ギフテッド   作:龍翠

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今回はシュテルメインです。
少し砂糖増量……できたでしょうか?


第二十六話 花火

 

「花火をしたい?」

 シュテルたちのマンションで本を読んでいると、レヴィとユーリから突然そんなことを言われた。突然のことで唖然としているシュウの隣では、シュテルが立ち上がりキッチンへと行ってしまう。それに続いてディアーチェもキッチンへと消えた。

「花火って、この前見たじゃない」

「うん。打ち上げ花火じゃなくて、手で持つやつ! 打ち上げ花火もやりたいけどさ!」

「夜に子供がやっているのを見て、おもしろそうだなって話していたんですよ」

 レヴィとユーリが続けて言う。ユーリも何も知らなければ子供にしか見えないのだが、今は何も言わないでおく。花火か、とシュウは考える。今の季節ならコンビニでも売っているが、どういったものを買えばいいのかが分からない。何かいいのがあったかと記憶を探っていると、

「では行きましょうか」

 シュテルのそんな声。振り向くと、出かける準備を済ませたシュテルとディアーチェがいた。

「えっと……。どこに?」

 一応聞いてみる。ディアーチェの返答は予想通りのものだった。

「花火を買いにだ。決まっておるだろう」

 

 昼前に出発し、コンビニやデパートなどを巡り多種多様な花火を買い集めた。昼食はコンビニのおにぎりで済ませ、いろいろな店を回っていく。夕方になって帰ってきた時には、全員の両手に花火の入った袋が提げられていた。かなりの量になっている。

「さすがに……買いすぎじゃないかな?」

 リビングのいすの座りながらシュウが苦笑する。そうですねとシュテルが同意して、

「それならオリジナルたちも呼ぼうよ」

 レヴィの提案で管理局側のメンバーも呼ぶことになった。シュテルがなのはへ、ディアーチェがはやてへ、レヴィがフェイトへと連絡する。ディアーチェはかなり渋っていたが、何とか説得した。電話を終えた三人によれば、なのはたちは夕食の後に来てくれるらしい。

「それじゃあ僕たちもご飯にしよう。お腹減ったし」

「そうですね。……コンビニのお弁当ですが」

 温めてきます、とシュテルがキッチンへと向かう。それに続いてシュウもキッチンへ向かい、飲み物を用意するついでに全員の水筒にお茶やジュースを入れておく。いつでも出かけられるように。

 夕食の後、なのはたちを待ちきれないレヴィとユーリの要望もあって近くの公園へ向かった。

 

 誰もいない街。人気のない公園。その中央で、シュウは水の入ったバケツとライターを準備する。レヴィとユーリが期待に胸を膨らませ、きらきらとした瞳でシュウの準備を待っている。シュテルはバリアジャケットの姿で、手にはルシフェリオン。目を閉じていた彼女だったが、シュウの準備が終わるのと同じぐらいに目を開けた。終わりました、と。

 シュテルが行っていたのは広域の結界魔法だ。買ってきたものの中には打ち上げ花火も含まれているが、この近辺で許可されている場所がない。それならばと結界魔法を使って誰にも迷惑がかからないようにした。

「いいの? 結界魔法なんて使っちゃって」

 管理局の許可も取らずに、と心配したシュウだったが、ディアーチェは鼻で笑うだけだ。

「なぜ奴らの許可がいる。気にすることではなかろう」

「そう、なのかな……?」

 不安を感じているシュウが正解だった。レヴィとユーリが花火に火をつけようとしたところで、シュテルの携帯電話が鳴り始める。リンディ艦長からです、とシュテルは電話に出た。会話が聞こえるように設定するのも忘れない。

「はい、シュテルです」

『シュテルさん? こちらリンディだけど。結界魔法を使っているかしら?』

「ええ、使っています。……打ち上げ花火のために」

 え、と電話先で言葉に詰まるのがシュウにも感じられた。わずかな沈黙の後、リンディが声を押し殺して笑う。あらそう、と朗らかに。

『了解したわ。せっかくだし、後で私たちも行っていいかしら?』

 シュテルがちらりとディアーチェを見て、ディアーチェが渋々ながらうなずいたのを確認して、構いませんと返答した。

『ありがとう。それじゃあ、楽しんでね』

 通話が切れる。全く怒られなかった。いいのかこれで。

「それじゃあ気を取り直して!」

 レヴィが叫び、花火に火をつけた。

 

