前に、確かこの世界に来たばっかの頃。ある人魚の話を、本で読んだことがある。
うろ覚えだが、大体こんな感じだった。
昔むかし、あるところに、それは美しい人魚姫がいた。
彼女は全てに愛され、全て尽され、全てのものを持っていた。
そんな彼女は思う。真実の愛とは何だ、と。
美しい人魚姫は、真実の愛を欲した。そして、深い眠りについた。
いつか、自分にそれを教えてくれる者を待つために。
おとぎ話にしては、ヤマもオチもない。それとも俺が読んだ本の原作はもっと続くのだろうか。
何でこんな事を思い出したのかといえば、いつもの如くあいつらの所為である。
「いや、今日だけで何回こう思ったか分からんが」
「ああ、言いたいことは分かる。だがまずは聞いてくれ」
もしも過去に戻れるとしたら、まずは何をどうするか。
答えは簡単だ。近場の奴に、こう聞こう。今日は何月何日だ!?何年の!?
ここは東部連合のとある部屋。正面にはその家主の巫女さんがいる。彼女の隣には、いづなが付き人のように位置取る。
そして向かって右に、俺を諭したゲーマー兄妹。と、先程俺ごと移動してきたジブリール。
何だこれ。俺には時を巻き戻す能力でもあるのか?
なるほど、時をかけるんだな。けどそれが原因で真夏の戦争が起きそう。何それ怖い。助けて!誰か化け物の息子さん連れて来て!
などと現実逃避していても始まらない。
差し当っては、俺の眼前にいるニューフェイスのディスクリプションをリクエストしたい。
ここに一人だけ、初対面の少女がいる。やらたらと露出度の高い服装に、小悪魔のような黒い尻尾と翼。見るからに年齢の低い、文字通りの少女だ。
この時点でかなり異常事態だが、残念ながらことはこれだけに収まらない。
「お願いしますぅ~。どうか、どうかボクたちを助けてくださいぃ~」
エアギター世界一も青ざめるんじゃないかと思う程ヘッドバンキングしながら土下座している。マジで誰なのこの子。そんで何なのこの状況。
聞けと言われたため、仕方なく空の説明を待つ。
「んじゃディスクリプションする前に、一つ聞いておきたい」
「お前自称引きこもりなのに意識高いのな」
「なあ、八……愛ってなんだ」
「しらん」
こっちが聞きてぇよ。愛って何、LOVEマシーン?機械じゃん。
「どういう意味のある質問だそれ」
「いや〜、そこでしらんと即答されるとこっちが困るんだが……」
「実際困ってんのこっちだからね」
ヒントの一つでもないものかと、俺は正面の巫女さんに目を向ける。
彼女はため息混じりに首を横に振った。こういう仕草を見るとやっぱ年上というか人生経験豊富そうに見えるな。
もう一度空に向き直る。どこから話そうかと呟いた後、すぐに言った。
「実は昨日、プラムがここを尋ねて来た」
「誰だよプラム」
「は、はいぃ〜、ボクのことですぅ〜」
そーっと手を上げる初対面の少女。ようやくまともに顔が見れた。普通に可愛くね?
