というわけで、今回はユーリメインです。
学校が終わってからの放課後。シュウはいつも通りにシュテルたちのマンションに行く。呼び鈴を鳴らして少し待つ。反応がない。
「出かけてるのかな?」
どこかで時間を潰そうかと判断してきびすを返そうとした時、ドアが勢いよく開かれてユーリが飛び出してきた。その表情は焦りの色で染まっている。
「シュウ! 助けてください!」
「ど、どうしたの?」
あまりの剣幕にシュウは驚くが、その後の異変で全てを察した。部屋の奥から何かが焦げるような嫌な臭いが流れてくる。そしてユーリはエプロン着用。シュウは慌ててキッチンへと向かう。フライパンから黒っぽい煙のようなものが立ち上っていた。
「なにこれなにやったの!」
「ハンバーグを作ろうとして……」
「燃えたの?」
「燃えちゃいました」
そっとフライパンに近づいてみる。すでに火は消されていて、焼かれていたハンバーグらしきものも炭化しているものの燃えてはいない。消化はした後らしい。
「どうやって消したの?」
「これで、です」
シュウが振り返る。それを見た瞬間、思わず頬が引きつっていた。ユーリの背中から赤黒い翼のようなものがはえている。自己紹介でもするかのように、翼はいろいろな形に変形していく。聞くところによると、これが魄翼というものらしい。
魄翼が少し伸び、フライパンを包み込む。こうして空気の侵入を防いで鎮火したらしい。
「無理矢理だね……。それは熱くないの?」
「はい。これも魔法みたいなものですし」
そっとフライパンを流しへと入れ、ユーリは魄翼を消した。その表情は少しだけ得意気にも見える。
「後処理ができているなら……。助けてほしいことって?」
それを聞いたユーリはすぐに泣きそうな表情になった。
「シュウは……料理ができますか?」
「料理? 得意ではないけど、まあ少しぐらいは」
書店で料理の本を借りて、一人で作ったことも何度かある。簡単なものしか作れないが、同年代の子には負けない自信ぐらいはある。
――いや、さすがになのはやはやてには勝てないか。
なのはは喫茶店の子だと聞く。料理ぐらい母親から教わっているだろう。はやては最初は自分と同じ一人暮らしで、家族ができてからも料理は彼女がしていると聞く。たまにしか料理をしない自分とは比べるまでもない。
そんなシュウの心情など知らずに、ユーリはぱっと顔を輝かせた。
「教えてください! ハンバーグの作り方!」
「……え?」
ぺたぺたとユーリが肉をこねる。シュウは隣で静かに見守る。シュウの手には料理の本。ハンバーグの作り方は覚えていないので、ここから指示を出している。手伝おうかとも思ったが、どうやらユーリは自分一人の力で作りたいらしい。
肉をこねおえ、フライパンに火をかける。肉を楕円形にして、フライパンに載せていく。肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる。
「うん。いい感じだね」
シュウはそっと胸をなで下ろす。あれだけ騒いでいたわりには、ここまでは順調にきている。見ていたところ、失敗らしい失敗もなかったので成功するだろう。そう思っていたのだが、ユーリの表情は未だに真剣そのものだ。
シュウはフライパンへと視線を落とし、少し首を傾げた。先ほどから、肉が少しずつ膨らんできているような気がする。そう思っていた直後に、
「わっ!」
二人はそろって悲鳴を上げる。軽い音ともに、肉が破裂した。ユーリがどうしようどうしようと慌てふためき、シュウはそんなユーリを宥める。
「とりあえず落ち着いて。まずは火を消して……あっち!」
破裂した肉がシュウの顔面に直撃する。顔をおさえ、流しの冷水ですぐに冷やす。その間もやはりユーリは一人慌てたままだ。むしろシュウに被害が及んだことでさらに追い詰められたようで、顔面蒼白になっている。
「ごめんなさいシュウ! ど、どうしましょう! どうすればいいですか!」
「落ち着いて! とりあえず火を……火を消して! あつっ!」
再び肉がとんでくる。ユーリが慌てて火を消したが、肉の破裂は治まらない。
二人で右往左往している間に、肉はまた完全に焦げ付いてしまった。
その後も本の書いてある通りに焼いていくが、失敗が続く。なぜこうも失敗ばかりなのか、隣に立つシュウですら分からない。
やがて最後の材料になり、ユーリが心配そうにフライパンへ肉を投下。緊張の面持ちでそれを見守るシュウ。
再び肉がふくれあがる。ユーリが泣きそうな表情をして、シュウが半ば本気で諦めた頃。肉は小さく破裂しただけで終わった。
「……ん?」
その後もそれぞれの大きな塊が何度か破裂したが、今までのような大事にはならなかった。せいぜい小さな欠片が大量にできてしまったぐらいだ。今までのことを思えば、十分成功だと言えるだろう。
ユーリは嬉しそうにシュウへ笑顔を向け、シュウも一度だけうなずいた。
「うん。まあ成功ってことでいいんじゃないかな」
ユーリが歓声を上げる。今日見た中で最高の笑顔だ。それを見れただけで、今までのことが報われた気がした。
しばらくして、三人が帰ってきた。三人一緒の用事だったらしい。
「ただいま戻りました」
「ただいまー!」
「戻ったぞ」
シュテル、レヴィ、ディアーチェがそれぞれ口にして、そしてすぐに顔をしかめた。部屋は未だに少し焦げ臭い。シュテルとディアーチェはすぐに何かを察したらしく、小さく嘆息しただけだった。
「ユーリ。怪我はないか?」
そう言いながらキッチンへと入るディアーチェ。そこで待っていたのは、満面の笑顔のユーリだった。
「ディアーチェ! 見てください、一人で作れました!」
