シュウはある人からの依頼を受け、シュテルたちのマンションに朝早くから向かっていた。欠伸をかみ殺しながら、今日はどうしようかと考える。といっても、だいたいの計画などは考えてもらっているので基本的にはそれに従うのだが。
昨晩、シュウが寝ようとしていた頃に電話があった。
『明日はユーリが一人で留守番だ。すまぬが一緒にいてやってくれ』
急な頼みだったが、どうせ暇を持て余しているので快諾した。そして明朝に依頼主のディアーチェが来てメモを渡されている。そのメモには、植物館のチケットが二枚と今日の日程表が書かれていた。。参考程度にしてくれと言われているが、他に案はないのでありがたく頂戴した。
マンションにたどり着き、インターホンを押す。すぐに誰かが駆けてくる音の後、ドアが開かれ、ユーリが顔をのぞかせる。シュウの顔を見て、表情を輝かせた。
「シュウ! お待ちしてました! みんな早くに出かけてしまって……」
「うん。そうみたいだね。僕と一緒だとつまらないかもしれないけど、一緒にお留守番してようか」
「そんなことないです! ありがとうございます!」
ユーリが嬉しそうな笑顔でそう言った。
リビングでシュウはシュテルたちが用意していったという朝食を食べる。バターロールを縦に切り、ウインナーと炒めたサラダを挟み、最後にチーズをたっぷりとかけたホットドッグのようなものだ。ユーリと二人でトースターで温めてリビングで食べる。シンプルながらも美味しかった。
それとは別の香ばしい匂いもしている。キッチンには弁当箱が二つあり、これはユーリが作ったものらしい。がんばりました、と胸を張って言っていたので自信作なのだろう。中身を聞くと、秘密だそうだ。
「ユーリだけお留守番って珍しいね。ディアーチェとよく一緒にいるのに」
ホットドッグを平らげてジュースを飲みながら聞くと、ユーリはそうですねと寂しそうに眉尻を下げる。
「ディアーチェが、たまには気分転換も必要だろうと。私はディアーチェと一緒にいたいのですけど」
「なるほど。ユーリはディアーチェが好きなんだね」
「はい! 大好きです!」
元気よく答えてくれる。人見知りはするのにこういったことはストレートに伝えてくるのがユーリだ。言われているディアーチェは照れていたり対応に困っていたりと見ていて飽きない。ただ、ユーリがディアーチェに依存しすぎないかとユーリ以外の三人は心配しているようだ。自分のやりたいことを見つけてくれることが一番なのですが、とシュテルはよく言っている。
今日のことも、ユーリのやりたいことを探すための一環なのかもしれない。
「とりあえずディアーチェから植物館のチケットを預かってるから、今日はそこに行こうか」
「はい! 初めてなので楽しみです!」
先ほどの寂しそうな表情から一転、目を輝かせるユーリにシュウは微笑んだ。
リビングで少し雑談をしてから、二人は出発した。植物館は隣の市にあるのでそこまでは電車で向かう。電車を降りた後は徒歩だ。三十分ほど歩いて目的地の植物館に到着した。長方形のような形をした建物で、大きなデパートぐらいの大きさがある。
「わあ……。大きい建物ですね……」
「そうだね。……行こうか」
「はい!」
早速中に入り、受付にチケットを渡す。受付の人は二人を見て、笑顔でどうぞと通してくれる。通り過ぎてから、最近の子供は進んでいるわね、と聞こえてきたがきっと気のせいだろう。二人はとりあえず案内に従って、順番に見ていくことにした。
熱帯地方の植物や別の時期の植物など、普段では見られないような植物を見るたびにユーリは目を丸くしていた。何を見るにしても興味津々といった様子で、シュウがのんびりと歩いている間にあちらこちらへ走り回っている。時折これは何かと聞かれるが、当然答えられるはずもない。パンフレットを渡してからは、一人で駆け回っていた。
昼過ぎには全て見終えることができ、植物館を後にして最寄りの公園へ向かう。鉄棒とジャングルジムがあるだけの小さな公園だったが、それでも夏休みということもあってか遊んでいる子供たちはいた。シュウとユーリは公園の隅にあるベンチに座った。
「結構早く見終わったね……。それで、どうだった?」
ユーリが持ってきていたリュックから弁当箱を取り出しながら、
