長めです。
そして恐らく皆さまがお待ちかねの回でしょう。
行動には必ず原点がある。原点、オリジンってやつさ。
その原点に種類はあれど、その本質は一つだ。
感情である。
感情が全てのトリガーとなり、そこから思考や心理が働くのだ。
この法則に従うならば、今こうして始まったゲームにもまた、思考や心理やがあり、感情がある。
対戦相手、
まぁ、そんなものが分かるなら苦労はしない。俺が分かるのは精々、感情を理解するのがどれだけ難しいかということくらいだ。
ないものねだりをしても仕方がない。だから俺がするのは、感情ではなく思考や心理を読むこと。それ以外に、俺たちが勝つ術はない。
このゲームの目的、それを達成しようとするときの考え方。これが唯一、彼らに付け入る隙だ。
目的も目標も、理論も方法論もないままゲームをするほど、彼らはバカじゃない。
このゲームには必ず、彼らの感情からくる目的があり、必勝法がある。
そうでなければ、彼らがゲームを仕掛けるはずがない。
罪を償えと原告側から要求されたのは、この世界での事実上の奴隷化。
もちろん俺らは抵抗する。拳、ではなく言葉で。
差し当たっては反論のための材料がいる。こちらと違い、原告側は準備を整えた上でここにいるのだ。苦し紛れのその場しのぎでは相手にならないし歯が立たない。
だから、ここは待つ。あるかは分からないが、ミスや付け入る隙を待とう。
「原告側。その罰が正当である根拠をお話しください」
ジブリールがそう促す。
ここで言う正当な理由とは、俺の罪状に対してのもの。つまり、悪である比企谷八幡に何故この要求が必要か、という話だ。
「根拠はもちろん、八が裏切るリスクがあるからだ。この要求を呑むなら、今後エルキアや東部連合の大敵になる確率はかなり下がる」
これは理解できる。むしろ分かりやすすぎて逆に怖い。あれだな、常識問題過ぎて深読みしたら間違っちゃうみたいな。
俺があやしいから、先に選択肢を削っておく。理にかなってるし、内容全体を鑑みれば、比企谷八幡というカードをローリスクで使い放題ってことだ。なんだこのブラック契約。作業が簡単でもなければアットホームさも皆無なんですけど。訴えてやる、第三者委員会に。
「あてから質問なんやけど」
いつから挙手性になったのか分からないが、そう言って手を挙げたのは巫女さん。
「個人的なゲームの禁止と、こっちが指定したゲームへの強制参加。これでリスクがなくなるゆうんは、ちょっとあまくないけ?」
あまくないな、この人。だから俺もこの要求はローリスクに云々と表現した。
巫女さんが指摘したのは、ゲーム外の行動についてだろう。
「これやと、他国への干渉はできるゆうことやろ?なら情報を渡すでもなんでも、反逆の手段はあるゆことになる」
そう、裏切りにしても色々とやり方はある。
ゲームに参加できないのなら別のプレイヤーに代行させればいいし、この世界でも情報と言うのは大きな武器なのだ。
「それに、こんな裁判まで開いた。むしろ裏切りの理由にすらなりかねんよ?」
そこまで話し終えた巫女さんは俺に一瞥し、空へと視線を戻す。
可能性の話をすればきりがないと分かっていながらも、彼女は空に問うた。それに対し空は、いたっていつも通りである。
「そりゃそうだ。八が裏切るとなったらどんな手段でも使うだろうさ。けど、その時にゲームができない。これだけでも十分な収穫だ。行動は大きく制限される」
「……それに……どうしても必要、なら……ゲームで、負かせば、いい……」
空達の要求において最も重い罰は、ゲームの禁止ではなくゲームへの強制参加を約束させることだ。
白が言った通り、今後更に条件を付けて行動を制限したいのならゲームで負かして追加条項を足すだけでいい。効率的というか、ここまでくると悪魔的だ。人権とかないのかよこの世界。
二人の説明に納得したらしく、巫女さんは「ほうか」と一言。それ以上聞く気はないらしい。
「それでは、被告側。原告側から出た主張に対しての反論をどうぞ」
