人は寝ないと死ぬ。極論だが、あながち間違いではない。万物には限界があり、人の活動範囲もまた、限界がある。某汎用人型決戦兵器に関しては、活動限界時間は5分だ。スペシウム光線の使い手なんざ3分である。なら、当然
何が言いたいかと言うと。
「寝かせろ」
「さんざん屁理屈並べた挙句、えらくこざっぱりした結論持ってきたな」
「……はち、めんどくさい……」
なんで俺は今日会ったばかりの
「いや待て、この世にめんどくさくない人間なんていない。だから俺はめんどくさいというカテゴリー内では平均点だ。つまり俺はめんどくさくない」
「「めんどくさっ!」」
そんな力強く言わんでも。
実際今日は疲れたんだ。頭も体も使い切ってマジで倒れそうなんだよ。
「それより、八。教えてくれんだろ?」
「何をだ」
「さっきのやつだよ。何が狙いだ?」
まぁ勝手に巻き込んだしな。それくらいは教えてもいいか。
「単に魔法ってのがどんなのか体験しようと思っただけだ。むしろ、お前らの方がその辺はよく分かったんじゃないか?」
聞くと、ニヤリと笑う空。
「まぁな」
「んじゃ聞いていいか?白」
「なんで俺に聞かねんだよ」
「お前は対人には適してても、あーいうのは白の分野だろ」
魔法やイカサマの仕組みを分析解体するのは恐らく白だ。コンピュータレベルの計算処理能力を持った天才の彼女なら、魔法の発動を知るための布石を打ったはず。
「むしろ、その布石は八が打つように仕向けた節があったぞ」
「サラッと心読むなよ。お前は何ノ下だ。空ノ下さんか」
ハテナを浮かばせた空は一つ咳払いを入れて、目の前に手を開く。
「一つ。トランプを広げたのは何故か」
開いた親指を折って俺に言う。正確には俺と白にか。
「しっかりとバラバラになっているのを見せるためだ」
当然のように俺は答える。当然の答えをな。
「じゃあそれは誰に、か」
「……白に、配列を……覚えさせるため」
おっとバレてた。というか、俺のプランは相変わらずこの空白の反則的なスペックを計算に入れたものばかりだ。他力本願過ぎて、ぼっち名乗んのが恥ずかしいな。
「二つ。使う色を確認し、クラミーが使うと言った色を白に渡したのは何故か」
「配列を……覚えた白が、クラミーの使うカードに……細工するため」
正解だ。配列を完璧に記憶した白なら当然、シャッフルでその配列を自由に組み替えることも出来る。
「三つ。そもそもなんで今回こんなゲームを仕掛けたか」
「それは言ったろ」
「違う。お前の言葉は嘘じゃないが、足りない」
ほんと、よく見てる。観察眼に関しては、俺はこいつには勝てないかもな。
「魔法を、俺と白に見せるためだ」
ここまで読まれるといっそ怖い。
「正解だよ。恐らく2回目のアイコンタクトで配列組み換えでもしたんだろ」
「……はち、当たり……あきらかに、4ゲーム目から……配列が、変わった」
「てか、よく気付いたな、あのアイコンタクト」
わざわざタイミング合わせて目逸らしたんだ。そりゃ分かる。それに
「もともとあの場に協力者がいたのは分かってたからな」
「なんで?」
あれ?空は知らなかったの?
「……にぃ、これ……」
白は手に持っていたスマホを空に渡す。そこに写っているのは、フードを深く被った女の子。
「白……なんで教えてくれなかったのかな?」
「……どうせ後で、話す……言っても、二度手間……」
「いやいつ言っても変わんないよね妹よ!?」
ともかくそういうことだ。それに俺がゲームを始めた時に感じた視線の方向にいたからまず間違いない。
「それにしても、魔法ってすげぇな」
「たしかにな。原理もわかんないし、感知も出来ないんじゃマジで詰んでる」
それにしても、なんで俺はこいつらを信用したのか。いや、これは信用でも、ましてや信頼でもないな。実力と思考回路から導き出される打算の結果だ。やはり、俺は異世界でもぼっちのようだ。
それはそうと
「なんでお前ら俺と一緒にいんの?」
よくよく考えたら俺達は初対面。今日知り合ったばかりの、言ってしまえば他人だ。まぁ、何となくウマが合う気がするのは、気のせいではないと願いたい。
「まぁ白もお前を気に入ってるのもあるけど、ゲームが強いってのが本音かな」
「は?なんでだよ」
「なんでって、楽しいだろ?」
溌剌とそう言った。あれかな。強過ぎるが故にライバルを求めてしまうってやつかな。
「……空白に、ドロー……多分、人類……最強」
なんじゃそりゃ。そんなわけがない。
「いやいやそれはない。あん時のチェスのこと言ってんだったら、そもそもあの時、俺が先行でそっちが後行。引き分けが普通だろ」
チェスは先手絶対優勢のゲームだ。俺が先行だった時点で結果がドローなのは確定だった。
