言い訳はしないです。
ごめんなさい。
勝機はあった。勝算はあった。だが、それは勝てるかもしれないと言うだけのことでしかない。
裁判長は一切の慈悲なく、俺の有罪判決を告げたのだった。
「ちょっと待って欲しいですわジブリール」
「認めません。議論は尽くしています」
どうにかしたいのは分かるがステフ、こればかりはどうしよもない。
歯痒い顔を浮かべるステフを一瞥し、ジブリールは書類に目線を戻した。
「審議の結果、被告に対し、『 』が指定するゲームへの参加を言い渡します」
実刑については軽減されているらしい。あちらの話し合いの中で情状酌量の余地ありと判断したのだろう。ならば甘んじて受けるのが今の俺のすべきことか。誠に遺憾ではあるが。
ですが、と反語でジブリールは続ける。
「公正さを保つべくエルキアおよび東部連合における利点を考慮した場合、被告の提案は両国にとって有益であると考えられます」
「……は?」
俺だけでなく、ステフもまた困惑した表情をしている。
そりゃ困惑するわ。ジブリールの言葉にもそうだが、何をどう考慮してそうなるのか。その道筋が全く見えない。
だが、俺たち以外の面々にそんな感情はなかった。
さも当然のように話は進行し、ジブリールは巫女さんと『 』を交互に見遣る。
「被告に安住可能な場所を与える代わりに、唯一神打倒のための協力を約束させる。この条件について、エルキアと東部連合の全権代理者として意見をお願いします」
俺は空の顔を見る。そこでようやく、今何が起きているのかを理解した。
何が議論は終わっているだ、暴力天使。これはつまり、まだ結論が出てねぇってことじゃねぇか。
文句の一つでも言いたいが、それは後にするべきだろう。
「そ~だな。ゲームに強制参加させるより全面協力って方がこっちにうま味がある」
「あても同意見やね。まぁやからゆうて、それをそのまま被告に要求するんは、バランスが悪いゆう話なんやけれど」
「つまりだ。八に非はあるが、互いの譲歩次第ではもっといい解決案になるってことだな。どう思う?巫女さん」
「あては全面的に賛成するわ。なんせ提供するんはあくまでもエルキアの方なんやろ」
「まぁそうだな。つーわけで裁判長。俺達は肯定派ってことで」
「承知しました。では、改めて被告に対し判決を言い渡します。比企谷八幡は有罪とし、打倒唯一神に関する事象に協力すること。ただし被告には情状酌量の余地があるため、エルキアでの生活は保障するものとします」
俺は何もしていない。ただひたすらシナリオステップをしていた結果、何故かだ。
「以上、閉廷」
何故か、こうして俺たちの逆転に次ぐ逆転も特になかった茶番劇は幕を閉じた。
「あ、あの、ハチ?これは、どういうことですの?」
俺が聞きてぇよ。
裁判終了からすぐに、ステフがこちらに来た。
「まぁ、なんだ。出来レースってかんじか」
「出来レース……」
ついさっき、ステフの話を聞いて考え付いた『 』の狙い。それは、もっとゲームがしたい。ただそれだけ。
これが正しいという仮定があったからこそ、俺の策には一定の勝算があった。
ついさっき空が言った言葉を加味しても、やはりこの仮説は揺るがない。だとしたら、このゲーム、この裁判に意味はあったのか。
空は、これが最後と言った。それは、俺の動く理由を与えるのは最後ということだろう。
俺はこの裁判の中で、俺がゲームをする理由を自ら提示した。そしてそれを誓った。
恐らく俺の行動は空の、『 』の望むものだった。だからこそ最後の最後で、手番をひっくり返してまで俺の提案を受理した。
「いや……出来レースっつうより、誘導尋問ってとこか」
「そんなつまんねぇことはしねぇよ」
否定しながらこちらに来た空と白。面白さの基準がわからねぇっての。
「じゃあ何だったんだよ、この一連の流れは」
「んー、説明してる時間ももったいないなー。つーわけで、さいならっと」
「は?いやおい」
