ギフテッド   作:龍翠

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『マテリアル娘』の影響かは分かりませんが、私の中ではユーリの好物はハンバーグで固定されています。
というわけで、今回はユーリメインです。


第十一話 ハンバーグ

 学校が終わってからの放課後。シュウはいつも通りにシュテルたちのマンションに行く。呼び鈴を鳴らして少し待つ。反応がない。

「出かけてるのかな?」

 どこかで時間を潰そうかと判断してきびすを返そうとした時、ドアが勢いよく開かれてユーリが飛び出してきた。その表情は焦りの色で染まっている。

「シュウ! 助けてください!」

「ど、どうしたの?」

 あまりの剣幕にシュウは驚くが、その後の異変で全てを察した。部屋の奥から何かが焦げるような嫌な臭いが流れてくる。そしてユーリはエプロン着用。シュウは慌ててキッチンへと向かう。フライパンから黒っぽい煙のようなものが立ち上っていた。

「なにこれなにやったの!」

「ハンバーグを作ろうとして……」

「燃えたの?」

「燃えちゃいました」

 そっとフライパンに近づいてみる。すでに火は消されていて、焼かれていたハンバーグらしきものも炭化しているものの燃えてはいない。消化はした後らしい。

「どうやって消したの?」

「これで、です」

 シュウが振り返る。それを見た瞬間、思わず頬が引きつっていた。ユーリの背中から赤黒い翼のようなものがはえている。自己紹介でもするかのように、翼はいろいろな形に変形していく。聞くところによると、これが魄翼というものらしい。

 魄翼が少し伸び、フライパンを包み込む。こうして空気の侵入を防いで鎮火したらしい。

「無理矢理だね……。それは熱くないの?」

「はい。これも魔法みたいなものですし」

 そっとフライパンを流しへと入れ、ユーリは魄翼を消した。その表情は少しだけ得意気にも見える。

「後処理ができているなら……。助けてほしいことって?」

 それを聞いたユーリはすぐに泣きそうな表情になった。

「シュウは……料理ができますか?」

「料理? 得意ではないけど、まあ少しぐらいは」

 書店で料理の本を借りて、一人で作ったことも何度かある。簡単なものしか作れないが、同年代の子には負けない自信ぐらいはある。

 ――いや、さすがになのはやはやてには勝てないか。

 なのはは喫茶店の子だと聞く。料理ぐらい母親から教わっているだろう。はやては最初は自分と同じ一人暮らしで、家族ができてからも料理は彼女がしていると聞く。たまにしか料理をしない自分とは比べるまでもない。

 そんなシュウの心情など知らずに、ユーリはぱっと顔を輝かせた。

「教えてください! ハンバーグの作り方!」

「……え?」

 

 ぺたぺたとユーリが肉をこねる。シュウは隣で静かに見守る。シュウの手には料理の本。ハンバーグの作り方は覚えていないので、ここから指示を出している。手伝おうかとも思ったが、どうやらユーリは自分一人の力で作りたいらしい。

 肉をこねおえ、フライパンに火をかける。肉を楕円形にして、フライパンに載せていく。肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる。

「うん。いい感じだね」

 シュウはそっと胸をなで下ろす。あれだけ騒いでいたわりには、ここまでは順調にきている。見ていたところ、失敗らしい失敗もなかったので成功するだろう。そう思っていたのだが、ユーリの表情は未だに真剣そのものだ。

 シュウはフライパンへと視線を落とし、少し首を傾げた。先ほどから、肉が少しずつ膨らんできているような気がする。そう思っていた直後に、

「わっ!」

 二人はそろって悲鳴を上げる。軽い音ともに、肉が破裂した。ユーリがどうしようどうしようと慌てふためき、シュウはそんなユーリを宥める。

「とりあえず落ち着いて。まずは火を消して……あっち!」

 破裂した肉がシュウの顔面に直撃する。顔をおさえ、流しの冷水ですぐに冷やす。その間もやはりユーリは一人慌てたままだ。むしろシュウに被害が及んだことでさらに追い詰められたようで、顔面蒼白になっている。