テーブルの上のハンバーグを指し示すユーリ。皿に盛られたハンバーグは少し歪な形をしていたが、それでも一目でハンバーグと分かるものだ。ディアーチェは感心したように、おお、と驚いていた。次に流しで洗い物をしているシュウを見て、事情を察したのかわずかに苦笑を漏らした。
「すごいぞ、ユーリ! さすがは我らの盟主だ」
「えへへ」
ディアーチェに褒められて、ユーリが相好を崩す。だらしない笑みがそこにはあった。
その様子を見ながら、シュテルはシュウの隣へ。横に立ち、小さく頭を下げる。
「ユーリのお願いを聞いていただいたみたいですね。ありがとうございます。すぐに夕食の準備をします」
それを聞いたシュウは、少しだけ疲れたように微笑んだ。
今日もテーブルに夕食が並ぶ。メニューはもちろんユーリが作ったハンバーグだ。それぞれの皿に二枚と欠片が少しずつ。ただしシュウの席にはない。
「あれ? シュウは?」
不思議に思ったレヴィが聞くと、他の三人は一様に首を傾げるだけだ。
「今日はキッチンで一人で食べると言っていたな」
「私のせい、ですか?」
ディアーチェの言葉にユーリが怯える。これでも罪悪感ぐらいはある。それに、シュウにも食べてほしかったという思いもあった。
「連れてきます!」
「あ、ユーリ!」
ユーリが隣のキッチンへと向かい、レヴィがそれを追いかける。シュテルとディアーチェは先に食事を始める。
「シュウ!」
キッチンに入ったユーリが叫ぶ。シュウはテーブルの前で、目を見開いて固まる。テーブルには皿に盛られたハンバーグ。
「……これ……」
よく見ると、それは焦げ付いた大量のハンバーグだった。成功するまでに失敗したものだ。ユーリがシュウへと視線を投げると、シュウは気まずそうに視線をそらした。
「……もったいないと思って」
そう言いながら、焦げたハンバーグを口に放り込む。ゆっくりと租借して、呑み込んで、笑う。
「うん。苦いけどおいしい」
「…………」
ユーリは無言。しばらくシュウのことを見つめていたが、やがて頭を下げた。
「ごめんなさい、シュウ。私が失敗ばかりしたから……」
「え? いやいや、そんなことないよ。本当においしいから」
慌てたように言うシュウ。そして再びハンバーグを口の中に。
「ほら。早く食べないと冷めちゃうよ? せっかく作ったんだからさ」
「……はい!」
ユーリが笑顔でうなずくと、レヴィと共にリビングに戻った。
ユーリが戻ってくる直前。
「我らも手早く食べて、シュウを手伝うぞ。さすがにあの量は一人では無理だろう」
食事を進めながらそう言うディアーチェ。対するシュテルもうなずいて同意する。
「ですが、しっかりと味わってください。ユーリが王のために作ったのですから」
「む……。分かっておる……」
少しだけ顔を赤くし、黙々と食べ続けるディアーチェ。そこにユーリとレヴィが戻ってきて、席に座った。
「ユーリ。うまくできている。うまいぞ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ユーリが嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、ディアーチェも自然と笑みがこぼれた。
「ディアーチェのためにたっぷりと愛情を込めましたから!」
「……う、うむ……」
そっぽを向くディアーチェ。顔は真っ赤になっている。シュテルはそんな二人の様子を見つつ、一人素早く食事を終わらせた。
キッチンに向かうと、シュウは無言でハンバーグを頬張っていた。シュテルを見て、右手を挙げる。ただの挨拶だ。
「すみません、シュウ。私もいただきます」
小皿を取り出し、ハンバーグを入れていく。一口食べると、焦げ特有の苦みはあるがしっかりとハンバーグの味はしていた。二人で黙々と食べていく。
「すまぬ、待たせた」
「私が失敗したものなので私も食べます」
続いてディアーチェとユーリが入ってきて、
「ボクにもちょうだい!」
最後にレヴィが戻ってくる。みんなで焦げ焦げのハンバーグを食べていく。シュウは口を動かしながら四人の様子を見て、思わず苦笑していた。
――隠れて食べる意味はなかったかな。
後片付けを済ませ、シュウは帰路につく。今回の見送りはユーリだ。マンションから出て、自宅への道をのんびりと歩く。
――これって、少し情けないよね……。
端から見れば年下の女の子に送ってもらうという図だ。思い描いただけで情けなくなる。実際は四人の中では戦闘能力は一番高いらしいが。そんなことを考えながら少しだけ落ち込んでいると、シュウ、と自分を呼ぶ声が聞こえた。
どうしたの、と聞きながらユーリに向き直る。ユーリは少し迷っていたようだったが、やがて震える声で言った。
「今日は本当にありがとうございました。無事に作れたのはシュウのおかげです」
「いやいや、僕は隣で指示を出してただけだから。ユーリががんばった結果だよ」
「そんなことはありません! 本当に、感謝しているんですよ?」
上目遣いにこちらを見てくる。シュウは少し照れくさそうに頬をかく。恥ずかしいのでこれ以上は何も言えない。
「また……手伝っていただけますか?」
おそるおそるといった様子で聞いてくるユーリ。シュウは微笑むと、もちろん、と明るく答えた。
更新頻度が落ちると言ったな? あれは嘘だ。
……いや、書き始めたらだらだらと止まらなくなるのが私なので……。
でもどこかで多分休んだりすると思います。はい。
ユーリのハンバーグが爆発する理由は、全然考えていません汗
漫画で「ぽーん」という擬音があったので爆発させただけです。ただそれだけです。
こっそりメッセージ限定でネタ募集をしちゃっています。
こんな話はどう?というものがあれば、ご協力いただけると助かります。
詳しくは活動報告にて……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。