「細かいログはジブリールにってことで。俺らからは一言だけ」
「……はち……ごー、かく……ね……っ」
何だそりゃ……。
プラプラと手を振りながら、空と白は踵を返す。何を聞いても答えねぇな、こいつら。
「ソラ、シロ!結局これは何なんですの!?」
「なぁステフ、ここで話しかけるのはどうなのよ」
「なっ……ちゃんとした説明をしないあなたが悪いですわよ!」
「説明したら意味ねぇだろ。あっ、あと
「へ……?それはどういう……」
大部屋の出口に向かう三人。飄々とした空に、隣を歩く白、その二人に振り回されるステフ。なんと見慣れた光景か。ほんと、違和感ねぇな。
……まったく、違和感がないことがおかしいってのに。
俺もあいつらも異世界人だ。なのに何の違和感もないのは、彼らがこの世界で生きるべき存在だからだろうか。
なら俺は、比企谷八幡はどうなのだ。
俺は彼ら彼女らといることに、違和感を覚えるだろうか。
「マスターの指示により説明をしに来ましたが、どうかしたので?」
……これで違和感を覚えない方がどうかしてるな。
何の気なしに浮遊するジブリール。空間転移に音声遮断、都市壊滅まで一人でこなすバケモンがいるんだった、この世界。
「いや、俺も慣れたもんだと思ってな」
「はて、それは一体何の話でしょうか」
「何でもない。つか、質問するのは俺の側じゃないのか?」
「そんな約束をした覚えはありませんが、どこかで頭でも悪化させましたか?」
「もとが悪いみたいに言うな。俺は基本スペックは高めだっつの」
「……確かに、それなりには考える頭はありましたね。マスターの駒になっていないことですし」
「駒……?」
なんだそれ。意味が分からないってわけよ。そんな俺も誰かが応援してくれるのかな。シャケ弁とか奢ってもらおう。
さて、どこから話しましょうか。そんなことを言いながら、ジブリールは視線をさっきまで自分がいた上段の席に目を向ける。
「場所を変えますが」
「理由は、聞いても答えないか」
「学習能力は高いようで」
「お前そういうことを純粋な褒め言葉で言えない病でも患ってんの?」
もしくは俺のこと嫌い過ぎだろ。ここまで徹底的に攻められると一周回って好きなまである。ねぇな。
益体もないことを考えている最中、ジブリールは俺の肩に手を置き景色を変える。
本日何度目の転移だろうか。俺、多分日間最多回数で転移してるだろ。人類中で。
場所はいつもの図書館。なんでここに?
あー、多分
「んじゃ、説明頼むわ」
「ええ、ではまず今回のゲーム目的について。これは分かりますか?」
「分かりますかって、普通に教えるんじゃダメなのかよ」
「相手の理解力によって説明の方法も変わることくらい察して欲しいものです」
「その言い方だと俺の理解力がかなり低いことを前提にしてるってことになるんだが」
「ああそうでした、高スペックなんでしたね。──自称」
「おいその馬鹿にした笑顔やめろ」
クスクスと笑うジブリール。楽しそうだなおい。もうちょっとまともな趣味を見つけた方が良いと思うぞ。趣味の少ない俺が言えないけど。
「自称高スペックなら、目的程度なら分かると思いますが」
「……あくまでも仮説だが、空達の目的は俺にゲームへ参加するための理由を与えること。それも俺自身の意志でだ」
白はゲームの後、俺に合格だと言った。それは俺を試していたととれる。
試した。今回のゲームは俺を試すために行った。だがそれだけでは最後の強引な結論変更に説明がつかない。
最終目的はあくまでも俺に理由を与えること。その過程で俺のことを試したとする方が納得がいく。
「マスターはあなたを必要な戦力と判断しました。そのため味方に引き入れるために必要な儀式としてこのゲームを行ったと聞いています」
「前に空と風呂入った気がするんだが」
「マスター曰くあなたは、理由があればエルキアと東部連合の両方だろうと敵に回す、とのこと」
「できるかっての……」
