ギフテッド   作:龍翠

14 / 86
今回はシュテルメインです。
……でもそれほどシュテルばかりでもないです。


第十四話 端午の節句

 がちゃがちゃと耳障りな音がする。シュウはその音で目を覚ました。何の音だろうかと、寝ぼけた頭で考える。すぐに、出入り口のドアの音だと気がついた。では何故そのような音がするのだろうか。誰かが開けようとしているのか。

 その考えに至った瞬間、シュウは慌てて飛び起きた。すぐに時計を確認して、しかし首を傾げる。午前六時。約束の時間よりもかなり早い。

「シュウ! シュウってば!」

 ドアの向こう側から呼ぶレヴィの声。なぜこんなに朝早くにと自問するが、分かるはずもなく。シュウはぐっと伸びをすると玄関に向かった。ドアを開けると、嬉しそうなレヴィがそこにいた。

「やっと起きた! おはよう、シュウ! 迎えにきたよ!」

「うん。おはよう、レヴィ。早くない?」

 あくびをかみ殺しながら聞くと、レヴィはそうかな? と頭に疑問符を浮かべる。どうやら自覚はないらしい。まだ寝てたんだけどなあと苦笑すると、

「レヴィ、やはりここでしたか」

 階段の方からシュテルの声。二人同時にそちらを見て、レヴィは怯え、シュウは苦笑を濃くした。

「まだ早すぎると……言いましたよね……?」

 ゆっくりとシュテルが歩いてくる。表情はいつもの無表情。それなのにいつもと違う威圧感。当事者でないシュウですら今すぐ部屋に逃げ込みたい。

「あの、シュテるん、これは違うんだ……」

「…………」

「ほ、ほら! どうせだから起こしてあげようと思って! そうすればたくさん遊べ……」

 直後。レヴィの悲鳴が静かな朝に響き渡った。

 

 三十分後。シュウは自分の部屋で味噌汁をすすっていた。ちゃぶ台には白ご飯と焼き魚。全てシュテルが用意してくれたものだ。そのシュテルはシュウの対面に座り、一仕事終えてお茶を飲んでいる。

 あの後、レヴィを帰らせたシュテルは、起こしてしまったお詫びとして朝食を用意してくれた。希望を聞かれたので和食と答えたところ、目の前の品を出されたというわけだ。買い出しを含め三十分で作り終えた時はさすがに驚いた。

 静かな部屋。静かな時間。シュウが朝食を食べる音とシュテルがお茶をすする音だけが聞こえてくる。のんびりとした時間だが、シュテルと一緒のこの時間はそれなりに気に入っている。

 やがて、シュテルは小さくため息をついた。見るとお茶を飲み終えたようだ。自分へと視線を移し、目が合う。

「どうですか?」

 シュテルの控えめな問いかけ。すぐに朝食の味を聞いているのだと気づく。

「うん。美味しいよ」

 正直に答えると、シュテルはそうですかとうなずいただけだった。

「この後はどうしますか?」

「九時にシュテルたちのところ、としか決めてなかったからね……。今から寝るのも中途半端で嫌だし……」

 少し考え、それに、と付け加える。

「せっかく来てくれたんだし、もう少しお話したいかな?」

 それを聞いたシュテルは少しだけ眉を持ち上げる。少しだけ表情が柔らかくなった気がした。

「ではもう少しだけ、お話でもしましょうか」

 

 その後、本来の約束の時間まで、二人はのんびりと話をしていた。時折お互いに無言になってしまう時もあるが、別段気まずい沈黙でもない。のんびりとした時間が緩やかに流れていく。

 やがて九時になり、二人は支度を整える。といっても、シュウには持って行くものがないので戸締まりの確認程度なのだが。いつもの道を歩いてシュテルたちの住まうマンションへ向かう。途中のいくつかの民家では鯉のぼりが上がっていた。

「子供の日って感じがするね。どこかで柏餅でも買おうかな……」

 たまにはそんな贅沢品を買うのも悪くない。そう思って言ったのだが、シュテルからだめですと止められた。首を傾げると、

「柏餅なら用意してありますよ。あと王がちまきも用意してくれています」

「ほんとに? ……僕も食べていいの?」

「もちろんです。……ちなみに手作りですよ」

 後半は少しだけ小さな声で付け足してくる。しっかりと聞き取ったシュウは顔を綻ばせて、それは楽しみだと期待に胸を膨らませる。シュテルはシュウのそんな様子を見て、少しだけ嬉しそうに目を細めた。

