「お邪魔します」
そう言いながら、シュウはマンションのシュテルたちの部屋に入った。先ほどインターホンを押したのだが反応がなかったため、もらっていた鍵で開けて中に入る。中からしっかりと鍵をかけて、リビングに向かう。
誰かが帰ってくるまで本でも読んでおこうかな、とそんなことを考えながら何の警戒もせずにリビングに入ったため、人影があることにかなり驚いた。いつもの自分の席、その隣に座っているのは他でもないシュテルだ。泥棒かと疑っていたため、シュテルの姿を認めて安心する。
――どうして出てくれなかったのかな。
「シュテル?」
呼びかけてみるが、反応はない。そっと前へ回り込んでみると、本を開いたまま整った寝息を立てている。珍しいなと思いつつ、シュウはシュテルを起こさないように自分の席に座った。持ってきていた本を開いて読み始める。
静かな部屋で、シュウは一人本を読み進める。聞こえてくるのは隣からの寝息だけだ。時折そちらへと視線を向けるが、シュテルが目を覚ます気配はない。シュウはシュテルの寝顔を見て、少しだけ頬を緩めた。
遠慮がちにシュテルの手に触れる。やはり反応を示さない。
「…………」
シュウはシュテルの手にそっと触れたまま、シュテルの顔をじっと見つめる。しばらく見た後に目を閉じ、自分の心と向き合う。
おそらく自分はシュテルのことが好きなのだろう。まだまだ短い生なのでこれが恋愛感情だとは明言できないが、シュテルと一緒にいるだけで心が安らぐし、できるならばこの先もずっと一緒にいたい、隣にいてほしいと思う。
――思うだけなら……自由だよね……。
シュウは小さくため息をつくと、背もたれにもたれかかった。ゆっくりと息を吐いて、自嘲する。こんなことを自覚して何の意味があるのか、と。
シュテルのことが好きだ。しかし、シュウはその気持ちを告げようとは思っていない。シュテルたちには魔法の力があり、管理局内でも重宝されるほどの力だと聞く。本人たちは管理局に正式に所属する気はあまりないようだが、それでも今後も魔法と関わらないということはないだろう。
逆に自分には魔法の才能はない。魔力も持っていない。魔法と関わることはできない。その道に進もうとしても、シュテルたちの足を引っ張るだけになるだろう。四人とも自分のことを家族だと言ってくれてとても良くしてくれているが、足手まといになることだけは避けたかった。シュテルたちには自分の道をしっかりと歩いてほしい。
自分の感情をシュテルに告げれば、常は無愛想だが心根は優しい彼女だ。おそらく自分の道にシュウも連れて行ってくれるだろう。
シュウを守りながら。
人を背負ってどこまで進めるのか。当然一人で進むよりも短いに決まっている。シュテルの足枷になるぐらいなら、こんな感情は封じてしまう方がいい。
この感情は、この気持ちは、ずっと心に秘め続けよう。彼女たちの未来のために。
――まあ、シュテルが僕のことをどう思っているかは知らないけど。
苦笑しつつシュテルを見る。無防備な寝顔。いつも無表情だが、時折見せてくれる笑顔がシュウは好きだった。
シュテルの隣に居続けることはできない。それは分かっている。だが、せめて。彼女たちが地球にいる間だけは隣にいたい。諦め切れていないだけのただの自己満足だろうが、それはシュウの嘘偽りない気持ちだ。
――この生活がもう少しだけ続きますように。
そう願いながら、シュウはいつの間にか襲ってきていた眠気に身をゆだねた。
Side:Stern
シュテルは目を覚ますと片手に温もりを感じ、少し驚いた。そちらを見るといつの間に来ていたのかシュウがいて、シュテルの手を遠慮気味に握って眠っている。少しだけ呆れつつも、自然と頬が緩む。
毛布でも取りに行こう。そう思って立ち上がろうとしたが、すぐに思い直した。シュウは自分の手を握っている。このまま行けば起こしてしまうかもしれない。そう考え、シュテルはシュウが起きるまで読書を再開することにした。
片手で本を開き、視線を落とす。だがどうにも落ち着かず、すぐにため息をついて本を閉じた。テーブルに置いて、またため息をつく。
隣のシュウはよく眠っている。その寝顔を見ていると安心できる。理由は分からないが。
