ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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遅くなって申し訳ないっス!


なるべくして彼らは共闘する

 状況を整理しよう。

 俺は今大広間のド真ん中に座っていて、その三方向には一段分高く設置された席がある。

 俺から見て右側に、ご存知ゲーマー兄妹こと空と白。

 俺から見て正面に、巫女さん、ジブリール、いづなが並んで座っている。

 俺から見て左側は、現在空席。傲慢な方でも募集してるんですかね。

 空の宣言を受けて、ジブリールが裁判ゲームを進行する。

「それではこのゲームについて確認します。双方の勝利条件は『自らの正当性を証明する』こと。すなわち被告、比企谷八幡が罪人であるか否かを言い争って頂きます」

 質問をすることもない程に、当たり前すぎる程にこれは裁判のようだ。

「なお、正当性を判断する裁判官はここにいる三人──巫女、いづな、そしてこのジブリールが引き受けます。全ての議論が済んだ後、裁判官のみで別室にて話し合いを行い、裁判長の私から判決を下します」

「おい、それ俺勝てなくね?」

 明らかに現代日本のそれらと相違する事項に、俺は現段階裁判長へ異議を申し立てる。

 そりゃそうだ。ジブリールは空達の下僕的ポジションであり、命令には絶対服従なのである。どれだけ俺が正論をぶつけようと、空の一言で裁定がひっくり返るのではゲームにすらならない。

「ご安心下さい。ゲームの開始につき、マスターよりこの裁判を公正に行うよう言われています。とはいえ証拠はありませんね。申し訳ありませんがマスター、もう一度ご命令を頂けますでしょうか」

「ほいほい。ジブリール、この裁判を公正に行え」

「承知しました」

 ここまでされては文句は言えない。どころか、むしろ俺にとってはありがたいまである。

 ジブリールは盟約による絶対性によって公正に結論を出すと言うならば、空のペテンという屁理屈を無視して話を進められるかもしれない。

 かもしれないと言えば、空達が権限でさっきの命令を撤回するという可能性も捨てきれない。が、それは彼らの信念に反するだろう。

 そんな勝つだけの作業に、ゲーム性はない。つまりゲームとしての前提がなく、楽しくない。

「全体の流れを説明します。まず、原告からの起訴内容説明および証拠提示と、有罪時の要求。続いて被告側の反論、反証。その後は互いに証拠提示と反論反証を繰り返し──双方が論を言い尽くした際もしくは私が千日手であると判断した際に議論を終了し、裁判官による判定に移ります」

 お互いに提唱し合う、か。これは中々に難儀だ。

 分かっていたことだが、やはりこのゲームは始まりの時点から不利有利が確定している。

 全体を見渡しながら、ジブリールは問う。

「ここまでで何か質問はございますか?」

「あてから、ええ?」

 ジブリールの隣で、巫女さんが手を挙げた。

「何か?」

「いづなを含むあてらと、あんたでこの裁判の判決を決めるんやろ? プレイヤーの二人はともかく、あてらは何を根拠に公正な判断を下せばええん?」

 極論になるが、正しさなんてものは存在しない。

 この世には善も悪もない。あるのは解釈と価値観だけと、そんな言葉を残した偉人はいただろうか。

 そもそも存在しない正義を決めるには、大なり小なりこじつけでも、何らかの主軸を必要とする。この裁判ゲームは、その主軸についてまだ説明がないのだ。

「マスターの元いた国の言葉を借りましょう。裁判官は己の良心によって判定して下さい」

「良心、なぁ……。まぁええよ、分かったわ」

 ヒラヒラを手を振りながら応える巫女さん。適当な返事の割に、その内容への不審感を隠す気はないらしい。

 ジブリールの出した根本には、矛盾がある。いや、矛盾というほど大きな食い違いではないか。

 簡単に言えば、この裁判は裁判官の自分正義理論で決められる。よって不確かな正義は、理論上存在する各々の正義へと変換されている。

 ならば、聞かねばなるまい。

「ジブリール。この裁判に置ける裁判長の権限はどれくらいあるんだ?」

 ジブリールはさっき、裁判長の私から(・・・)判決を下します、と言った。

 これは、ジブリールが自らの正義のみで判断して結果を決める、ということにもなりかねない。

 もちろんルール上は他の二人とも話すことになっているが、どこまでを公正な進行と呼べるのか。その細かいルール設定が必要だ。

「裁判長の大きな役割は、議論の進行と裁判官の総意を発表すること。よって今ゲームの最大権力を持つ訳ではなく、あくまでも裁判官代表という立場になります」

 そこまで聞いて俺は頷く。たとえ裏ではこのルールが存在していようとも、やはりこの証言は必要だった。あとで証拠がないとも言われかねない。

「それでは次に、プレイヤーの賭け金に承諾を頂きます。賭け金は、『勝者が敗者に与えられる正当な罰』とします」

「どういうことだ?」

「よく分かんねー、です」

 いづなとほぼ同時に、俺は小首を傾げることになった。それは誰が得をする報酬なのか。そりゃ勝者か。

「このゲーム内で、被告側は原告側に何らかの罰が必要だと主張を受けます。その反論として、被告側は原告側に対して要求をすることとなるでしょう。その主張と要求こそ、このゲームに置ける勝者への報酬となります」

