ギフテッド   作:龍翠

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シリアスです。暗いです。
ご都合展開注意ですよー。


第二十九話 因果

 

「今日は自信作だ! 心して食せ!」

 海鳴市の外れにある広い公園、その隅の広場でディアーチェが腕を組んでそう言った。ビニールシートが広げられたその上には、弁当の箱がいくつも並べられている。それら数多くの品を見て、レヴィとユーリは瞳を輝かせていた。

 夏休みも残すところあと二週間弱。ユーリ発案、ディアーチェ計画のもと、一行は少し遠出のピクニックに来ていた。出発時の天気は快晴。ピクニック日和である。

 朝に出発して、電車に一時間以上揺られ、駅からさらに一時間歩く。二時間以上の時間をかけてたどり着いた自然公園は、遊具などはほとんどない、大勢で遊べる空間があるだけの公園だった。公園の一部区画ではとても長い滑り台などそういったものもあるらしいが、ほとんどはある程度整備されただけの草原だ。

 自然公園にたどり着いた時には、すでにいつもの昼食の時間を過ぎていた。レヴィの要望もあり、とりあえずは公園の隅で昼食を取ることにする。

 ビニールシートに並ぶのはディアーチェ作のものと、シュテル作のもの、そしてなぜかシュウが作った弁当もあったりする。弁当作りのために朝早くに起こされもした。

 円を描くようにビニールシートに座り、シュウが手を合わせていただきますと言う。それに倣い、シュテルたちも手を合わせた。

「さて、ではまずはシュウの料理の腕がどれほどか、確かめさせてもらうとするか」

「いや、期待しないでよ。本当に」

 意地悪そうに笑い、ディアーチェがシュウの弁当箱からおかずを一品とっていく。シュテルたちもそれに続き、全員一斉に口に入れる。味わうようにゆっくり租借して、呑み込んで、ディアーチェが複雑そうな表情を浮かべた。

「まずくはない。いや、美味しいのだとは思う。だが何かが足りない……」

「愛情ですね! テレビでやってました!」

 そう叫んだのはユーリだ。その言葉にショックを受けたようにレヴィがシュウを見て目を伏せる。

「つまりシュウは、ボクたちのことが嫌いってこと?」

「いやいや、ユーリ何言ってるの! レヴィも真に受けない!」

「じゃあ好き?」

「両極端だね……! いや好きだけど! 認めるけど!」

 レヴィとユーリが嬉しそうに笑い、ディアーチェが大声で言うなとそっぽを向く。シュテルはずっと無言だった。

「……シュテル?」

 不安になって呼びかけてみる。シュテルは視線を上げると、一度うなずいた。

「シュウ。がんばってください」

「……あ、はい……」

 シュテルの口に合わなかったかと肩を落としながら、シュウは自分の作ったおかずを頬張る。次にシュテルのおかずを食べて、大きなため息をついた。続けて食べれば分かる。シュテルの料理に比べると自分の料理はまずい部類に入るかもしれない。シュテルでこれなのだから、ディアーチェの料理と比べるとどうなることやら。

「ですが、私はこの味も嫌いではありませんよ」

 そうつぶやくように言いながら、シュテルはシュウのおかずをゆっくりと食べていく。シュウは力なく微笑むと、ありがと、と短く礼を言った。

 

 昼食を終えた後は自由時間だ。レヴィとユーリは海鳴市最長と言われる滑り台を体験しに、ディアーチェはその付き添いとして行ってしまった。昼食の場に残されたのはシュウとシュテルの二人。一緒に片付けをして、今はシュテルからお茶を受け取って少しずつ飲んでいるところだ。

