ギフテッド   作:龍翠

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今回はユーリメインです。


第十七話 労働

 ある日の午前。シュウが自室の掃除を済ませ、お茶を飲みながら一息ついていると、突然の来訪客がやってきた。ドアを叩き、シュウを呼ぶ声が聞こえてくる。

「シュウ! 開けてください! お願いします!」

 この声はユーリか。シュウは、どうしたのかなと疑問に重いながらも立ち上がり、玄関へと向かう。ドアを開けると、果たしてそこにユーリがいた。シュウの顔を見て、嬉しそうにぱっと顔を輝かせる。いつの間にやら慕われたものだ。なぜかは分からないが。

「シュウ! お願いしたいことがあります!」

「うん。とりあえず入って」

 続けて口を開こうとしたユーリを宥め、自室へと招き入れる。ちゃぶ台の前に座ったユーリに冷たいお茶を出し、自分はその向かい側に座ってからどうぞと手で合図をした。お茶を飲んで落ち着いたのか、ユーリがうなずいて話し始める。

「実はディアーチェたちに何か贈り物をしようと思っています」

「へえ。なんで?」

「え? えっと……。お世話になったらプレゼントをしないといけないって、テレビでやってました」

 なるほど、とシュウはうなずく。間違ってはいないのだろうが、そんな突発的に上げるものでもないとは思うが。だがあの三人ならきっと喜ぶだろう。ユーリが望むのなら、それを手伝うぐらいはしよう。

「何を買うの?」

「それはえっと……。秘密です!」

 なるほど、つまりプレゼント選びかな。そう考え、あの三人ならどんな物なら喜ぶだろうと考え始める。だが、次の言葉にそんなものは吹き飛んだ。

「だからシュウ! お仕事を紹介してください!」

「いきなり難易度上がったね! いやさすがに無理だから!」

 それ以前になぜいきなり仕事ときたのか。そう聞くと、ユーリは少し難しい表情をした。

「今のお金は、管理局の皆さんに協力することでいただいているお金です。みんなでもらっているお金です。ちゃんと、自分でお金をもらって、それで贈り物をしたいんです」

「気にしすぎだと思うけどなあ……」

 以前、シュテルから家計のことを少しだけ聞いたことがある。管理局の嘱託魔導師として働き、そこからお給料をいただいていると。食費などの必要なお金以外はそれぞれ均等に四人に分けているそうだ。その分けられたお金ならユーリが自分で稼いだお金と言っても大丈夫だと思うのだが、どうやらあまり納得はしていないらしい。

 じっとシュウを見つめてくる。期待に満ちた眼差しで。こうなると、シュウもさすがに断れない。シュウは小さくため息をつくと、立ち上がった。

「分かった。ただ僕もそういったお願いができるところは限られるから、期待はしないでね」

「はい! ありがとうございます!」

 ユーリの笑顔を見て、まあ悪くないか、と納得してしまった。

 

「というわけです」

 相手に簡単な成り行きを説明する。相手は納得したように何度かうなずいて、笑顔を見せた。

「分かったわ。接客とかなら大丈夫かしら?」

 この人なら了承してくれるだろうと思っていたが、まさかこんなに軽く引き受けられるとは。シュウはユーリを前に出して、お願いしますと頭を下げた。

 かくして、ユーリはエプロンを着用する。翠屋のエプロンを。

 

「い、いい、いらっしゃいませ……!」

 入り口で緊張した面持ちで挨拶するユーリ。来店したおばさん二人はユーリを見ると少し目を丸くし、すぐに柔和な笑顔を浮かべた。かがんでユーリと目線の高さを合わせる。

「あらあら、かわいい店員さんね。どこの子?」

「あ、えっと……。その……」

「ちょっと、お仕事の邪魔をしちゃ悪いでしょう? それじゃあ席に案内してもらえる?」

 二人からの続けざまの言葉にユーリは一気に泣きそうな表情になる。助けを求めるように周囲を見回す。それに気づいたアルバイトの人がすぐにフォローに入りにきた。おばさん二人がアルバイトの人に案内されながら、それじゃあねとユーリに手を振る。ユーリはずっと固まっていた。

