どうも、江波界司です。
ホントに亀更新でした。
言い訳はしません。読んでいただけると幸いです。
裁判。この言葉に、あるいはこの存在に良いイメージを持つ者は少ないだろう。
いくらそれを生業としてる裁判官だろうと休みたい時は休みたいし、犯罪や揉め事の話を聞くことが楽しいとか言うわけがない。検事や弁護士にしても、裁判が起こることに喜ぶことはできない。それだけ犯罪や揉め事が起きている証拠だからな。
そうなると、これはもう裁判という方式自体に問題があるのではないか。
そもそも人が人を裁くことに疑問がある。裁くのは俺のスタンドだ。裁くのかよ。
人はあくまでも人であり、どれだけ機械的に振る舞おうと限界がある。我が国日本でも行っている裁判だが、これらを取り仕切る裁判官には法を守る番人としての責務が求められている。
が、しかし。そうして法を厳守すべき裁判官ですら、人なのだ。感情もあれば間違いもある。そんな彼らに、一個人の未来すら委ねようというのだ。
故に、俺は裁判という方式で人の善悪を測ろうとすること自体を否定したい。
当然だ。何せ俺史上、裁判をして良い結果になった様を見たことがない。
あれは小学生の時。学級裁判という偽名を得たあの帰りの会は、さながら一人を生贄に正義を召喚する儀式のようだった。壇上に差し出された少年は、「しゃーざーい!」「しゃーざーい!」と繰り返される周囲の掛け声に泣きながら、頭を下げた。
あれ以来、泣いたことはない。
誓ったからには、我々はゲームをしなければならない。
「では、原告側より被告側の罪状と求める刑罰の提示をお願いします」
ゲームの開始とともに、ジブリールは口を開く。
「ほいほーい」
冷たい声とは対称的に、空は軽々しく口にする。
「比企谷八幡は──悪である」
それがお前の罪だ、と。
さてさてさーて。
何の因果だ。いつしか俺が職員室に呼び出される原因となった作文の出だしに酷似したそれは、俺の未来を変えかねない裁判の出だしとなった。
「す、ストレートですわね」
「あのステフさん?それ俺が悪だって認めちゃってない?」
頼りない弁護士に肩を落としながらも、早速俺は今まで得た情報を咀嚼する。
『 』の主張。それは『比企谷八幡=悪』というかなりぶっ飛んだもの。この場合イコールが数式上正しいのかは知らん。数学って何だ、知らん。
この主張は厄介な面を持っている。それは、悪という価値観の相違だ。
「原告側『 』、証拠の提示と説明を」
「まず、比企谷八幡がここにいること。それが俺達の第一の主張だ」
そう言い、空はクルクルと人差し指を宙で回す。コクリと頷いたジブリールは、当然のようにワープホールみたいな穴から数枚の紙を取り出した。
「それは現在、ここにいる全員が共通して把握している八の情報だ」
裁判長の計らいか、ステフや俺にも同様の紙が届けられた。
表記されているのは基本的な内容だった。名前、性別、歳、推定身長などなど。
「で、これがなんの証拠になるんだよ」
「もちろん、八が悪だって証明のだよお〜」
文句が来ると分かっていたように、空は俺に目を向けていた。
「……まず、この資料……すべて、事前にステフを含む、全員に確認して……つくった、もの」
その全員の中に俺は入ってないんですかそうですか。
ジブリールによって渡された資料に、黙々と目を通す。あ、これは俺が入ってなくて当然だわ。
「で、この資料から分かることは一つ。八の目的が不明であるということだ」
「…………」
いや、確かに、この資料に比企谷八幡の目的なんて項目は無い。けどそれは自己紹介カードにも書かない類の項目だろ。今時小一でも書かないから。
俺の無言の抵抗を無視し、空は話を進める。
「巫女さん。正直に答えて欲しい」
「なんや?」
「巫女さんは八に目的を聞いた。それも答えやすいように誘導や交換条件を取り付けて」
「否定はせんへんよ。なんや人聞きが悪いねんけど」
「……そのとき……はちは、目的を言った……?」
ひらりと、一瞬だけ巫女さんと目が合った。彼女が何を思ったのかは、もちろん分からない。
細く艶やかな瞳を俺から離して、彼女は白の問いに答える。
「……いんや、言うてない」
彼女の答えは嘘ではない。確かに俺は、質問には答えたが目的自体は言っていない。
この問答はあまりにもフェアにアンフェアだ。なぜならこの答えは、空達の主張に大きな説得力を生んでしまう。
