また、オリジナルであるはやてにも少しだけスポットを当てています。
本棚が並び、大量の本に囲まれた館内。つまりは図書館にシュウはいた。特に目的があったわけではない。気まぐれに足を運んだだけだ。たまには書店ではなく図書館というのも悪くはない。特に座って落ち着いて読めるというのがいい。
シュウは三冊ほどの本を適当に選ぶと、隅に設置されているテーブル席に座って本を読み始めた。それが開館の十時ぐらいで、ふと気がつくともう昼前だ。今日の昼は特に約束もないので、このまま夜まで読もうかと思う。
「……何をやっておるのだ」
そう思っていた矢先に声をかけられた。振り返ると、少し不機嫌そうに立っているディアーチェがいた。その手には本が五冊ほど。シュウは少し驚きながらも、笑って言った。
「図書館だから本を読んでるよ?」
「そういう意味ではないわ」
ディアーチェは呆れ果てたとというようにやれやれと首を振った。少し待っておれ、と言ってカウンターの方へ歩いて行く。そこで持っていた本を全て渡すと戻ってきた。返却にきたらしい。
「シュテルはどうした?」
「今朝お弁当はもらったよ。ただ今日は一日用事があるからってどこかに行っちゃったけど。聞いてない?」
「む……。確かに言っておったが、貴様と一緒だと思っていたのだが……」
違ったのか、と意外そうに目を丸くするディアーチェ。だがすぐになるほどと何度かうなずいて、
「例の件か。ならば仕方ない」
「何のこと?」
「気にするな。こちらのことだ」
ディアーチェはそう言うと、本棚へと本を取りに行った。それを見送りつつシュウは首を傾げる。魔法関係のことなのだろうが、何一つ力になれないというのはもどかしいものがある。管理局の人に頼んでもう少し教えてもらうべきだろうか。
そんなことを考えていると、自分の背後に立った人影に気がつかなかった。本へと視線を落とそうとしていたシュウに声がかけられる。
「シュウ君」
振り返ると、そこにいたのは二人。一人ははやてだ。笑顔でこちらを見ている。
「こんにちは、やな。こんなところで会うとは思わんかったで」
「こんにちは、はやて。ちょっと驚いたよ。……で、そっちの人は誰?」
はやての奥、車椅子を押している女性に目を向ける。女性が一度だけ礼をする。
「この子はリインフォース。そう言えばまだ紹介してなかったな」
「初めまして。主はやてから話は聞いているよ。よろしく頼む」
そう言って手を差し出してくるリインフォース。シュウはその手を取ると、笑顔でよろしくね、と言った。
「そう言えばシュウ君は一人なんか? マテリアルの子は?」
「ああ、さっきディアーチェと会って……」
「な! 子鴉!」
シュウが切り出したところで、うろたえたような叫び声が上がる。見ると本を数冊抱えたディアーチェがはやてを見て固まっていた。そんなディアーチェを見てはやてが笑顔になる。
「王様! 奇遇やなあ、こんなところで」
「ちっ……。貴様が来ると知っていれば来なかったわ」
忌々しい、と吐き捨てるように言ってきびすを返すディアーチェ。去り際に、帰ると短く言い捨てる。そしてそのまま歩き去ろうとしたディアーチェを、
「ああ、待ってや王様! もうちょっとお話しようや!」
慌てて追いかけるはやてとリインフォース。そして少し離れた場所でなにやら言い合いを始めている。二人とも場所に気を遣ってか小声なため、内容までは聞き取れない。周囲の利用者も無反応だ。どこからかかすかに、今日もか、という苦笑の声が聞こえてきた。どうやらそれなりの頻度で起こっていることらしい。
初めてあの光景を見るとどうしても不仲に思えてしまうが、お互いにお互いの家を訪ねることもあるなど、関係は悪くないようだ。けんかするほど仲がいいとはよく言ったものだ。
しばらくして二人が戻ってきた。ディアーチェは不機嫌そうな表情だが、はやての方は反対にすこぶる機嫌がよさそうだ。いつも以上の笑顔を振りまいている。
「シュウ君。今日の夜は暇か?」
はやてがそう問いかけてくる。今のところ約束などはないのでうなずくと、嬉しそうに手を叩いた。
「ならご飯食べにこうへんか? 王様と料理勝負や!」
「どこからそんな流れになったのかいまいち分からないけど……」
