新刊読んで、ノゲノラも読み返してたので更新伸びましたごめんさない。
ひどく簡単な説明になるが、空白はゲームに勝利した。
正直に言うとそれ以上に語ることがない。いや、ないこともないが、語るには俺が知らな過ぎる。ゲームの内容こそ知ってはいるが、全ては聞いた話なのだ。
それでも分かっていることを整理すれば、エルキアに対しクラミーとフィーが援軍となることになって、その為には信頼が必要となる。
故に我らが空は皆を集めて日頃の恨み辛みを語り合い、
と、まぁ、うん。分かった。なんとなくこうなるまでの経緯は理解できた。
……が、しかし、これはどうだろうか。
集まった者の視線は全て俺に集まっている。理由は、ある爆弾すぎる発言から。
「その男、私達と裏で繋がっているわ」
投下したのはクラミーだ。俺のポツダムは宣言すらできず、こうして非難の視線に晒されている。
いや、非難ならまだいい。そんなものは慣れているからな。
問題なのは、マジで怖い類の視線。
つまるところ、ジブリールである。
「マスター。早々にこの男をゲームで負かしましょう。そして微粒子レベルにまで刻むことをお許し下さい」
悪・即・斬も過ぎる死の宣告に、俺はひたすらな弁明を開始する。
……てか、なんでクラミーさんはこんなところで言うんですかね?蟠りを無くすためですか。
「まて、裏切ってはないから。そもそも俺は空達の味方をするとは一言も言ってない」
「つまり敵と。分かりました。今すぐ視認できない程にバラしましょう」
「どんな死人だよそれ。いや、そうじゃなくて」
何を言っても無駄だろうと分かりながらもジブリールに抵抗する俺。マジで健気、というより可哀想。我ながら同情します。
そんな俺たちに目を向ける残りのメンツ。その一人のステフは、まぁ予想通り嫌な奴を見る目をしているが、空と白は何故か微笑を浮かべている。
「お前ら楽しんでるだろ」
「えー?何がー?」
「……しろ、わかんない」
ほんといい趣味してるなこいつら。
恐らく俺の、というかクラミー含めた俺たちの動きは最初から分かっていたのだろう。分かった上で、それを利用した。
比企谷八幡の立場を利用するなら、クラミーは必ず空達の情報を得ようと接触をもつ。ならば逆に情報を与えてしまえばいい。
クラミーに対して空が与えたい情報だけを俺に伝えれば、既に操作された内容だけが伝わる事になる。だからこそ、空は俺に対して一度も東部連合のゲーム攻略の方法については語らなかったのだろう。
「良いように使われた挙句にミンチとか、泣く間もねぇよ」
「まだまだ使うつもりだからよろ〜」
「働きなくねぇなぁ」
項垂れる俺を他所に、空は三度周りを見渡す。ジブリールとフィールの仲直りの義も終わっているため、残る問題は特にない。クラミーの素性もある程度知れたしな。
そんなわけで会はお開き。とはならず、二次会のように皆は大浴場へ案内された。空曰く、裸のお付き合いらしい。
流石に男性陣である空と俺は混浴する訳にも行かないため、前回ジブリールがエルキア陣営に加わった際に倣うつもりだ。それ裸の付き合いになるのか?
着替えなどの理由から一度俺と空は別行動をとる。浴場に続く扉へとレディースが入っていく中、ジブリールが振り向いた。
「……ひき肉谷さん」
「まだミンチにするの諦めてねぇのかよお前」
何か用があるらしいが、さっきの話し合いもあってあまり関わりたくない。助けを求めようとしたが、空は何故か扉の中へ入っていった。……え、え?は、行って行った?