 

 マンションにたどり着いて、リビングに入る。部屋のテーブルには大量の柏餅とちまきが積まれていた。あまりの量にシュウは思わず絶句するほどだ。シュウがシュテルを見ると、さっと視線をそらした。

「……初めて作るものでしたので、材料の量が分からず……」

「買った材料を使い切ったら、すごい量になった?」

「その通りです」

 シュウは苦笑。これだけの量があれば昼食としても十分そうだ。さすがに量が多すぎるとは思うが。

 シュテルがキッチンへと向かい、シュウはいつもの席へ。読書をしていたディアーチェが、視線をシュウへと向ける。すぐに本へと戻した。

「ところで、どうしてちまき?」

 シュウが問いかける。ディアーチェが再び視線をシュウへとやり、言う。

「子鴉に聞いたのだ。どこぞの場所ではちまきも食べるものだと。この世界の風習については詳しくない。違ったのなら許せ」

「まあ僕も詳しいわけじゃないから」

 キッチンからシュテルが戻ってくる。手に持ったお盆には熱いお茶が三つ。シュウとディアーチェ、そして自分の席の前に置く。

「そう言えばレヴィとユーリは?」

 いつもならもっと騒がしいはずだが、今は騒がしさの最たる原因となる二人がいない。珍しいなと思い聞いてみると、ディアーチェは本を閉じてテーブルに置いてから言う。

「買い出しだ。すぐに戻るであろうよ」

「へえ……。何を?」

「鯉のぼりが欲しいとか言っていたな」

 その言葉にシュウは唖然として、次いで苦笑した。外に出ればどこかの民家のものを見れるだろうに、鯉のぼりとは。

「さすがに他の家にあるような大きいものは買ってこないでしょう。それ以前にそこまでの金銭を渡していませんが」

「でも、それだといつ帰ってくるか分からないね」

「もう少し待ってから念話でも送ります」

 そんな会話を交わしながら、三人はお茶を飲んで雑談を続ける。

 レヴィとユーリが帰ってきたのは、それから一時間以上も後、正午前になってからだった。

「王様、鯉のぼりあったよ!」

 元気な声で報告するレヴィ。それを聞いたディアーチェが何を言っているのかと怪訝そうに眉をひそめる。聞いていたシュウも首を傾げた。レヴィの手にはそんな大きなものは何もないが、魔法か何かで収納しているのだろうか。

「はい、これ」

 そう言ってレヴィが差し出したのは小さなビニール袋。ディアーチェの表情がいよいよ困惑に深く染められる。ビニール袋を受け取ったディアーチェは中身を取り出して、む、と小さくうなった。出てきたのはプラスチックの棒にかなり小さな鯉のぼりがついたもの。

「……鯉のぼりだな」

「なるほど、小さくはありますが、確かに鯉のぼりです」

 シュテルが感心したようにうなずく。えへへ、とレヴィが嬉しそうに笑った。

「商店街のお店でたくさん飾っていたのでお願いしてきました」

 そう報告するのはユーリだ。ユーリの手にもビニール袋が握られ、中の小さな鯉のぼりが見て取れる。そのビニール袋を四袋も持っていた。つまりは人数分だ。

「これはシュウの分です」

 ユーリが差し出してきたものを受け取る。中から鯉のぼりを取りだしてしばらく眺め、薄く微笑んだ。

「ありがとう、ユーリ」

 お礼を言うと、ユーリが照れたように笑ってくれた。

 二人が帰ってきたのでシュテルがお茶を入れ直し、それぞれに配る。では、とシュテルが言う。全員で手を合わせ、いただきますと言った。

 シュウはまず柏餅を手に取る。一口食べて、相好を崩した。ほどよい甘さのあんこでとてもおいしい。続けて二個目も食べる。ふと隣を見ると、シュテルがこちらを見つめていた。

「どうでしょうか」

 少しだけ不安そうな声音。初めて作るものだから気になるのだろうか。シュウは頬張っていた柏餅を呑み込み、笑顔で言った。

「すごくおいしい! 柏餅はシュテルが作ったんだっけ?」

「はい。お口に合ったようで良かったです」

「いやほんとにすごくおいしいよ……。うん」

 続いてちまきを食べる。こちらはディアーチェが作ったと聞いている。それを思い出してディアーチェの方を見ると、ちまきを手に取ったシュウをこちらも見ていた。苦笑しつつ、口に入れる。ちまきは見たことはあっても食べたことがないため比較するものがないが、美味しいとは思う。なのでうなずいて言う。

