ほぼ一か月放置してしまったことに我ながら驚いています。
きっと冴えない彼女とかとあるアニメとかの所為ですね。
……はい、自分の所為ですごめんなさい。
—other side—
架空の生物について、あるいは人類を越える存在について。
もしもそのような超越的なものがいるとするならば、はたして人類はそれらに理解を示せるだろうか。
仮にそれらが人類と会話できるのならば可能かもしれない。
仮にそれらと意思の疎通ができるならば可能かもしれない。
仮にそれらが人間に対して友好的ならば可能かもしれない。
それが、恐らく不確定要素だらけの予測変換から導き出せる結論だろう。
……もっとも、仮の話になる以上、この問の結論には然したる意味はない。
ことの本質は、脳内処理を越えた情報に理解を示すことがいかに難しいかである。
理想的な仮定の状況と、過大な希望的要素を踏まえてすら、あくまでも可能かもしれないという仮称の結論しか出ないのだ。
その先を求めるのは誰にもできず、誰に対しても求めることはできないだろう。
——故に、理解不能な状況に対して、時間すらも静まり返ったような錯覚を覚えることに不思議はない。
創作された世界——ゲーム内の幻想世界で、彼らは笑みを浮かべる。
負けたはずの二人、死んだはずのコンビ、反撃の旗を無くしたはずのゲーマー兄妹。
誰もが抱いた固定観念をあざ笑うかの如く、
「まぁ~、タネを明かせば簡単だ」
空は笑顔を崩さず、向けた銃を揺らさずに口を開く。
「このゲーム、
「……なら……これでも、できる」
続けて、白が握っていた左手を開いた。
彼女の手に平には、自身のYシャツから取ったであろうボタン。これ自体には何の仕掛けもない。
だが、二者の言葉を踏まえれば、見えてくる信じがたい攻略法。
「まさか、ボタンを飛んでくる弾に当てたって言うんですのっ!?」
まさしく人類を代表し、ステフが画面に驚愕を吐き捨てる。
確かに驚くべき、そしてひどく馬鹿げた話である。
しかし、と。見つめる会場でただ一人、クラミーだけが揺るぎなく空の言葉を信じていた。
あの白ならば、可能だろう。
「……えぇ、そうね。あなたの知る白なら。……けれど」
けれど、納得できたわけではない。
なぜなら空の仮定には大きく、致命的な誤算があるはずなのだ。
「……そんなの、できるわけねーだろ、です」
「そーかね?できなきゃ、そもそも俺らはここにいないと思うけど?」
大衆が見つめる先でいづなもまた、あるはずの誤算を噛み締めながら言葉を吐き、空は不気味さすら感じさせる口角の上がった表情で答える。
「理屈じゃない。必要なのは結果だ」
そう続けた空には、そして隣に並ぶ白にも笑みはない。
あるのは、果てしなく深い覚悟と必勝の手のみ。
「あえて宣言させてもらう。次の一手……いや、
「「……いづなの、詰みだ」」
言葉はもういらない。
放たれた双銃の狙いは狂い無く、回避行動を最も難しくさせる地点へと弾が飛ぶ。
それらを視認し、いづなは踏み込んだ。
地面にヒビが入り、風が割かれ、抵抗に逆らう質量が直進する。
狙うは、偽装も回避も不可能な間合い。
倒れた比企谷八幡の僅かに手前、立ち位置的には中間かつ最短となる二人の隙間にいづなは走った。
右手の
「――だろうな。『
だが、彼らはそれすらも読んでいた。
いづなが来るであろうポイントを完全に先読みし、無防備な頭部に銃口を突き付ける。
三者を四丁の銃が狙い、一斉にトリガーを引く。
弾速と距離を考えればいづなにも、もちろん空白にも回避はできない。
弾丸は正確な直線を描いて額へと向かう。
――ある二撃を除いて。
いづなは広げた両手を振り上げる。
腕の先、手の平に掴まれた銃は力に従って上昇し、飛ぶ弾丸と接触し合う。
狙いが正確ならば、その軌道を読める。
意図的にではないにしろ、いづなは空と白が行った超人的神業をこの局面でやってのけた。
当然、超人的であろうと超人ではない二人は、防御もできずに弾を受ける。
――ただ、確信めいた笑みを浮かべたまま。
心音という確かな証拠が、次こそ
「……今度、こそ――」
終わった、です。
そう声に出すより速く、それは動いた。
いづなは反応できない。
何故ならそれは、速く、意識外から、なんの素振りもなく打ち込んできたのだ。
