今回はメッセージでのリクエストからです。
作中の時期的にちょうどいいので先に書かせていただきました。
宿題
『お願い! 手伝って!』
夏休み終わり間近。シュウはそんな電話を受けて目を覚ました。現在いる場所は引っ越した先のマンションのリビングだ。布団を敷いてそこで寝ている。他にも部屋はあるのだが、掃除が面倒ということおもあり、リビングとキッチンのみで生活していた。
朝九時頃、携帯電話が鳴って目を覚ました。うたた寝から起きて目をこすりながら電話に出ると、なのはからの助けを求める電話だった。魔法関係のものではなく学校のことでの。つまりは夏休みの宿題。
「まだやってなかったの?」
欠伸をかみ殺しながら言うと、電話の向こうから、うんとどんよりとした空気が伝わってきた。思わず苦笑して、シュウは部屋の隅に置いてあるかばんを漁る。学校の荷物はほとんどがここに入れてある。もちろん宿題もだ。
「ちゃんと計画的にやらないと」
「うん……。分かってはいたんだけど、ちょっと忙しくて……」
そうだろうなとは思う。なのはたちは管理局で働いている。嘱託魔導師としてなので毎日仕事というわけではないようだが、それでも仕事があった日は丸一日潰れているようだ。その上、宿題そのものもかなり多い。さすがは私立というべきか。
「まあ、うん。暇だし手伝うよ。ただ見せることはしないよ。分からないところを教えてあげるだけだからね」
『本当に? ありがとう!』
嬉しそうななのはの声。その後は集合時間を決め、高町家に集まることになった。どうやらフェイトとはやても追い詰められているそうで、三人で集まる予定らしい。アリサとすずかは別件の用事だとか。さすがに自分一人では心許ないので、シュテルたちにも声をかける許可をもらっておいた。
電話の後は早速シュテルたちの部屋へと向かう。現在はお隣なのですぐに会うことができる。自宅を出て隣のインターホンを押すと、すぐにシュテルの声が聞こえてきた。
『はい』
「僕だよ」
返事はなく、すぐに扉が開かれる。シュテルが顔をのぞかせ、どうぞと招き入れてくれる。
「どうかしましたか?」
「うん。ちょっと手伝ってほしいことがあって……」
リビングに向かいながら苦笑しつつ言う。珍しいですね、とシュテルは少し驚いているようだった。相変わらず表情に変化がほとんどないが、今では何となく分かるようになっている。
リビングではディアーチェ、レヴィ、ユーリが勢揃いしていた。どうやら今日は全員休みらしい。のんびりと寛いでいるようだった。
「あ……。邪魔しちゃったかな?」
たまには家族水入らずで、と思いそう聞くと、ディアーチェがシュウを軽く睨む。
「もう家族も同然だと言ったであろうが」
「……そうだったね。ありがとう」
「……ふん」
顔を背けるディアーチェ。シュウは薄く笑むと、いつもの自分の席に座った。シュテルがジュースを出してくれる。シュウはお礼を言いながら、それを少しだけ飲んだ。
「シュウ。手伝いというのは?」
「ああ、うん……。実はね……」
シュテルからの切り出しに、シュウは苦笑気味に電話でのやり取りを話した。シュウが話している間、シュテルは黙って静かに聞いていてくれる。全て聞き終えて、シュテルはどこか呆れたようなため息をついた。
「なるほど、事情は理解しました。私で良ければ協力しましょう」
「本当に? 助かるよ」
「ふむ。では我も行くか」
そう言ってきたのはディアーチェだ。それを聞いたレヴィとユーリも早速出かける準備を始める。どうやら結局全員で行くことになりそうだ。
「時間だけど……」
「知らん。今から行くぞ」
「え……」
さすがにシュウが頬を引きつらせるが、すでにレヴィとユーリによって支度が終わってしまっている。助け船を求めてシュテルの方を見ると、こちらは戸締まりの確認をしていた。シュウの視線に気づいて、首を傾げてくる。
――あ、だめだこれ。
この場にいる四人は今から行くつもりなのだろう。シュウだけが異論を唱えても受け入れられるとは思えない。シュウは小さくため息をつくと、まあいいかと苦笑した。
「わ! シュウ君、早いね! シュテルたちも、いらっしゃい!」
約束の時間よりもかなり早く高町家に来てしまったが、幸いなのはは笑顔で歓迎してくれた。なのはの案内のもと、リビングに向かう。リビングのテーブルには宿題が広がっており、フェイトとはやてが頭を抱えていた。学校ではあまり見ることのできない、珍しい光景だ。
「フェイトちゃん、はやてちゃん。シュウ君たちが来てくれたよ」
なのはの声にフェイトとはやてが顔を上げる。そして少し目を見開いた。おそらくディアーチェたちもいたことに少なからず驚いたのだろう。二人が唖然としている間に、ディアーチェが静かにはやての側へ行き、問題集を取り上げる。我に返ったはやては大慌てだ。
「あ、待って王様! それはまだ途中で……!」
「ここが違っておるな」
「え、うそ」
ディアーチェの指摘にはやての表情が固まる。問題集を返してもらったはやては一瞬の思考ののち、がくりと項垂れてしまった。
「あかん、やり直しや……」
陰鬱な声でつぶやくはやて。さすがにディアーチェもその様子に言葉を失っている。なにやらしばらく内心で葛藤していたようだったが、やがてディアーチェははやての隣に座った。
「ええい、辛気くさい顔をするな! 調子が狂う! 見せてみろ!」
「え、あ、うん……。はい」
「くっ……! なぜこういう時ばかり素直なのだ……!」
文句を言いつつも問題の解説を始めるあたり、やはりディアーチェは優しいなと思う。
その真向かい、フェイトの方にはいつの間にかレヴィがいた。同じように解説などしている。
レヴィが。
あのレヴィが!