「八は巫女さんに目的を言わなかった。エルキアと東部連合の信頼関係にヒビが入る可能性があったにも関わらずだ」
そう、これはエルキアおよび東部連合から俺に対する不信性を示してしまうのだ。
「い、異議ありですわ」
一撃目から劣勢に立たされ、それでもステフは抗議する。
「目的を教えないことが悪とは言えませんわ。そもそもソラ達だって目的も言わずに行動してばかりですの」
「ステフ弁護士。論点はそこじゃあないのだよ~」
反論虚しく、空の挑発に白が続く。
「……論点は、ひとつ……はちが、ここにいる……その理由を、言わない、こと……」
これはステフのミスだ。いや、訴えること、打って出ることに関して言えば間違いじゃない。だが、それだけでは空達の策を崩せない。
「目的不明で、非協力的。東部連合とのゲームにこそ参加したが、それもかなり強引に俺達が引きずり込んだだけ。つまりだ」
「被告……はちは……エルキア、および東部連合にとって……」
「——極めて大きく、敵対的な可能性をもった存在である」
原告側、空と白はそう結論を突き付けた。
まぁ、そうだな。うん、これは無理だ。
何せこれは可能性の話であり、否定しようにも材料が無い。もしもを突き詰めてしまえば、俺でなくとも反論はできないだろう。
だが、ここで引き下がることはできない。
このゲームは、裁判官である三人にどれだけアピールできるかの勝負だ。
ならば、正しくある必要はない。
「異議ありだ、裁判長」
「被告の発言を許可します」
本来こういうことを言うのはステフの役目なのだが、やはりここは俺の領分だ。
理屈ではなく、納得した気になれる屁理屈の刺し合いである。
「敵対的な可能性って言ったな。それはつまり、俺がエルキアや東部連合を裏切る可能性がある、と。そういうことでいいんだよな?」
「ああ、そうだが?」
「それは逆説的に、可能性が高いというだけってことでもある。可能性なんてのは誰にでも言えることだろ。俺だけじゃなくお前ら自身、ステフ、巫女さんやいづなにジブリール。ここにいる全員が、何かしらの行動をとる可能性はあるんだ。そんな中で、可能性が高いとかいう曖昧なものだけで俺を悪だとは断じれないんじゃないか?」
「はっ、よくしゃべるな~、八~」
「そらしゃべるだろ」
何もいいことはなかったけど。むしろ良くないことしか起こってないまである。
というか、この期に及んで無言を貫くやつは勇者ではなく愚者だ。自分の命が掛かってるんだから必死にもなる。
この反論は想定していたのだろう。空は悠々と応える。
「まぁ確かに、可能性ってのは否定も肯定もしにくい話ではある。が、俺たちの主張はこれからだ。まずはこの、被告側が否定しきれなかったということを覚えておいてほしい」
生粋の検事の如く、あるいは詐欺師の如くそんなことを言う。
そう、このやり取りはこちらの劣勢だ。俺達が可能性を否定しきれなかったということは、いくら屁理屈をこじつけようとも残る事実なのだ。
「じゃあ、早く本題に入ってほしいんだが」
「慌てんなよ。逃げ道を封じてくのは勝負の基本だろ?」
「では、原告側は続きをお願いします」
ジブリールが促し、今度は白が口を開く。
「……第二の、主張……はちが、異世界から来た……という、事実について」
彼女の口からは、また突拍子もなく、そしてどうしようもない話題が振られた。
「言いたいことは分かるが、まずは聞いてもらおう。八、俺の質問に答えてほしい」
反論よりも先に、空は俺に行動の制限を要求した。この一言のせいで、俺は応答以外の初動を封じられたとも言えるのだ。
「質問を許可します」
「どーも、裁判長。んじゃ、質問。──八はこの世界に来るまでは、普通に学生をしていた。合ってるか?」
「……ああ」
質問の真意を考え、読み取れず、俺は正直に肯定する。
かなり注釈を入れればプロのぼっちとして反リア充のカリスマ的ポジションを確立してはいたが、これって普通だよね?爆発すべきだよね?ソロモンでも落とそうかしら。
「八は普通に学生をしていた。前にいた世界には少なからず知り合いや家族がおり、順風満帆とはいかずともまともに生活ができていた。だな?」
「…………」
ここは答えない。この僅かな言い換えを肯定すれば、必ず後に響いてしまう。ダメージを最小限にするために、俺は沈黙を選択した。沈黙こそ答えだ。
「逆説的に、八はそれら全てを裏切った上でここにいるとも言える。ここまで言えば、分かるだろ。俺達が何を主張しているのかをさ」
