――またか。
シュウはデパートの屋上で、内心でため息をついた。目の前で行われているのはヒーローショー。そして当然のように、隣にはレヴィがいて大はしゃぎだ。小さな子供たちに混ざってヒーローを応援している。
今回は偶然レヴィと出会ったわけではなく、昨日のうちに誘われていたことだ。レヴィ曰く、行きたいところがあるから一緒に行こう、と。最初はどこにと思っていたが、来てみれば前と同じデパートのヒーローショーだったというだけだ。
――楽しそうだから、まあいいか。
ヒーローショーではなくレヴィを見ながら、シュウは苦笑しつつもうなずいた。
ショーの後は今回も限定販売のようなことが行われるらしい。レヴィもそれに向かうのかと思ったが、予想外にもそちらへは何の興味も示さずに、シュウの手を取って下りの階段へ向かうレヴィ。思わず目を丸くして、あれはいいの? と聞いてみると、
「うん。前と同じだから」
そう言うとレヴィは歩く速度を速くする。何かを振り切るように。なるほど、とシュウは納得してうなずいた。
――本当は行きたいのか。
そう思ったが口には出さない。せっかくレヴィが我慢をしているのだ。水を差す必要もないだろう。
「それで、次はどこに行くの?」
シュウが聞くと、レヴィは振り返ると元気よく答えた。ご飯、と。
レヴィが案内したのは、デパートのレストランフロアまでだった。そこまで来て、飲食店の多さにレヴィは驚いていた。シュウへと振り返ると、頬の引きつった笑みを浮かべてくる。
「もしかして……決めてない?」
「うん。行けば何とかなると思ったから」
「そっか」
レヴィの言葉にシュウは笑う。この子らしいなと。まずは一通り見てみようと考え、フロアをゆっくりと歩いて行く。シュウの後ろからレヴィがついてくる。珍しそうに周囲をきょろきょろと見回している。
やがてフロアの反対側までたどり着いた。そのことにレヴィが少し驚き、聞いてくる。
「シュウ、ご飯はどうするの?」
「どうしようかな。レヴィは何か食べたいものはある?」
「カレーライス!」
聞くまでもなかったとシュウは笑う。シュウは手を差し出すと、じゃあ行こうかとレヴィの手を取った。
レヴィを連れて入ったのは、カレー専門店だ。ここのカレーはとても美味しいことで評判で、学校でもクラスメイトたちが時折話をしているのを聞くことがある。今は昼を少し過ぎた時間なので、店内にはちらほらと空席がある。これが昼時や夕食時などは行列ができるらしい。
シュウはカウンター席に向かい、レヴィもその隣に座った。この店に入ってすぐに匂いで気づいたのだろう、レヴィはそわそわと落ち着きがない。そんな様子にシュウは優しく微笑むと、レヴィにメニューを差し出した。
「はい、レヴィ。選んでね」
「ありがと! えっと……。うわ、いっぱいある!」
メニューを開いた瞬間、レヴィが顔を輝かせた。写真を一つずつ順番に見て、これがおいしそう、あれもおいしそうととても楽しそうだ。ただこの調子だと決めるまでに時間がかかりそうではある。シュウは店員が持ってきた水に口をつけつつ、レヴィの注文が決まるのを待った。
レヴィの注文が決まったのは、それから十分もしてからだった。悩んだ末に選んだのはナンカレーだ。ご飯とは別にナンと呼ばれる食べ物もついているメニュー。
「この間シュテるんに作ってもらったんだ。これ、すごくおいしいんだよ!」
「へえ。じゃあ僕も同じものにしようかな」
「それがいいよ!」
レヴィの元気な声にうなずいて、シュウは店員を呼ぶ。人が少ないためかすぐにやって来た。レヴィがこれ、とメニューを指さすと、かしこまりましたと丁寧に頭を下げてくれる。
「辛さはどうしましょうか?」
「一つは普通で。もう一つは可能な限り甘口にしてあげてください」
「かしこまりました」
最後にまた礼をして立ち去る店員。それを見送ってから、レヴィは速くもスプーンを手に取った。期待に満ちた眼差しで、カレーが来るのを待っている。ほほえましい光景に、シュウの頬も自然と緩んだ。
