ギフテッド   作:龍翠

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今回はシュテルメインです。
……いや、マテリアルズとの日常メイン、でしょうか?


第二十二話 海

 

 夏休み。学校から解放された子供たちが遊び尽くす夢の期間。もちろんシュウも例外ではなく、夏休み二日目から自宅でだらけきっていた。布団に横になり、小説を黙々と読み耽っている。今は昼前で、起きてからずっとこの調子だ。

「……何をしているのですか、シュウ」

 声をかけられ顔を上げると、部屋の入り口にシュテルが立っていた。呆れたようにこちらを見ている。

「いらっしゃい、シュテル」

「お邪魔します。……鍵が開いていましたよ」

「うん。来るかなと思って」

「……そうですか」

 シュテルはため息をつきながら玄関の側のキッチンへ行く。少しして戻ってきた時には、冷たいお茶が注がれたコップを二つ持っていた。それをちゃぶ台に置く。

「せめて起きてください」

「ん。了解」

 立ち上がって、ぐっと伸びをする。シュテルの向かい側に座り、お茶を飲む。それなりに汗をかいていたのでただのお茶がとても美味しい。

「ナノハから夏休みだと聞きましたが、宿題があるのでしょう。やらなくていいのですか?」

「うん。終わったから」

「……は?」

 シュウが部屋の隅を指さす。そこには昨日のうちに片付けた問題集の山があった。あとは日記など、前もってできないものだけだ。

「それなりの量だと聞いていましたが……」

「うん。一日は二十四時間あるんだよ?」

「そう、ですね……。はい。いいことだとは思います」

 こちらも気を遣わなくてよくなりますし、とシュテルがつぶやく。シュウが首を傾げると、

「レヴィがプールに行ってみたいと言い出しました」

 唐突にそんな話が始まった。すぐにそこからの誘いを察して、プールか、とシュウは笑う。

「いいね。いつ?」

「明日です。海に行こうかなと」

「……海か。ちょっとだけ予想の斜め上だよ」

 せっかくなので、とシュテルがうなずく。泳ぐ、または遊ぶという目的では大差ないのだろうし、どちらでもいいのかもしれない。むしろ海の方ができることは多いだろう。それ故にどうせ行くなら海に、ということだろうか。

「僕も行っていい?」

 一応聞いてみる。シュテルは、何を今更、といった様子で眉をひそめた。その様子にシュウは少し嬉しそうに微笑む。

「明日の朝七時に迎えに来ます。必要なものは今日中に用意しておいてください」

「うん。どこまで行くの? 電車賃とかはいくらぐらいいるかな?」

「お気になさらずに。こちらで用意します。これから王たちと買い物に行きますが、シュウはどうしますか?」

 一瞬、行きたい、と言いかけたが、口に出しかけたところでその言葉を呑み込んだ。おそらくはこれから水着などを買いに行くのだろう。さすがに女の子たちの買い出しの中に混じる勇気はない。シュウは首を振って、今日はいいやと伝えた。

「分かりました。これは夕食にどうぞ。夜は少し用事がありますので」

 シュテルが差し出してくる弁当箱をありがたく受け取る。まだほんのり温かい。どうやら作ってすぐここに来てくれたらしい。いい匂いもしてきて、食欲がそそる。

「先に言っておきますが、夜まで我慢してください。あとで後悔しますよ」

「わ、分かってるよ? もちろん」

 ちょっと食べようかなと思っていた矢先だったので、思わず頬が引きつってしまう。その表情からシュウの考えを察して、シュテルは小さくため息をついた。仕方ののない方です、と。

「コンビニのパンでよければどうぞ」

「お、ありがと!」

 次に差し出されたのはコンビニの袋で、中にはメロンパンとジャムパンが入っていた。嬉しそうなシュウの笑顔を見て、シュテルは満足したようにうなずきを一つ、そして立ち上がる。

「それではシュウ、また明日」

「うん。いってらっしゃい」

 シュテルを玄関まで見送り、そして戻ってすぐにメロンパンの封を開けた。

 