「とても楽しかったです! 見たこともないものがいっぱいで……。あんなにたくさんお世話するのは大変でしょうね」
「まあ人手はそれなりにあるとは思うけど、大変だろうね」
そんな発想になるのかとシュウは思わず苦笑した。渡された弁当箱を受け取り、膝の上に広げる。そして、おお、と驚きの声を漏らす。
「がんばりました!」
嬉しそうに言うユーリ。おにぎりが詰められた段とおかずが詰められた段の二段で、おかずはハンバーグだった。以前一緒に作った時よりもかなりうまくなっている。ただ失敗しているところもあり、
「粉々だね」
「あう……」
ハンバーグは大小の違いはあるものの、六個以上の欠片に分解されていた。これはこれで器用だと思ってしまうのだが。先ほどまでの元気はどこにいったのか、ユーリは肩を落としていた。
シュウはそんなユーリをちらりと見て、ハンバーグの欠片を口に入れる。ゆっくりと食べて、味を確認する。呑み込んでから、笑顔で言った。
「うん。おいしいよ、ユーリ」
本当ですか、とユーリが顔を上げ、笑顔になった。シュウはうなずきながら弁当を食べ進めていく。ユーリはその様子に満足したのか、上機嫌で自分も弁当を食べ始めた。
ユーリよりも早く弁当箱を食べ終えたシュウは、ディアーチェから渡されたメモをこっそりと見る。植物館を早く見終えてしまったと思っていたのだが、ディアーチェの計画と比べると十分程度の誤差しかない。それだけユーリの行動パターンを理解しているということか。ディアーチェらしいと思いつつ次の予定を確認する。それを見て、なるほど、とシュウはうなずいた。
食べ終わり、弁当箱を片付け始めたユーリに声をかける。
「ユーリ。デパートでヒーローショーがあるらしいけど、見に行く?」
「本当ですか! 行きます!」
シュウの言葉に目を輝かせる。やっぱりユーリも好きなんだなと思いつつ、足を動かし始めた。
海鳴市に戻ってきた二人は早速デパートに向かう。屋上にたどり着くと、ちょうどヒーローショーが始まったところだった。内容はレヴィと見たものとは少し違うようだ。舞台を見た瞬間にユーリの表情が明るくなる。シュウはユーリを連れて、前の方の席へと移動した。
怪人が登場した時や観客の子供が怪人に捕まる時など、ユーリははらはらとした様子でずっと見ていた。そしてヒーローが登場した時は他の子供たちと一緒になってヒーローの名前を叫ぶ。思わず笑みがこぼれてしまう。
やがてショーが終わり、二人は屋上を後にした。メモにはこの後は買い物と書かれている。
「やっぱりヒーローはカッコイイですね! すごく興奮しました……!」
「うん。見ていてよく分かった」
どこに行こうかと考えながらそう返事をする。買い物とは書かれていたが、具体案が示されてはいなかった。どうしようかと真剣に悩んでしまう。
「シュウ。どうかしました?」
ユーリがそう尋ねてくる。シュウは一瞬答えようかどうか迷ったが、まあいいかと素直に言った。
「買い物、どこか行きたいところはある?」
シュウの言葉にユーリが目を瞬かせる。その後少し考える素振りを見せ、ちらりとシュウの表情を伺ってくる。シュウが首を傾げると、ユーリが遠慮がちに言う。
「ここに行ってみたい、です」
デパートの案内図を指して、ユーリはそう言った。
そして来た店はペットショップだ。子犬や子猫がゲージに入れられて並べられている。ユーリは歓声を上げながらゲージへと走って行く。
「すごいです! かわいいです……!」
子犬を見つめながら嬉しそうに言うユーリ。その様子を見ると、やっぱり女の子なんだなと思ってしまう。少し後ろからそんなユーリの姿を眺めていたが、すぐにその表情が暗くなっていることに気がついた。
「どうしたの?」
肩を叩くとユーリが振り返る。何でも無いですよ、と眉尻の下がった悲しげな笑みで答えた。再びゲージへと視線を戻し、ただちょっと、と続ける。
「かわいそうだなって……。こんなところに閉じ込められて……」
「……ああ。それは、まあ……」
確かにこんな狭い場所に閉じ込められ、人の見世物にされてかわいそうだとは思う。買い手が見つかるまでの辛抱なのかもしれないが、買われた先で幸せになれるかも分からない。ユーリは子犬に手を伸ばしながら、感情のない声で言う。