「ごめんなさいシュウ! ど、どうしましょう! どうすればいいですか!」

「落ち着いて! とりあえず火を……火を消して! あつっ!」

 再び肉がとんでくる。ユーリが慌てて火を消したが、肉の破裂は治まらない。

 二人で右往左往している間に、肉はまた完全に焦げ付いてしまった。

 

 その後も本の書いてある通りに焼いていくが、失敗が続く。なぜこうも失敗ばかりなのか、隣に立つシュウですら分からない。

 やがて最後の材料になり、ユーリが心配そうにフライパンへ肉を投下。緊張の面持ちでそれを見守るシュウ。

 再び肉がふくれあがる。ユーリが泣きそうな表情をして、シュウが半ば本気で諦めた頃。肉は小さく破裂しただけで終わった。

「……ん?」

 その後もそれぞれの大きな塊が何度か破裂したが、今までのような大事にはならなかった。せいぜい小さな欠片が大量にできてしまったぐらいだ。今までのことを思えば、十分成功だと言えるだろう。

 ユーリは嬉しそうにシュウへ笑顔を向け、シュウも一度だけうなずいた。

「うん。まあ成功ってことでいいんじゃないかな」

 ユーリが歓声を上げる。今日見た中で最高の笑顔だ。それを見れただけで、今までのことが報われた気がした。

 

 しばらくして、三人が帰ってきた。三人一緒の用事だったらしい。

「ただいま戻りました」

「ただいまー!」

「戻ったぞ」

 シュテル、レヴィ、ディアーチェがそれぞれ口にして、そしてすぐに顔をしかめた。部屋は未だに少し焦げ臭い。シュテルとディアーチェはすぐに何かを察したらしく、小さく嘆息しただけだった。

「ユーリ。怪我はないか?」

 そう言いながらキッチンへと入るディアーチェ。そこで待っていたのは、満面の笑顔のユーリだった。

「ディアーチェ! 見てください、一人で作れました!」

 テーブルの上のハンバーグを指し示すユーリ。皿に盛られたハンバーグは少し歪な形をしていたが、それでも一目でハンバーグと分かるものだ。ディアーチェは感心したように、おお、と驚いていた。次に流しで洗い物をしているシュウを見て、事情を察したのかわずかに苦笑を漏らした。

「すごいぞ、ユーリ! さすがは我らの盟主だ」

「えへへ」

 ディアーチェに褒められて、ユーリが相好を崩す。だらしない笑みがそこにはあった。

 その様子を見ながら、シュテルはシュウの隣へ。横に立ち、小さく頭を下げる。

「ユーリのお願いを聞いていただいたみたいですね。ありがとうございます。すぐに夕食の準備をします」

 それを聞いたシュウは、少しだけ疲れたように微笑んだ。

 

