ギフテッド   作:龍翠

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今回はシュテルメインです。
また、主人公の出自に関わる部分があります。
興味のない方は最後のSide:Sternをとばしてください。


第二十四話 花火大会

 高町家のリビングにて、シュウは落ち着かない様子でいすに座っていた。オレンジジュースを少しずつ飲みながら、かすかに聞こえてくる声に耳を傾ける。

『これでよし。どうかな、シュテルちゃん』

『わあ、シュテル、似合ってる! かわいい!』

『光栄です。貴方も似合っていますよ、ナノハ』

『えへへ、ありがとう!』

 楽しそうな会話である。そんな場所に自分がいられないことに不満は覚えない。むしろ戻ってきた時になんと言えばいいのかとずっと悩んでいる。シュウはまた一口オレンジジュースを飲み、思考をフル回転させていた。

 

 今日はこの街の花火大会がある。近くの公園に露店などが数多く並ぶ、それなりの規模のものだ。その花火大会のことを知り、早速シュテルを誘ったのが三日前の出来事。その時は承諾してくれたのだが、なのはとも約束があると聞いてはいた。

 まさかそれが、浴衣を借りに行くこととは思いもしなかったが。

 何も聞かされていないシュウがシュテルと一緒に高町家に行くと、シュウは一人リビングに通され、オレンジジュースとケーキを出された。そして女性陣は別室へ。男一人、シュウだけがリビングに残されることになった。

 余談だが、なのはの兄はすでに出かけており、父は喫茶店で仕事中だ。母は一時的に抜け出してきてなのはとシュテルの着替えを手伝いに来たらしい。

 

 どんな浴衣なのかな、と少し楽しみにしながら待っていると、やがてリビングのドアが開かれた。満面の笑みの桃子が先に入ってくる。

「お待たせ、シュウ君」

「いえ。あ、ケーキご馳走さまです。美味しかったです」

 頭を下げるシュウに桃子がいえいえ、と手を振る。

「それじゃあ……。なのは。シュテルちゃん」

 桃子が二人を呼ぶと、なのはが少し恥ずかしそうに、シュテルはやはりいつもの無表情で部屋に入ってくる。シュウはその二人を見て、おお、と感嘆のため息を漏らした。

 なのはの浴衣は白を基調としたもので、桃色の桜の柄がある。素直にかわいいと思えるが、しかしなのははなぜか一歩下がっている。

 シュテルはなのはとは反対の色の浴衣だ。黒色を基調としたもので、桃色の桜の柄は同じ。クールなシュテルによく似合う浴衣だと思う。シュウはシュテルの浴衣をまじまじと見つめ、一度うなずいて笑顔で言った。

「うん。すごく似合ってると思う。かわいい」

「ありがとうございます」

 礼を言うシュテルの表情はどこか嬉しそうにも見える。その様子を見守っていたなのはと桃子は満足そうにうなずいた。

「それじゃあなのは。私は翠屋に戻るから。あまり遅くなりすぎないようにね」

「うん。ありがとう、お母さん」

 桃子が手を振って部屋を出て行く。それを見送ってから、なのはがシュテルへと言う。

「私たちも行こう。フェイトちゃんたちも待ってるだろうし」

「そうですね。……シュウ」

 シュテルが呼ぶ。シュウはコップと皿を流しへと持って行ってからうなずいた・

 戸締まりをして、公園への道を歩き始める。ここからだと少しだけ歩くらしい。この周辺の地理に明るくないシュウは、二人から一歩遅れて歩く。二人の後ろ姿を眺めながら。こうして見ていると、双子がおそろいの浴衣を着ているように見える。なのははとても楽しげに、シュテルも機嫌良さそうに会話をしていた。

 しばらく歩いて神社が見えてくる。到着、となのはが言ったところで、

「おお! なのはちゃん見つけたで!」

 そんな声。見るとはやてが手を振っていた。側にはヴォルケンリッターの面々もいる。

「はやてちゃん! お待たせ!」

「あたしらも今来たところやから、気にせんといて。フェイトちゃんたちもまだやし」

 楽しげに会話を始める二人。シュテルはそんな二人をしばらく見ていたが、少し待ってからなのはに声をかける。あ、ごめんとなのはが振り向いた。

「シュテル、ありがとう!」

「いえ。ではまた後ほど、浴衣を返却に伺います」

「うん。お母さんにも伝えておくね」

 お願いします、とシュテルは少し頭を下げ、シュウへと振り返った。行きますよ、と公園の中へと歩いて行く。シュウは少し驚きつつも、シュテルの後を追った。

「シュテル。なのはたちとの約束は?」

「終わりました」

 シュテルの言葉にシュウが首を傾げる。

「浴衣を借りること、公園まで一緒に行くこと。約束したのはこの二点だけですよ」

「あ、ああ……。そうなんだ」

 なぜそんな中途半端な約束だったのかは分からなかったが、もしかするとシュウがシュテルを誘うことを予想してのものだったのだろうか。もしそうならなのはには感謝しなければならない。心の中でなのはに感謝していると、不意に手を握られた。