やがてカレーが運ばれてくる。カレーライスが一皿に、別のさらには平べったいナンが置かれている。それが二セット。
カレーライスを置いて、店員はすぐに一礼して戻っていく。さて、とスプーンを手に取ったところで、
「いただきます!」
レヴィの声。早速一口目を食べて、レヴィがおお、と少し感動したようだった。
「すごいよシュウ! すっごいおいしいカレーだ!」
「気に入ったのなら良かったよ」
「うん! でもま、王様のカレーの方がおいしいけど」
最後の方は少しだけ小声になっていた。そうだね、とシュウもうなずく。だがそれもそのはずだろう。ディアーチェは一人一人の好みを把握していることが多い。カレーなどはレヴィの大好物のため、どんな辛さでどんな具材が好きかも熟知しているだろう。レヴィのための特製カレーなのだ。専門店とはいえこんなところに劣るとは思えない。
でもこっちもなかなか、と言いながら食べ続けるレヴィはとても嬉しそうだった。そのことにひとまずは胸をなで下ろす。こんなに喜んでいるならレトルトのものを買ってみるのもいいかもしれない。そう考え、シュウは店員を呼んだ。
昼食後、次に入ったのはデパートの中にある遊戯施設だ。クレーンゲームなどといった子供が好きそうなものが並べられている。それらを見て、レヴィは目を輝かせていた。
「シュウ! あれしよう! あれ!」
レヴィが指し示したのは、クレーンゲームだ。中には動物のぬいぐるみが並んでいる。
「どれが欲しいの?」
「かっこいいやつ!」
「いやだからどれ……」
苦笑しつつ、シュウは財布から百円硬貨を取り出す。先ほどのカレーですでに結構な出費だったが、もう少しぐらいならいいだろう。この子たちには夕食をご馳走してもらっているのだから、これぐらいは払おうと思う。
硬貨を入れ、クレーンを動かす。クレーンはゆっくりと動き始める。狙うのは、レヴィが指し示したライオンのぬいぐるみ。
「おお……?」
レヴィが少し目を丸くする。クレーンはライオンの真上で停止する。
「おお……」
クレーンがライオンを持ち上げる。ゆっくりと元の場所へ戻っていく。そして、
「おおおおお!」
ライオンが落ちて、取り出し口から軽い物が落ちる音が聞こえてくる。シュウはそこからライオンのぬいぐるみを差し出すと、はい、と手渡した。
「すごい! こんな特技があったなんて!」
「特技……なのかな?」
クレーンゲームは昔から得意ではある。だがしかし、昔から自分が欲しいものは一切取れず、友人が欲しがっているものはよく取れた思い出がある。
その後も、レヴィの言われるままに三個ほどぬいぐるみをいただいた。犬と猫、虎のぬいぐるみだ。レヴィは嬉しそうにそれを抱きかかえている。大切な宝物を持つかのように。ふとレヴィは何かを思いついたのか、唐突に走り始めた。
「レヴィ?」
「ちょっと待ってて!」
慌てて呼ぶと、レヴィのそんな返事。言われた通りにその場で待っていると、レヴィはすぐに戻ってきた。その手にはビニール袋が二つ握られている。片方からはライオンが顔をのぞかせ、もう片方は猫だ。猫の方はそれ一つしか入っていないのか小さな袋に入っている。
「はい!」
レヴィに猫のぬいぐるみが入った袋を手渡された。シュウが怪訝そうに眉をひそめていると、レヴィが答えてくれる。
「シュテるんにはシュウから上げた方がいいんだよ。王様がそう言ってた!」
シュウが、どうして? と首を傾げるが、どうしてだろう? とレヴィも首を傾げてしまう。二人は少し考えて、すぐにまあいいかと思考を打ち切った。レヴィがシュウの手を取り、歩き始める。
「今度はあれ!」
「はいはい……」
今度はお菓子が景品のゲームへと連れて行かれた。
マンションへと帰ってきたのは午後六時。休日の半分をレヴィに献上したことになる。これも悪くない、とは思っているが。
「たっだいまー!」
