お約束とは、あるいは王道テンプレートとは愛されるからこそ存在し、求められるからこそ存在し続ける。
ならば、お色気イベントにお風呂イベント、ラッキースケベと、現実から逸脱した現実味有る展開は推して知るべし。
曰く──。
「……そろそろ、本格的にTS主人公目指そうかな……」
そこには、何故かいつも以上に童貞を拗らせた男がいた。さっきジブリールとどっか行ってたみたいだけど、何かあったかよ。
一応注釈を入れるとさっきのセリフは空なので、勘違いしないでよね! 別に私はそんなこと思ってないんだから!
誰を対象にしたツンデレイベントだよ……。
と、明らかにどこかのゲーマーに毒され始めた俺は、絶賛その主犯と並んで仕切りに背を傾えていた。
いつもに増して考え方のおかしい空だが、決して頭が湯気の温度で沸いた訳ではない。
以前クラミーたちと風呂に入った際、「魔法で性転換は可能か」という話になった。目的は女子同士のキャッキャウフフを味わいたいとか。
フィーが言うには、可能だが戻れないらしい。
つまり女体化の一方通行。合法ロリコンである。いや空はシスコンか。
後ろからは白やいづなのキャッキャウフフが聞こえており、彼のタブレットを操作する顔は犯罪者じみていた。
その後、ステフの知らせで、東部連合が重要な人員や資材を本国に持ち帰っていたことが分かった。空は完璧に読んでいたみたいだが。
東部連合がゲームで賭けたのは『大陸領土の全て』であり、要求に大陸外は含まれない。
「もちろん、全部もらう」
彼が受ける大罪は強欲か、傲慢か。はたまた怠惰か色欲か、分かったものではない。
風呂上りから数分経って巫女なる人物からお呼びが掛かり、エルキア一同はいづな、いのを含めて東部連合の首都へと足を運んだ。
もちろん、俺は
だって俺行く理由ないし、言っても何もしないし。
しっかりと(空に)許可をもらい、図書館で読書に勤しむ。
他人を一切気にせず、ただ黙々と書物に向かうのはいつ以来だろうか。文芸部もとい奉仕部にいた時も、大体は周りにどうでもいいような話をする声があったからな。
「これが最終兵器なんて、信じたくないにゃ~」
そう、こんな気の抜けるような……。
「は……?」
まるで知ったように受け入れようと思っていたが、誰が何をどうした。
言葉を発したことだけは分かったが、理解不能過ぎて俺は声のした方を向く。
「これが、ねぇ……」
目が合った。
二色のオッドアイが俺を吟味するように、内側の闇を隠し切れないかのように光る。
直感的に、相手が
見つめ合う目線を外し、オッドアイの彼女の容姿を視認する。
腰から生えた翼に、異常に多い露出度、頭の上を回る幾何学的な紋様。俺の知る、
逆に一致しないのは、天使にはあるはずのない一本の角。まぁ、あいつも
「君がジブちゃんの言ってた、同僚かにゃ?」
オッドアイの角有り
何がしたいんだこいつ。てか、何言ってんだこいつ。
そもそもおかしい。
ここは『 』の所有地だし、ジブリールが管理している。許可がない者は入れないはずだ。
それに相手は
何故なら現状、ジブリールは同種族で言うところの裏切り者に近いはずだ。仮に
「あ~、警戒しなくても何もしないにゃ。というかできないにゃ、盟約で」
「いや警戒しないわけないだろ」
俺、前に初対面の
まず、こいつは何かしらの思惑を持ってここにいる。騙し合い、腹の探り合いに警戒心ゼロで臨むわけがない。
そしてもう一つ、ついさっき見えたモノ。あの微表情とも呼べる僅かな、しかし確かな深み。あれは、間違いなく彼女の裏だ。
「本当に危害を加えるつもりはないにゃ。ただ、ジブちゃんの同僚ってのが気になって見に来ただけにゃ」
「……色々と気になる部分はあるんだが……おい同僚ってなんだよ」
感度レベルマックスの深読みで彼女の言う「ジブちゃん」をジブリールと仮定するとして、同僚ってなんだよ。やめとけやめとけとしか思わないんだが。
「ジブちゃんが前にアヴァント・ヘイムに来た時、多分君のことをそー言ってたにゃ」
前というのは、東部連合とのゲーム前にしておくべき準備の時だろう。確か空の指示でアヴァント・ヘイムに行くとか言っていた気がする。あんま覚えてないけど。
「ジブリールが言ったのか」
「? 何かおかしかったかにゃ?」
「そうじゃないが」
あいつと意志の疎通が取れてないと再認した。
なんでジブリールの中で俺が働くことを前提に話が進んでいるのか。俺は働く気はない。働かせようとするな。やめろ、やめとけやめとけ。
「で、俺に何か用かよ」
「だから、見に来ただけにゃ」
俺は校庭に迷い込んだ犬かよ。めっちゃ人気者じゃねぇか。
「なら用は済んだな、よし帰ろう。……つかどうやって入ったんだよ」
「転移だにゃ」
「いやそういうことじゃなくてだな」
「あぁ、君のマスターにちゃーんと許可は貰ったから安心していいにゃ」
何を安心してどこにツッコめばいいんですかね。
敵意満点のバケモン種族と一つ屋根の下で、俺に何をしろと? あいつらは俺に何を期待してる?
