ギフテッド   作:龍翠

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今回はディアーチェメインです。


第二十三話 鍵

 

 夏休み。多くの学生が勉学やスポーツ、遊びに興じる中、それとは対照的に何もすることがなくむしろ暇を持て余す者も当然ながら少なからずいる。シュウはそんな中の一人だ。成績は良い方ではないが悪い方でもないのでそれほど勉強する気もなく、スポーツは嫌いではないが誘われなければやろうとはしない。遊びに関してもスポーツと同様、誘われなければ出かけることそのものが少ない。

 そして今日もシュウは貴重なはずの夏休みをどのように消化しようか悩んでいた。シュテルたちのところへ遊びに行こうかとも思っていたが、彼女たちにも都合があると思い、あまり行きすぎるのもよくないと考えた。今日は自宅でのんびりしていたのだが、やはり暇すぎて困る。

「……少し出かけよう」

 散歩でもしてみようかと思い、シュウは自宅を後にした。

 

 そして現在いる場所は、シュテルたちの部屋の前。なぜか自然とこちらへと足が向いていた。習慣、と言っていいのかは分からないが、恐ろしいものだ。どうしようかと少し考えていたが、せっかくここまで来たのだからとインターホンを押した。

 軽い音がかすかに聞こえてくる。その後は少し無音が続いたが、やがてドアの鍵が外される音がした。そして隙間だけ空けられ、顔をのぞかせたのは、

「……おはよう、ディアーチェ」

 ディアーチェはシュウを認めると、わずかに目を丸くした。

「どうした、シュウ。今日は約束はなかったはずだが」

「うん。ちょっと気まぐれ。ごめんね、迷惑なら帰るよ」

「いや、そう言うわけではない。……まあ、入れ」

 ディアーチェが扉を開ける。エプロンをしているところから、何か料理でもしていたらしい。シュウはディアーチェの後に続き、ドアを閉めた。

「今日は我以外は出かけている。一応来ていることぐらいは伝えておくが、すぐには戻っては……」

「いや、いいよ。ディアーチェの言う通り約束してたわけじゃないし。暇だから来ちゃったってだけ」

 むしろお仕事の邪魔とかしたら悪いし、と言うと、ディアーチェはそうかと苦笑していた。そのままリビングに通され、すぐにお茶が出される。それと共に何かお茶請けを出そうと棚を見ていたようだったが、ディアーチェはすぐに少し考える素振りを見せ、戻ってきた。

「シュウ。洋菓子は好きか?」

「え? うん、まあ好きだけど」

「ならばちょうどいい。少し待っておれ」

 そう言ってディアーチェがキッチンへと戻っていく。シュウは首を傾げながらも、お茶を飲みながら待つことにした。何を待てばいいのかは分からなかったが。

 十分ほどしてリビングに戻ってきたディアーチェの手にはお盆があり、その上には十個ほどのマフィンが載せられていた。どうやら作っていたものはこれらしい。ディアーチェはお盆をテーブルに置くと、エプロンをはずしていすに座った。

「我も一人で退屈でな。暇つぶしに作っていたのだ。あやつらが帰ってきた時のおやつにちょうどいいだろうと」

「へえ……。え? それって僕が食べちゃだめじゃあ……」

 不安になって聞くと、ディアーチェが苦笑する。気にするなと手を振りながら、

「それなりの数を作った。これを全て食べたとしても問題はない。むしろ感想を聞かせてほしいぐらいだ」

 感想と言われても、とシュウも苦笑しながらマフィンを手に取った。一口かじり、味わうようにゆっくりと租借してがら呑み込む。ほどよい甘さと柔らかさでちょうどいい。シュウは一度うなずき、手に取った一個をとりあえずは完食する。

「うん。美味しいよ、ディアーチェ。よく分からない洋菓子店で買うよりかは美味しいと思う」

「そうか。だがシュウ。洋菓子店のマフィンを食べたことがあるのか? お前が?」

 訝しげに問いかけてくるディアーチェに、よくぞ聞いてくれましたとシュウは胸を張って、自信満々に答えた。

「ない!」

「うむ、だろうな」

 分かってはいた、とディアーチェが苦笑しつつマフィンを手に取り、食べ始める。今回の出来はなかなかだ、と本人もそれなりに納得したようだ。これならあいつらも満足するだろう、と。その様子を見て、シュウは思わず笑みをこぼす。