「うん。無理そうだ」

 桃子から与えられた仕事は、来店したお客様を空いている席に案内する、というものだった。この時間帯に来る人は急いでいる人もいないので、少しぐらいの失敗は大目に見てもらえるからというものだったのだが。

 ――失敗する前に挑戦すらできてないね。

 シュウは苦笑すると、席を立った。人見知りするユーリにこの仕事は難易度が高い。残念だが断ることにしよう。

 

 また何かあったらいつでも来てね、という桃子の言葉に見送られ、シュウはユーリを連れて翠屋を後にした。ユーリは茫然自失としている。おそらく自分でもあそこまで何もできないとは思ってもみなかったのだろう。シュウは苦笑すると、さて、と仕切り直しにかかった。

「次に行こうか」

「次……ですか?」

 不安げにこちらを見つめてくるユーリ。シュウはうなずくと、

「とりあえず、アースラに行こう」

 そう言って、ユーリに手を差し出した。

 

「なるほど、事情は分かった」

 そう言ってうなずいたのは執務官のクロノだ。二件目にして早くも最終手段の管理局頼みだ。そのことに自分が少し情けなくなるが、こればかりは仕方が無い。

「とりあえず艦長に聞いてくるよ。待っていてくれ」

 クロノはそう言ってその場を後にした。二人はそれを見送り、お互いに無言でクロノが戻ってくるのを待つ。

 やがて戻ってきたクロノは二枚の書類を持っていた。それを二人に差し出して、言う。

「ユーリにはこちらの仕事を。心配することはない、ただの資料運びなどの雑務だ。難しいことはないし、人と話すことも最小限で済む。これなら大丈夫だろう?」

 安堵のため息をついてうなずくユーリ。続いてクロノはシュウに言う。

「せっかくだから君も体験していかないか? 基本的にはユーリと一緒だ。ユーリも君と一緒の方が安心できるだろう」

 もとよりユーリと共に行動するつもりだったが、お墨付きをもらえるならその方がいい。クロノの言葉に、シュウはありがとうとうなずいた。クロノもうなずきを返し、言う。

「それじゃあ仕事の内容を説明するよ。終わりの時間は君たちに任せる」

 そう前置きして、クロノの説明が始まった。

 

 仕事の内容は単純だったが、それ故にハードだった。資料室から各部屋への往復をかなりの回数こなしている。一つの部屋に資料を持って行けば、次はこちらを頼むと指示される。それの繰り返しで、二人は常に足を動かしていた。ただ、それでもしっかりと仕事ができていることが嬉しいのか、ユーリは嬉しそうに続けている。ほとんど巻き込まれただけの体に近いシュウも、その表情を見れただけで十分だ。

 時折休憩を挟みながら、ひたすらに資料を運び続ける。使い終わった資料を元の部屋に戻すのも二人の役目だ。ひたすらに何往復も繰り返し、やがて海鳴市の時間で午後六時を回ったところでクロノから連絡が入った。そろそろ終わろうか、と。

「も、もう少し……!」

 ユーリが言って、クロノが苦笑する。

「気持ちはありがたいが、そろそろ君たちを送り返さないと僕が怒られるんだ。誰から、とは言わなくても分かるだろう?」

「う……。はい、そうですね……」

 ユーリがうつむいてうなずき、シュウは少し想像する。ディアーチェやシュテルが怒っている様を。今日は七時から夕食だと聞いている。そろそろ帰らないといけないだろう。

「それじゃあ、最後に艦長室に行こうか。艦長が待っているから」

 そう言うクロノに先導されて、二人は艦長室に向かう。さほど歩きもせずに艦長室にはたどり着いた。どうやら最後の資料運びは艦長室の側を意図的に選んでくれたらしい。

 失礼します、と言ってクロノが室内に入る。シュウとユーリも、やや緊張した面持ちで入室した。

「いらっしゃい、シュウ君、ユーリさん」

 和室のようなそうでないような、何とも微妙な部屋を見てシュウは苦笑した。聞いてはいたし知ってはいたが、何度見てもこの部屋は慣れない。シュウとユーリはクロノに促され、リンディの前に座る。

