それ以上に主人公の出自関連です。
興味のない方は回れ右推奨です。ご都合主義全開ですからねー!
「…………」
シュテルたちのマンションのリビングで、シュウはどんよりとした空気に包まれていた。時刻は朝八時。少し前に管理局からの呼び出しを受けてレヴィが向かったのだが、レヴィですら話しかけようとしないほどにシュウの周囲はとても重い。
シュテルとディアーチェはそんなシュウの様子をうかがいつつ、対応に窮している。なにせここまで気落ちしているシュウは初めて見る。声のかけ方からして分からない。
しばらくシュテルとディアーチェは視線を交わしていたが、やがてシュテルが小さくうなずいた。シュウに向き直り、言う。
「シュウ。どうしたのですか? 私たちでよければ聞きますが」
シュテルの言葉を聞いて、シュウは胡乱な瞳をシュテルに向けた。シュウがゆっくりと笑顔を作る。だが顔のあちこちが引きつっており、笑顔とは言えないものになっている。
「明日……」
「はい」
「父さんから呼び出しを受けた……」
「……はい?」
予想外の言葉にシュテルだけでなくディアーチェも眉をひそめた。シュウの両親はシュウをあからさまに避けて遠ざけているようだったのだが、そのシュウを呼び出してどうするつもりだろうか。
「目的が分からなくて行くのが嫌だ……」
いっそのこと無視しようかとも思ったが、学費や生活費などは出してもらっている以上、そんなことはできない。理由も目的も分からないが、行かないという選択肢は初めからない。
「なるほど、それで朝から元気がないのですね」
シュテルが納得したようにうなずき、シュウは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんね、気を遣わせちゃって……」
しっかりと頭を下げるシュウに、シュテルがいえ、と首を振る。それでもシュウは頭を上げられない。やがてシュテルが、つまり実家に帰ると? と会話を続けてきた。
「うん。一応そうなると思う。まあ話をしたら帰ってくるけどね」
なるほど、とシュテルが考え込む。どうしたのだろうかと首を傾げていると、やがてシュテルが、分かりましたと一つうなずいた。
「では私もご一緒しましょう」
「……へ?」
「一人だから不安なのでしょう。それとも、私では役者不足でしょうか」
「い、いやいやそんなことはもちろんないけど……!」
両親に一人で会うというのはかなり心細いものがあったので、シュテルの申し出は正直嬉しいものだ。だが、シュテルの意図が分からない。自分の父親の態度は以前一度見て知っているはずだ。もう一度会いたいとは思わないだろうに。
「理由でしたら、この世界の他の土地も見てみたいというだけです。他意はありません」
シュウの表情からシュウが何を気にしているのか察したのだろう、シュテルがそう言った。シュウは未だに納得していなかったが、来てくれるなら、とシュテルの申し出をありがたく受けることにした。さすがにシュテルに不快な思いはしてほしくないので、実家に行く時は別の場所に待機しておいてもらえばいいだろう。
ではそういうことで、とシュテルはうなずくと、ディアーチェに向き直った。
「王。すみませんが、明日は外出します」
「うむ。気をつけて行ってこい」
特に反論もせずに、ディアーチェは興味なさげにうなずいただけだった。
翌日。シュウとシュテルは朝の八時に合流して、九時の電車に乗った。シュウの実家まではここから少し遠く、新幹線で一時間ほど。時間にしては短いが、距離で考えるとかなりのものだ。電車賃も安くないので、呼び出しがなければわざわざ帰らなかっただろう。
両親の呼び出しは手紙によるものだった。その手紙には往復の金も同封されていた。一人分しかなかったため、シュテルの電車賃は出せなかった。涼しい顔で問題ないとは言っていたが。
新幹線では同じ列の席に座り、到着をのんびりと待つ。その間、シュテルは本ではなく、クリップで留められた紙束を見つめていた。文章が羅列してあるので何かの、おそらくは魔法関係の資料だろう。邪魔をしてはだめだろうと思い、シュウは到着まで眠ることにした。
新幹線から降りた後は各駅停車の電車に乗る。十駅ほどで降りた場所は、普通の町並みだった。高層ビルが建ち並ぶわけでも田園が広がるわけでもない。適度に田園があり、民家が並び、マンションが点在し、といった都会とも田舎とも言えない町。海鳴とさほど変わらないとも言える。
