ついに完結しましたね。
たまに思うことがある。
ある分野において秀で、もはや誰にも負けない程に一つを極めた者は、その先に何を求めるのだろうか。
どこかの格闘家は感謝の境地に至って音速を超えたらしいが、今は置いておこう。
極めたというのならば当然、その者にかなう敵はいない。本当の意味で頂点に君臨することだ。
そして思う。頂点とは常に孤独なのだと。
俺のような凡人と何かを極めた超人は、決して同じ景色を見ることはないだろう。立ち位置も立ち振る舞いも、立つ意味すらも違うのだから。
誰一人として登れぬ山を登った時、頂上で味わうのは達成感や優越感だろう。だがいつか、きっと感じてしまうのだ。考えてしまうのだ。
ここには、俺しかいないのだと。たった一人、たった独りぼっちの自分だけなのだと。
誰にも共感もされず、誰かと並ぶこともできず、ただ敬われ称えられ神格化されるだけ。
そんな限界の先にある袋小路を見た時、人は何を望むのだろうか。
これは俺の想像でしかない。
本当はもっと、うれしいことや楽しいことを感じた上でその世界のトップに君臨しているのかもしれない。
だが俺は、俺にはそんな輝かしい成果と実力に彩られた者達が、時折哀れに見えてしまう。
誰一人として隣に立ってはもらえず、共感を得られず、無敵であり続ける。
それはまるで、最底辺にいるぼっちと変わらないではないか。
だからではないが、俺は空の言葉を忘れられずにいる。
凡人の役目は、天才を理解してやること。
彼は理解するために凡人をやめた。凡人にすら及ばない自分になった。
そうまでして彼は、彼らは頂点に上り詰めた。
ならば、その先に彼らが望むものはなんだろうか。
裁判もいよいよ大詰めだ。
この俺たちの主張がおそらく最後の反撃のチャンスだろう。
目的はある。手段も考えた。集められるだけの情報と条件があり、勝機がある。
「確認するが、空達の要求は俺が敵対するリスクヘッジとしての対策ってことでいいんだよな?」
彼らの主張は、『悪である比企谷八幡はエルキアと東部連合を裏切る可能性があり、その対策としてゲームに関する自由を一部禁止する』というもの。たとえ真意がそうでなかったとしても、いままでの口論の中ではそういう結論に至る。
空と白は静かに首肯した。
「なら俺は要求する。俺のエルキアでの生活を保障しろ。そうすれば、テトを倒す目的に関してお前らに協力する」
全員が黙った。見ればステフすらこいつ何言ってんの?と目で言っている。まぁ、だよな。
これはもう裁判の意を成していない。だがそれでいいのだ。
もとより、民事でも刑事でも魔女でも極東軍事でもないのだ。最初からこの裁判は間違っていたのだから。
だから、いっその事その原型すらぶち壊す。格ゲーで勝てないなら格ゲーによく似たストラテジーで挑めば良いのだ。
「引き分けで手を打たないか、っていかにも負け確なセリフだけどな」
「……はち……それだと、疑い、晴れない……」
空と白、二人は大した動揺も見せずに言う。
「かもな。んで、何か問題があるか?」
ならば俺は問い直そう。この裁判に、裁判官に。
「俺が怪しい。それは分かる。だが、だからって面倒なゲーム権の剥奪とかする必要はないだろ。現に白が言ってる。必要ならゲームで負かせばいいってな」
これには誰も、言った本人の白も反論できない。
「お前らは俺にゲームで勝てる自信がある。だからお前らは、ゲーム外での裏切りをなくそうとしたわけだ」
ここまでは誰でもわかることだろう。
空白に敗北はない。しかしそれはゲームでの話であり、それ以外の分野では負け越しているニート兄妹だ。
目標達成の途中で、思わぬ揚げ足取りに足を掬われては居た堪れないだろう。
「そこで、俺の提案だ。俺は安住の地を貰う代わりに、お前らが打倒神様を掲げる限り裏切らない。もちろん盟約に誓ってな。これでお互いにwin-winってやつだ。誰も苦しまなくて済む」
ピクリ、といづなの耳が動いた。俺の言葉の何かに反応してくれたらしいが、よくわかんねぇな。まぁいいや。
「お互いにマイナスは少なく、それどころか盟約による強固な契約ができる、か。悪くないな」
「そこで、だが断るってのはなしだぞ」
なんとなく先読みしてみた。
空はえ~、と肩を落とす。
「ま、まぁ、そんな天丼はする気ないから」
「ほんとかよ」
めっちゃ溜め息ついてるけど。
「八の要求、これが互いにとって有益なのは認める。けどこれは交換条件だ。八は自分自身に罰を与える代わりにこっちの要求の軽減を求めてるってことになる」
その言い分は間違ってない。この裁判は勝者にこそ要求の権利が与えられる。だからこそ、相手の要求を呑むことは敗北宣言であり、俺の要求は引換条件と言える。
「それはつまり、こっちの主張が正しいって認めるわけだ」
間違いではないが、これには頷けない。
「お前らはいくつか主張したが、その全てを肯定するわけじゃない。ただ、お前らにとって俺がリスクのある存在だってことだけは認めるってだけだ」
「んじゃ、情状酌量の余地ありって結論でいいわけね」
「なんか引っ掛かる言い方するなおい」
「別に~、なにもないっすよ~?」
すげぇ、人ってここまでうさん臭くしゃべれるのか。
もう怪しいとかのレベルじゃない。妖怪の域だろ。時計にでも入るのかしら。俺の場合は妖怪ボッチだな。言ってて悲しくなって来た。
とにかく、と頭を切り替えて俺は再度二人に目を向ける。