「マジか」

 これは想像以上にバヤいゲームだ。いやマジでヤバい。ほんとパない。流石というか、空達が考えたことはある。

 このゲームのミソは、『賭け金をゲーム中に変更ができる』ということになる。

 本来盟約によるゲームは、互いに賭け金がつり合うと判断しない限りはゲームができない。

 だが逆を言えば、そう判断してしまえばゲームができるということ。たとえゲーム開始前に賭け金を言っていなくても、である。

 そして互いに賭け金の変更をする権利がある以上、公平でもある。まぁ、俺は公平でなくとも逃げられないんだが。

「……空、白。聞いときたいんだが」

「なんだ〜い?」

「これは俺が仕掛けられたゲーム、だよな?」

「ああ」

「なら俺にゲームの決定権がある。そうだろ」

「確かにそうだな」

 そう言って、上段の二人はいつもの様に邪悪に笑う。

「──けどいいのか?」

「……しろたち、この条件でしか……ゲーム、しない……」

「まぁ、そうだろうと思ってはいたけどな」

 これが逃げられない理由である。

 空達はゲームをしない。よって俺のエルキア追放が確定する。俺が逃げれば、さらば人間らしい生活〜異世界編〜なのだ。それは嫌だ。餓死は本当に辛いからね?

「んで、どうする?」

 黒く目付きの悪い瞳を光らせながら、空は問う。

 少しだけその問に問いに対する答えを探し、見つけ出した。

「弁護士を呼べ。俺は裁判じゃ何も認めないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ゆーわけで。エルキア王国が誇る敏腕弁護士に来て頂きました〜。はい、拍手〜」

「……はく、しゅ〜……」

「来て頂きました〜、じゃ、ないですわあああぁぁぁっ!」

 空の気の抜けた声に、聞き慣れた絶叫が重なる。

 ジブリールの転移によって、俺の左上段に登場した少女は──言うまでもなく、ステファニー・ドーラであった。

「半月以上城を留守にしたかと思えば、いきなり呼び付けてハチを裁判にかけるっ!? なんですのっ!? バカなんですのっ!?」

 まだゲームは始まってもいないのに、うちの弁護人は早くも対戦側と火花を散らしている。あの子、戦闘民族かしら? 

「いやいや、ステフさんや。それについてはさっき説明したでしょ。ジブリールが」

「それで納得できたら苦労しませんわ。というか、どうしてこんな事に……」

 叫んだと思ったらいきなり頭を抱えるステフ。どうやら仕事が終わってり数時間の体にはダメージがデカかったらしい。

 情報量おかしいからな。俺も徹夜明けでいきなり知り合いが拉致られて裁判開くとかなったらまともに対応できる気がしない。……その前にそんな状況なる程知り合いがいないわ。

「気持ちは察するが、とにかく頼むわステフ。俺の未来の八割はお前に掛かっている」

「急に重すぎる責任を押し付けないで頂けますのっ!?」

 リアクションに忙しいステフに責任を押し付け、俺は正面の裁判長を見据える。

 このゲームの鍵はやはり彼女だろう。

 いづなは仕方ないが、ジブリールと巫女さんは裁判がどんなものかをかなり広い範囲でりかいしていはずだ。その場合、己の良心や正義で判決を下す際、彼女らは迷わない。

 そしてエルキアの図書館にてジブリールが俺に向けた目は、敵意に充ちたそれであった。

 公正な裁判か……。

 意味深に思える単語を飲み下し、仕方なしに腹を括る。

「それでは、これより盟約に誓って頂きます」

 よろしいでしょうか? とジブリールが全員に確認をとる。

 彼女の両隣にいる巫女さんといづなが頷き、空と白も首肯した。

 俺は左上段にいるステフを呼ぶ。

「なぁ、大丈夫だよな?」

「それは、……勝って、みせますの!」

「それは大丈夫じゃないってことだなおーけーよく分かった」

「だ、大丈夫ですわ。空達もまさか死刑なんて言わないはずですし」

「それ負けることが前提じゃねぇか」

「そ、それに……」

 まぁ、仕方ないことではあるか。

 ステフが今までに空達に勝った試しはない。というか、この空間にいる中でまず最強のプレイヤーが彼らだ。大丈夫な訳がない。俺としたことが愚問だった。

 すまんと一言かけようと思った矢先、ステフが拳を握りしめながら言う。

「今日はハチが付いていますわ!」

「え? あ、お、おう……」

「だからきっと、大丈夫ですわ」

「あー、うん、そうですね」

 そこで勝てるとか言えないあたり、彼女は正直者だ。俺も言えないけど、弄れた意味で。

「──よろしいでしょうか?」

「あ、おう。すまん」

「では──」

 そう言ってジブリールは右手を上げる。

 あの、めっちゃ声が冷たかったんですけど。その所為で反射的に謝っちゃったよ。こいつどんだけ俺の事嫌いなの? 

 広間にいる各々が手を上げ、ジブリールに合わせて宣言する。

 

「【盟約に誓って】」

 

 人生初の裁判が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 




なんかすんません。
ここ最近の更新が謝ってばかりだと思う作者です。
なんかもう忙しいです。夏休みってなんでしたっけ?忘れてしまいました。
遅い上にルール説明で終わってしまいました。
次回こそ、チーム常識人と『  』がやり合います!

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

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