「ディアーチェってさ」

「なんだ」

「優しいよね」

 途端にディアーチェがとても渋い表情をした。認めたくなさそうな、しかしあまり否定する気にもなれないそんな表情。その変化が少しおもしろくて眺めていると、ディアーチェがやれやれと首を振った。

「優しくなどしておらん。あやつらは我の手駒だ」

「うん。でも優しいよね」

「……むう……」

 腕を組んで唸るディアーチェ。シュウはそんなディアーチェの様子をおもしろそうに眺めながら、二個目のマフィンに手を伸ばした。

 

 その後はマフィンを時折つまみながら、くだらない世間話をして過ごしていた。最近はこういった本を読んだ、こういった書店があった、など本に関わることが少し多くなるのがディアーチェとの会話だ。ただマフィンが美味しかったので作り方を聞くと、少し照れくさそうにしながらも嬉しそうに教えてくれた。必死で表情を隠そうとはしていたが。

「教えてから言うのもなんだが……。作る機会があるのか?」

「……さあ……。まあ、いずれ、ね」

 時折自炊などもするが、それすら最低限のものだけだ。こういった手の込んだ料理などはあまりやらない。だが料理そのものは嫌いではないので、いずれ作る時があるだろう。練習ができないというのも困りものだが。

「材料ぐらいならいつでも用意してやる。まあ、たまには作りに来るといい」

 教わったことをメモ書きしていたシュウは、その言葉に少し驚いて顔を上げた。ディアーチェはシュウの方へは見向きもせず、そっぽを向いたままだ。

「いいの?」

「それぐらいは、な。ただし、シュテルがいる時だけだ。味見役ぐらいいるだろう」

「どうしてシュテル?」

「貴様は……。いや、何でもない」

 何かを言おうとしたディアーチェだったが、諦めたかのようにため息をついた。やれやれと首を振る。シュウは首を傾げるばかりだ。

「どうせなら教えてくれたディアーチェに味見をしてほしいけど」

「む……。まあ、我でも構わん……」

 ディアーチェは小さな声でそう言うと、そのまま黙ってリビングを出て行ってしまった。いつまでも首を傾げているシュウだけがそこに残された。

 メモを何度も読み返していると、しばらくしてからディアーチェが戻ってきた。いつもの席に座り、そして片手をシュウへと突き出してくる。きょとんとしているシュウへと、突き出された片手が揺らされる。早く受け取れ、というかのように。

 手を出して、ディアーチェの手に握られていたものを受け取る。見ると、金属でできた板のようなものだった。なんだろう、と考えていると、ディアーチェが教えてくれる。

「この部屋のカードキーだ。持って行け」

「へえ、ここってカードキーなんだ……って、え? 持って行けって? 誰かに届けるの?」

「なぜそうなる! 貴様が管理しろと言っている。誰もいない時はそれで勝手に入ればいい」

 ディアーチェの真意が理解できず、シュウは唖然としてしまう。それなりに仲良くさせてもらっているつもりではあったが、さすがに鍵をもらうというのが気が引けてしまう。他人の自分が持っていていいものではない。

「気持ちはありがたいけど……」

 そう言って断ろうとしたが、ディアーチェがシュウを睨んできた。慌てて口を閉じる。

「家には何もないのだろう」

「え? まあ、うん。本ぐらいだね」

「この家にあるものは好きに使え。暇つぶしに本を読むもよし、料理をするもよし。我らにもそれぞれ部屋があるが、そこにさえ入らなければ問題はない」

 納得していないシュウへと、それに、とディアーチェが続ける。

「我らにとってはお前はもう家族も同然だ。持っていても問題はない」

「……へ?」

「……忘れろ」

 ディアーチェがまたそっぽを向く。少しだけ見えたその顔は、ほのかに赤く染まっていた。シュウは先の言葉の意味を考え、少し嬉しくなる。自分も家族に数えてくれているのか、と。家族の温かさなどもうすっかり忘れてしまったが、ここならそれを思い出せるだろうか。