プラムか。よし覚えた。多分もう忘れない。
「んで、そのプラム──っつうより
「依頼、ねぇ……まさか、どっかの種族を滅ぼしたいとかじゃないよな」
「いんや、むしろ逆だ」
「……ボクたちを、助けて……」
一人称を鑑みるに、白のセリフはプラムの言葉をそのまま言ったものなのだろう。
助けて欲しいか。んじゃあプラムの種族、ダンピール?は危機的状況にあると。
「何があったんだ?」
「はいぃ〜。それは、ボクの方から説明させて頂きますぅ〜」
プラムはそっと上げた手を仕舞いながら、語り始めた。
位階序列十二位、
プラム達は存外、力を持った種族らしい。なんと吸った血を力に変えるため、他種族の特徴を取り込むことが可能だとか。略奪の能力者かな。
けれど、そんな
『十の盟約』で他者を傷付けることはできない。これにより、許可のない吸血は禁止された。
ならばゲームで負かせて血を吸えばいいものだが、どうやらそうもいかないらしい。
「なるほど、血を吸われると吸血鬼になるから危ないと」
「いえ、ただ病気になります。吸血鬼になる、ということはありません」
「え……」
「つまり、ただの病気持ち。許可が無ければ血も吸えず、吸えたとしても無駄に害を撒き散らす、蚊以下の欠陥種族でごさいます♡」
居た堪れない、本当に居た堪れない。
ただでさえゲームが行いにくいのに、吸血の代償が変な病気を移されるとか、どれだけメリットを積めば盟約に誓ってもらえるんだよそれ。
「ん?でも待て。十の盟約ができてから結構経ってるよな。そんな状況じゃ速攻絶滅しそうなもんだが」
「絶滅寸前のボクの前でよく言えますねぇ〜。まぁ、その辺はご先祖さまが頑張ってくれたと言いますかぁ〜」
やべぇ、どっかの毒舌が移ったか?くわばらくわばら。
プラムの話を聞く前に、もう一つの種族の知識が必要だった。
「ボクたち
「そのセイレーンってのは……」
「究極的に一道を突き進んだ、……魚類でございますね」
「限界まで譲歩した結果の説明がそれなのかよ」
詳しい説明はジブリールが始める。
彼らの一番の特徴は、海の中で生きるために必要なものがあり、皆がメスであること。まさしく人魚種族か。
が、しかし、ジブリールはそうは思わないとそう言う。
「いや確かに、お前みたいな個性の塊ならそう思うだろうけどな……」
「いえ、そういった身体的特徴を言っているのではありません」
普通に説明されているように聞こえるが、この楽しそうな笑顔を見るに、ただ事実を言っているだけではなさそうだ。ほんとサド、サドってる、サドingだ。
「まぁいいや。んで、お前らはその人魚種族と共生して生き永らえてきたと」
「はいぃ~。といっても、それは失敗に終わったんですぅ~……」
失敗した。失敗した。失敗した。過去改変に?
プラムの話では、こんなギャグが言えない程に、
当時、というか現在進行形だが
彼らは他種族を性的な意味で食らうことで繁殖するらしい。
ここに、プラムの先祖はつけこんだ。
「
「なるほどな。それで引き分け八百長でお互いハッピーになったが、何か問題が発生したって感じか」
「あ、いえぇ~」
「そっからが、俺達も目を伏せることになる話なんだよ」
「は……?」
「何を思ったか
「えっ……」
ノリノリのジブリール。どうやらここからの語りは彼女が請け負うらしい。
「お互いが救われるはずのゲームを、理解できず──自分たちの置かれた状況を、認識すらしておらず——しかしてそんな
このなんと滑稽なことでしょうかと、他人の不幸(蜜味)を味わい尽くすジブリール。甘党過ぎる。
ああ、もう可哀想すぎる。怪異の王じゃなくて下位から追い詰められてるよこの吸血鬼。
「このゲームで、
いやしかし、この説明の中ではまだ絶滅確定ではない。
「待て、
「いえ、それが不可能なのです」
「一応聞くが、理由は?」
「一つは、
「人魚様との交尾は、激しすぎて命を落とすんだと……」
そう空は、幼いころからの夢を打ち砕かれたような眼で言った。
え、何それ、怖い。
「つーことは……」
「はい。血の供給以前に、物理的に繁殖ができなくなりました♡」
「は、ははぁ~」
乾いた笑みを浮かべるプラム。この子、相当苦労したんだろうな。
「つまり、
「あ、いえぇ~、まだです。そこから一応挽回はしたんですよぉ~」
こっから挽回?それはもう起死回生だな。卍っ解!
「
「マジもんの救世主じゃん」
繁殖協力を強制されていた
「んじゃあ、残る問題は血をどうやって確保するかだな」
「残念ながら、問題は山積みになります。それも、史上最大の
バカの、世界チャンプ……何、悪魔なの、サタンなの?