「うん。おいしいよ、ディアーチェ」

「む……。そうか。いや待て、なぜわざわざ報告する」

「気にしてるかなって」

「気にしてなどおらんわ!」

 少し顔を赤らめてそっぽを向く。シュウは笑いながら、次のものに手を伸ばした。

 

 食事後はいつも通りの時間を過ごす。リビングでみんなとのんびり過ごし、雑談を交わす。いつもと違うのは、大量に作られた柏餅がテーブルにまだあることだ。時折誰かが思い出したように手を伸ばし、少しずつ数を減らしていく。夕方になってもまだかなりの量が残っていた。

「今日はみんな用事があるんだっけ」

 そう言いながらシュウは帰り支度をする。もっとも持ってきているものは何もないが。

「はい。すみません、シュウ。夕食もと思っていたのですが」

「いやいや、気にしないでよ」

 申し訳なさそうに謝ってくるシュテルにシュウは慌てる。こういう日もあるだろうとしか思っていないので改めて謝られると少し困る。ただ確かにシュテルの料理が食べられないのは少し残念には思うが。

 四人はそれぞれ何かしらの準備をしていた。デバイスの準備もしているため管理局から呼び出しでもかかっているのだろうか。ただシュテルは他の三人と違い、柏餅をせっせと袋に詰めていた。

「作りすぎましたから、ナノハたちにでも」

 どうやらこれから向かう先にはなのはたちもいるらしい。そっか、とうなずくシュウ。そんなシュウに、シュテルはおもむろに大きな袋を差し出してきた。驚いているシュウの目の前で、袋を少し揺らすシュテル。早く受け取れ、ということらしい。

 シュウは一先ず受け取って中身を確認する。柏餅とちまきがたっぷりと入っていた。

「もう飽きているかもしれませんが、捨てるのももったいないのでよろしければ」

「いやいや、飽きてない! いいの? 本当にいいの?」

「はい。もちろんですよ」

「おお! ありがとう!」

 嬉しそうに礼を言うシュウ。そんなシュウの様子を見て、シュテルは満足そうに一度だけうなずいた。

 そろそろ四人が出発する時間になったので、シュウは先に退室することにする。もらった柏餅とちまき、小さな鯉のぼりもしっかり持っている。

「それじゃあ、今日もありがとう。また呼んでね」

「はい。特に予定がなければ明日にでも」

「いいの? じゃあまた明日」

 いつものやり取りのあと、笑顔で手を振るシュウ。シュテルも小さくだが手を振ってくれた。

 

 帰宅後。シュウはちゃぶ台に小さな鯉のぼりを置く。柏餅とちまきを広げ、食べ始める。いくつ食べても飽きないおいしさだ。一つまた一つと数を減らしていく。

「晩ご飯としては栄養がちょっと悪いだろうけど……。うん。悪くない」

 幸せそうに食べ続けていた。

 

 

 Side:Stern

 シュウを見送った後、シュテルは部屋の中に戻る。すでに三人は支度を終えていた。シュテルも自分のデバイスを持って、お待たせしましたと告げる。

「よし、では行くか」

 そうディアーチェが告げると、レヴィがおー! と元気な声で返事をして、ユーリがはいと笑顔でうなずく。転移魔法で二人が先に転移した。

「……ところでシュテルよ」

 シュテルも転移魔法を使おうとしたところで王に呼び止められる。何か? と首を傾げると、

「あの大量の柏餅……わざとだな?」

「はい、そうですよ」

 真顔でうなずくシュテル。やはりか、とディアーチェは苦笑した。

「あんなものでも、用意しないよりはましでしょう。何も食べずに寝てしまうということもありそうですから」

「それはそうだな」

 ディアーチェは苦笑してうなずく。まだ短い付き合いだが、それぐらいは手に取るように分かる。先に行くぞ、と言ってディアーチェも転移した。

「さて、私も行きましょうか」

 そう言って転移魔法を展開する。転移の直前にテーブルに置かれたままになっている鯉のぼりが視界に入り、

「…………」

 シュテルはわずかに微笑んで、その場から姿を消した。

 




子供の日にちまきを食べるのは関西ならではの風習らしいですね。
少しだけ調べてみて知りました。今の今まで知りませんでした^^;
とりあえずはやてから聞いたということにしてつじつま合わせ。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。