裁判長に促され、俺とステフは互いに目を合わせる。
場所が離れているために密談もできなかった。これもこのゲームで俺たちが不利な部分だ。相談なしでは作戦も立てにくい。
悲観的に状況を見た俺に対し、ステフは一度大きく頷く。何か策があるらしい。
ならばここは弁護士に頼もう。俺は俺で、できることから。
「反論しますわ。まず、ハチが異世界からここに来たことについて。ソラとシロは、ここに来たことは元居た世界にいる人達を裏切る行為だと言いましたわ。けれど、それが必ずしも悪であるとは言えないはずですの」
さっきは俺が出鼻を挫いてしまったが、そんなこともお構いなしに彼女は俺の過去の話をしようとしている。
これは悪くない手かもしれない。踏み込んでほしくない部分がある俺としては今すぐハチマンストップをかけたいところだが。
比企谷八幡という一個人に対して、
つまりこの戦術なら、ステフは『 』と同等の立場で論争ができる。
「ハチはソラ達がいない間は行政の手伝いもしてくれましたし、東部連合とのゲームもハチがいなかったらどうなっていたか分からないですわ。それにハチがエルキアを裏切るそもそもその理由がないじゃないですの」
さっきの空達の主張には、エルキアと粒連合にとって敵対する可能性とあった。ステフはそのエルキアで事実上の王様権限を持っている。ならば彼女の思いはエルキア王国の思いとも言える。
個人ではなく王国から見た比企谷八幡の活躍。なんか過大評価が多分にしてあるが、少なくとも反論するには問題ない内容だ。
「八の功績。それは否定できない事実だ。ステフが嘘を吐くわけないし、行政に関しちゃ、じいさんに確認すれば裏もとれるだろ」
けど、と空は続ける。
「八に裏切る理由がない。残念だが、それは間違いだ」
「どういうことですの……?」
「何故なら八は、俺達『 』と相いれない存在。もっと言えば、最初から敵対するはすべき関係なんだよ」
ここが恐らく、このゲームの山場だ。勝敗を決める分水嶺だ。
今までの主張はあくまでも、俺の逃げ場を塞ぐための下準備。何せここまでの話は、比企谷八幡が悪であるという具体的な説明になってなかったからな。
だからここだ。俺を完封しつつ裁判官に正当性を感じさせられることのできる確かな証拠提示。
俺とステフ、裁判官の三人も静かに続きを待つ。
張り詰め始めた空気感の中で、空は口を開いた。
「何故なら──比企谷八幡は、リア充だからだ」
世界が、静止した。
……。
…………は?
「……いや、ちょっと待て、待ち過ぎろ」
もう反論どうこうじゃなかった。
今この重度のシスコン廃人童貞ゲーマーはなんと言った。
俺が、リア充、だと……?
「お前ケンカ売ってのか」
MAJI☆GIRE寸前の俺は、怒気を孕んだ声でそう問うた。
「いやいや、ケンカ売ってのはそっちだろ、この鈍感系青春学園ラブコメ主人公が」
「いやいやいや、お前ほんと何言ってんの?」
誰がラブコメ主人公だ。俺は難聴でもヤクザの息子でもラッキースケベの貴公子でもない。
俺はプロのぼっちだぞ。そんな俺を、あろうことかリア充(笑)と呼ぶ?
「本気で言ってんのかよ」
「俺たちは最初からマジだぜ?」
おーけー、ならば
「人をリア充(笑)呼ばわりするってことは、証拠があるんだろうな」
「もちろんだ。ジブリール、以前調べてもらったやつのレポート呼んでくれ」
「承知しました」
証拠品提示ということで、ジブリールはいつの間に用意したか分からない紙に目を通しながら報告する。
「比企谷八幡は盤上の世界ディスボードに来る以前は、学生として高等学校に通っていました。その際彼は、現役
「待て、待てよ、待って頂けません?」
なんだその犯罪者臭のすごいプロフィール紹介。放課後とか奉仕とか現役JKとか如何わしさを醸し出すなよ。津田は、ツッコミの津田はぁ!?
というか、最後のは俺も現役男子高校生だから別に問題はなくないか?なんなら現役ジャパニーズ高校生で俺もJKなんですけど。JKな感じだしぃ、みたいな?