 翌日。天気は快晴。海水浴日和だ。蝉の鳴き声がうるさいが、これがなければ夏とも思えない。そしてシュウは、今日も布団で横になっていた。

「……暑い……」

 早く海に入りたいと思う。ちゃぶ台の上には昨日のうちに用意した荷物があり、準備は万端だ。念のため、全財産を入れた財布も用意してある。あとはシュテルたちを待つだけだ。欠伸をかみ殺していると、ドアの開く音がした。

「シュウ! おっはよー!」

 真っ先に聞こえてくるのはレヴィの明るい声。次いで足音がして、本人が入ってくる。未だに布団で横になっているシュウを見て、レヴィが少し目を丸くした。

「だめだぞシュウ! ちゃんと起きないと!」

「準備はできてるよ?」

「なら問題ないね!」

 ぐっと親指を立てるレヴィ。その後ろで、シュテルたちがどちらに呆れているのか分からないため息をついた。

 

 最寄りの駅から電車で海へと向かう。それほど遠くもないので、海水浴場にはすぐに着いた。まだ朝のためか、人はそれほど多くない。だがこれが昼になれば人でいっぱいになるのだろう。

「さて、レヴィ。海に来たわけだが」

 砂浜にビニールシートを広げながらディアーチェが言う。

「何をしたいのだ?」

「遊びたい!」

「うむ。具体案を聞こうか」

 言葉に詰まるレヴィ。どうやら何をするかまでは考えていなかったらしい。慌てる様はなかなかかわいいとも思う。

「とりあえずさ、レヴィ。水着を買ってきたのなら泳いできたら?」

 苦笑しつつ助け船を出すと、そっか、とレヴィが顔を輝かせた。それじゃあ着替えるねとその場で服を脱ごうとしたのを慌ててディアーチェが押し止める。シュウは何も言えず慌てて視線をそらしていた。

「阿呆か貴様! こんなところで着替えるやつがいるか! ついてこい!」

 ディアーチェがレヴィの首根っこを掴んで引きずっていく。あー、と言いながらレヴィはされるがままになっている。いってきますと手を振ってくるあたり余裕があるらしいが。

「では私たちも行きましょうか、ユーリ」

「はい」

「じゃあ僕は荷物を見ておくよ。いってらっしゃい」

 お願いしますと頭を下げるシュテルとユーリを見送り、シュウは一人残された。とりあえずは全員の荷物を一カ所にまとめる。それだけですることはなくなった。

 十分ほどして四人が戻ってくる。全員が水着姿になっていた。シュテルだけは何故か上にパーカーを羽織っていたが。手に文庫本を持っているということは泳ぐ気はあまりないらしい。

「お待たせしました。シュウもどうぞ」

「あー……。僕はここにいるから、みんなで遊んできたら?」

「もしかして、シュウは泳げないのですか?」

 そう聞いてきたのはユーリだ。そう捉えられるかと思いつつも首を振って不定する。

「誰かが遊び疲れたらでいいよ」

 そう言いながら自分の荷物から文庫本を取り出す。今のところは一緒に行く気がないと分かったのか、どこか不満そうな表情をしながらもシュテルを除いた三人が海へと向かった。それを見送ってから、シュウはシュテルへと向き直る。どうぞ、と言うとシュテルはシュウの隣に腰を下ろした。

「シュテルは行かないの?」

「最初は荷物を見ておこうかと思っていましたから。後ほど王と交代する予定です」

 なるほど、とうなずく。その後にシュテルの水着を横目でしっかりと見て、すぐに目をそらした。その一連の視線の動きに気づいていたのか、シュテルがじろりとシュウを睨んでくる。

「水着というのはよく分からないので……。何か言いたければ遠慮無くどうぞ」

「うん。似合ってる。かわいい」

「…………。そう、ですか。光栄です」

 今度はシュテルが視線をそらした。ほのかに頬が赤くなっている。どうやら少し照れているらしい。その様子にシュウは笑うと、文庫本を開いて読み始めた。

 