つかなんで許可してんだよ。んでいつ会ったんだよ。
「なにより俺が従者ってことがおかしいだろ」
「うちに聞かれてもどうしようもないにゃ~」
言ったのはお前だろ。正確にはジブリールか。
俺がジブリールの同僚なら、従者の同僚=従者になる。だから働いてないんだって。……なにそれニート?
「あー、空達に会ったのか?」
「君たちのゲームが終わった後に、にゃ」
そういや風呂に入る前にあいつら、「先に用意しとけ~」とか言ってどこかに行ってたな。ジブリールの転移で。
すぐに帰って来たから何も重大なことがあったわけではないと思ってたが、めちゃくちゃ重大じゃねーかっ。主に俺にとって。
なんで俺はこうも
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったにゃ」
「じゃあ俺のことなんて聞いてたんだよ」
「目の腐ったアホ毛の男にゃ」
絶対にジブリール談だろそれ。ほとんど蔑称だし、なんでこいつもその条件で俺を見つけてんだよ。俺、どんだけ嫌われてんの?
「うちはアズリール、ジブちゃんのお姉ちゃんだにゃ」
「え、あいつ妹なの?」
確かに末っ子気質というか自由人というか傍若無人だけど、そんな家族事情は聞いたことがなかった。まぁ俺からは絶対聞かないし、あいつからも話す内容じゃないか。
「ジブちゃんはうちの自慢の妹にゃ」
「妹を自慢する気持ちは大いに分かるが、なら会うべきは
「もう会ってるにゃ」
「いや、だからそういうんじゃなくてだな」
まず調べるべきは同僚より主だろ。まぁ俺が同じ立場なら両方調べ尽くすけど。
というか、妹の一言でこんなことしてる辺り、こいつ相当なシスコンなんじゃ……。
そうなると、俺と空と、そしてアズリール。この世界のシスコン比率すごいな。
思わぬ同族発見にアズリールへ目を向けると、ニュートラルに不自然な笑顔が見える。
さっきから違和感があった。
こいつは一色いろはに近い。自分の裏を隠し、建前だけで会話している。
だが、アズリールは俺に一瞬、意識的か無意識かはさておき、本心らしき裏を見せた。
それこそが、俺が彼女を雪ノ下陽乃ではなく一色いろはと例えた部分でもある。あの魔王なら、最後まで隠しきるはずだ。
あの表情に何の意味があるかは分からない。
しかし、少なくともアズリールは俺に敵意を抱いている。あるいは隠し切れないほどに。
「……さっきの、どういう意味だ?」
「さっき? 何のことかにゃ?」
「お前言ってたろ、最終兵器とか何とか」
「あぁ~、単に弱そうだにゃ~、って思っただけだにゃ」
「思ったんならもう少しぼかしてくれよ。傷つくんだが」
「訂正するにゃ。弱いにゃ、心が」
なんで俺に対する態度ってみんなキツいの? 異世界でもこれとか、二週目プレイすら人生ハードモードなんだけど。
明らかに傷ついた俺を見て呆れたのか、アズリールはこちらに背中を向ける。出口は使わないだろうが、帰るというサインだろう。
「……最後に、これは絶対に言っておかないといけないにゃ」
こういう前振りでいい感じのセリフが続いた試しがないんだが、聞かないと帰ってくれないならば仕方ない。
「もし、ジブちゃんが不幸になるようなことがあったら──絶対にゆるさないにゃ」
そういった彼女の横顔は、先ほど俺に見せた
よく分からないやつは消え、図書館には静けさだけが残る。
「……結局、名乗ってねぇな俺」
あいつも忘れて帰っちゃってるし、アホなのか?