『 』だけでも倒すの無理ゲーなのにジブリールとステフ、巫女さんにいづな、いのさんも追加でやり合うとか、それどんなマゾゲー。
そもそもどんな理由があったらそんなことすんだっての。最愛の小町のためとか。うん、世界も敵に回せそう。
「まぁとりあえず、空達が俺を戦力として迎えたいことは分かった。じゃあ、なんでこんな回りくどいことをしたのかって話だ」
俺を試すためにゲームをする。そのこと自体に不思議はない。
解せないのは、わざわざ勝ち負けをひっくり返すような展開を用意したことだ。
合格なら勝ち、不可なら負け。単純にこれだけで事足りるだろう。
「回りくどい、とは?」
「最後の審判のことだ。なんで答えを変える必要があった。最終の結論をそのまま言えばよかっただろ」
「……それについては、やはり説明すべきでしょうか」
「できるなら、そうしてくれ」
無理にとは言わない。ただ、彼女が一瞬声を詰まらせたことに、俺は幾分かの不思議を感じた。
それは彼女が踏み込んで欲しくない一線なのだと、進んで話したいことではないのだと察してしまったからかもしれない。
あの傍若無人の権化のようなジブリールに言いにくいことがあるのかと。そんなデリカシーのかけらもないことを思ってしまった。
「あのゲームは、一切の不正なく行われました」
「おう」
「それはつまり、私が実刑判決の際に行った確認も全て、正当かつ必要不可欠な事柄であったということです」
あの確認はあくまでもゲーム進行上必要だった。そしてこのゲームは決して出来レースではなかった。
彼女に嘘を吐くメリットがない以上、この話は真実だ。
「となると、裁判官のみでやった会議の結論はあくまでも『 』案をそのまま執行することだった、と」
「その通りです。その後、私はマスターの命令に従い、公正に裁判を進めるべく再考を行いました」
「それ、ルール上は問題ないのか?」
「ルール内に、一度出た結論を再考しないという条文はありません」
あいつららしい裏道だ。いや、裏技か。空ならこういう裏技、他に十や二十は仕掛けてただろう。それもう表じゃん。
「まぁ、結局はあいつらの手の平の上だったってことか」
「そう易々とマスターを欺けると思っていたので?」
「流石にそこまで鼻伸ばしてねぇよ」
天狗になれるほど大した人生送れてねぇし。
「それで、あなたはマスターに味方するのでしょうか」
「そりゃ、協力するしかないだろ。盟約に誓ったわけだし」
「盟約がなければ、協力はしないと?」
やけに深く聞いてくるな。いつもの、私気になりますってやつか。それはジブリールじゃなくてチタンダエル。
「……普通、理由も無しに協力はしないだろ」
空の言う通りだ。俺は自分の納得できる理由無しには行動できない。
この世界に来てからずっと、俺は誰かに与えられた理由でゲームをしてきた。
俺自身の理由でやったゲームと言えば、ジブリールとのチェスくらいだろう。それだって、情報収集という間接的に与えられた課題ともいえる。
なら俺は、この世界で一度でも自らの意志でゲームをしたか。
あ、したわ。というかしている。
唯一神にして遊戯神、テトとのゲーム。宝探し。
探すのは、俺の欲しいもの。
ほとんどなぞなぞだ。やべぇ、これ勝たないと俺この世界で実質詰むんだよなぁ。
「俺の欲しいものって、なんだ……?」
「急になんの話でしょうか」
「あ、いや、何でもない……」
普通に声出てた。恥ずかしい。
心の声が漏れるって危険だよね。特に誰かに対して文句を言ってるときとか、相手に聞こえたらもうケンカじゃん。ガンダムファイト、レディゴーじゃん。古ぃ。
「あー、そういや機嫌戻ったんだな」
ここはとにかく、強引にでも話を変える。
「機嫌、とは?」
「今日俺を連行していった時、お前不機嫌だっただろ」
「はて、そうでしたでしょうか」
「いや明らかにそうだったっての。めっちゃ怖かったぞ」
目だけで殺されるかと思ったわ。