「おい空何してんのお前」
「俺と白は離れられないって言っただろ?」
「いや、着替えとかどうする気だよ」
「もちろん目隠し」
「それでいいのか……」
「マスターがどう振舞おうとあなたに文句を言われる筋合いはないかと」
「そりゃそうだが」
文句以前に倫理的にどうなんだ。というか、ステフやクラミー達はいいのだろうか。ジブリールはともかく、人間には羞恥心なるものが存在するはずなんですけど。
ほいほいと手を振りながら進む背中が扉の奥へと消えた。ジブリールは扉を1度閉め、完全に一対一の体制をつくる。やばい、何されるんだしょ。
「一つ、内通の償いとしてお答え下さい」
やはりクラミーの件か。これは俺が悪いのは否定できないが、実害がないならよくない?ダメですか、そうですか。
それでもダメ元で俺は返すしかない。
「それに関しては空から利用されたで手打ちにしないか?」
「マスターが許そうとも、私が許しはしないので」
「マジか」
これ、多分断ったら解剖コースだな。ゲームは絶対受けないけど。だから了承もしない。
うんともすんとも言わない俺に、ジブリールはお構い無しに問う。どうやら拒否権はないようだ。
「今回行ったゲーム。――あなたは、最初から、マスターを忘れてはいなかった」
さらっと流すつもりだった。過去形で表現したのは、本当にそれが過去に思ったことであり、今はその考え自体を変えようとしているからだ。
「YESかはいでお答え下さい」
「それは答えじゃなくて応えだろ。そもそも何を根拠に」
誤魔化せるならそれでもいい。ジブリールが俺をどう思っているかは、彼女が空達に仕えることでどう変わったかは分からないが、敵対するには相手が悪い。できる限り穏便に済ませたいのが本心だ。
「思い返せば、あなたは一度も『ソラ』という名を知らないとは明言していません。更にあのゲーム開始の宣言。あの時恐らく、あなただけが、盟約に誓っていなかった」
「証拠は無いだろ」
そう、彼女の言うそれらは状況証拠にすらなり得なく、記憶という曖昧なデータは俺を問い詰める要因になりえない。
理解はしているのだろう。ジブリールは悪足掻きでもするかのように、だがそれを恥じる気はないように続ける。
「あのゲームは『存在を賭けた』ゲームです。自分の存在が奪われれば、その存在は無かったことになり、他者の記憶や意識からも消えます」
「その辺はルールを作ったお前とフィーだから証明できるな」
「はい。しかしこの世界の全てから存在を一時的にでも無くすことは困難を通り越して不可能。少なくとも、
魔法を行使すること云々は俺にはよく分からないが、確かに世界中の生き物の頭を弄るのは一個人でできる限り範囲を超えているし、それ自体が盟約違反になるだろう。
「つまり、範囲を絞ればいい」
「その通りです。今回の場合、空様の記憶は空様が関与できる範囲内で存在消去が行われました。即ち、全
だからこそ、全権代理者を含む人類種と従者であるジブリールは空を忘れた。これがルールであり魔法の範囲である以上、不思議はない。
「で、それがどうしたんだ?」
「このエルキアには例外がいるのです。ゲームに参加しなければという前提条件でなら、人類種でもなければ従者でもない者が――」
「……それが、俺だと」
ジブリールは俺を、厳密には人類種ではないと仮定していた。さらにエルキア陣営に含まれていないと俺自身が明言しているし、空が俺に対して情報を隠していたことも知っているだろう。
ならば、こいつにだけはバレる可能性があったということだ。気にしてなかったな、これは。
「それで問いが振り出しに戻るってことか」
「左様にございます」
ジブリールの理論はゲームに参加していないことが前提となる。もし参加していれば、記憶改竄の対象になるからだ。
逆説的に、俺が空を忘れなかったならば俺はゲームに参加していない、ひいては空達に協力しなかったと取れる。
これはジブリールが良く思う話ではないだろう。答えによっては何されるか分かったもんじゃない。たとえば図書館出禁とかな。
それは避けたいので、とりあえず様子見に移行する。
「んじゃあ仮に、俺がお前の言う通りゲームに参加していなかったとして。それに何か問題があったか?」
「いえ、マスターに負けはありませんので直接は影響しません。ですが、あなたの対応によっては、白様が苦しまなくて済んだ道をあった筈にございます」
否定はできない。
正直な話、俺は最初から最後まで空の存在を失ってはいなかった。だからこそ、俺は黙ったのだが。
仮定の話だが、俺が一言白を肯定すれば、白はもっと早く答えに辿り着き、早々に部屋から出てきていたかもしれない。それは確率的にはかなり大きい結末だろう。
「にも関わらず、あなたはそれを拒みました。マスターを助けること、あなたは拒絶しました。だから問いたいのです。何故、手を貸して頂けなかったのかと」
俺は肯定していないのだが、完全にジブリールの仮定が正しいこと有りきで話が進んでいる。まぁ否定もしてないからな。
「問いは一つじゃなかったか?」
「初めのは確認です。ちゃんとYESかはいでお応え下さいと言ったはずにございます」
「さいで」
だからこれが本命だと。
何故かと聞かれれば、答えてあげるが世の情けだ。が、しかし、答えれる気がしない。
可能不可能という意味ではなく、ただ俺自身が、明確な理由があって断ったのではないと思っているからだ。頭で考えた理由と、行動の理念がどこかで食い違っている――そんな感覚がある。
それでも答えなければならないか。ジブリールが満足はしなくとも納得できる理由を。
「俺が空の仲間じゃないからだ」
「…………」
無言。ジブリールの目はただ静かに続きを促している。これ以上何を聞きたいのか。