ジブリールという――最後の一打を。
目で捉え、頭で理解し、いづなは察した。
これで終わりだと。
これで詰みだと。
これで、ここまでで、
「ありえねー、です……」
敗北を理解した彼女は――笑った。
無慈悲に弾丸は額を穿つ。
―other side―
「さっさと起きていただけますか」
何故か怒気を感じる声に意識が戻る。
怒られる原因に覚えはないし、何かの間違いだろう。
しっかりと光を捕らえる瞳で、俺は眼前の景色を認識する。
「床で眠ることに何かしらのこだわりでもあるので?」
真っ先に見えたのは、ジト目に近い琥珀色の目をした疑似天使だった。なんで機嫌悪そうなんだよ……。
「好きで寝てるわけじゃないんだが……」
そもそもこの世界に来てまともな寝床につけたことの方が少ないことがおかしいんだって。
誰に届くはずもない愚痴を心の中でぶちまけ始めた辺りで、俺は騒々しい歓声に気付く。
「なんだ、これ」
「まだ頭が機能していないご様子で」
まだ俺に対する当たりが厳しいジブリールを紙一重でスルーし、立ち上がりながら辺りを見渡す。
まず、俺の背後にはジブリールがいる。これは俺の向いた方向によるもので、彼女は一切移動していない。
次に眼前。男女二人組……というか兄妹二人が、項垂れた幼女……いや、獣耳幼女の前に立っている。いや、この言い替えに深い意味はない。ほんとだよ?
空と白が仁王立ちして、いづなががっくりとしているということ。そしてギャラリーの比率から歓声の大きさを鑑みれば――。
文系のテストに出したらサービス問題だな。
(1)の答えは、エルキアの勝利。満点の回答だろう。
まぁ(2)で、『その方法を答えよ』とか聞いてくるんだろうけど。ああいう問題って、大体予想がついちゃってもう問題文見ずに書いちゃうよね。そんで見直したら全く違う記述問題で書き直したり。
ともかく、俺の回答は花丸がもらえるレベルで正解しているらしく、空中に出現したモニターには悔し気な初瀬いのが映し出された。
「残念だったなじーさん、あんたらの負け。せめてもの抵抗に俺らの作戦、暴いてみたか?」
ここまで挑発が板につく男も珍しい。空はいつもどおりの口調でいのを煽る。もうゲーム終わってんだよね?
「……ボタンを使っての着弾偽装、敵ながら見事と言わざるを得ませんな」
「ん~、まぁ、どうも」
いのの言葉はどうやら空の琴線には振れなかったらしく、返事はおざなりだ。
「けど本質はそこじゃねぇ。つーか、ついさっき丁寧に解説したとこ言い直すとかどうなのよ」
「なんかメタっぽくなるからさっさと先進めよ」
「お、八、いたの?」
「それは暗に俺の影が薄いと言いたいのか。それとも直球で言ってんのか」
「どちらかと言えば後者」
「そこはぼかせよ」
てか、せめて「いつの間に起きた?」じゃねぇの普通。
まいいや、と空は向き変える。
「じゃあシンプルに、俺たちがやったことを簡単に言うとだな……」
「……意識、視線の誘導……ミスディレクション」
「あの、白さん?にぃちゃんのかっこいいところ持ってかないで?」
「……今回……しろの出番、少なかった……バランス、大事」
「なんかメタいよ白さんッ!?」
出番がどうかは知らんが、あまり聞きたくない単語が聞こえたよ?ミスディレクションって、それ俺がやろうとしたのと同じ奴っすかね?
「と、にかく、俺たちがやったのはそれだけだ。ボタンによる防御はおまけだし」
なにそのセクシーなコマンド。煮汁とか溢れ出さないよな。
「ありえねーだろ、です。それだけで勝てるわけねー、です」
空の声に、いづなが苦言を呈す。
「それが、そうでもない。生き物の意識ってのは、存外適当だからな」
「適当って?」
「意識外のことには、誰も反応できないってこと」
確かに本とか集中してると時間が飛ぶよな。それは時間って存在が意識外にあるからってことだろう。
じゃなきゃ俺は集中する度キングクリムゾンしていることになってしまう。
「んで、肝心のいづな達の敗因は――八を見過ぎたことだ」
「……は?」
いや、流石に俺は悪くないと思う。訳わかんな過ぎて喧嘩腰みたいな声を出してしまったのは俺だが、俺に責任は無いはずだ。……だからそっと隣に並ぶのやめて頂けませんかね、ジブリール殿?