「一世代に一人しかいない女王の救済は、次代で幕を閉じました」
「暗殺でもあったってのか……」
「暗殺とは言いえて妙ですね。何せ、完全犯罪を成し遂げたのは、他でもない女王自身ですから♡」
「え、自殺?」
「はい、永眠にございます」
彼女はあるおとぎ話に感化され、眠りを覚ます王子様を待とうと決めたらしい。
「自らの美に有り余る自意識と自信を持った女王は、自分が惚れるに値する男が来るまで眠ると宣言しました。しかし——」
「はは……眠った状態で、一体どうやって惚れるんですかねぇ~……」
絵画の巨匠も絶望と名付けるであろう顔をしながら、プラムはどこか遠いところを見ている。可哀想すぎてうっかり救いたくなってしまう。
「盟約によって血は吸えない。ゲームを仕掛ける材料もない。唯一の救いである女王は、真の愛を知りたいと言って永めの昼寝……ひでぇなこれ」
「ここまで聞けば、いくらあなたでも状況が飲み込めるのでは?」
「女王を起こしてくれってことだろ?いやそれは分かってんだがな」
プラム、ひいては
女王を起こす。そうすることで、少なくとも眼前の問題からは解放される。絶滅カウントダウン中から、絶滅危惧種に格上げだ。それ上がり切れてねぇな。
しかし、ジブリールの説明で分かるのはここまでだ。
「それ、プラムが俺に土下座してる説明できてなくね?」
「ん?ああ、いやいやいや、八、八くん、八様。君意外に頭を下げる意味がないでしょう?なぁ、真のエルキア国王様」
「は……?」
「……はち、エルキア、こくおー……」
「は、え……?」
にやりと笑うゲーマー兄妹。こいつら、今度は何を仕掛けやがった。
「え、えぇとぉ……あの、エルキアの
キョロキョロと周りを見渡すプラム。最後に俺へと向けた目は、僅かに潤んでいた。
本当の国王、だと?誰が何の、何だって?
「あなたが、バカの、世界チャンピオンです」
「心読むな。しかも二重で。あと結局罵倒なんだけど」
「失礼、噛みました。あなたが、エルキアの、国王です」
「違う、わざとだ」
「失命、仮死ました」
「二回死んでんだけど」
片方仮だけど。
んで、何?エルキアの国王、俺が?何言ってんの。
「いや俺、この国じゃ役し……」
「間違いなく、そいつがエルキアの国王だ」
あの、空さん?
「いや、だからね……」
「……はち、は……しろたち、の……上司~……」
あの、だから白さん?
再びヘルプを求めて巫女さんを見る。目が合うと、彼女はクスリと言う微笑みを袖で隠した。
「そういうことやさかい、この依頼、受けたってもええんやない?」
色々知った上での言葉、だと思う。でなければ、あの用心深い巫女さんが即決するわけがない。
「空、白。ちょっと、話を聞かせろ」
「ま、そうなるな。ジブリール」
「御意に」
俺達三人は別室に移動した。配慮か知らんが、ジブリールは席を外している。
「んで、これは何の冗談だ」
「生憎ギャグセンスには期待しないでくれ。これはマジだ」
こいつらが原因でため息を吐くのは何回目だろうか。
「はぁ……とにかく、詳しい説明が欲しいんだが」
「そう言うと思って、八以外にはちゃんと説明してある」
「肝心の俺に説明ないってどゆことよ」
「あとは八だけってことだ。何も問題ないだろ」
問題大ありだろうに。抗議の目で見るが、生憎俺に邪眼はない。
「今回のゲームの攻略にあたって、必要なことがある」
「俺が参加することか」
「理解が早くて助かるぜ」
「それ絶対必須じゃないだろ」
「必須だ。これに関しては、どうしようもない」
いつにないテンションとセリフだ。こいつらがゲームを放棄するとは、ゲーマーとしてどうなんだ。
「珍しく弱気だな」
「弱気、っつうより無理なんだ。俺達じゃあな」
「無理って、あれか。クリアのためには二人が離れる必要があるとかそういう」
「いや、もっと根本的なところだ」
「ああ」
やや俯きかけ、しかしそれを止めて二人は目を細める。
「俺達兄妹は──「リアル人生ゲームとリアル恋愛ゲームはプレイすらしたくないっ!」」
「帰っていいか」
目の前で現実逃避とアンチ恋愛をキメ顔で宣言される身にもなってほしい。
ゲームをしていると忘れがちだが、こいつらはマジもんの引き籠りだった。一度リアル人生に挫折している。
まぁ、こういうことを言うこと自体に反論はしないでおくが……。
「だから、俺にクリアしろってか」
「少し違うな。八にはもっと重要な役割を担ってもらう」
「先に聞くが、それは必要事項なんだな?」
「ああ」
何をどう考察したらこんな結論になるのか。いや、差し当たっては結論から聞こう。こいつらが俺に何をさせる気なのか。
「八には——エルキアの国王としてゲームに参加してもらう」
プラム登場!
次回、誰かイラストを描いてほしい回。本当、画力が欲しいです……。
感想、誤字報告あれば、よろしくお願いします。
番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?
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