一体どこから料理の話になっていたのだろう。想像ができないことに思わず苦笑してしまうが、料理勝負というのは見たことがないのでおもしろそうではある。
「うん。じゃあお邪魔するね」
そう言うと、よっしゃ! とはやてがガッツポーズをした。
その日は結局太陽が傾くまで図書館に居座っていた。夕方になり、買い出しに行くという三人と一緒に図書館を出る。
「それじゃあ材料を買いそろえたらあたしの家に集合な。王様、すっぽかしたらあかんで?」
「たわけ。貴様こそ忘れてたなぞぬかすなよ」
そう言って二人は途中で別れる。はやてにはリインフォースがいるので、シュウはディアーチェの方についていくことにした。シュウがついてくることを確認したディアーチェは、しかし何も言わずに黙々と歩く。シュウも黙ってその後についていく。
最初の目的地のスーパーが見えたところで、ディアーチェが口を開いた。
「すまぬな、シュウ。つまらぬことに巻き込んでしまった」
シュウは一瞬驚き、すぐに笑う。何を気にしているのかと。
「いやいや、おもしろそうだし、いいよ。ご飯も食べられるし」
「そうか……。ならば良い」
ディアーチェはどこか満足したようにうなずくと、スーパーに入っていった。一緒に入ろうとしたところ、公平にならないから待っておくように言い渡された。
買い物が終わり、八神家に到着する。想像していた家よりも一回り大きくシュウが驚いていると、玄関の前で二人を待っていたはやてがそれを見てまた笑う。
「アリサちゃんやすずかちゃんの家の方が当然やけどすごいで?」
「ああ……。まああの二人ならどんな豪邸でも不思議じゃないけど。金持ちだし」
それでも一度は見てみたいとは思う。ただ入ってみたいとまでは思わないが。
八神家の入ると、ヴォルケンリッターが出迎えてくれる。リビングへと案内してくれるのはシグナムだ。ディアーチェと視線が合うとどこか気まずそうにしている。
「ディアーチェ。シグナムさんと何かあったの?」
「気にするな」
「……はあ」
それはつまり何かあったということなのだろうが、教えてくれそうな気配はない。気にしないことにした。
リビングに通されて、ヴィータがお茶を持ってきてくれる。ごゆっくり、と緊張した面持ちで言う。少し可愛いと思ってしまった。
「まるで喫茶店だね」
思わずそんな感想が出てくる。丁寧にリビングへと案内され、お茶を出され。自分は何かしただろうか。
「シュウ君はお客様やから、ゆっくりしてな」
そう言ってキッチンへと向かうはやて。ディアーチェもそれを追う。
「えっと……。お構いなく。僕のことは気にしないでね」
一応そう言っておくが、他の飲み物はどこだお茶請けはどこだと右往左往を続けているので自分の声は届かなかったようだった。
出されたお茶を飲みながらテレビのバラエティ番組を見ていると、キッチンからはやてが出てきた 手にはお盆、その上には炊きたてご飯と肉じゃが。
「おお! 肉じゃが!」
思わず歓声を上げるシュウ。肉じゃがなどかなり久しぶりだ。目の前に並べられていくと期待感が高まる。
「みんなの分ももちろんあるからな。でもちょっと待ってな?」
「はい、大丈夫です」
「今回の主役はシュウ君ですから」
シグナムとシャマルがそう応じる。はやては一つうなずくと改めてシュウに向き直った。
「それじゃあ……。どうぞ、シュウ君。一応それなりに自信はあるよ?」
「それは楽しみだ! じゃあいただきます!」
手を合わせ、肉じゃがを食べ始める。ご飯も食べる。久しぶりに食べる肉じゃがは、そう言えばこんな味だったなと少し懐かしさも感じられた。あっという間に食べ終え、ふう、と一息ついて箸を置く。
「ごちそうさま。すごく美味しかった!」
「はい、お粗末さんでした。いやあ、そんな美味しそうに食べてくれると、あたしも嬉しいわあ」
上機嫌に言うはやて。シュウは料理はしても食べてもらうことはないのでその感覚はあまり分からないが、そういうものなのだろう。だからこそ正直に言うようにはしているのだが。
「では次は我だ」
キッチンから出てきたディアーチェも盆を持っていた。その上にはとろとろのチーズが入ったカレー。それをシュウの前に置く。
「おお! チーズカレーだ!」
「反応同じだな」
