ギフテッド   作:龍翠

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今回はシュテルメインです。
一番最後の段落は、出自に関して興味がなければスルーしてください。


第十八話 七夕

 とある家の夜の庭。シュウはそこで呆然と立ち尽くし、考える。なぜこうなった。

 目の前ではどこから持ってきたのか、大きな笹が飾られている。知り合いたちが願い事を短冊に書き、吊していく。庭にはテーブルが出され、様々な料理が並べられていた。こういう行事ではなかったはずだが。

 シュテルとなのはが二人で短冊に何かを書いて、なのはが笑ってシュテルが嘆息している。あまり見ない光景なので少し新鮮だ。こういうのもいいなとは思うのだが、それでもやはり、なぜ自分もここにいるのだろうとは思う。

 高町家の庭で、シュウはそう思った。

 

 発端は学校から帰る時だった。さて帰ろうと帰宅の準備をしていると、なのはが駆けてきた。どうしたのかと首を傾げていると、なのはが目の前で息を整えてから言う。

「ねえ、シュウ君。今晩、暇かな?」

 突然の問いかけ。クラスメイトの何人かが驚いて二人を見るが、シュウとなのはは気づかない。

「シュテルとの約束があるけど、どうしたの?」

「シュテルもあとで誘うつもりだったんだけど……。よければ家に来ない? お父さんが葉竹をもらってきてるから、みんなで願い事を書こうってことになってるの」

「……ああ。そう言えば今日は七夕だっけ」

 完全に忘れていた。そういった行事とは縁が無かったので当然と言えば当然なのだが。なのははどうかな? と少し不安げにこちらをうかがっている。

「分かった。シュテルには僕から聞いておくよ。多分大丈夫だとは思うけど」

「ほんとに? ありがとう! じゃあお願い!」

 嬉しそうに笑うなのは。シュウは了解、と一つうなずくと、教室を後にした。

 夜までの時間はさほど長くない。シュウは自宅には戻らずに、そのままシュテルたちのマンションに向かう。シュテルたちにも準備があるだろうと考え、道すがら携帯電話でシュテルに連絡をすることにした。

『はい、シュテルです』

 一コールで出たことに驚きつつ、シュウは歩きながらなのはからの誘いを説明した。するとシュテルは、七夕ですかとつぶやき、しばらく考え込む。のんびりと次の言葉を待っていると、やがて分かりましたとの返事があった。

『ではナノハのご自宅に伺いましょう。王やレヴィたちにも伝えておきます』

「うん。よろしくね」

 電話を切って、そろそろ急ごうかとシュウは走り始めた。

 

 マンションでシュテルたちと合流して高町家へ向かう。道中、レヴィやユーリはとてもテンションが高かった。七夕って何をするんだろうねー、とそんな言葉を交わしている。シュウが首を傾げてシュテルとディアーチェを見ると、行けば分かると答えたとのことだった。

「きっとあれだよユーリ! お団子が食べられるんだ!」

「いやそれはお月見だから」

 苦笑しつつ訂正する。実際にあちらでどういったことをするのか聞いていないが、あまり期待させてしまうのはいけないだろう。とりあえずはハードルを下げておこうと思う。

「じゃあ何を食べるの?」

「……食べることから離れようか……」

 レヴィの中では行事と食べ物かイコールで繋がっているらしい。確かにほとんどの場合は間違いではないが、さすがにそればかりというわけではない。

「まあ、行ってからのお楽しみということで」

「はーい」

 元気よく返事をするレヴィとユーリ。うなずくシュウ。後ろで見ていたディアーチェが、

「どこの父親だお前は」

 呆れながらそんなことを言って、シュテルがため息をついていた。

 

 高町家に到着し、インターホンを押そうとしたところでなのはが笑顔で出てきた。押そうとしていた体勢のままシュウが驚いて目を丸くする。

「よく気づいたね……」

「うん。シュテルからの念話で」

 なるほど、便利だ。こういった時は少し羨ましくなる。

 なのはに案内されて敷地内へ。建物には入らずにそのまま庭へ向かう。どこから調達してきたのか、そこには立派な葉竹があった。その周囲にテーブルが並び、料理が所狭しと並べられている。レヴィがそれを見て目を輝かせたのは言うまでもないだろう。七夕について間違った解釈をするのではと思うが、いずれ正せばいいかと今は何も言わないでおく。