「ここ、ですか?」
「うん。あまり寄り道したくないから、行こうか」
いい思い出のあるところではない。それに、シュウの顔を覚えている人も少なくないだろう。寄り道せずに向かうことにした。
人目を避けるように大きな道を避けて歩く。時折遠回りをしていることにシュテルも気づいているだろうが、幸い何も言わずにいてくれた。そのことに心の中で感謝しつつ、歩を進める。一時間ほど歩いたところで、民家が並ぶ住宅街が見えてきた。その中の一軒、一際大きい建物へとシュウは向かい、門の前まで来たところでシュテルへと振り返る。
「この家ですか?」
「うん」
敷地の広さや家の大きさなどは八神家と同じようなところだ。ただ、シュウの実家は洋風に近い造りの家で、三階建てになっている他、地下室もある。昔はよく地下室を秘密基地と言って遊んだものだ。
「それじゃあ、シュテル。終わったら連絡するよ。近くに本屋さんがあったはずだから……」
「いえ、私も行きます」
「そこに……。え?」
シュテルの言葉にシュウが間抜けな声を出した。シュテルは変わらずの無表情で続ける。
「一人だと心細いのでしょう。心配しないでください。私は一切口を挟みませんから」
言われたシュウは、どうしようかと悩んでしまう。確かに一人で両親の顔を見るよりかはシュテルがいてくれた方が心強いが、そこまで巻き込んでしまっていいものだろうか。どうしようかと考えていたが、その思考は中断せざるを得なくなった。
「……何をしている」
実家から出てきた男、シュウの父親。シュウは驚いて振り返り、表情を強ばらせる。そんなシュウの手を、シュテルは黙って握ってくれた。
「さっさと入れ。近所に迷惑だ」
父がそう言って中へと消える。シュウは一つ深呼吸すると、ごめんねとシュテルに謝罪する。シュテルと一緒のところを見られた以上、選択肢はなくなった。一緒に行くしかないだろう。
「よろしくね、シュテル」
シュウの弱々しい声に、シュテルはしっかりとうなずきを返した。
父に通された部屋は、六畳ほどの和室だった。ちゃぶ台と座布団があるだけの部屋だ。何のための部屋かは詳しくは知らない。その部屋には先客がいて、母親が先に座っていた。母はシュウを一瞥すると、心底嫌そうに鼻を鳴らす。シュウは思わず苦笑しつつも、その向かい側に座った。シュテルはその隣だ。
「誰よ、その子」
母の投げやりな言葉。シュウは笑顔で答える。
「友達。心配してくれて、一緒に来てくれたんだ」
母は、あっそ、とそれほど興味もないのか、すぐに顔を背けた。
父が母の隣に座る。茶などは当然出ない。ちゃぶ台だけが間に座る不思議な空間。やがて父がおもむろに口を開いた。
「秀一。単刀直入に言う」
「なに?」
「引っ越してもらう」
「……な……」
突然の言葉にシュウは言葉を失い、シュテルはわずかに目を細めた。父はそんなシュウの様子など知ったことではないという体で言葉を続ける。
「転校の手続きは終えている。次の学校はさらに遠くなるが、気にすることでもないだろう。引っ越しの準備は自分でしろ。明日には業者が荷物を取りに行く」
矢継ぎ早に言う父。シュウの頭は真っ白になっている。なぜ、今まで放置していたくせに、突然転校なのか。意味が分からない。父がさらに言葉を重ねるより前に、シュウはちゃぶ台を叩いて父の言葉を止めた。
「……なんだ」
不機嫌そうな父の顔。シュウは少し怯むが、それで引き下がれるはずもない。
「転校は、嫌だ。友達がたくさんいる。今の家から離れたくない」
はっきりと拒否の意思を伝えると、しかし父は鼻で笑って一蹴した。
「お前に拒否権があるとでも思っているのか? いいから支度をしておけ」
あまりの横暴のシュウは怒りで我を忘れそうになるが、しかしぐっと目を閉じて首を振った。父の言う通り、自分に拒否権はない。父は父親であり、金を支払っているのもこの両親だ。自分には何の権利もない。シュテルたちと別れなければならないのは残念だが、仕方のないことなのだろう。
シュウがため息とともにシュテルへと振り返る。そして、絶句した。
シュテルは静かにシュウの両親を睨み付けていた。不愉快だからといった理由の目ではない。明らかに敵を見る目だ。だが、シュテルはシュウが見ていることに気がつくと、すぐにいつもの無表情に戻った。
その後はほとんど会話もなく部屋を出た。両親は当然見送りに来ない。意気消沈したまま玄関まで歩いていると、
「あ……」
「……!」