 本を読んでいるシュテルの隣で、シュウは小さく欠伸をする。風がとても心地よく、睡魔が襲ってくる。せっかくここまで来たのに、寝てしまうのはもったいない。

「眠たそうですね、シュウ」

 シュテルの声。シュウはシュテルを見て、苦笑してうなずく。

「うん。ここは気持ちがいいから……」

「寝てしまってもいいと思いますよ。帰宅の時は起こします」

「ここまで来て寝るのはもったいないかなって」

「なるほど、そういうものですか」

 何度かうなずいて、シュテルはまた視線を落とす。シュウは苦笑を返して、また小さく欠伸をした。ついでにぐっと伸びもする。ふと視線を上げた先で、シュウは、ああ、と残念そうな声を漏らした。それを聞いたシュテルがシュウを見る。

「天気が悪くなりそうだね」

 シュウの言葉。シュテルはシュウの視線を追って、そしてシュテルもうなずいた。二人が見る先、まだ遠いところだが、暗雲がゆっくりとこちらへと近づいてきているらしい。雨でも降りそうだ。

「王たちに連絡だけしておきます」

「うん。よろしく」

 念話の方へと意識を傾けたシュテル。シュウはその様子を横目で見ながら、せっかく来たのにな、と残念そうにしながら暗雲をぼんやりと見つめていた。

 

 ディアーチェが戻ってきて、少しした頃には雨が降り始めた。なかなか強い雨で、ここから最寄りのコンビニまで走るとびしょ濡れになってしまう。

「参ったな」

 ディアーチェが不機嫌そうに言って、シュウが仕方ないよと笑う。天気が味方しなかったが、こういう時もあるだろう。通り雨だと判断して、五人はこの場所で、大きな木の下で時間を潰すことにした。

 話をしながら雨が上がるのを待つ。だがすぐにシュテルの携帯電話が鳴り、失礼しますと断って電話に出る。しばらくして電話を切ったシュテルの表情は、とても険しいものになっていた。何となくだが、そうと分かる。

「シュウ。この後の予定は空いていますか?」

 突然のそんな言葉。もとより予定などないのでうなずくと、分かりましたとシュテルはディアーチェたちに向き直る。

「リンディ艦長からです。アースラに来てほしいと」

 シュテルの声音から感情が読み取れない。自分を律するかのような、冷たい声だ。その声に、シュウは一抹の不安を覚えた。

 雨はまだまだ降り続ける。

 

 アースラに着くと、クロノが出迎えてくれた。クロノはシュウを見ると、悲しげに表情を曇らせる。だが一瞬後には、その感情を隠して無表情になっていた。クロノの案内のもとアースラの廊下を歩いて行く。

「ここだ」

 少し歩いてたどり着いた部屋の前でクロノが言って、扉を開ける。その部屋に入って、シュウは少し驚いた。

 部屋は中央にテーブルといすがあるだけの小さな部屋だった。その奥に、艦長であるリンディがいて、あと二人、シュウを見つめる人物。

「元気そうだね、父さん、母さん」

 ケインとさくらはシュウの声を聞いて、棘のない声を聞いて、思わず笑顔になっていた。何度もうなずき、言う。

「ああ。元気だとも。……シュウ、今までのことだが……」

 ケインの言葉に、シュウは静かに首を振った。

「だいたいは聞いてるからいいよ。もうちょっと違う方法をとって欲しかったけど」

「……すまない」

「まあ、ここに来たからこそシュテルたちに会えたしね」

 そう言って、自分の後に入ってきたシュテルたちへと振り返る。シュテルはいつもの無表情だが少しだけ口の端が持ち上がっており、レヴィは照れたように笑う。ディアーチェはそっぽを向いていて、ユーリはその様子を見ておかしそうに笑っていた。

「それで、わざわざ僕を呼び出した理由は? 別にいいとはいっても、怒ってないわけじゃないよ?」

 今更とやかく言うつもりはないが、許すか許さないかで言えば許せない。だからこそ、今更自分の生活を邪魔してほしくないとも思う。連れ戻そうというなら拒否するつもりだ。

 だが、リンディから放たれた言葉は、そんな些細な問題ではなかった。

「シュウ君。これからする話を、よく聞いてください」

 

