛かりを覚えたが、聞かなかった。どうせはぐらかされるだろうし。

 これ以上ここにいる理由もない為、俺は『  』の部屋から退散して城のキッチンへ向かう。

 

 昼飯もそこそこに、俺はまた暇を持て余すことになった。

 ゲーマー兄妹は現在ゲームで引き籠り中。ジブリールはそれに付き添い、本来止める役目であろうステフは国政と暴動の対処に追われている。

 暴動とは、まぁ説明する必要もないが、エルキア国民が新国王に対して行っているもの。原因は、これも考える必要なく今回のかけ金故だ。そりゃ勝手に人権賭けられたらキレるわ。

 そんなわけで外にも出られず、もちろん図書館にも移動できない。ラノベすらあちらに置いてきているのでマジですることがない。

 仕方ない。とりあえず、マックスコーヒー(仮)でも飲むか。⋯⋯午前中の試作でだいぶ飲んだけど。

 

 

 

 

 

 

 エルキア城のとある屋外。日当たりが良いため適度に暖かく、遮るもののない風は心地いい。こんな場所でマックスコーヒーが飲めるとは、なんとも心が静まる午後だな。

 ……ただし、下の暴動の声がなければだが。

 言っちゃ悪いが、うるさいんだけど。まぁ事情が事情なだけに文句を言うのも気が引ける。

 俺は彼らが負けないとなんとなく分かっているからこそ落ち着いていられるが、空白を全く知らない一般人なら流石の俺でもキレてたと思う。かと言って何かした訳でもないだろうが。

「怒り、慌てふためく民衆を見下しながら一服とは。また随分と良い趣味をお持ちですね?」

 カップから口を離したと同時、後ろから聞こえた声にそっと振り向く。

 わざわざ見て確認するまでもなかったが、そこにはジブリールがいた。

「人聞き悪過ぎるだろ。俺にそんな悪趣味はない」

「左様ですか。せっかく心の友が見つかったと思いましたのに」

「そんなことで意気投合したくないんだけど」

 どこのガキ大将なんですかね。

 俺は視線をジブリールから外し、どことなく眺めながらコーヒーを舐める。

 ふと思ったが、なんでこいつはここにいるんでせうか?俺、別に不幸な無能力者(嘘つけ)じゃないですよ?

 俺はカップを石造りの柵に置き、今度は体ごとジブリールの方を向いた。

「つかどうしたんだよ。何か用か?」

「いえ、ただ。少々お聞きしておくべき事がありまして」

 空達の付き添いから抜けて来るってことは、それなりに重要な内容ってことになるな。……もしかして、バレたか?

 いや、それはないか。仮にクラミーとの取引がバレていたとしたら、ジブリールがこうも落ち着いているとは考えにくい。空達がなんらかの命令を入れていたとしても、少なくとも裏切りに対する怒りくらいは見せるはずだ。

「俺はお前ほど物知りじゃないぞ?」

「知識を問うようなものではございません。それこそ、この世界に関することならば私の方が遥かに理解していましょうし」

「だろうな」

 ということは、やはり俺だけが知ること。俺に関する何かってことか。

 俺は自分自身が警戒していることを自覚する。だがそれを悟られるのはひどくまずいと、更に意識的にそれらを押さえつける。仕草や表情から露見しないようにと。

「で、聞きたいことってのは?」

「……あなたから見て、マスターはどう写りますか?」

「……」

 ひとまず心の中で胸をなで下ろす。この時点ではまだ、クラミーとの件はバレていないことになるからな。

 ジブリールの表情を見るに、それなりに真面目な問いのようだ。こいつの感情を表情から読み取るの難しいけど、恐らくシリアスな内容だろう。

 知識を問うようなことではない、か。確かにそうだが、どう答えればいいか分からないという点では難しい問いだと感じる。

「すまん、どういう意味だ?」

「そのままの意味ですが。マスターはとても壮大な目標を持ち、それを完遂できる程の力と知力をお持ちです。その思考は常に理性的であり論理的。生み出す技は奇策であり傑作。凡人には届かぬ観点から冷静に見れる目と、あらゆる事象を計算し尽くさん頭脳で、マスター達はこれからも勝ち進むことでしょう」