悪いが期待には添えそうにない。俺はただ言い訳じみた話を、用意していたスケープゴートのような言葉を口にする。
「俺にはそもそも空達に協力する理由がない。東部連合との直接対決はともかく、今回のゲームは完全にあいつらの受けた勝負であり、俺が関与すべきものじゃないからな」
空には予め話したことだ。俺はゲームに積極的には参加しないと。
これからある東部連合との一戦は、空からしっかりと出場の宣言を受けている為出なければならないが、これは出ないと俺の寝床がなくなるからという隠喩的な脅迫があったからだ。
俺の言葉を咀嚼するように、ジブリールは少しだけ間を置いてから口を開く。
「……では、あなたの論法ならばこれから行うゲームには、参加するが協力はしない、ということでよろしいのでしょうか?」
「答える問いは一つだろ」
「償いも約束もない、ただ私一個人としての質問ですので、答えるも黙秘するも自由です」
「そうか」
自由ならば適当でもいいだろう。ジブリールは黙秘することも止めてはいない。
だが、ここは言っておくべきかもしれない。
俺は空達やジブリールと仲良くしたいとか考えているわけではない。現状は仲間ですらないわけで。
けれど進んで敵対したいわけはなく、なんなら適当な距離感でゆっくりしていたい。命懸けの勝負とかマジ勘弁。
「まぁそうだな。厳密には俺はエルキア陣営でもないし、ただの居候みたいな立場だ。一宿一飯の恩義はあっても一生一命賭けて戦う義理はねぇ」
「そうですか」
「ああ。けど……」
しかし、事情が少し変わった。
俺には現在やらなければならない課題があり、その為には少なからず戦歴が要る。ざっと、種のコマ全種類コンプくらい。
そんなのは当然俺一人では無理だ。プロのぼっちが諦め早いなと俺自身思うが、俺はゲーマーでも何でもないんだし、全戦全勝とか無謀もいいところである。
「俺にも事情があってな。次のゲームは勝たないと都合が悪い」
ならば早い話、空達を利用させてもらうことにしよう。あいつらなら簡単に神様の座まで上り詰めそうだし、そうなればテトの所まで行くのは確定だ。
ここは小判鮫を見習って、楽して勝たせてもらおう。まぁ完全にヒモな生活しててこんな人生舐めてる発言は我ながらどうかと思うが。
「都合が悪い……。種のコマの影響を受けないあなたにどんなリスクがあると言うのでしょうか」
ジブリールが嘘をつくメリットこそないため、本気で分からないのだろう。つまり俺がテトと会ったことも感知されていない、と。
ならわざわざ懇切丁寧に話す必要はない。まぁ、元から話す気はなかったけど。
確かに今回のゲームで俺は人類種からみて例外に当たることが分かった。空達と違って全権代理者でもないからな。当然種のコマが消えても俺の人権は多分守られる。
だが、だからといってノーリスクなわけではない。
「あるだろ。損失を被る可能性」
「はて?」
いつの間にかジブリールの圧のようなものが消えている。恐らく本題が終わっているからだろう。ならさっさと応えて会話もジ・エンドしましょう。
「空達が負けたら、俺の寝床が無くなるんだよ」
空からお呼びが掛かり、ジブリールは亜空間へと消える。俺もそれを追うように扉を潜った。
「よう」
「おーっす」
何やら楽しそうにスマホを弄っている空の隣に、俺は柵を背にして座り込む。1枚隔てた向こうではレディース達が戯れていることだろう。
「空」
「どした?」
「正式にではないが、これでクラミーとフィーも仲間に入ったって事でいいんだよな?」
「まぁな。その為の儀式っつーか恒例行事だし」
どうやらスマホの中身は画像編集らしい。何を撮ったのかは聞かないでおこう。
「それがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと思っただけだ。それはともかく、少し頼みたいんだが」
「珍しい通り越して不気味だな」
「ひでぇ……。珍しいだろうが不気味ではないだろ」
「主観の話なら俺の主張こそ正義だ。まぁ、どうでもいいけど。んで何?」
あまり人に頼らないのは良くも悪くもぼっちの性だ。だからそこまでよく知らない相手に頼みがあるというのは少々照れくさいものがある。
若干の居心地の悪さを感じながら、俺は目線を合わせずに言う。
「俺も普通に風呂入りたいから、温度下げてくんね?」
「え、今?マジかお前」
思わぬ返しだったようで、空はキョトンという表情をこちらに向けた。
「違ぇよ。後だ、後。他の連中上がった後に入りたいって言ってんだよ」
「いや、普通に聞いたらそうなるぞ」
「あぁ、そうか。悪い」
「まぁ気持ちは分かるから何も言わねぇよ。けど白の裸見たいとか言い出したらマジでぶっ飛ばす」
「おい自重しろよシスコン。つか違ぇし」
かなり鋭利なブーメランが放たれた気もするが、スルーしましょう。
興味を失ったのか、空は了承の返事を返すとまたスマホに視線を戻す。俺もそれ以上の用はない為、掻いた胡座を崩さずに天井を仰ぐ。暇だしスマホも自室なので、下らないことを考えながら時間を潰そう。
「なぁ比企谷」
「なんだ?」
「普通に風呂入んのもつまんねぇし、ゲームしねぇ?」
「俺に勝ち目ないから却下だな」
ようやくギリギリのゲームに勝ったのに、またゲームの話かよ。あるいはそれでこその生ける都市伝説というべきか。
ゲーマー兄妹は獣耳っ娘王国を征服するそうですよ。
文が出てこない……。
納得できなくて何回か書き直しました。
遅くなってすみません。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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