「いや、それは違う」
だがそれを空は、空白は否定する。
「確かに、両者が常に最善手を打ち続ければ引き分けが当たり前。けど、八は違うだろ」
「……はち、正攻法……使わない」
言われてみればそうだ。俺の武器は姑息さだ。故に、最善手なんてクソ喰らえなプレーで恐らく序盤は白だけと戦った。
「それでも、序盤から劣勢だったぞ」
いくら最善手だから読みやすいとはいえ、流石に追い込まれる。それがスーパーコンピュータクラスの計算処理能力者相手なら尚更だ。
「……それでも……トドメ、させなかった……」
「だから俺も加わったんだが……あれはほんと凄かった。途中から勝つ気なかったろ」
正にその通りです。実際あの状況から挽回する手はなかった。ならとことん引き分けに持ち込むしかない。そもそも1時間以上1ゲームで使ったのが初めてだったんだよ。そりゃ諦めるよ。
「ましかし、目標も達成したし…そろそろいいよな?」
スマホを見ながら空は言う。
「……うん、いいと思う……はちも、気にしない」
何する気でしょうかこの男は。
「マジでないわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫。今日起きた全ての理不尽に、彼は叫んだ。
「と、落ち着いたところで現状確認だな」
俺の部屋のベッドの上で空は言った。おい、なんで部屋主がソファでお前らがベッドなんだ。まぁいいけど。
「スマホにDSP、マルチスペアバッテリーとソーラーチャージャーが2つづつに、充電用のマルチケーブルとタブレットか。八、そっちは?」
所持品確認とばかりに聞いてくる。本人曰く、自己紹介のせいで最初に確認すんの忘れてたとのこと。
「スマホと……ラノベ1、2、3巻」
俺はこれだけ。マジでなんだろう。あれだ、不幸だ〜ってやつだ。
「……ちなみにラノベの中身は?」
「このす……」
「ああ、もういい分かった」
されてこれからどうするか。相談を切り出そうと空達を見ると
「白寝ちまったか」
まぁ、完全にニートのこいつらだから、あの距離歩くだけでも一苦労なのだろう。それなのに文句一つも言わずに歩いた小学生の彼女。そして、妹の頭を撫でる目付きの悪い彼。まったく、羨ましいほどの信頼関係だよ。俺と小町はどうだろうか。
……小町、か……
「なぁ八」
「ん?なんだ?」
「なんで異世界物の主人公って、あんな世界に帰ろうとか思ったのかな」
その言葉には、今まで彼が、彼らが生きてきた分の重みが乗っている気がした。
「落ちこぼれも、天才も生き難い。あんな汚くて残酷でクソッタレな世界に」
それは、確かにそうだと思う。俺は知っている。あの世界は、
「そいつは持ってたんだろ。自分の世界に……『本物』を」
俺の答えに空は驚いた表情をこちらに向ける。
「八は……持ってるのか?」
「いや……持ってないな。でも……欲しかったな」
そう、俺は欲しかった。それが見つかる気がした。奉仕部なら、あの場所なら。でも、そんなものも、ただの幻想なんだと、現実は俺に突き付ける。
「八は戻りたいか?」
どうだろうか。俺にあの世界に心残りがあるだろうか。本物にはなり得なかった関係と、解決していない後輩の依頼。間違ってしまったのではないかという疑念、仲直りもしていない小町とのイザコザ。
「そうだな。俺は……やるべき事を、まだしてなかった」
「八には……あの世界に大事なもんがあったんだな」
そうかもしれない。ぼっちなんて言っているが、実際は、俺は誰よりも誰かを大事に思っているのかも知れない。
人は失って初めて気付くと言うが、俺もその1人なのか。いや、大事なのは、ずっと前から分かってた。そんな気がする。
「八がしたかったことって……なんだ?」
そんなことは決まってる。
「小町と、妹と仲直りしないとな」
向かい合う2人は、一瞬の沈黙の後、静かに笑う。
「シスコン」
「お前に言われたくねぇ」
扉をノックする音が聞こえる。客か、なんかのサービス?
空を見ると頼む、というジェスチャー。まぁ白が空の足の上で寝てるし、妥当だな。
はーい、と返事をして鍵を解き、扉を開けると、目の前には赤い髪の美少女が布切れを体に巻いて、半分涙目で立っていた。
今回はシリアス優先ですね。どちらかと言うと俺ガイルよりな展開でした。
ここまで一気に出しましたが、今後はどうしよう。八幡のパワーバランスが難しい…
空白に引き分けてる時点で大分ぶっ壊れてますが。
感想お待ちしております。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
-
もっと見たい
-
別にいらない