「どういうことだよ」
「そのまんま。俺たちは一貫して、八に意識を向けるように仕向けたってだけ」
「それはむしろ俺がやろうとしたことなんだが」
対象は違うけど。
「それ踏まえて、いづなは、東部連合は八に集中してたんだよ」
なぜ、と聞きかけた。つまり聞いてない。
言われてみれば、そして東部連合側に立てば理解できないこともないのだ。彼らが俺如きに意識を割く理由を。
「『種のコマ』を賭ける一大勝負で、いきなり現れた新キャラ。能力も性能も未知数。まして相手の一軍は上位種を真っ向から倒したことのある存在と来れば――」
「当然俺がエルキアの真の秘密兵器に見える、ってことか」
「そーゆーこと」
今更ながらそうだ。
俺は東部連合との交渉(という名の恐喝)の際はその場にいなかった。マジでいづなとは今日ついさっきが初対面だったし。
ついでに言えばこのゲームのルール決めの時に、空は「エルキアは四人で挑む」といっていたはず。となれば自然と参加者は『 』の二人にジブリール、残る一人はステフだと考えるだろう。
しかし実際に参加したのは名前も顔も知らない目の腐った男。嫌でも警戒するな。目は関係ないけど。
……となるとこいつら、俺が東部連合との初対面式に出向かないことまで計算してたってことになる。もし後出しだったとしても、俺の思考読まれ過ぎじゃね?プライバシーとかないのこの世界。
「さて、そうなると東部連合はどんな戦法をとるか。候補はいくつかあるが、一番は警戒対象の優先順位をつけての撃破だろう」
他の戦法は、例えば『血壊』による奇襲か。それは成功して空達はやられたわけだし。
「まず最も警戒すべきは八。次が戦闘力の高いジブリール、未知数な俺たちと続く」
「未知数と言うなら、こちらが狙うべきは
「いや、ならない。なぜならあんたの目には、八こそが真の『 』に見えたはずだからだ」
いのの指摘を空はノータイムで否定した。東部連合は空達をジブリールよりも優先すると。
「優先順位が決まれば、次は倒す順番。ステフ辺りは勘違いしてそうだから言っておくけど、このゲームは強いから先に倒しておくって戦法は使いにくい」
何故か分かるよな?と聞くように、空はこちらを見る。
正直俺もステフ寄りの思考だったのだが、指摘されれば別解も生まれる。
「わざわざ倒したのに復帰させるのは厄介だから」
「正解。まして相手はデータ皆無の敵。味方につけたとしても扱いに困る」
ならば空や白もその扱いにくいキャラに属すだろうとも言えるが、そこは俺の仕向けたミスディレクションのお掛けだろうか。
「かといってすぐにジブリールは攻め落とさない。いづなにとって、相当好条件でもない限りは切り札を切らざるを得ない相手だからな」
全く違いました、てへっ。
「そんで、ゲームの長期化にいづなは焦った。体力を使う切り札の使いどころが難しくなるからな。だから逆に、『血壊』による奇襲という策に出る。しかしいづなには誤算が二つあった」
「……一つ……はちが、なにも仕掛けなかった、こと」
「もう一つは、
話を総合すればなるほど、俺の知らんところで何が起きたのか想像がつく。
空の言葉通りいづな達が俺を必要以上に警戒していたとするなら、いづなにとって賭けに近い戦法の際はどうしても気になってしまう。つまり意識が向いてしまう。
対して空達はいづなからチート級の攻撃が来ると初めから予測し、その対策を持っていた。いづなに打たれたのはフリで、ずっと彼らはこちらの陣営から動いていなかったと。
「いくら『血壊』を使ってるとしても、意識外のことまで思考は回らない。いづなは白を完全に仕留めたかという確認を怠った」
油断怠慢すなわち何とやらか。
「俺が何もしなかったってのは?」
「いづなは常に警戒していた。八なら俺や白を倒している間に何かしてくると覚悟してたんだよ」
さも知っているかのように言うが、いづなは何も言ってないよ?否定もしてないけど。
「覚悟してたってことは、深追いもできなかったってことか」
「そういうこと。あとは八の作戦に乗っかって、いづなが来るのを待つ。特別なことは、
「いやおいちょっと待て。となるとお前ら、俺を追ってる時点でこっち側だったってことか?」
「当然。つか、俺と白からあれだけの時間逃げられるわけねぇだろ普通」
「……はち、しろたち、舐めすぎ」
「お、おう、すまん」
通りで紙一重で躱せた訳だよ。何せこいつらが、紙一重で躱せるルートに撃ってたんだし。
というか、もし俺がこいつらに打たれてたら……それ以前に、いづなを追い詰めるだけの策を用意できなかったらどうするつもりだったのか。
そこまで読んでの話なんだろうけど、いろんな意味で信じらんねぇなこいつら。
「……そら、しろ。、答えろ、です」
「なんだい?いづなたん」