 こちらを認めた何人かが向かってくる。フェイトとはやてだ。

「レヴィ! 来たんだね」

「来たよー! おいしいものが食べられると聞いて!」

「あはは。うん。たくさん食べられるよ」

 そう言いながらフェイトはレヴィの手を取ると、テーブルの一つへと連れて行く。レヴィも喜んでフェイトに連れられていった。

「王様、これはあたしが作ったんよ。食べてな?」

「ふむ。……なるほど、なかなかの見た目だ」

「いや味! 食べてって!」

 いつの間にかディアーチェもはやてと一緒にいる。はやてがきれいに盛りつけられた皿をディアーチェに押しつけようとして、対するディアーチェはそれを無視して感心した様子で葉竹を眺めていた。少しぐらい話してあげても、と思っていると、ディアーチェがおもむろにはやての料理に手を伸ばし、口に入れる。

「うむ。悪くない」

 ぶっきらぼうなその言葉。はやてはしばし唖然とした後、すぐに嬉しそうに笑った。

「願い事用の短冊。ちゃんと五色あるよ」

「なるほど。では一枚いただきます」

 シュテルはなのはと短冊に向かっている。どうやらこれから願い事を書くらしい。

「みんなとずっと仲良しでいられますように、と」

「ナノハを倒せますように」

「ひどい!」

「冗談です」

 いい関係だなあ、と二人のことを眺めた後、いつの間にかユーリの姿までなくなっていることに気がついた。周囲を見回すと、高町家の家族に囲まれていた。

「へえ、君がユーリちゃんか! かわいいなあ……」

 あの人は確かなのはの姉だったか。その母親がユーリを撫でながら、またいつでも翠屋に来てねと楽しそうに言っている。どうやら先日働いた時にとても気に入られているらしい。ユーリは困惑しているようだが、しかし嬉しそうでもある。

 そして自分は一人、取り残されていた。

「……何だろうこの疎外感は」

 苦笑して、シュウは短冊に手を伸ばした。

 そして今に至る。

 料理に舌鼓を打ち、短冊に願い事を書き、親しい者と談笑し……。そんな中で、シュウは一人だけ庭の隅で短冊を睨み付けていた。願い事を書こうとは思ったのだが、何も思い浮かばない。料理にも手をつけず、ずっと考え込んでいる。

 腕を組んで唸っていると、ジュースの注がれたコップを差し出された。少し驚いて顔を上げると、シュテルが立っていた。

「オレンジジュースです。ずっとここにいますね」

「ありがと。うん、ちょっと輪に入りづらいかな」

 ここにいるほとんどの者は魔法の関係者、またはその家族と友人だ。なのはたちがどのような事件に直面したか知っている人たちだけだ。自分は簡単に話を聞いただけの部外者。そんな自分が輪に入れるはずがない。

「そんなことは誰も気にしないと思いますが」

「うん。僕が気にする」

「そんなものですか」

「そんなものです」

 オレンジジュースを一口飲み、のどを潤す。少し空腹も感じ始めてきた。

「こちらもどうぞ」

 そう言ってシュテルは料理が載った皿を差し出す。盛られているのはサンドイッチだ。礼を言って受け取り、口に入れる。すっかり慣れ親しんだ味だ。

「……あれ? これって」

「はい。私が作ってきたものです」

 こともなげにシュテルは言い、シュウはそっかとつぶやいて口を動かす。呑み込んで、笑顔で言った。

「うん。さすがシュテル。美味しい」

「誰が作っても材料が同じなら変わらないとは思いますが……。光栄です」

 その後は静かな時間が流れる。サンドイッチを頬張りながら、目の前の賑わいを眺める二人。輪の中には入らずに、シュウは傍観者の立場を貫く。これで、いい。

「そう言えば、なのはとはもういいの?」

 ふと疑問に思いそう尋ねると、シュテルが小さくうなずいた。

「ナノハから、シュウのところへ行くべきだと」

「ふうん。なんで?」

「なぜでしょう?」

 二人して首を傾げる。考えても理由は分からず、二人はすぐに、まあいいかという結論に達した。会話が止まってしまったので、今度はシュウから問いかける。

「シュテルは願い事はもう書いたの?」

 問われたシュテルは一つうなずき、指で指し示す。すでに吊されている短冊の数は結構なものになっているので分からないが、あのどれかにあるのだろう。内容を聞くと、秘密ですと言われてしまった。