―other side―
東部連合、首都──
「で、どっちにするよ? 巫女さん」
すでにエルキアと東部連合との勝負は最終局面を迎えていた。
『 』対『巫女』のゲームは、互いの要求を賭けて引き分けとなる。
ならば、その決め方をどうするか──すなわち、両方勝ちか、両方負けか。
空は不敵に笑い、対戦相手の巫女は恥ずかしそうに苦笑する。
「言わせるんか、……両方の勝ちでええわ」
こうして、エルキア連合は誕生した。
「マスター」
「ん、どした?」
「下僕でありながら、我が主にこうして問う無礼をお許しください」
熱戦に次ぐ連戦を終えた主に、ジブリールは回りくどい前置きから口を開く。
「何故マスターは、わざわざあの男をゲームに参加させたのでしょうか」
念の為に防音術式を張っている。ステフや東部連合側に聞かれたくない内容である可能性を考慮しての判断。
その意も伝えた上で、ジブリールは
「なーんか、いろんな奴に聞かれた気がすんな」
「……だって、にぃ……これ、非効率だった」
「否定はしない。ステフ達もそれを感じてたんだろうし。だから白、わがまま聞いてくれてサンキューな?」
「…………しろも、にぃに同意……だから……問題、なし」
「それもそうだな。まぁ、ジブリールに話しといても損はないだろうし、いいか」
効率厨と白に認定されている空が、非効率な方法を選んだ。
そのわがままの理由を、彼は口にする。
「八を、比企谷八幡を動かす為だ」
「…………」
ジブリールの無言は、ただ続きを待っていた。
「八は、自分を主観的に客観視する。だから自らの行動に、必ず理由が必要なんだよ」
理由、行動理念、信念。その一切が確固たるものでなければ、彼は動かない。
「あいつは俺達と違う。あいつはまだ、この場に立ってすらいない」
「この場、とは?」
「あいつはまだ、ゲーマーじゃない」
この世界において、ゲームに勝てないことは死すら意味しかねない。
そんな中で、彼はまだ、ゲームをしようとはしていないと。
「勝つとか負けるとか、そんな話にすらなってないんだよ」
「では、マスターはあの男をゲーマーにしようとしているのでしょうか」
「当たり前だろ。何せあいつは、俺らに引き分けた男だぜ?」
当然だと、空に続いて白も拳を握る。
「今度こそ、ちゃんとぶっ飛ばす」
「……じゃなきゃ……『 』の、名が廃る」
今日この時までに、空も白も、『 』としても、何度となく八幡とゲームをしては勝って来た。
だが満たされない。
やるからには全力で、強敵と、惜しみなく。
ゲームで負けることはない。楽しくやらねばゲームじゃない。
そんな『 』にとって、比企谷八幡──否、ゲーマー『八』とやらねば気が済まないのだ。
「……マスター。それでは、マスターはあの男に、理由を求めるのですね?」
「理由?」
「あの男が、自らが動くに値する理由を。ゲーマーとして戦う理由を」
「まぁ、そういうことになるか」
無いならば、与えてしまえ、ホトトギス。
持ちえぬならこちらから用意しようと考えていた空は、少し考える。
……あの八が、与えられた理由で戦うのか、と。
「確かに、そうじゃなきゃつまんねぇな」
「……にぃ……?」
「八が自分で動く。じゃなきゃ、意味がない」
そう、それでは今までと同じなのだ。
誰かに与えられた理由で戦う彼はまだ、『本物』じゃない。
「承知しました」
ジブリールは、そっと目を閉じ頭を垂れる。
「ならば不肖ジブリール、全身全霊、全権全能力を持ってマスターの悲願の為、尽力いたします」
優雅な一礼を刊行した彼女は、指を鳴らすと防壁を消し、空間転移へと体制を移行する。
「先輩の件もありますので、一度エルキア本国に戻ります。必要の際はどうぞお呼びかけください」
空と白の許しを得、ジブリールはその場を後にした。
―other side out―
気がつけば本作品、投稿開始から一年が経過していました。
速いようであり遅いようであり、実感が持てない今日この頃です。
ここまでご愛読して下さった皆様、本当にありがとうございます。
120話くらいを目安に完結(今度こそ)するつもりですので、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
※120話とはあくまで目安であり、進み具合により大きく前後する場合があります。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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