 何これ、惚気?割とマジで何を聞かされてるのか分からないんだが。

 反応することすら困惑する中、ジブリールはしかし、と反証する。

「マスターの進む先に、答えはあるのでしょうか」

 ……。

 彼女が何を言いたいのか、何を聞きたいのかを真に理解することは、俺には出来ない。

 だが、プライドもあり自己で完結するだけの思考力もある彼女は、それでも俺に問うた。恐らく何も答えられないだろうと予想しながら。

 そこまでして問うたのは、彼女になんらかの精神的な異常があったからだ。それこそ精神崩壊のようなものでなくとも、とても微小に微細な何かがあったはずだ。

 気の利いた言葉をかけるなんて、そんなハードルを超えられる俺ではない。俺にできることといえば、適当にはぐらかすか皮肉を返すことくらいなものだ。

 けれど、わざわざ返答不能かもしれないことを聞きに来た彼女にそれらを返すのはなんとも居心地が悪い。

 だからせめて、慰めでもないただの事実を告げよう。たとえ真実は残酷だろうとも、それで彼女が折れることはないだろうから。

「お前が何の、どんな問題に対する答えを探してるのかは知らんが……。少なくとも、その答えをあいつらが示してくれることはねぇよ」

「……」

「自分の問題は、自分でしか解決できない」

 だから俺は、俺達は解決させない。俺達がするのはあくまでも手助けだ。魚を捕るのではなく魚の捕り方を教えるのだ。それが、俺達のやり方だった。……。

 俺はふと浮かんだ顔を振り払うように、右手で持ったカップに口をつける。今は関係ないことだろうに。

 無意識に外した視線をジブリールに戻すと、驚きにも困惑にも似た微妙な表情をしている。

 意味が分からなかったのなら、別にそれでもいいだろう。今の言葉は、多分、俺が俺自身に向けた言葉だったろうし。

 しばらくの間、互いに無言の時間が続いた。

 本来なら静寂などぼっちには慣れたものでなんでもないのだが、どうも今のこの状況は落ち着かない。

 苦し紛れに、そして露骨に俺は話題を変えた。

「つか、空の奴。本当にパンツ同士でゲーム始まったらどうするつもりだったんだろうな」

「マスターならば最初からそんなことは起こらないと確信して提案しているはずです。もしも仮にそんなことになれば、次は孫娘の下着と大陸領土を賭けてゲームすると持ちかけるでしょう」

 愚痴を零すように言った言葉に、ジブリールはいつも通りに返す。マスターを褒める時は活き活きするなこいつ。

「いや、どんだけ孫娘好きなんだよ東部連合の大使って。流石にそこまではしねぇだろ」

「所詮は獣ですし、実際にその浅ましさを目にすれば納得もできるのでは?」

「そんな変態に会いたくないんだけど」

 けど、身内を愛するってのは当たり前なことだしな。案外シスコンであろう空とは相性がいいのかもしれんな、その大使は。

 また空達の元へ戻ると、用が済んだジブリールは瞬間的に姿を消した。それを見届けてから俺も屋内に入ろうと歩き出す。

 一息入れる為に口をつけたコーヒーは、すっかり冷めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王座に座る二人。威厳や威圧感は全くないが、目つきの悪い男とその膝に座る白髪の少女は確かに強者としての何かがある。それも俺の偏見から感じるものかもしれないが。

「よぉ。どうした?」

「いや、ちょっとな」

 来るのが分かってたのか。珍しくDSPを持たずこちらを見ている二人、特に空は普段よりも瞳の鋭さが際立っている。

「一応言っておこうと思ってな」

「あー、こっちも一つ言っておくぞ。東部連合とのゲーム、四人の内一人は比企谷な?」

「いや何でだよ、ステフ呼べよあいつ暇だろ」

「いや、暇じゃないとは思うぞ」

 それは誰の所為なんですかね。今も色々と働いてるだろうなあいつ。

 つか俺もゲームしなきゃならんのか。拒否はできそうにないし、空の中では確定事項なんだろう。

「それで、そっちのご用は?」

 俺はお前らに協力も妨害もしない、と言いに来たんだが……。流石にゲームに出てもらうと言われてからそれを伝えるのはどうだろうか。

「……実は、俺は東部連合のスパイだ」

「「へぇー」」

 全く信じてねぇな。

 そりゃそうか。俺の立場で東部連合のスパイを演じるとしたら役不足もいいところだ。せめてエルキア大臣くらいの地位でもなければ最悪、ゲームをしようとする彼らに干渉することすら叶わない。それにここまでの俺の行動はどう考えてもスパイとしては失格の域だ。

「まさかそんなジョーク言いに来たわけじゃないだろ?」

「そうだな。取り敢えず、邪魔はしねぇよ。俺はゲーマーじゃないからな、ゲームのことは知らん」

「それ、この世界じゃ致命的だと思うぞ」

「……しょうぶ、放棄……?」

「いや、そもそも勝負してねぇから」

 そこまで言うと空達の瞳からあの見通すような光が消える。気を抜いた、というか自然体に戻ったといったところだろう。感覚的な事過ぎてそれ以上は言明できない。

 俺も要件は終わっているため、踵を返して王室を出る。

 今のところ俺と彼らは敵でも味方でもない。だからそもそも裏切ることすらできてはいない。

 彼らが東部連合に勝ち、その後どんな動きをするのかは分からない。だがどうなろうとも、他所は他所、俺は俺だ。俺の目指すところは決まっている。それも、決して楽な道ではないのだろうが。

 差し当っては、どこかの自称神様に会わないとな。でないと話にならない。

 そういう意味では、彼らを利用するのも悪くないかもしれないな。

 もっとも、俺が誰かと一緒に歩くなんてことはしないだろうが。

 

 

 

 

 




次回も早めに出そうと思います。
感想頂けると嬉しいです。

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