ギフテッド   作:龍翠

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プロトタイプ4話目、ですよー。


第四話 残滓

 

少女の意志に関わらず、

運命の歯車は回り続ける。

その行く先は光か闇か。

 

『残滓』

 

「こんにちは」

「……!!」

それはあまりに突然だった。

日課となった立ち読みの最中、シュウに話しかけてきたのは、なのはだ。

どこか照れたような笑顔で、シュウのことを見つめている。

その笑顔を受け止めたシュウの心臓が跳ね馬のように暴れ出す。

さっと視線を動かし、連れの姿を探した。

通路の最奥、本棚の影に黒衣の少女の姿があった。

少女もなのはに気づいたのだろう、本を持ったまま唖然としている。

だが、シュウと視線が合うとすぐに平静を取り戻し、キャップを目深に被った。

そのまま本棚の影へと消えていく。

とりあえず安堵のため息をつくと、シュウはなのはへと向き直った。

「こ、こんにちは、なのは」

「……シュウ君、どうかした?」

「え、いや! 何でもないよ!」

我ながら挙動不審すぎるとは思うが、なのはに言うわけにもいかない。

あるいはなのはなら大丈夫かとも思うが、少しでも可能性があるなら潰しておきたい。

だが、そんなシュウの思惑は、無駄に終わった。

悪い意味で、それもあまりに突然だった。

「私と、会わなかった?」

何言ってるの? どういうこと? そう返すべきだった。

何も知らなければ、そんな反応になったはずだ。

だが、シュウは言葉に詰まってしまった。

なのはに問われ、頭が真っ白になってしまった。

それが明確な答えになっているというのに。

「やっぱり……。近所の人が、私と歩いてるシュウ君を見かけたって言ってたから」

「いや、それはその……」

言い訳を続けようとしたシュウだったが、それも続かなかった。

黒衣の少女が、静かになのはの真後ろに立ち、

ゆっくりと人差し指をなのはの首に突きつけた。

「どなたかをお探しですか?」

「……やっぱり、いたんだね」

少女の声に、なのはは苦笑。

シュウの目の前で、二人は完全に沈黙したまま突っ立っていた。

どうするべきかと悩んでみるが、シュウにできることはない。

二人の様子を固唾を呑んで見守っていると、やがて少女が指を下ろした。

「お久しぶりですね、高町なのは。私のベースとなった方」

「うん、久しぶり、だね。喜んで良いのかは分からないけど」

なのはが笑顔で振り返る。

黒衣の少女の表情は、冷たい仮面に覆われていた。

 

公園の池の側で、シュウは立ち尽くしていた。

目の前には、向かい合うようになのはと黒衣の少女が立っている。

あれからとりあえず場所を移動してみたが、状況はいいとは言えない。

むしろ最悪とも言える。

なのはに見つかっているのなら、管理局にも知られている可能性が高い。

「私のことは、もう管理局に報告済みですか?」

少女も気になっていたのだろう、開口一番そう聞いた。

なのははその問いに、小さく首を振る。

「まだ、言ってないよ。ちゃんと確認したわけでもなかったし……」

「念話などは?」

「してない。大丈夫、まだ私以外は、誰も知らないよ」

それを聞いて、シュウは大きく息を吐いた。

だが少女の方はその答えでは満足していないらしい。

今まで以上の警戒心をあらわにして、なのはを睨みつけている。

「なぜ、報告しないんですか? あなたは管理局側の人間でしょう」

「それは……その……」

なのはは言葉を探すように、少女から視線をそらした。

指をあごに当てて、しばらく考える。

「今も、最初に会った時みたいな破壊衝動というか……。そういうのはあるの?」

「いえ……。それは、ありませんが……」

「だったら、いいの」

嬉しそうな満面の笑顔を浮かべるなのは。

思わずどきりとしてしまった。

「クロノ君やリンディさんには黙ってるって約束する。

 だから……。友達に、なろうよ」

そう言って、そっと手を差し出した。

「……いいのですか?」

「うん」

「…………」

少女はゆっくりとなのはに近づき、その手を握った。

満面の笑顔のなのはと、相変わらずの無表情のなのはと同じ顔。

シュウはその様子を見つめ、嬉しそうに笑っていた。

 

「よかったね」

自宅に帰ってきて、すぐにそう言った。

スーパーの袋を二つ持ったまま、少女は意味が分からないようできょとんとしていた。

それからすぐに言葉の意味を察したらしい。

帰り際に寄ったスーパーの袋を床に置いて、少女は一度だけうなずいた。

「はい。まだ管理局には伝わっていないようで、よかったです」

「いや、そうじゃなくて……」

シュウが苦笑すると、少女は怪訝そうに眉をひそめた。

どうやら本当に分かっていないらしい。

「なのはと仲直りできて、だよ」

「…………」

少女の表情が、笑顔になった。

だがそれは本当に一瞬で、次の瞬間にはいつもの無表情。

見間違えたのかと思ってしまうほどだ。

「よかったのかは分かりませんが……。

 また敵対することにならなくてよかったとは思います」

「そっか」

それ以上は何も言わず、シュウは静かに微笑んだ。

――管理局とも、なのはと同じように和解できたらいいのに。

どうにかすれば可能なのではないだろうか。

そんな淡い期待を胸に抱いた。

 

だが、それは結局は儚い願望だった。

 

 

なのはと出会って一週間後。

夕暮れの淡い光が室内を照らしていた。

シュウと少女は、自宅でのんびりと読書をしている。

ふと、少女が顔を上げた。

「……闇が……」

「へ……?」

シュウも顔を上げ、今まで見せたことのない少女の表情を見て驚いた。

こめかみにしわを寄せ、険のある顔をしている。

不機嫌そう、というのではなく、何かに強く警戒しているようだ。

「シュウ……。最初に言っておきます」

少女がそっと立ち上がって杖を持った。

その仕草に思わずシュウの体が固くなる。

そんなシュウの反応も今の少女にとってはどうでもいいようで、言葉を続ける。

「なのはが口外したわけではありません」

「え? それってどういう……」

「この街に、闇の断片が再び現れ始めました。

 今はまだ意志を持たない小さなものですが、管理局はその掃討を始めています。

 今回こそ漏れのないように徹底的に索敵して……」

ノブを回す小さな音がして、シュウは驚いて跳び上がった。

シュウはとまどいの目で、少女は睨みつけるように、ドアを見る。

ゆっくりと開かれていく。

そこにいたのは、クロノ・ハラオウンだった。

「故に、自然と見つかってしまいました」

淡々と、少女は締めくくった。

 

どこかで雷が鳴った。

そんな、気がした。

 




超絶に短いですね。終わりに向かい始めました。
……このファイルのあとがきにこれから就職と書いていました。
懐かしすぎて涙が出そう。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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