 手持ち花火をつけて走り回るレヴィとユーリ。危ないよと声をかけたが、聞き入れてもらえなかった。かなりテンションが上がっているようだ。

「元気だなあ……」

 苦笑しつつ、シュウはこっそりとある花火を回収する。一番好きな花火で、これをレヴィたちに譲るのは少しもったいない。落ち着いて花火をするということができそうにないためだ。

「シュテル。後でこれ、一緒にやらない?」

 回収した花火を持ってシュテルへと聞く。静かに花火の光を見ていたシュテルがこちらへと顔を向け、分かりましたとうなずいた。

 しばらくしてなのはたちが到着する。はやての方はヴォルケンリッターたちも一緒だ。さすがに人数が多くなりすぎではと思ったが、三人とも追加の花火を買ってきてくれていた。そのすぐ後にリンディとクロノ、エイミィも合流。こちらも近所で買ってきたという花火を持参。

 気づけば大人数になっていた。みんなで花火をしてはしゃいでいる。当然ながらかなり騒がしくなってきた。

「……うん。いいことだ」

 シュウは満足げに笑う。仲がいいのはいいことだ、と。ただこういった集まりになると自分は輪に入りにくいというのが困ったところでもある。だが見ていて楽しいのでやはり嫌いではない。せめて自分に魔法の才能が少しでもあればと思うが、叶わない願いだ。

 シュテルの姿を探すと、なのはと二人で話をしていた。二人とも手には花火があり、なのはは楽しそうに笑い、シュテルもわずかに微笑んでいるように見える。邪魔するのも悪いと考え、シュウは一人その場を後にした。

 公園から離れ、側の神社へ向かう。シュテルはかなり広い結界を張ったようで、神社の階段を上りきってもまだ結界の中だった。振り返り、階段の下を見る。そこからは公園を一望することができ、花火の光も確認できる。色とりどりの光が幻想的だ。

 そばらくその光景を見ていたが、やがてシュウは公園から視線を外した。持ってきた花火にライターで火をつける。小さな火花が散り始め、ぷっくりと小さな赤い玉ができていく。線香花火だ。その場にしゃがみ、線香花火をじっと見つめる。静かな光で、吹けば消えてしまいそうだ。

 一本目が終わり、二本目に火をつける。他の花火ほどの派手さはないが、この静かな花火がシュウは好きだった。

「綺麗な花火ですね。一ついただけますか」

 声をかけられ、シュウが驚いて体を震わせる。その振動で線香花火の火が落ちてしまった。

「あ……」

 思わず悲しげな声が漏れてしまう。声をかけたシュテルが少しだけ眉尻を下げ、申し訳なさそうに言う。

「すみません。驚かせてしまいましたか」

「あ、いや……。驚いたけど、気にしないで、まだたくさんあるし」

 苦笑しつつ、シュテルに線香花火を渡す。受け取って、自分の隣にしゃがんだシュテルの線香花火に火をつける。小さな火花が静かに散り始めた。シュウも自分の線香花火に火をつける。

「なのはとはもういいの? 話をしてたみたいだけど」

「ただの世間話です。お気になさらずに」

 そう答えた後、それにしても、と続ける。

「他のものとは違い、控えめな花火ですね」

「うん。僕はこれが一番好きなんだ。……でも人によるだろうし、つまらなかったら遠慮しないで戻ってね」

 一人でも楽しめるものだし。そう言ったが、シュテルは首を振った。花火に目を落としたまま、言う。

「私も嫌いではありません。こちらの方が静かでいいと思います」

「そう? それなら嬉しいかな」

 それきり、お互いに無言になってしまった。

 線香花火を二人でただただ見つめ続ける。風もなく暗い静寂の中、線香花火のかすかな音だけがはっきりと聞こえてくる。線香花火の淡い光が暗闇の中で目立っている。二人はそんな線香花火を、飽きることなくずっと続けていた。

 持ち込んだ線香花火を半分ほど終えたところで、シュウは公園へと視線を向けた。相変わらず色とりどりの光が踊っている。ここから見ているだけでも和気藹々としていて楽しそうだ。シュテルへと視線を向けると、不機嫌そうに少しだけ目を細められる。それを見て、少し焦ってしまう。

「な、何も聞かないよ?」

「ならばいいのです」

 シュテルが次の線香花火に火をつける。乾いた笑みを漏らしながら、シュウも同じく火をつける。

「シュテル」

「はい」

「ありがとう」

 シュテルは何度か目を瞬き、次いで、何のことでしょうかと呆れたような声を返してくる。シュウは何でも無いと花火を見つめつつ小声で言った。

 