「お前らの目的と、俺のリスク。それらを鑑みての最高率の手段を提示しただけだ。つか、もう裁判とか形式的なものはどうでも良くないか?」
「いや、それは無理。ルールは絶対であるべきだ。じゃねぇとゲームとしての定義が崩れる」
「まぁ、そうか。んじゃ、形の上では引き分けってことで」
「いや、それは無理」
「その天丼はするのかよ……」
こいつらは腐っても捻くれてもゲーマーだ。その辺のプライドは捨てられないのだろう。
とはいえ、それはあくまでも彼らの話だ。この裁判の勝敗は裁判官によって決められる。
勝ちも負けも引き分けも、彼女ら次第なのだ。
「ってことで、こっちの要求は以上だ。裁判長」
「では、両者追加の主張はありますでしょうか?」
俺も空達もここで黙る。
追加が無かったのは予想外の幸運だった。棚餅だな。
「承知致しました。それではこれより、裁判官のみでの会議を行います。会議が終わり次第判決を言い渡しますので、それまではどうぞ自由にお過ごし下さい」
そういって、上段にいた三人はどこかへと移動して行った。
あとは祈るのみか……。
パチパチと、乾いた拍手をする二人がいた。『 』である。
「いや~、いい勝負だったぜ、八」
「……ん……はち、ぐっちょぶ……っ」
「何がくっじょぶだよ。俺は働く気はねぇんだ」
「文句はそこなんですの……?」
検事と弁護士が部屋の中央に集まる。これでようやくゲームが一段落した実感を得た気がした。
ステフのよく分からん指摘にハテナを浮かべると、それを察して彼女は言う。どんなコミュ力だよ。
「いきなり裁判と言われて、それも国家反逆のような悪者扱いに腹が立ちませんの?」
「いや、まぁ慣れてるし」
「な、慣れてるんですの……」
普通に引かれた。今更引くなよ。
しかしなるほど。ステフがほぼほぼ無関係なのにも関わらず真面目にゲームに参加してくれた理由はそういうことか。
無実の罪で裁かれる者を見過ごせなかったと。どんだけいいやつなのこの子。うっかり感謝の気持ちで告って玉砕しちゃいそう。振られるんだよなぁ。
「お前らはこれで満足かよ?」
俺は怒りとは別の感情を空達に向けた。
怒りではなく、呆れに近い。
「ま、及第点ってとこかな」
「随分と厳しい採点だな」
「とびきり甘く付けたぞ?これで本気だったってんなら赤点だ」
「じゃあ赤点じゃねぇか……」
「え、まさかあれがお前の全力なの?」
「生憎と、俺は二段階も変身は残してない」
いつかの勘違いを俺は否定する。俺は宇宙の帝王じゃないんだ。
はぁとため息を吐く空。どんだけがっかりしてんのこいつ。
「おいおい頼むぞ。お前には俺達を超えて貰わにゃならん」
「いや、それは無理。てかほんとに無理だろ。今の俺のスペックとかステフ以下だぞ」
「わたくしの名前が蔑称に使われているのは気のせいですの?」
「いやステフ未満だろうけどな。ゲームで俺達に真っ向から勝つとかぜってーないし」
「ねぇ!気のせいですわよね!?」
なんかステフがうるさい。何かあったの?……いつものことか。最近とか、こいつが城内だ叫んでもみんなノーリアクションだし。
「──けど、それがイコールで無理ってわけじゃない」
「は……?」
いつになく真面目に、空は言う。
「八、こっからだ。……ここから始めろよ。一から、いや、ゼロから」
「お前それ言いたいだけだろ」
「…………お前にはそれができるはずだ」
「あのーもしもし?話聞いてます?」
「なにせお前は──『 』に引き分けた男なんだぜ?」
「………………」
それは、もう色々とおかしい。誤解も誤答も甚だしい。
俺は彼らと同等じゃない。たまたま、幾多の、虚数の彼方にあるほどの偶然を引き当てただけなのだ。
そんな相手に、何故そんな大層な夢を、いっそ幻とすら呼べる希望を持つのか。
……いや、あるいは当然なのかもしれない。
彼らは幾たびのゲームにおいて不敗。ただ一度も敗走はなく、ただ一度も理解されなかった。まるで体が剣で出来ているように、彼らは彼らの世界に生きている。
そんな彼らの生涯に意味があったかは分からない。だが、そんな彼らだからこそ望むのではないだろうか。
真に
淡い期待だろうと、ありはしない幻想だろうと、たった一度のあの引き分けに彼らは夢を見、望んだ。
彼らは、自らを超えて欲しいと願った。
ジブリール達が現れたのはそれから小一時間経ってからだった。
「では、判決を言い渡します」
わざわざ御丁寧に内容が記された紙を、彼女は読み上げる。
「原告の主張は概ね正当と判断し、被告比企谷八幡は有罪とします」
ことの他あっさりと、俺の負けは決定した。
気がつけば一か月半が経過していた事実に驚きを隠せません。
遅くなってすいません。
感想で何度かジブリールは幸せになるのか、と問われてました。
正直、分からないです。
ネタバレしたくないのもそうですが、今作品はかなり行き当たりばったりで書いているので、一寸先は闇です。
私から言えるのは、2部は1部との対比がテーマということだけです。
その辺り、意識して読み返してみると面白いかもしれません(露骨な時間稼ぎ)
感想頂けると嬉しいです。
次回こそ早めに出せるようにしたいと思います。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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