「レヴィって賢いのっ?」
思わず声を上げるシュウ。それを聞きとがめたレヴィがあからさまに不機嫌そうな表情をする。
「ぶー。君はボクをなんだと思ってるんだ。ボクはマテリアルだぞ、賢いんだぞ!」
「……普段の言動があれだから……」
「ひどい!」
二人のやり取りにフェイトがくすくすと忍び笑いを漏らす。優しげに微笑みながら、フェイトが言う。
「やっぱり仲がいいね。レヴィもシュウのこと好きそうだし」
「うん。好きだぞ。あとオリジナル、そこの解釈間違ってる」
「え……」
レヴィの指摘に一瞬固まり、フェイトはため息をついた。
そう言えば、とシュウは思い出す。シュテルに聞いた話だが、レヴィは精神こそ幼いがマテリアルの一基としてしっかりと知識は持っているらしい。そのため勉強などに関しては問題ないそうだ。もっとも、自分の興味の向かないことは長続きしないので勉強をするとなると話は別だそうだが。
「シュウ。なのはの方はお任せします」
シュテルに言われ、シュウとなのはが首を傾げる。シュテルが教えるものと思っていたが、どうやら違うらしい。
「昼食の用意でもしておきます。それまでがんばってください」
そう言って、冷蔵庫の中のものを少し使いますよ、と断りを入れてからシュテルはキッチンへと向かっていった。
「……それじゃあ、やろうか。なのは」
「うん。よろしくね、シュウ君」
顔を見合わせて、微苦笑した。
昼食を終えた後も宿題は続く。本当に量が多いためいつ終わるのかも分からない。昼食後は、なのはにはシュテル、フェイトにはレヴィ、はやてにはディアーチェが教えていた。シュウは三人でも分からない部分、つまりはこの世界独特のものを教えていく。ユーリはシュテルたち三人が休憩を取る時などのサポートだ。なのはたち三人は休憩せずにひたすら宿題に取りかかっている。
日が傾くまで続け、なのはの家族も帰ってくる。勉強をしているところを見て、皆が苦笑していた。
日が暮れ、終わりの見えなかった宿題はようやっと残りわずかとなった。あとは読書感想文など、教えることができないものだけだ。
「私たちでできることはここまでですね」
そう言ってシュテルが立ち上がる。他の二人も同じところまで終わったのか、ディアーチェが小さくため息をつき、レヴィがテーブルに突っ伏した。どうやら全員それなりに疲れたらしい。
「みんな、ご飯食べていくわね?」
桃子の言葉にシュテルたちは少し悩んだようだが、せっかくなのでとお言葉に甘えることになった。シュテルが桃子を手伝うためにキッチンへ向かう。
「まったく、少しは計画性を持て。たわけめ」
「うう……。おっしゃると通りですぅ……」
テーブルに突っ伏すはやてとなのはとフェイトも疲れたようにうつろな表情で一言も発さない。管理局の仕事はそこまで忙しいのだろうかと思ってしまう。
――でもやめないってことは、本人たちはそれが好きなんだろうなあ……。
羨ましいと思う。将来がしっかりと定まっているということだ。それに対して、自分はどうだろうか。この先、自分はどうすればいいのか。シュウには分からない。将来のことを考えると不安で胸が苦しくなってくる。
「お待たせしました。夕食にしましょう」
シュテルの声。運ばれてくる料理。そして集まってくる高町家の面々。
大人数での夕食が始まる。楽しげな会話が交わされていく。シュウも時折話を振られては笑顔で返す。家族の団らんというのはこういうものなのだろう。
――今はいいか。
将来のことを今考えても仕方がない。とりあえず今は、目の前の夕食を楽しむことにした。
今日も夜は更けていく。高町家からは普段よりもずっと騒がしい、けれど楽しげな笑い声が聞こえてきていた。
今回から日常ほのぼの再開ですよー!
レヴィの設定?はゲーム中での会話より察してのものです。
アホの子ではあるけどバカではないんだろうなと。ひどい言い草だ!
もうちょっとどたばたした長いものにしたかったのですが、断念しました。
……こっそり修正したくなりますね……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。