思わずヴィータが言うが、シュウは気にしない。目の前に出されたチーズカレーで頭はいっぱいだ。エサを与えられた子犬のごとく、じっとディアーチェの言葉を待っている。
「……待たなくていい。さっさと食べろ」
「いただきます!」
シュウはスプーンを手に取ると、すさまじい勢いで中身を減らしていく。肉じゃがと同じく、こちらもあっという間に食べ終えてしまった。
「おいしかった! いやあ、すごく満足だ」
幸せそうに言うシュウ。出した側としてもそれを聞ければ満足だ。だが、今回の名目は料理勝負でもある。作って食べて終わり、というわけではない。
「それで、シュウ君。どっちが美味しかった?」
はやてに聞かれ、ああそうかと思い出す。今の今まで勝負のことなど忘れていた。腕を組んで少し考える。肉じゃがの味を思い出し、カレーの味を思い出し……。そして出た結論は一つだけだ。
「うん。分からないね。せめて一緒の料理を作ってもらわないと」
「ああ……」
「そうであろうな……」
はやては苦笑し、ディアーチェがため息をつく。二人ともどうやらこの結果を察していたらしい。ならなぜもう少し打ち合わせをしなかったのかと言いたいところだが、ディアーチェがそれを拒否していそうなので何も言わないでおく。
「それでもどちらかと言えば、ディアーチェかな。僕の好みの問題だけど」
はやてとディアーチェがそろって目を丸くして、次いではやてが肩を落とし、ディアーチェが得意気に表情を綻ばせる。当然の結果だというように。
「シュウ君の好みを知ってるだけあるなあ……。でも次は負けへんで?」
「ふん。次も返り討ちにしてやるわ」
そんな会話を交わす二人。やはり関係は良好なのだろう。むしろこうして見ていると、二人はまるで、
「姉妹みたいだね」
思わず声に出してしまった。そしてその反応は劇的だった。ヴォルケンリッターたちが表情を強ばらせ、はやてが喜色満面になり、ディアーチェが憤怒の形相になる。先に口を開いたのははやてだった。
「やっぱりそう見えるか? 見えるよな? いやあ、さすがシュウ君や!」
「誰が姉妹だ! 誰と! 誰が!」
叫ぶのはディアーチェだ。えー、とはやてが不満を言う。
「あたしは姉妹でもいいと思うけどなあ。お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんやで?」
「誰が呼ぶか! 阿呆が!」
「じゃあ逆か? お姉ちゃん」
「貴様……! 表に出ろ! ジャガーノートを食らわせてくれる!」
どうやら自分が発した一言はちょっとした爆弾だったらしい。だがこれすらもいつものことなのか、ヴォルケンリッターたちはすでに立ち直って自分たちの夕食の準備を始めている。
「つれないなあ、王様。あたしは王様のこと、好きやで?」
「黙れ子鴉! 我は貴様などとは会いたくないわ!」
「そんな……それはひどいわ……」
はやてが涙声になると、ディアーチェが珍しく狼狽する。
「な、なぜそうなる……。待て、我はそのようなつもりでは……」
「なんて、冗談やけどな」
「子鴉貴様あ! 表に出ろおおぉぉぉ!」
騒ぐ二人。食事の準備を終え、主を待つヴォルケンリッターたち。シュウはその光景を見て、今日も平和だなあ、と微笑んだ。
Side:Hayate
シュウとディアーチェを見送り、はやては玄関のドアを閉じた。少しだけ寂しげにその扉を見つめ、そしてリビングに戻る。
「彼女は少し柔らかくなりましたね」
リインフォースがやってきて車椅子を押してくれる。はやては微笑むと、うなずいた。
「うん。シュウ君のおかげやろうな」
ずっと彼女たちのことが気になっていた。特に今後についてをだ。今後についてのことはまだこれから決めていかねばならないが、シュウがきっと良い方向に導いてくれることだろう。なぜだかそんな確信がある。
「これからもよろしくな、シュウ君」
新しい友人に向かって、はやては楽しげにそうつぶやいた。
今回一番書きたかったのは最後の掛け合いだったりします。
口ではああ言っているけど、王様とはやてはなんだかんだと仲がいいのではないかなと。
そんな妄想を形にしています。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。