 その後は一人ずつ交代しながら海で遊んだ。遊ぶといっても、海ではしゃぐレヴィとユーリに付き合う形になっていたが。途中で昼食を挟みつつずっと遊んでいたが、やがて日が傾いて空が赤くなってきた頃、レヴィとユーリが戻ってきた。休憩をのぞいても六時間以上遊んでいたことになる。

 戻ってきた二人は、疲れたと言いながらも満足そうな笑顔だった。

「では着替えてくる」

 ディアーチェが二人を連れて着替えに行く。残されたシュウとシュテルは三人を見送ってまた文庫本に視線を落とした。もうすぐ二冊目も読み終わる。

「レヴィとユーリは満足したかな?」

「十分でしょう。あんなものまで作っていましたし」

 視線を後方へ。そこには少し大きめの砂の城があり、周囲で時折写真が撮られている。レヴィとユーリが作っていたもので、シュウたち三人も手伝わされていたものだ。完成した時のレヴィの喜びようはあまり見られるものではなかった。

 砂の城を見ながらシュウは笑う。楽しめていたのなら何よりだ。ただ遊んでばかりで疲れているのも事実なので、帰った後はゆっくりと眠れそうだ。それでも、次があればもう少しのんびりしたいとも思う。

 本を読み終え、荷物にしまう。ディアーチェたちはまだ戻ってこない。隣を見ると、シュテルも読み終えたのか本をしまっているところだった。シュテルと視線が合い、シュウは理由もなく少し慌ててしまう。

「えっと……。ディアーチェたち、遅いね。まだかかるのかな?」

 シュテルは特に目立った反応は示さず、そうですねとディアーチェたちが向かった方を見た。しばらくそのまま無言でいたが、やがて振り返ってシュウに言う。その表情はどこか困ったような苦笑に見えた。

「どうしたの?」

 聞いてみると、シュテルはいえ、と首を振る。少し考えてから言った。

「せっかくだから夕食を食べていこう、ということです。近くのコンビニまでお弁当を見に行ってくる、と」

「お弁当ってことは、ここで?」

 海へと振り返る。海水浴客はかなり減ってきている。もうすぐ暗くなるため海から出るようにという指示もあった。あとは砂浜で遊ぶ人が残るぐらいだろう。昼よりはかなり静かになるはずだ。そう思うと、ここで食べる弁当というのも、

「うん。悪くない」

 シュウがつぶやくと、シュテルはそうですねと一つうなずいた。

 やがて日が沈み、星空が広がる。シュウはシュテルと並んで座り、海を見つめながらのんびりとディアーチェたちを待つ。居心地のいい静かな無言の時間。場所が変わってもシュテルと二人の時はさほど変わらないものだ。

 やがてディアーチェたちがコンビニの袋を提げて戻ってきた。

 

 

 Side:Dearche

 帰りの電車で、ディアーチェはため息をついて本を閉じた。この状況は集中できるものではない。両肩にレヴィとユーリの頭があり、二人とも眠っているためだ。遊び疲れたためだろう。二人の幸せそうな寝顔を見ていると起こす気にはなれない。もう少し寝かせておくことにする。

 真向かいに座っているはずの二人も静かなので怪訝に思いながらもそちらを見て、ディアーチェは少し驚いた。シュウとシュテルが、お互いに寄りかかって眠っていた。シュウはともかく、シュテルがこれほど無防備な姿を見せるのは珍しい。

 ――それだけシュウを信頼しているということか。

 奇妙な関係になったものだと思う。元は赤の他人だったはずなのに、気がつけばシュウを家族の一人として見てしまっている。シュウの方はどう思っているのかは分からないが。

 仲良く眠る二人を見つめ、ディアーチェは淡く微笑んだ。本人たちにはあまり言わないが、今の生活はそれなりに気に入っている。管理局に使われるのは不本意だが、この四人を守れるならそれもいいだろう、と。

 ――ああ。悪くない。

 そんなことを思いながら、ディアーチェは一人うなずいていた。

 




シュテルメインというよりは、マテリアルズメインというべきでしょうか。
書きたかったのは最後の電車のシーンです。寄り添って眠るシーン。
あとは王様の現在の心境、でしょうか。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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