 さらに時間が経ち、線香花火から火が落ちる。隣ではシュテルの線香花火からも火が落ちたところだった。シュテルの視線を受け、次の線香花火を取ろうとして、

「……あ」

 最後の一つだった。それなりに回収してここまで持ち込んだつもりだったが、もう全て使い切ったらしい。少し寂しげにため息をつき、その最後の一つをシュテルへと差し出す。だがシュテルは首を振った。

「好きなのでしょう? なら私に遠慮せずに」

「ん……。いや、でも見ていれば同じだし」

「それは私にも言えますが」

「あ、そうだよね」

 それもそうだとうなずいたが、どうしても一人だけでする気にもなれない。しばらくシュウが悩んでいると、シュテルが小さくため息をついた。シュテルの手が伸び、線香花火の先を掴む。シュウが驚いていると、シュテルはシュウとは視線を合わせずに言う。

「なら二人で。それならば良いでしょう」

「うん」

 シュテルの提案に、シュウは笑顔でうなずいた。二人で同じ線香花火を持ち、火をつける。最後の線香花火が柔らかな光を放ち始める。二人でその様子を静かに見守る。同じ線香花火を持っているため二人の体は密着しているのだが、どちらもそれには気づかない。

 そして最後の火が落ちて、二人はそろって満足そうにため息をついた。顔を見合わせ、シュウは笑う。シュテルも少しだけ笑ってくれた。

「それじゃあ戻ろうか」

「そうですね。……ああ、待ってください」

 帰り支度を始めたシュウを止め、シュテルは公園へと視線を向ける。何度かうなずき、シュウへと視線を戻した。すぐに片付けを手伝い始める。

「どうしたの?」

「王から現在位置を聞かれました。もう少しそこにいろとのことです。シュウ、こちらへ」

 荷物を持って階段へ。シュウもそれに続き、二人は階段に腰を下ろす。未だに意味が分からずにシュウが首を傾げているので、シュテルが公園へと指を指し、教えてくれた。

「もうすぐ打ち上げ花火をするそうです。ここからならきっとよく見えるでしょう」

「ああ……。なるほど。それはいいね」

 得心してうなずき、少しだけ楽しみになる。そう言えば公園の花火の光もいつの間にか少なくなっていた。今頃打ち上げ花火の準備中か。

「僕たちは手伝わなくていいの?」

「王が待っていろと言ったのです。お言葉に甘えましょう」

「分かった」

 うなずいたところで、公園から光が上り始めた。それは天高く舞い上がり、大きな花を咲かせる。花火大会のものと似たものだが、今日は距離がとても近いので迫力が違う。思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。

「ディアーチェにはお礼を言わないとね」

「ええ、そうですね」

 並んで座り、花火を眺める二人。花火の光で映し出される二人の影。二人の影は寄り添うようにして映し出されていた。

 

 Side:Stern

 シュウに手を引かれ、階段を下りていく。暗くて危ないからとのことだったが、飛んで下りれば問題ないのではとも思う。ただ、シュウと手を繋いでいるとなぜか心が温かくなるので嫌いではない。シュウの言葉に甘えて、手を繋いで階段を下りていく。

 公園に戻ると、花火を終えたメンバーが後片付けをしていたところだった。ディアーチェがシュウとシュテルの姿を認めると同時に大きく目を見開く、慌ててこちらへとディアーチェが走ってきて、口早に言う。

「戻ったか。そちらの片付けは済んでいるな?」

「もちろん」

「ならば先に帰れ。夜食の準備を頼む。さっさと行け」

 半ば追い出されるような形で二人は公園を後にする。眉をひそめ、二人で顔を見合わせる。お互いに意味が分からずにただただ首を傾げるしかない。

 とりあえずは指示に従おう、その結論に達し、二人はマンションへと歩き始める。その後ろ姿をディアーチェが見守っているが、そんなことに二人は気づかない。

 

 ずっと手を繋いでいたことに二人が気づいたのは、マンションにたどり着いてからだった。

 




少し砂糖を増量してお送りしました。
……24話とサブタイトルが被り気味。
24話を夏祭りにしておけば良かったと激しく後悔しております。

気づけばお気に入りが800件をこえておりました。
登録していただいた皆々様、ありがとうございます。
暇つぶし程度にはなってくれていると嬉しいですよー。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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