「今日は本当にありがとう。仕事が捗ったって、みんな喜んでいたわ」

「いえ。こちらこそ急なお願いを聞いていただいてありがとうございます」

 答えるのはシュウだ。ユーリはシュウの影で小さくなっている。その様子もいつものことなのか、リンディも何も言わず淡く微笑むだけだ。

「それじゃあ、どうぞ」

 リンディが封筒を二封差し出してくる。シュウとユーリがそれぞれ一封ずつ受け取り中身を確認すると、五千円札が入っていた。シュウが、うあ、と妙な声を漏らす。

「いいんですか? こんなにもらって」

「ええ、もちろんよ。正当な対価だから」

 リンディは笑顔でそう言う。ただ資料を運んでいただけなのにとは思うが、とりあえずはリンディの好意に甘えてありがたく受け取ることにした。

「ありがとうございます」

 シュウが礼を言うと、ユーリも頭を下げた。リンディはいえいえと手を振る。

「また良ければ手伝ってね。歓迎するわ」

 リンディに見送られ、二人は艦長室を後にする。そのままクロノに地上まで送ってもらい、アースラを後にした。

 

 ユーリは何を贈るか決めていたらしい。帰りにデパートに寄ると、ユーリは大急ぎで買い物を済ませていた。シュウは入り口で待つ。十分程度で戻ってきたユーリの手には大きめの紙袋があり、中にはラッピングされた箱が三つ収まっていた。

「お金は足りた?」

「ばっちりです!」

 嬉しそうに言うユーリ。シュウも満足そうにうなずくと、マンションへと向かう。

 マンションにたどり着いたのは午後七時になりそうな時間だった。ユーリがドアを開けてただいまと言うと、奥から誰かが駆けてくる音。すぐにディアーチェが姿を現した。

「ユーリ! 戻ったか! 今までどこに……!」

「ごめんなさい、ディアーチェ。ちょっとお買い物に行っていました」

 嘘は言っていない。シュウは隣で思わず苦笑してしまう。ひとまずユーリと共に室内に上がりリビングに向かうと、すでに夕食が並んでいた。ハンバーグだ。

「わ! ハンバーグです!」

「はい。冷めないうちに食べてください」

 そう言ったのはシュテルだ。すでに席について、全員分のご飯を準備している。レヴィは待ちきれないとばかりに目を輝かせていた。

「あ、その前にですね……。これを、三人に……」

 ユーリが紙袋からラッピングされた箱を取り出すと、三人に渡す。三人はそれぞれ大なり小なり驚いた様子だった。

「ありがとうございます、ユーリ」

 最初に言ったのはシュテルだ。続いてディアーチェ。

「突然どうしたというのだ……。いや、ありがたく受け取っておく」

「ユーリ、ありがとー!」

 最後にレヴィ。ユーリは何かやり遂げたかのように、少し誇らしげな表情をしていた。全てを知っているシュウはそれを微笑ましげに眺める。そして、シュテルも。

 

 食事後。シュウは玄関に向かう途中でシュテルに呼び止められた。

「シュウ。ありがとうございます。わざわざ連絡していただいて」

 気にしないで、とシュウは笑う。今回の顛末は資料運びの合間を縫ってシュテルに連絡済みだった。実は今日の夕食も、一日がんばったユーリを労うためのメニューだった。

「ちなみに、何をもらったの?」

 シュウが聞くと、シュテルは首を振って言う。

「秘密、ということで」

「そっか。分かった」

 大人しくうなずき、シュウは玄関へと向かった。

 

 

 Side:Yuri

 シュウを自宅へと送るために、シュウの隣をユーリは歩いていた。歩きながら、今日一日の出来事を振り返る。何から何までシュウに頼りっぱなしだった。

「シュウ」

「ん?」

「今日は、ありがとうございました」

 せめて心からのお礼を口にする。するとシュウは、

「いや、僕も貴重な体験ができて良かったよ」

 そう笑顔で言ってくれる。いつもの、屈託のない笑顔だ。その笑顔を見ていると、ユーリも自然と笑みがこぼれてくる。

 いつかは、私もみんなを支えられるようになりたい……。

 そんなことを心に思いながら、ユーリは今日もシュウの隣を歩いた。

 




ユーリが何を贈ったかは秘密です。
……いや、全然決めていないだけですけども。

次回からは3話連続でシュテルメインになります。
また、十九話と二十話は主人公の出自に関わる話になる予定です。
なので興味ない人はスルーしてください~。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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