「どこか事実と違う部分があったか?」
「事実だが、表現に悪意があり過ぎるだろ。間違っていないが大間違いだ」
恐らく空編集長の加工が加えられた文だろう。こいつほんといい性格してんな。どんだけリア充嫌いなんだよ。
「否定はしないんだな」
「否定してるから。俺リア充じゃないから」
「ジブリールの読んだ文が仮に誇張した表現だったとしても、八が放課後の教室で女子二人と何かしらの活動をしてたのは事実だろ」
「さも何か意味がある様に言うなよ。んなこと言い始めたら登校するだけで意味深ってことになるわ」
「登校するのが普通ですか~。流石、ひきこもりの俺たちとは違いますわ~」
「効率を考えたらそうなっただけだ。お前らはゲームの方が重要だって考えただけで、別に俺が特別ってわけじゃあない。というかそのことと俺がリア充云々は関係ないだろ」
「あるさ。俺達ゲーマーやひきこもりとは一線を引いた存在。それは交わることのない者同士ってことでもある」
「それの数式じゃお前がここにいる全員と手を組めることがおかしいってことになるぞ」
「仮に交わらない関係だったとしても、ここにいるメンツとは必ずゲームをしてる。だからこそ信頼でる部分があるんだ。その点で言えば、まだまともに戦ってもないのに友好的なハチは裏切りの可能性が高いよなぁ?」
「ならなんで俺だけが例外になる。ステフだってスペックだけなら十分リア充の類だろ」
「ステフに関してはまぁ言いたいこともあるが、今はいい。俺が気に入らないのは、なんでそんな普通の男子高校生してたやつがここにいるんだってことだ」
「気に入らないとか言っちゃったよ。つか、お前最初からそれが言いたかっただけだろ」
「当たり前だろ!何が奉仕部だ、同級生と毎日いちゃこらいちゃこらと……爆発しろ、いいや限界だ、押すね!」
「ただの八つ当たりじゃねぇか!どんだけ拗らせてんだよ。そもそもいちゃこらとかしてねぇし。部室での俺の扱いとかほとんど部活の備品だぞ」
「それは何か、そういう趣味的なあれか!?」
「ちげーよ、ふざけんな。人を特殊性癖持ちみたいに言うんじゃねぇよ」
「はっ、そんな扱い受けてて毎日部室行くとか、むしろそういう性格じゃねぇかと疑いたくもなるわ」
「お前そろそろほんとにやめとけよ。つーか、もう俺が悪だのなんだのと関係ないだろこれ」
「あるわ!リア充は悪だろ。爆ぜろリア充滅びろパリピ、消えてなくなれ不純異性交遊っ!」
「一周回って風紀委員みたいになってんぞ。いや、だからその括りに俺は入んないんだっつの」
ジャッジメントですの!あれもなかなかに過激だよな。……総武校に風紀委員てあったのかな。記憶にねぇ。
「あの、ジブリール?これ、どうしますの……?」
「なんや不毛な話になってきとるね。もう空はんに至っては私怨が見えとるし……」
「りあじゅーってなんだ、です?」
「双方、静粛にして下さい!」
ジブリールの一声で、俺と空は論争をやめる。裁判長の言うことは聞かないとね。
「この主張に対する答えは一度先送りに致します。原告側、または被告側に他の主張があれば挙手してください」
なんか学級裁判みたくなってきたな。まぁ、挙手性なら何かと分かりやすいしいいけど。
視線を向けると、やはりというか、表情を見るに原告側にはまだまだ余裕がありそうだ。ブラフという可能性は低いだろう。あいつらの手札がこれだけとは考えにくいからな。
「主張、というより聞きたいんですけれど」
「弁護人、発言を許可します」
やや遠慮気味に手を挙げたステフ。まぁ、難しいよね俺の弁護とか。俺だったら真っ先に諦めるまである。
「ソラはリア充は悪と言いましたけれど、結局のところそれはどういうことなんですの?」
俺もどちらかと言えば空と同意見ですけど、その根拠を説明しろと?それはちょっと酷じゃないですかね。
ステフの聞きたいことと言うのは、どうやらそうではないらしい。
前に空はステフとのゲームにわざと負けてリア充になりたいとか言ったらしく、その時リア充は常識人の遥か上位に君臨する存在と定義したそうだ。こいつ何やってんだか……。
まさかの問いに、流石の空も言葉を詰まらせた。ナイス、ステフ!流石エルキア一の敏腕弁護士!まぁエルキアに弁護士って職業は存在しないだろうけど。
「……ここでの悪、は……くうはくと敵対する、という意味……にぃの説明は、間違って、ない……」
が、兄にできないことは妹が補うのが彼らのプレースタイル。白は完璧なカウンターでステフを切り捨てた。
「他にございますか?」
残念ながらその先に答えることはできない。まじでもう手札がないんすわ。
唯一の救いと言えば、まだ被告側である俺たちの要求を言っていない点だ。