レヴィが元気よく言って、リビングの方に駆けていく。王様ユーリこれあげる、という声が聞こえてくる。こっちはいいのかな、とシュウは持たされていた袋の一つを見た。現在シュウが持たされている袋は二つで、一つは猫のぬいぐるみ、もう一つはお菓子が大量に入った袋だ。帰ってみんなで食べるとのことで、デパートや帰り道では一つも食べていなかった。何度も誘惑に駆られてはいたようだが。
シュウは袋を持ったままキッチンへ。そこではシュテルが夕食の準備をしていた。
「ああ、おかえりなさい、シュウ。もう少し時間がかかります」
「うん。何か手伝えることはある?」
「いえ、後は待つだけなので」
シュテルはそう言うと、鍋にふたをして手を洗う。シュテルが手を洗い終えるのを待ってから、シュウは袋の一つを差し出した。シュテルが不思議そうにしながらもそれを受け取る。
「ぬいぐるみ、ですか?」
「うん。デパートのゲームセンターで取ってきたんだ。シュテルには僕から渡せってレヴィがね」
「そうですか」
ぬいぐるみを袋から出して眺めるシュテル。なぜだか緊張してきたが、その理由がシュウには分からない。じっとシュテルの言葉を待つ。やがて、シュテルがぬいぐるみを抱きかかえて言った。
「ありがとうございます、シュウ。大切にします」
「あ、えっと……。うん」
シュテルはいつもの無表情だったのだが、なぜだか今日はそれをしっかりと見ることができずに、シュウは逃げるようにリビングへと向かった。
夕食後。シュウはお茶を飲みながらリビングの様子をのんびりと眺める。ぬいぐるみを気に入ったのか、テーブルに並べてにこにこと笑っているレヴィとユーリ。こうして見ているとやっぱり女の子なんだなと思う。時折ぬいぐるみを撫でては、やわらかいだのふかふかだのと楽しそうにはしゃいでいる。
ディアーチェは本に視線を落としていたが、時折そんな二人を見ては少し嬉しそうに笑っている。シュウに見られていることに気がつくと、慌てたように表情を隠していたが。
シュテルの方も本に視線を落としていた。その膝の上には猫のぬいぐるみ。レヴィやユーリと違いぬいぐるみに対する反応がほとんどないが、ずっと持っているということはそれなりに気に入ってくれているのだろう。
四人の様子に満足げにうなずく。一日歩き回って疲れたが、その甲斐はあったというものだろう。
「それじゃあ帰るよ」
立ち上がりつつ言うと、
「はい。お気を付けて」
「気をつけて帰るのだぞ」
「また来てくださいね!」
シュテル、ディアーチェ、ユーリがそう言ってくれる。レヴィは、
「今日はボクが送っていく日だ!」
思い出したようにそう言った。
Side:Levi
レヴィはシュウと並んで歩く。今日は一日しっかりと遊べたので気分がいい。そのお礼もこめて、レヴィがシュウへと言う。
「シュウ、今日はありがと! 楽しかったよ」
「いや、こちらこそ。ただちょっと歩き疲れたけどね」
苦笑混じりに答えるシュウ。そっかとレヴィはうなずく。
「あとぬいぐるみも! あんなに嬉しそうなシュテるんは久しぶりだよ」
「ああ、喜んでもらえてたのか。なら良かったよ」
嬉しそうに笑うシュウ。その笑顔を見れただけでも、今日は誘って良かったと思える。ただ、シュウにとっては迷惑だったのではと少し思ってしまう。
「ねえ、シュウ。また一緒に来てくれる?」
不安に思いながらそう聞いてみると、シュウは少し目を丸くした後、笑顔でうなずいてくれた。
「もちろん。いつでも誘ってね」
そう言って頭を撫でてくれる。レヴィは幸せな気持ちにながら、やっぱりシュウはいいやつだ、と嬉しそうに笑っていた。
レヴィメインと言いつつちゃっかりシュテル分も含まれています。
個人的にレヴィはやっぱり一番難しいです。
好きなキャラではあるのですが、口調が苦手なのです……。
……そう言えばお気に入りが600件をこえていてびっくりしました。
登録していただいた皆々様、ありがとうございます。
見限られないように精進しつつがんばりますよー!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。