俺が練の修行を怠っていたら倒れてたな。その理論だとステフが超強い。あいつ普通に強いけど、色々と。
そんな殺意の波動も全く感じさせない目を、彼女はこちらに向けることすらなく応える。
「私は、マスターを裏切りません。もしもマスターがこの世界の全てを敵とするのなら、私はたとえいかなる理由があれど、その全てを排除しましょう」
「悪魔的な決意表明だな」
しかしかなり遠回しだが、言いたいことはわかった。
空と白は俺を敵とした。そうでなければあの裁判は開けない。
あるいは、そのことを俺に伝えるためにジブリールをけしかけたのかもしれん。普通に、敵意は悟られるなとか言うだろうし。
つか、あれはマジで凍えそうだった。平静を装えた俺、実はこの世界最強説あるぞ。主にメンタルが。
「ですが、あなたを排除することはないようですね」
ひらりと半身になっていた体をこちらに向け、彼女は十字の映る琥珀色の瞳を細める。
「それは何か、俺は排除にすら値しないと?」
「なぜそこまで自虐的なのでしょうか……いえ、単にマスターがあなたを敵とすることはないからです」
「今日まさしく敵にされたし、なんなら今後ずっとお前敵だよ宣言されたんだが」
「語弊がありました。広い意味では、確かに敵でございます」
「おい」
「あなたは、マスターの好敵手となる。不満がありますか?」
決まった事だろうと言うように、顔を傾けて彼女は言う。
「……いや、なれんだろ」
「何故でしょうか?」
「力不足だ」
「高スペックなのではなかったので?」
「白のスペックにゃ負ける。比べるにしても、空単体とどれだけ違いがあるか」
空は、別に運動が得意なわけでも勉強ができるわけでもないだろう。できてたら引き込もらんだろうし。
あいつの強みは、超常的な心理誘導、対人戦にのみ特化した妖怪だ。
だから、機械的に強い白を対人に持ち込むことができる。それはスペックとはまた別ジャンルだろう。
互いの欠点を埋め合える擬似的なワンプレイヤー。最強だ……。
「……では、せいぜい足掻くことですね」
「無理なの前提じゃん」
「失礼、せいぜい悪足掻くことですね」
「無理どころか一回挫折してんじゃん」
「既に挫折しているのでは?」
「否定できねぇ」
前提条件からして既に無理だもんなぁ。スタート前に挫折しちゃってるわ。
「…………私はそろそろ戻ります」
「俺は、ここで待機か?」
「いえ、恐らくあなたも呼ばれるはずです」
「呼ばれる、ねぇ」
はて、何か用があるのでしょうか。似てねぇな。
「ところで、何か言いかけたか?」
帰ると言う寸前、変な間があった気がしたのだ。
「……あなたの悪足掻き、高見から見物させていただきます」
「物理的にかよ。それくらい普通に言えよ。いややっぱいいわ、言うな」
「不満でしたら目線程度なら合わせますが?」
「どんな妥協点だ」
別に見下ろされることにとやかく言いたいわけじゃないんだが。
あとこいつの譲歩が微妙に真っ当でびっくりだわ。迷ったら一緒に考えてくれるのかな。考えるとは言いましたが、それを伝えて私に何のメリットがあるので?とか言いそう。今の、ちょっと似てね?
ジブリールははぁと小さくため息をつくと、そっと手を差し出す。
「移動か」
「はい。思ったよりも早く、話が進んでいるようです」
「話って、何の」
「詳しくは後ほど。さっさとして頂けますか?」
「あ、はい」
呼ばれたのなら、行先は東部連合だろう。
差し出された手の平に触れると、また風景が切り替わる。
転移の後は、決まって面倒事だ。
次回、1部では未登場キャラが初登場!
1部でできなかった章を2部ではしっかりとやろうと思います。
感想頂けると、本当に嬉しいです。励みになります。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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