 手の中にある鍵を見て、そっと握りしめる。ディアーチェへと笑顔を向け、言った。

「ありがとう、ディアーチェ。じゃあ、もらうね」

「……ああ」

 ディアーチェはそれきり黙り込み、シュウはその横顔を静かに見つめていた。

 

 日が沈みかけた頃、三人が帰宅した。そして三人とも、少なからず驚いていた。

「たわけ! 入れすぎだ! 卵焼きでも作るつもりか!」

「あはは! 方向転換して卵焼きでも作ろうか!」

「開き直るな阿呆!」

 キッチンに並んで立つディアーチェとシュウ。シュウが笑い、ディアーチェは怒りながらシュウからボウルをひったくっている。しばらくして三人に気がついたのか、シュウが片手を上げた。

「おかえり!」

「……ただいま戻りました……」

 現状把握ができずに困惑しているシュテルと、未だに無言のレヴィとユーリ。そんな三人へ、シュウがリビングのテーブルを指さす。少しだけ申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「失敗作がたくさんできて……。捨てるのはもったいないから、ちょっと食べてくれると嬉しいかな?」

 リビングのテーブルには失敗作のお菓子類がある。ディアーチェから鍵をもらった後、時間もあるし菓子作りでもしようとなって作ったものだ。だが予想以上に難しく、見事に失敗が続いていた。おそらく晩ご飯はこのまま菓子類だけになるだろう。

 まずシュテルがリビングへと向かい、歪な形のマフィンを手に取る。一口かじり、ゆっくりと租借して、ふむ、と一度うなずいた。

「シュウ。作ったのは初めてですか?」

「うん。お菓子なんて作る機会がなかったから」

「なら十分良く作れていると思いますよ。美味しいです」

 それなら良かった、とシュウは笑う。そしてそれを許さないのがディアーチェだ。

「たわけ! 我が教えておるのだ! その程度では困る!」

 なるほど、とシュテルがうなずいた。静かにシュウの隣に立ち、小さな声で耳打ちする。おそらく長くなります、と。それを聞いたシュウは、苦笑しかできない。

「とりあえずがんばるよ」

「シュウ! もう一度ここからだ!」

 ディアーチェの声に、シュウは了解、と答えて料理を再開した。

 

 リビングのテーブルに並ぶお菓子の山。マフィンを始めとした洋画菓子類が並び、それぞれの席の前にはジュースも用意される。レヴィとユーリは大喜びだが、シュテルの表情はいつも以上に無表情だ。長く一緒にいれば、これが怒りの表情だと分かる。シュウですら分かるのだから、ディアーチェももちろん理解しているだろう。

「ディアーチェ」

 シュテルの声。ディアーチェが頬を引きつらせながら、シュテルを見る。

「反省してください」

 何を、とは言わない。言わずとも分かるだろう、と。ディアーチェは神妙な面持ちで一つうなずき、

「すまぬ、調子に乗りすぎた」

 素直に謝罪する。シュテルは小さくため息をついて、

「とりあえずはいただきましょう。五人でなら食べきれる量ですし」

「お菓子が晩ご飯なんて幸せだー!」

「私もです! たくさん食べます!」

「味は保証しないよ。いやほんとに」

 そんな会話を交わしながら、食べ始める。五人一緒のテーブルで。

 家族のように。

 シュウは口を動かしながら四人を見る。先ほどディアーチェから鍵をもらったことをシュテルに話したのだが、シュテルの反応はそうですか、の一言だけだった。反対されないことに胸をなで下ろしつつ嬉しくなる。ここにいていいのだと思えた。

 片手で鍵を握りしめ、シュウは嬉しそうに微笑んだ。

 




王様の性格がちょっと崩れてしまった気がする……!
ごめんなさい、精進します……。

最近ピクシブでハリポタの衣装を着たリリなのメンバーのイラストを見たですよ。
シュテるんがマフラーしていて、いいなあと思いました。
ハリポタとのクロスオーバーを書きたくなったですよ。
いずれ書きたいなあ、とちょっと思ったり思わなかったり。
壁|w・)だめ?

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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