「え、あ……。シュテル?」

 シュテルが自分の手を握っている。目を丸くしているシュウへと、しかしシュテルはその様子に首を傾げていた。

「公園は混雑していそうですから、はぐれないようにです」

「あ、うん……。そうだよね」

 少しだけ肩を落とす。そんなシュウの様子を見て、シュテルはやはり首を傾げていた。

 

 花火までまだ時間がある。二人は露店を巡りながら時間を潰すことにした。焼きそばなどの食べ物を売っているところや射的などのゲーム関係の露店など、出ている店は様々だ。こういった場所は初めてなのか、シュテルは視線を頻繁に動かしていた。

 少し歩いたところで小腹が空いてきたので、二人は焼きそばとフランクフルトを購入して、人が大勢行き交う道から横に出る。草地になっている場所は人が少ない。二人と同じように、買ったものを食べている人がいるぐらいだ。ベンチなどがないため、二人は立ちながら食べることにした。

 並んで立って焼きそばをすする。お互いに無言だったが、いつものことだ。やがて二人とも食べ終えて、ゴミを捨てて混雑している道に戻る。また露店巡りへと出発する。

 しばらく歩くと、シュテルが唐突に立ち止まった。ある店を凝視している。何かやりたいものでもあるのかと同じ方向へ視線を向け、すぐに納得した。

「何してるの?」

 その店まで行き、そこにいた人物に声をかける。スーパーボールすくいの店で遊んでいる人物はレヴィとユーリだ。その後ろにディアーチェが立っていて、声をかけられたディアーチェは少し驚きながらも振り返った。

「お前たちか。二人がやってみたいと言うのでな。付き合っている」

 レヴィとユーリはシュウたちに気づかない。スーパーボールが浮いた水槽をじっと凝視している。緊張感が二人から伝わってくるようだ。内容はともかく。

「とりゃ!」

 レヴィが勢いよくポイを水槽に突っ込む。そして当然の結果として、すくえずに破れた。

「うそ! なんでー!」

 レヴィが愕然と言って、見守っていたディアーチェとシュテルは呆れたようにため息をつく。シュウは苦笑しかできない。ユーリの方は、そっと水面にポイを入れ、一個、また一個とすくっていく。だがやはり初めてで慣れていないためか、五個ほどすくったところで破れてしまった。

「残念だったね、嬢ちゃんたち。浮いているやつなら一個ずつ持って行きな」

 悔しそうに唸るレヴィとだめでしたと笑うユーリ。二人は一個ずつスーパーボールを手に取ると、振り返った。

「あれ? 二人とも、どうしてここに?」

 そこでようやくシュウとシュテルに気づいたのか、レヴィが目を丸くする。ユーリはシュテルの浴衣を見て、目を輝かせた。

「シュテル、それが浴衣ですか? すごく似合っています!」

「ありがとうございます、ユーリ」

 素直に礼を言うシュテルと、珍しそうに浴衣を観察するユーリ。シュウがそんな三人の様子を微笑ましく眺めていると、ディアーチェの少し大げさな咳払いが聞こえてきた。そちらに視線を向けると、ディアーチェはレヴィの首根っこを掴み、ユーリの片手を握る。次にシュテルと自分に目配せをして、

「では我らは次に行くとする」

 それだけ言うときびすを返して歩き始める。シュウが唖然としている前で、レヴィとユーリが笑いながら手を振ってきた。また後で、という言葉は周囲の音に紛れてあまり聞こえなかった。

「行っちゃった……。シュテル、良かったの? 一緒に行かなくて」

 ディアーチェが消えていった方向を指さしながら聞くと、シュテルは一度うなずいた。

「はい。今日は貴方と約束をしましたから。王にも伝えてあることです」

「そう……? あまり気を遣わないでね」

「はい。分かっています」

 二人はそんな会話を交わしながら、ディアーチェたちとは反対方向に歩き始めた。

 

 それから時間が経ち、花火の時間が近づいてくる。シュウとシュテルは公園の側にある神社に来ていた。長い階段が特徴の神社で、ここからは花火がよく見える。ただその階段故にあまり人は来ていない。それでも他に人目があることから、シュウはシュテルと共に神社の裏手に回った。

 神社の裏手にはほとんど何もなかった。目の前に草木が生い茂る林が広がるだけだ。ただ、位置的にここからでも花火は見ることができる。シュウは周囲に人がいないことを確認すると、安堵のため息をついて後ろの壁にもたれかかった。