ステフが狙っているのかは分からんが、このカードはまだ切れない。
このゲームの勝利条件は、裁判官を納得させて要求を通すことだ。
だからこそ、出した要求が正当であると思える時でなければならない。
このゲームは俺たちが圧倒的に不利だ。まず準備の段階から違うし、主導権は常にあちら側にある。
俺たちのアタックチャンスであるこのカードは、まだ切れない。
しかし、かといってここでなんの主張も出せなければ負けが確定する。
何か、何かないか……考えろ。
空達の目的はなんだ?俺にゲームの参加権を奪うこと。
それは何故?俺が裏切る可能性があるから。
確かに納得できる。できるが、何かが違う。違う気がする。
この違和感の正体はなんだ?『 』らしくない気がする。
何処がだ?方法か。いや、ゲームで決めようとするならそれはむしろあいつらの正攻法だろ。
……だめだ、答えが出ない。答えを出すには、俺は彼らを知らなすぎる。
どうする。情報を集めようにも、時間も手段もない。
それに、ここで負ければ俺は……俺はこの世界に来た意味すら失ってしまう。
それだけは避けなければならない。
しかし、どうする。
辺りを見渡すが。景色は変わらない。ここには裁判官の三人と、原告の二人と、弁護士しかいない。
弁護士、いるじゃん。
「ジブリール」
「何か?」
「弁護人と少し話したい。数分だけ席を外してもいいか?」
ジブリールは一度黙考し、それから隣にいる巫女さんに視線を向けた。
「別に構わんやろ。準備時間がなかったゆうことも考えたら、それくらいあった方が公正やないの」
「いづなもおんなじ意見、です」
同じように視線を向けられたいづなも賛成し、裁判長は結論を出す。
「では、五分ほど別室での相談時間を設けます。音声は周囲に聞こえないように致しますので、ご安心ください」
時間になったら再び知らせると言い、俺とステフはジブリールの空間転移で場所を移動した。
何もない和室で、俺はステフに問う。
「空達が俺について、何か言ってなかったか?最近のことじゃなくても」
あまり時間はない。
すぐに本題に入ったわけだが、その辺はステフも覚悟していてくれたようだ。すぐにいくつか心当たりを話し始めた。
「これは、あまり言いたくないんですけれど。ソラはわたくしにハチを調べるように言っていましたわ。といっても、報告は何もできていないんですけれど」
「それはいつ頃からだ?」
「えっと、巫女様がハチを呼んだ日からだったはずですわ」
ということはつい最近だ。これじゃあ調べて今やっているゲームに生かすにはあまりに短い。それにステフは報告もまともにできていないとか、意味あったのかこれ?。
「他にはないか?」
「他に……といっても、ソラもシロもあまり話してくれないんですのよね。初めてハチと会ったときも、なんにも言わずに城に招いたわけですし」
確かに、それもそうだ。
いくらステフの方が俺よりも空達と付き合いが長いと言っても、それが詳しいとはならない。
「俺を城に招いたとき、何も聞かなかったのか?」
「聞きはしたんですけれど、はぐらかされた感じでしたわ」
『 』とジブリールの初対面にして初戦のゲームの後、俺もまたエルキア城の住人なった。
その日の内にステフは俺を受け入れた理由を空に聞いたらしい。
その時の空の答えを聞き、俺は違和感の正体に思い当たった。
それは、目的の違いだ。
俺が想定していた目的と『 』の性格が一致しなかった。だが、ステフの話通りなら新しい可能性が生まれる。
これで分かった、あいつらの真の狙い。
ならば次は方法だ。
最初から引き分け狙いなら、俺たちの勝ちもなくはない。
「時間です。転移しますので少々お待ち下さい」
瞬間的に現われたジブリールに大したリアクションもしないまま、景色は再び裁判所となった大広間に変わった。
目的は恐らくだが分かった。
ならあとは、勝つだけだ。
俺に吟味するような眼を向ける空。表情でバレたか?
まぁいい、読まれているとしても関係はそんなにない。
ここからだ。今考えた即席の策だが、勝率は悪くないはず。
「では、被告側。何か主張はありますか?」
「ああ、発言させてくれ」
「許可します」
さあ、反撃開始だ。
感想、ご愛読ありがとうございます。
かなり久しぶりの更新でこれだけ読んで頂けてうれしいです。
おかげ様でモチベーションがプルスウルトラしました。
感想、誤字報告お待ちしております。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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