「ディアーチェたちも、少し前までは閉じ込められていました」
「え?」
「紫天の書の一部として。夜天の書の中に。とても長い間、閉じ込められていました」
ユーリがすっと立ち上がる。シュウへと振り返り、まっすぐと見つめてくる。シュウが驚きで固まっていると、ユーリが柔らかく微笑んだ。普段はあまり見ない、慈愛に満ちた優しい笑みだ。
「ディアーチェ、シュテル、レヴィ……。三人のことを、よろしくお願いします。三人とも、シュウに心を許しているみたいですから」
その言葉を聞いて、シュウは妙に納得してしまった。そして、もっと早く気づくべきだったかなと自分を恥じる。
ディアーチェたちがユーリの幸せを願うように、ユーリもまたディアーチェたちの幸せを願っている。紫天の書の盟主として、三人の生活を守ろうとしている。お互いがお互いに同じことを想っている。いい関係だな、と羨ましく思ってしまう。
「ねえ、ユーリ」
「はい?」
ユーリがかわいらしく首を傾げる。シュウは少し考えた後、言った。
「ユーリと同じことを三人とも想ってるよ。ユーリにはやりたいことを見つけてほしいって」
だから。
「みんなで見つければいいんじゃないかな? これから先のことを」
ユーリが目を見開き、すぐに笑顔になった。いつもの無邪気な笑顔だ。それもそうですね、とどこか嬉しそうだ。
「帰ったらディアーチェとお話してみます!」
「うん。そうしなさい」
はい、と元気よく返事をして、ユーリは子犬たちに手を振って店の出口へと向かう。シュウもそれに従った。
その後もいくつかの店を見て回り、そしてマンションに帰り着くと午後六時頃になっていた。三人とも帰ってきており、ディアーチェとシュテルが料理をしていた。帰ってきた二人に気がつくと、遅かったなとディアーチェが言ってくる。そのディアーチェへとユーリは歩いて行くと、
「ディアーチェ、お話があります!」
「む? な、なんだ?」
「来てください」
「え? あ、うむ……」
腕を掴まれ、引っ張られていくディアーチェ。シュウとシュテルは唖然とそれを見送った。
「……シュウ。何があったのですか?」
「うん。まあ、ちょっと……」
考える。このままここにいていいのかと。ディアーチェとどのような話をしているかは分からないが、この後は四人で何かしら話をするかもしれない。そう考え、シュウはよしと一度うなずいた。
「ごめんね、シュテル。今日は帰るよ」
「…………」
シュテルはシュウを見る。やがて小さくため息をつくと、分かりましたとうなずいた。どうやら何かを察してくれたらしい。シュテルはすでにできあがっているおかずを小さなプラスチックの容器に詰めると、ビニール袋に入れてシュウに手渡してくれた。ありがたく受け取り、玄関へと向かう。
「それではシュウ。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
挨拶を交わして、シュウはその場を後にした。
その日の夜。電話をかけてきたシュテルによると、四人ともやりたいことを探すことになったらしい。それをお互いに支えていく、という形で落ち着いたそうだ。
『今日はお疲れ様でした。それと、いろいろとありがとうございます』
「いやいや、余計なことを言っちゃった気がするから……。ごめんね」
『いえ。助かりましたよ。では今日はこれで失礼します』
「うん。おやすみ」
電話が切れる。少し寂しく感じながらも、携帯電話をちゃぶ台へ。ぐっと伸びをして、布団に潜り込む。
――あの四人がずっと仲良く一緒にいられますように。
そんなことを思いながら、眠りへと落ちていった。
二人の朝食は実は私が幼少の時によく作ってもらっていたものです。
ちょっと昔を懐かしみながら書いていました。
今回はなんというか、ちょっと失敗した感が……。
いっそのこと書き直そうかとも思いましたが、ネタもないのでこのままです……。
すみません、精進します……!
今回で一応シュテル以外のキャラメインは終わりだと思います。
なぜか? ネタがないからさ!
ネタというかリクというか、そういうものがあればお気軽にメッセージを送っていただければと思います。はい。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。