「ここなら落ち着いて花火を見られるよ」

 シュウがそう言うと、分かりましたとシュテルも壁にもたれかかる。二人で静かな夜空を見上げ、静寂が二人を包む。静かな夜の静寂だ。携帯電話の時計を確認すると、予定の時間まであと十分ほどある。

「ねえ、シュテル」

 シュウが声をかけると、シュテルがこちらと視線を合わせる。シュテルに見つめられたシュウは内心で緊張しつつ、言葉を続ける。

「シュテルたちはこれから、どうするの?」

「この後は着替えるために一度ナノハの家に向かいますが」

「そうじゃなくて……」

 説明の仕方が分からずに、それでも何とか伝えようとシュテルをまっすぐに見つめる。それだけで察したのか、シュテルはなるほどと一度うなずいた。

「将来的な意味でしたら、決まっていません。とりあえずしばらくは、嘱託魔導師として動こうとは思いますが」

「うん……。ねえ、シュテル」

「はい」

「僕に気を遣ってない?」

 シュテルがわずかに目を見開いた。それを図星だと判断して、シュウは続ける。

「もしも、もしもだよ。誰かがシュテルたちの力を必要としていて、シュテルたちもそれに協力したいと思ったのなら、僕のことは気にしなくていいから。シュテルたちと一緒にいるのは楽しいけど、縛りたいとまで思ってないから」

 シュテルはシュウの言葉を黙って聞いていた。シュウをまっすぐと見つめ、やがて目を閉じる。小さくため息をついた。

「どういった心境の変化ですか? 突然すぎますよ」

「うん。ちょっと前に僕のためにいろいろ動いてくれてたよね。嬉しいし感謝してるけど、わざわざ僕のために時間を使わなくてもいいよってこと」

 なるほど、とシュテルは一度うなずいた。夜空へと視線を戻す。返事がないことにシュウは少し気落ちしながらも、シュテルと同じ夜空を見上げた。やがて花火の開始時間になる。

「分かりました」

 シュテルの声。シュウは少し驚くが、シュテルは気にせずに続ける。

「誰かが私たちの力を必要としていただけるなら、私たちはそれに応えます」

「うん」

「ですがそれは、貴方も含まれています。シュウ」

「……うん」

 視線を夜空へ。その瞬間に小さな花が咲いた。花はやがて次々と咲いていく。星の光の中、炎の花がいくつも咲いていく。咲いては、消えていく。

「なるほど、これは素晴らしい。とても綺麗だと思います」

「うん。シュテルと見に来れて良かったよ。一緒に来てくれてありがとう」

 次々と咲いては消えていく花火を見ながら、シュウが笑顔で言う。シュテルはちらりとシュウの表情を確認して、すぐに花火へと視線を戻す。やがてシュテルは、

「こちらこそ。誘っていただきありがとうございます」

 優しげに微笑みながら、そう言った。そっとシュウの手を取ると、シュウもシュテルの手をしっかりと握り返してくる。

 手を繋いだまま、二人は星空に咲いては消えていく花々を、いつまでも眺め続けていた。

 

 

 Side:Stern

 花火の後、高町家で着替えたシュテルはシュウを送り、自身はアースラに来ていた。用件は回収したロストロギアの引き渡し。何とも危ないことに、祭りの最中、道に転がっていたものだ。発動も暴走もしていないことが幸いだった。

 封印処理をしたロストロギアをリンディに渡す。リンディはそれを受け取り、次の瞬間には封印を解除した。何を、とシュテルが言うよりも早く、リンディが表情を険しくする。

「やはりこれも、なのね」

 リンディのつぶやきにシュテルが首を傾げる。リンディが険しい表情のまま教えてくれる。

「最近この世界に飛来したロストロギアは、内包されている魔力が消失しているのよ。一つ残らず、全て」

 なるほど、とシュテルはうなずいた。今回のロストロギアが発動していなかったのも魔力が枯渇していたからなのだろう。ただ、一つ気になることはある。

「内包されているはずの膨大な魔力は、どこに消えてしまったのかしらね」

 リンディのつぶやきに、シュテルの背筋が冷たくなる。効果の弱いロストロギアばかりだったが、それらの魔力を全て集めるとユーリに、エグザミアに届く量にはなるはずだ。そのことに薄ら寒いものを感じながらも、シュテルは一礼してその場を後にした。

 




シュテル「綺麗だと思います」
主人公「シュテルの方が綺麗だよ」
そんな王道セリフを言える度胸は、うちの主人公にはありません。

漫画のなのセント2巻を買いました。シュテるんかわいい。シュテゆもかわいい。
ゲームもしたいですけど、スマホでない私はパケ代がかなりつらい……。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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