 管理局の協力のもと、ギフテッドに対する研究は一気に進められた。その切り出しで、両親がゆっくりと話し始める。とても辛そうに、シュウとは視線を合わせずに。

 蓄積されていたデータを解析した結果、シュウの周囲で起こっていた異変の原因が判明した。それはとても単純なものだった。

 西崎秀一は魔力を有していない。しかしギフテッドが人の形を取り続ける以上、一定量の魔力は消費し続けているはずだ。ならその魔力はどこから使われているのか。

 ――外からの魔力。

 幼少の頃はギフテッドそのものに残されていた魔力を使い、人としての存在を維持する。残りが少なくなってきてからは、外部から調達する。外部になければ、呼び寄せてしまえばいい。そうして呼び出されたものが今までの異変、強い魔力を帯びた物質が飛来してきたものだ。

 海鳴市に来てから異変が起こっていなかったのは、前回の異変の時に莫大な量の魔力を回収できたため。それがまた枯渇しそうになってから再び異変が起き始める。現在頻発しているロストロギアの飛来だ。

「ではロストロギアの魔力がなくなっていたのは……」

「シュウが吸収したのだろうね。自身の存在維持のために」

 ケインの言葉に、シュテルが黙って顔を伏せる。小さな声で、そうなりますか、とつぶやく。その声は少し震えているようだった。

「シュウと異変との因果関係がはっきりした……。してしまった……」

「そして管理局が協力した以上、管理局もそれを把握している」

 なるほど、とシュウはうなずいた。どうやら知らないところで、自分の運命が決まっていたらしい。そのことに少しだけ悲しくなるが、だがどこか他人事のように捉えている自分もいる。思わずシュウが自嘲気味に笑うと、クロノがそのシュウへと頭を下げた。

「すまない。こちらとしても、できる限り手を尽くした。だが……」

「異変を起こさずに維持できるなら、監視などはついても今までの生活が守れたのでしょうけど……。異変を起こすとなると、管理局はそれを無視できない……。次に呼び寄せられるものが危険なロストロギアではないと、誰も断定できない。だから……管理局の決定は……」

 クロノの言葉を引き継いだリンディが、まっすぐにシュウを見つめる。一切の感情を隠していたが、その瞳が揺れていることに気がついてしまう。

「ギフテッドの、封印処理。それが管理局側が出した決定よ。……ごめんなさい、シュウ君。本当に、ごめんなさい……」

 リンディが頭を下げる。シュウは黙ってその様子を見守っている。

「封印って……。どうして! どうにかならないのっ?」

 そう聞いたのはレヴィだ。答えるのはケインとさくら。

「この決定が出そうになってからは、どうにかしてこちらから魔力を与える術がないか調べていた。だが……」

「調べた限りでは、見つからなかった。私たちではシュウを救うことはできない……」

 さくらが目を伏せる。レヴィがまだ言い募ろうとしたが、ディアーチェがそれを止めた。レヴィの非難がましい視線に、ディアーチェはゆっくりと首を振る。

「当事者であるシュウが何も言っておらんだろう」

 二人が、部屋の全員がシュウを見る。シュウは少し考え、シュテルへと振り返る。

「ねえ、シュテル。人に魔力を分け与えることってできたよね」

「はい。やってみますか?」

「うん。お願い」

 シュテルがルシフェリオンをシュウへと向ける。淡い光がシュウを包み込む。だがそれらはシュウへと入ることはなく、周囲へと四散して消えてしまった。やっぱりか、とシュウが苦笑して、シュテルも小さくため息をつく。

「貴方の意思に関係なく、ギフテッドそのものが人から魔力を吸収することを拒絶しているのでしょう。人の子となるために、そうしたのかもしれませんね」

「完全に裏目に出てるけどね。恨むよ、当時の僕」

 その時は意識すらなかったけど、とシュウは乾いた笑みを浮かべる。どうやら避ける手段は本当にないらしい。シュウはリンディへと向き直り、言った。

「一週間だけ、時間をください」

 リンディが顔を上げ、少しだけ驚いたようだった。シュウが笑顔で続ける。

「一週間後に大人しく封印されます。逃げません。だからあと一週間だけ、僕に時間をください」

 シュウが頭を下げると、リンディは今にも泣きそうなほどに表情をゆがめた。しっかりと一度うなずき、答えてくれる。

「分かりました。本局には私から伝えておきます」

「お願いします。それでは」

 そう言って、シュウはきびすを返す。急ぐようにその部屋を後にした。

 