車椅子の少女が玄関で固まっていた。シュウを見て、言葉を失っている。
「お兄ちゃん……」
少女の、妹の声。だがシュウは何も言わず、妹の横を通り過ぎて靴を履く。
「また、逃げるんだね」
妹の声。シュテルが振り返ろうとするが、シュウがそれを止める。
「……行こう」
「分かりました」
妹には何も声をかけずに、シュウは実家を後にした。
今更。今更何を言えるというのか。自分を恨む妹に対して、何を。
駅までたどり着いたところで、シュウは大きなため息をついた。家に帰ってから忙しくなる。心の準備もしなければならない。
――せめて、海鳴に着くまでに……。
そう決心してシュテルへと振り返る。だがシュウの思惑に反して、シュテルは天を仰いで目を閉じていた。少し嫌な予感がしつつもシュテルの言葉を待つ。そしてシュテルの言葉は、予想通りのものだった。
「すみません、シュウ。仕事が入りました。先に帰っておいてください」
「え? いや、でも……」
どうして、と思う。こんなタイミングで。今でなくていいだろうに。
「すみません。ではまた」
シュテルはそう言って、きびすを返して歩いて行く。シュウにはその背中を、呼び止めることなどできなかった。
Side:Stern
シュテルは来た道を戻り、やがてシュウの実家へとたどり着く。インターホンを押すと、シュウの両親が出てきた。シュテルを見て、わずかに驚いた様子だった。
「忘れ物か? ならさっさとするといい。ずっと無言で何をしに来たのやら……」
後半はぶつぶつと独り言のようだった。シュテルは無表情で言う。
「はい。忘れていたことを」
「ならさっさと……」
しろ、という言葉は出させなかった。シュテルは相手が反応できないように、素早く結界を展開し、そして、二人にデバイスを、ルシフェリオンを向けた。
「時空管理局嘱託魔導師、シュテルと申します。ご同行願えますか?」
時間をさかのぼり、新幹線の中。シュテルは眠っているシュウの寝顔を横目で見て、資料を読み進める。それは、シュウの両親に関するものだった。
西崎ケイン 及び 西崎さくら に関する報告書。
西崎ケイン。元管理局所属の魔導師。現在は研究者として活動。主にロストロギアの関する研究を行っている。特に後述するロストロギアに対しては執着を見せている。さくらと結婚後に管理局を退職し、住居をさくらの故郷である第九十七管理外世界の地球へと移している。
……………………。
西崎さくら。元管理局所属の魔導師。ケインと同様、現在は研究者として活動。ただしケインほど表だって活動はしておらず、ケインのサポートをメインとしている。ケインと結婚後、故郷である第九十七管理外世界の地球へと戻り、研究を続けている。
……………………。
二人の共通事項。定時連絡では、十年ほど前に子供を授かるが、管理局の仕事に巻き込まれ、生むことはできなかった。そのことに絶望しての管理局退職と見られる。
共通して熱心に取り組んでいる研究対象のロストロギアは、願いを叶えるというもの。前述の経緯から何かをするつもりではと疑われていたが、そのロストロギアの規模を考慮し、その可能性は否定された。
そこまで読み終え、シュテルはシュウを見る。死んだはずの二人の子供。存在していないはずの存在。そっとシュウの手を握る。人の温かさが、ある。そのことに我知らず安堵する。そして資料の最後の一枚を見る。二人が研究しているロストロギアについて書かれていた。
二人が調べているロストロギア。願いを叶えるとされているが、現在までこのロストロギアによる大規模な被害などは出ていない。おそらく効果そのものが弱く設定されていると思われる。そのため、叶えられる願いは小規模なものになっているようだ。ただしそれ故に暴走も確認されておらず、ロストロギアの中では危険度は低いものとされている。
その願いを叶えるロストロギアの名称は以下の通り。
――ギフテッド。
主人公の出自です。多分もう主人公の秘密は分かると思います。
そしてタイトル回収。時折友人からこのタイトル何なのと言われてましたが、こういうことです。
ちなみに「特別な(リミテッド)」「贈り物(ギフト)」からとっています。
……まあギフテッドという言葉はあるのですけども。
次も出自関連です。基本的に誰かの語りです。
興味のない方は次も飛ばしてくださいね。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。