「なんでいづなが、『血壊』使えねーってわかった、です?」
「簡単だよ」
「……切り札あるなら、
今更気付いたが、いづなの傍には二丁の銃が落ちていた。
白の言い分通りならいづなは、一度ジブリールを倒して、体力を使い過ぎたことに対する保険に銃を追加装備したってことか。未知数の敵を前に切り札無しというのは心持たないから。
なんとなく『血壊』は大幅に体力を消費するイメージだけがあったが、これでいづなが温存したがる理由にも説明がついた。
しかし、そうなると……。
「それ以上先を思考するのはお勧めしませんが?」
「サラッと心読むなよそして考えてないだからそのとびきりの笑顔どうにかしろよ下さいお願いします」
わざと視界に入るようちこっち見ないで欲しいです。まだゲーム内なので暴力許可って有効だよねここ。
空と白の答えを聞いてから、いづなはただ俯いて動かない。
ただ、僅かに身体が震えている。何かを堪えるように、弱々しく。
「え……なんで、なんで、です?」
ポトリと落ちた一滴が、いづなの塞きを壊した。
瞳から溢れふ涙は、次第に大きさと量を増していく。
「なんで、止まんねー、です……いづなのせい、なのに……」
分かった。分かってしまった。
いづなが誰のために泣いているのかが。
彼女は今日このゲームに、自国の命が掛かっていると覚悟していた。自分の敗北は、多数の死だと。
ならば彼女の涙は、誰に向けた涙なのだろうか。
――守れなかった国民だろうか。
「それは違うだろ?」
空は否定する。
「今いづなは、どうしていいか分からないだけ。だろ?」
「え……?」
「一生懸命、全力で、死力を尽くして戦って、それでも勝てなかった。それが悔しくてしょうがない」
「それは、それはちげー、です」
「いえ、恐らく相違ないかと」
予想外にも、感情の論争にジブリールが足を踏み入れる。
「私がトドメを指す瞬間、あなたは確かに笑っていました」
「それは、そんなの……」
「いいんだよ、いづなたん。笑ってさ」
「え……」
「これはゲームだぜ?楽しんで悪いわけがない」
「でも……」
「本気でやって、楽しんで、負けたら悔しくて。それでいいんだよ、ゲームなんだし」
「でも、いづなが負けたら、みんな不幸になる、です」
「……あ……いづなたん……それ、違う」
「そもそも俺達が
「ど、どういうこと、です。お前ら、いづな達倒しに来たんだろ、です」
「ああ、ゲームでな!」
ゆっくりと近付いた空がいづなに何かを耳打ちする。
それを聞いたいづなは、初めて見せる満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、いづなは悔しいって、言っていいのか、です」
「……ん、もち」
「それが言えれば、それが分かれば、いづなも立派なゲーマーだ」
「……ぐっと、いづなたん」
根っからのゲーマーを前に、小さなゲーマーは、力強く立ち上がった。
「……次は負けねーぞ、です」
年相応の笑顔と熱意を秘めた瞳は、間違いなく彼らと同じものに感じれる。
彼女はゲーマーだ。
負けることが悔しくて、勝ちたくて。
だがその思いを抱くことを許せなかった。
彼女の双肩には、何万という同族の命が掛かっていたから。
だから、いづなは笑えるようになった。ゲームを楽しめるようになった。
彼らとの勝負が、殺し合いでないと知ったから。
もう、彼女の瞳に涙はなかった。
自分の気持ちに困惑する涙は。
ある必要のない、自責の涙は。
「ところで、結局最後は何がどうなった?」
ジブリールが決めたってのはなんとなく話の流れで掴んでいたが、実際にどんな熱戦を繰り広げたのか俺は知らない。
「八がいづなに撃たれてる間に、俺と白の弾を跳弾させてジブリールを復帰させた。あとは分かるだろ」
「いや、俺気絶してたんだけど……」
「奇襲すら可能な場面であえてこちらの手札を提示し、意識を向けさせる。流石はマスターです」
「あー、ミスディレクションって、そこまで含まれてんのね」
いづながジブリールに気付けなかったのは、そういうこと。
総合してやはり、思うことがある。
俺、いる意味あった?こいつらなら、俺無しでもやれた気がするんですけど……。
かなり期間が開いてしまい申し訳ないです。
本職の方々がいかに血反吐を吐いて仕事をしているのか……尊敬します先生方。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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もっと見たい
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別にいらない