 

 Side:Hero

 シュウが部屋を出て行く。ディアーチェたちがそれを追い、シュテルはリンディたちへと向き直る。今まで我慢していたのだろう、さくらはその場で泣き崩れ、ケインはそのさくらを抱きしめていた。

「あの子は……私たちを責めなかったわね……」

 リンディの声。シュテルは、そうですねと嘆息混じりに返す。

「貴方方は、シュウと一緒でなくてもよろしいのですか?」

 シュテルがケインとさくらに問いかける。二人は少し驚いた様子だったが、しっかりとうなずきを返した。泣きそうな表情のまま笑顔を浮かべる二人。

「あの子は、多分君たちと一緒にいることを選ぶだろう」

「だから、あの子と一緒にいてあげて。勝手なお願いというのは分かってるけど……」

 元よりそのつもりです、と返答してシュテルは部屋を立ち去った。内心の動揺を押し殺しながら。

 

 リビングで、シュウがいつものように本を読んでいる。その様子は平時と変わらない。死刑宣告も同然の通達を受けたにもかかわらず、シュウはいつも通りだ。

 違いますね、とシュテルは内心で首を振った。本を読むスピードが明らかに違う。かなり急いで読んでいるようにも見える。

「すまん、シュテル。我らが声をかけても無反応でな……」

 そう言ってきたのはディアーチェだ。シュテルは仕方がありませんと首を振り、シュウの隣に腰を下ろした。シュテルに気づいたのだろう、シュウが少しだけ顔を上げ、だがすぐに本へと視線を戻す。

「何をしているのですか、シュウ」

「読めてない本を読んでしまおうかなと。もう読めなくなるだろうし」

 そうですか、とシュテルはそれ以上何も言えなかった。そっとシュウの手を握ってやると、シュウがびくりと体を震わせる。そしてシュテルを見てきたシュウの目は、ひどく怯えたものだった。

「……ねえ、シュテル」

「はい」

「封印ってことは、僕は消えるってことだよね」

「……はい」

「……僕は、死ぬの?」

 答えられずに顔を伏せる。封印といっても、ギフテッドが破壊されるわけではない。だが、西崎秀一という人間の自我は完全に失われてしまうだろう。それを死と言わずに何と言うのか、シュテルには思い浮かばない。

「……ねえ、シュテル」

「はい」

 シュウの呼びかけ。シュテルはしっかりとシュウを見る。もしも、もしもシュウが自分に助けを求めるなら、それに応えよう。そう心に誓って。

 だが、シュウの言葉は違うものだった。

「一週間だけでいい……。一緒に、いてもらえない、かな……」

 シュテルが目を瞠る。少し言葉に詰まったが、しかしシュテルはしっかりとうなずいた。

「はい。もちろんですよ、シュウ」

 それが、このきっかけを作ってしまった自分ができる、精一杯のことだ。

 例え自分が調べようとはしなくても、異変が起き始めていた以上管理局はいずれシュウに行き着いただろう。それでも、自分の意思がシュウの封印を早めたことに変わりは無い。そのことをシュウがどう思っているのかと不安になるが……。

 ――貴方が望むのならば、私はずっと側にいましょう。

 シュウの震える手をしっかりと握り、嗚咽を漏らし始めたシュウをそっと抱いた。

 




どうしてこんな展開にしたのか、自分でも分かりません。
……ちょっと急ぎすぎかなとも思います。
もうちょっと心理描写をしたかったなと……。

……これはあれでしょうか、アンチ管理局に入るのでしょうか、そんなつもりはないのですけど。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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