「僕はどうしようかな」

「思い浮かんだものを書きましょう。一枚だけとは言われていませんし、思いつく全てを書いてもいいと思いますよ」

 シュテルの言葉に、なるほどとうなずく。全て書いてもいいなら、これは書いておきたいというものがある。ただ見られるのが恥ずかしくて書いていなかったものだが。シュウは短冊に文字を書くと、とりあえず一枚目と笑顔で言った。

「あとは……」

 短冊をもう一枚手に取り、少し考える。そして思い浮かんだものは、自分にこんな感情がまだあったのかというものだった。思わず自嘲を漏らすと、シュテルが首を傾げてくる。何でも無いよと笑い、とりあえずそれも書いておいた。

「二枚目。あともう一枚」

「意外と欲張りですね」

「そうかな? そうかも」

 笑いながら、三枚目はすぐに書き終えた。それを葉竹へと持って行き、吊す、すぐに戻ってきた。シュウの短冊には誰も気づかない。

「何を願いましたか?」

「ん? 秘密」

 何か飲み物を取ってくる、と言ってその場を離れる。吊した後に書いた内容を後悔した。さすがに少し恥ずかしい内容だ。近くのテーブルからジュースを取ってくると、すぐに庭の隅へと引き返す。だがそこにシュテルはおらず、

「……あ」

 葉竹の、シュウが吊した短冊の真下にシュテルがいた。

 書いた一枚を思い出し、少し恥ずかしそうに頬をかく。葉竹の方に行くと、シュテルが少しだけ振り返り、すぐに視線を戻す。

 一枚目。

『家族と仲直りできますように』

 自然とこれを書いたということは、自分はやはりまだ家族の中に戻りたいと思っているらしい。自覚はないが。

 二枚目。

『シュテルたちとずっと一緒にいられますように』

 シュテルはその短冊を見て、固まっていた。シュウ自身は顔が真っ赤になっている。

「えっと……。あまり見ないでほしいかな……?」

 シュウが遠慮がちに言うと、シュテルは振り返り、すみませんと頭を下げてきた。慌てて手を振るシュウ。

「別に怒ってるわけじゃないから……!」

「シュウ」

「あ、え、なに?」

 真剣な声で名前を呼ばれ、姿勢を正してしまう。シュテルはそんなシュウの手を取ると、ほんの少しだけ微笑んだ。

「貴方が望むのなら、私は……私たちは貴方の側にいますよ」

 シュウが目を大きく見開く。シュテルはまたいつもの無表情に戻り、それだけです、と締めくくった。

「……ありがとう、シュテル」

「いえ」

 手を繋ぎ、葉竹を眺める二人。シュウは、今の生活が続きますように、そう心の底から願っていた。

 

 そんな二人を眺める三人。アリサとすずか、それになのはだ。

「なかなかいい雰囲気じゃない? あとはシュウに度胸があれば!」

「度胸も何も、これだけ人が多いと無理だと思うよ? アリサちゃん」

「にゃはは……」

 少しだけ羨ましそうに、だが温かく見守っていた。

 

 

 三枚目。

『みんなの願い事が叶いますように』

 その短冊は、瞬きの間もないほどの一瞬、淡く発光した。だが誰もそのことに気づかなかった。

 




毎度毎度書き終わるのが12時10分前というのはどうにかしなければいけない気がします。
早く寝ないと、仕事に響きますし。

ほんのちょっぴり、最後のあがきで伏線らしきものを放り込みました。
あとは誰かに語らせるだけです。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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