あぁ、分かる。俺だけでなく、ここにいる全員がそう答えるだろう。
これは告発だ。それも、間接的な結論から導き出される架空の罪に対するもの。目の前にいる俺ではない、形のない存在に対するもので。
彼らは俺を断罪しようとしている。それは今ではなく、過去によるもの。
「被告、比企谷八幡は——裏切りの前科がある、と」
ジブリールが明言することで、
確定的だ。彼らは今、過去の俺を裁こうとしているのだ。
だとしたら、彼らの目的は……。
俺は否定することができず、口を結ぶ。簡易裁判所には静寂が広がり、妙な冷たさを感じた。
「い、異議あり、ですわ」
その静けさを切り裂くのは、小さくも力強い否定の声だった。
「ハチがここに来るまでに、何を思い、何を考え、何を成して来たのかは関係ありませんわ。仮にハチが過去に誰かを裏切ったことがあるとしても、それは過去の話でしかないですわ」
ありがたい援護。過去の俺を肯定する言葉。
しかし俺は、そんなステフの言葉を受け入れることはできなかった。
俺は過去の自分を否定しない。したくない。それは現状に対するアンチテーゼであり、現在の自分を否定する行為だ。
過去があるからこそ現在があるのだ。だからこそ、過去の自分を否定してはいけない。そういった間違いや失態も、行ったのは自分自身なのだ。
間違うことは間違いではなく、真に間違いなのはその間違った自分を否定する行為だ。
間違った。ならばその結果から学び、反芻し、反映させるべきだ。例えできなくとも、そうしようとした意志は偽りなく過去を受け止めようとした証拠だ。
過去の自分を肯定できずに、今の自分が肯定できるはずがない。
俺はそう思う。俺は、過去の自分を受け入れる。過去を肯定するのだ。
だから、俺は彼女の言葉を否定する。
「……いや、ステフ。それは違う」
まさか起こるはずのない味方からの反論に、ステフは驚愕を隠せないらしい。まぁ気持ちは分かる。ごめんね。
ステフの言い分は過去の俺を肯定している。
だが違うのだ。
関係ないわけがない。過去の成功も失敗も、全ては自分の行動に対する結果だ。それすらを否定して得た自己肯定は、ただの自己満足に成り下がる。そんなものに、価値はない。
俺はあの部屋を、あの関係を、彼女らを裏切ったのかもしれない。もしかしたら、最愛の妹すらも。
これは仮定だ。なんの確証もないただの仮初の自説だ。そして、この仮説に答えは無い。証明しようにも、そもそもの条件が不足してしまっている。
だからではないが、俺はそうした自分を否定したくない。俺の過去の選択を、判断を、否定したくない。
「俺が過去に何をしたか。何を考え、何を成して来たか。それは重要なことだ。じゃなきゃ、ここにいる俺は誰でもない」
これはこの裁判において自らを不利にする言葉だ。だが言わなければならない。
ここを折ってしまったら、折れてしまったら、俺は多分何も得られない。何も救えない気がするのだ。
俺が俺ではなくなる。それは避けなければならない。でなければ、俺は何のためにこの世界に来たのだろうか。
「それは俺達の主張を肯定するってことでいいのかい、八くん?」
「肯定はしてない。お前らの主張とは論点が違うだろ」
「なんで弁護されているはずのハチと論争しそうになっているんですの……」
「ともかく、原告側の主張は把握しました。お二人もよろしいでしょうか?」
ジブリールが会話を切り、彼女の左右にいる巫女さんといづなに確認をとる。
「かまへんよ」
「もんだいねー、です」
そんな返答を受け、ジブリールの目は彼女から向かって左側にいる空と白に向けられた。
「では、原告側は被告が受けるべきと考える正当な罰を提示して下さい」
「……んっ……原告、くうはくは……被告、比企谷八幡に対し……」
「俺達の許可なくゲームをすることを禁じ、俺達のゲーム参加に関する命令の絶対順守すること──を要求する」
ここが奇妙な冒険を繰り広げる世界なら、後ろの大きくドヤァと文字が浮かびそうなほど、ゲーマー兄妹はどや顔で告げた。
この盤上の世界でゲームの自由性を禁止するという、事実上の死刑宣告を。
一応、山詰みだったものが片付きました。
まだまだ忙しいのは変わりないですが、今度こそ早めの更新を・・・。
感想貰えると励みになります(強欲)。
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