 今日もテーブルに夕食が並ぶ。メニューはもちろんユーリが作ったハンバーグだ。それぞれの皿に二枚と欠片が少しずつ。ただしシュウの席にはない。

「あれ? シュウは?」

 不思議に思ったレヴィが聞くと、他の三人は一様に首を傾げるだけだ。

「今日はキッチンで一人で食べると言っていたな」

「私のせい、ですか?」

 ディアーチェの言葉にユーリが怯える。これでも罪悪感ぐらいはある。それに、シュウにも食べてほしかったという思いもあった。

「連れてきます!」

「あ、ユーリ!」

 ユーリが隣のキッチンへと向かい、レヴィがそれを追いかける。シュテルとディアーチェは先に食事を始める。

「シュウ!」

 キッチンに入ったユーリが叫ぶ。シュウはテーブルの前で、目を見開いて固まる。テーブルには皿に盛られたハンバーグ。

「……これ……」

 よく見ると、それは焦げ付いた大量のハンバーグだった。成功するまでに失敗したものだ。ユーリがシュウへと視線を投げると、シュウは気まずそうに視線をそらした。

「……もったいないと思って」

 そう言いながら、焦げたハンバーグを口に放り込む。ゆっくりと租借して、呑み込んで、笑う。

「うん。苦いけどおいしい」

「…………」

 ユーリは無言。しばらくシュウのことを見つめていたが、やがて頭を下げた。

「ごめんなさい、シュウ。私が失敗ばかりしたから……」

「え? いやいや、そんなことないよ。本当においしいから」

 慌てたように言うシュウ。そして再びハンバーグを口の中に。

「ほら。早く食べないと冷めちゃうよ? せっかく作ったんだからさ」

「……はい!」

 ユーリが笑顔でうなずくと、レヴィと共にリビングに戻った。

 ユーリが戻ってくる直前。

「我らも手早く食べて、シュウを手伝うぞ。さすがにあの量は一人では無理だろう」

 食事を進めながらそう言うディアーチェ。対するシュテルもうなずいて同意する。

「ですが、しっかりと味わってください。ユーリが王のために作ったのですから」

「む……。分かっておる……」

 少しだけ顔を赤くし、黙々と食べ続けるディアーチェ。そこにユーリとレヴィが戻ってきて、席に座った。

「ユーリ。うまくできている。うまいぞ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 ユーリが嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、ディアーチェも自然と笑みがこぼれた。

「ディアーチェのためにたっぷりと愛情を込めましたから!」

「……う、うむ……」

 そっぽを向くディアーチェ。顔は真っ赤になっている。シュテルはそんな二人の様子を見つつ、一人素早く食事を終わらせた。

 

 キッチンに向かうと、シュウは無言でハンバーグを頬張っていた。シュテルを見て、右手を挙げる。ただの挨拶だ。

「すみません、シュウ。私もいただきます」

 小皿を取り出し、ハンバーグを入れていく。一口食べると、焦げ特有の苦みはあるがしっかりとハンバーグの味はしていた。二人で黙々と食べていく。

「すまぬ、待たせた」

「私が失敗したものなので私も食べます」

 続いてディアーチェとユーリが入ってきて、

「ボクにもちょうだい!」

 最後にレヴィが戻ってくる。みんなで焦げ焦げのハンバーグを食べていく。シュウは口を動かしながら四人の様子を見て、思わず苦笑していた。

 ――隠れて食べる意味はなかったかな。

 

 後片付けを済ませ、シュウは帰路につく。今回の見送りはユーリだ。マンションから出て、自宅への道をのんびりと歩く。

 ――これって、少し情けないよね……。

 端から見れば年下の女の子に送ってもらうという図だ。思い描いただけで情けなくなる。実際は四人の中では戦闘能力は一番高いらしいが。そんなことを考えながら少しだけ落ち込んでいると、シュウ、と自分を呼ぶ声が聞こえた。

 どうしたの、と聞きながらユーリに向き直る。ユーリは少し迷っていたようだったが、やがて震える声で言った。

「今日は本当にありがとうございました。無事に作れたのはシュウのおかげです」

「いやいや、僕は隣で指示を出してただけだから。ユーリががんばった結果だよ」

「そんなことはありません! 本当に、感謝しているんですよ?」

 上目遣いにこちらを見てくる。シュウは少し照れくさそうに頬をかく。恥ずかしいのでこれ以上は何も言えない。

「また……手伝っていただけますか?」

 おそるおそるといった様子で聞いてくるユーリ。シュウは微笑むと、もちろん、と明るく答えた。

 




更新頻度が落ちると言ったな? あれは嘘だ。
……いや、書き始めたらだらだらと止まらなくなるのが私なので……。
でもどこかで多分休んだりすると思います。はい。

ユーリのハンバーグが爆発する理由は、全然考えていません汗
漫画で「ぽーん」という擬音があったので爆発させただけです。ただそれだけです。

こっそりメッセージ限定でネタ募集をしちゃっています。
こんな話はどう?というものがあれば、ご協力いただけると助かります。
詳しくは活動報告にて……。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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