ふと思い出す。以前リンディから聞かれたことがある。シュウのことをどう思っているのかと。その時は質問の意味が分からずに首を傾げていると、リンディは苦笑いを浮かべて何でも無いと手を振っていた。
シュウの顔を見る。片手から伝わる温もりを意識する。それだけで心が安らぐ。
自問する。自分はシュウをどう思っているのか。
最初はただの共通の趣味を持った友人、だったのだろう。それがいつの間にか、一緒にいる時間が長くなっていた。今では、戦闘中などはともかく、自宅などでは隣にいなければ落ち着かないとすら感じてしまっている。
――何なのでしょうね、この感情は。
自分で自分の感情が分からない。本当に自分はシュウをどう思っているのか。自分が聞きたいぐらいだ。なのはと模擬戦の後に聞いてみた時など、どうにも答えにくそうな、複雑な表情をされてしまった。
シュウをどう思っているのか。一言で言ってしまえば好きだ。王やユーリ、レヴィ、それになのはももちろん好きだ。だが、どうにも好きの意味が違うような気もするが、言葉にはできない。
しばらく自問を続けていたが、やがて小さくかぶりを振った。自分では答えを出せそうにない。それに急いで答えを出す必要もないだろう。この世界に住むシュウとはいずれ別れることになるのかもしれないが、その時まで隣に居てくれていれば十分だ。
そう結論づけたところで、シュテルはさてどうしたものかと悩んでしまう。本を読もうとしても集中できず、かといってシュウはいつ起きるか分からない。テレビを見ようかとも思ったが、この時間の番組はあまり興味がない。
しばらく考えて、また隣のシュウを見る。とても気持ちよさそうに、幸せそうに眠っている。
――私ももう少しだけ、休みましょうか。
シュテルはシュウの手をしっかりと握る。その温もりを確かめるために。手放さないように。そうするだけで、不思議な安心感に包まれる。その安心感に身を委ね、シュテルはそっと目を閉じた。
Side:Dearche
「……何だこれは」
帰宅したディアーチェの第一声がそれだった。
今いる場所はリビングだ。シュウとシュテルが寄り添うようにして眠っていた。二人とも、何とも幸せそうに眠っている。シュウはともかく、シュテルのこのような姿を見るのは珍しい。これも変化かと思いつつ、いいことだとも思う。
ディアーチェは毛布を取ってくると、二人に掛けてやる。一人満足そうにうなずき、ディアーチェはリビングの電気を消した。そのままキッチンへと向かい、冷蔵庫の中身を確認する。
今日の夕食はシュテルが作ることになっていたが、せっかく二人で仲良く寝ているのだ。今日は自分が作ろう。そう考え、ディアーチェは料理を始める。途中でユーリとレヴィが帰ってきたが、リビングを見るとディアーチェの考えを察したのか、ユーリは黙ってキッチンに来て自分を手伝ってくれる。レヴィもせっかくお昼寝しているのだからとキッチンに来て手伝いを始めた。
「ようし! 王様、ボクは何をすればいい?」
「うむ。とりあえず静かにしておれ」
「…………」
無言で肩を落とすレヴィ。ユーリが笑いながら、一緒にやりましょうとレヴィを連れて行く。二人でジャガイモの皮むきを始めた。
ディアーチェはリビングに視線を移す。暗い室内で、シュテルとシュウが眠っている。まだ眠っていることを確認して、仕方のない奴らだ、と不機嫌そうに悪態をつく。
そんなことをつぶやくディアーチェは、誰にも見られないように淡く微笑んでいた。
前回とは違って短いです。過去最短かもです。
主人公→気持ちに自覚あり。
シュテル→自覚はないけど意識はしている。
そんな関係性になってるよということを書きたかったです。
二十九話と三十話、三十一話?は日常を放棄してのシリアスです。
興味のない方は一週間放置しちゃってください。
壁|w・)でも読んでくれると嬉しいな! 一応の完結をさせるつもりですし!
ちなみに、いただいたネタもあるので、完結しても番外編としてちまちま続けていきますよー。
完結後は完全に日常になると思いますですよー。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
一言だけでもいいので……!
ではでは。