最初の一段落だけ暗いので飛ばすことを全力で推奨します。
ある日の日曜日。シュウは朝日が昇る前に目を覚ました。近所迷惑にならないように静かに布団を片付け、そして空いたスペースの床に正座する。目を閉じ、黙祷。思うのは、実家に住んでいた頃に隣に住んでいた青年のこと。自分のせいで亡くなったしまった青年のことだ。本来ならお墓へと挨拶に行きたいところではあるが、彼の家族と鉢合わせしたくはなかったし、それ以前にまず場所を知らないというのもある。
古い記憶を呼び起こしながら、シュウは黙祷を続けた。彼岸の期間のうち、日曜日はいつもこの黙祷から始まる。こんなことは偽善にもならない自己満足なのだろうが、いつの間にか習慣のようなものになっていた。
長い時間黙祷を続け、やがてシュウは目を開けた。窓から外を見ると、少しずつ空が明るくなっていく。シュウは立ち上がると、毎週日曜の恒例である部屋の掃除を始めた。
日曜日は七時頃にシュテルたちの部屋に行くことになっている。約束をしているわけではないが、いつの間にか暗黙の了解になっており、行かなければ心配された上で迎えに来られる。今日もシュウは七時前に部屋を出て、シュテルたちの部屋へと向かう。歩いて十秒足らず。とても楽だ。
リビングに向かうと、すでにレヴィとユーリがテレビの前で待機している。七時からの特撮番組を見るための毎週の光景だ。もう一人、ディアーチェは読書。ディアーチェがここにいるということは、シュテルが朝食の当番なのだろう。
「おはよう」
そう言うと、三人がそれぞれ反応を返してくれる。レヴィとユーリは振り返って笑顔で、ディアーチェはちらりと一瞥してくるだけだが、挨拶はしっかり返してくれた。
「おはようございます、シュウ。もうすぐできますよ」
キッチンの方からエプロン姿のシュテルが顔を出した。
テーブルに並べられていく朝食は、ご飯と焼き魚、お味噌汁といったもの。皆で手を合わせ、食べ始める。レヴィとユーリは行儀悪くテレビを見ながら食べているのだが、これに関してシュテルとディアーチェが怒ることはない。ディアーチェ曰く、むしろ静かに食べられるからもっと見ておけ、とのことだった。
朝食を終えての片付けはシュウとレヴィ、ユーリの担当だ。その間にシュテルとディアーチェは部屋の掃除や洗濯など、家事全般をこなしていく。洗い物が終わった三人は、シュテルとディアーチェの手伝いだ。
「さて、では今日の予定だが」
家事が終わればディアーチェが今日の予定を告げる。嘱託魔導師としての仕事があればこの時に誰が行くか決めるそうだが、日曜日は彼女たちも休みと決めているらしく、今日も仕事に関しての話はなかった。
「予定はない。せっかくの休日だ、好きに過ごせ」
そう告げるだけ告げて、ディアーチェは席に座って読書を始めてしまう。出かける予定がなければ、これもいつものことだ。レヴィとユーリはどうやら外に遊びに行くらしく、出かける準備を始めていた。
――さて、どうしようか。
シュウも当然ながら予定などはない。シュテルはどうするのかなと姿を探してみると、キッチンで何かの準備を始めているようだった。しばらくその様子を眺めていると、視線に気づいたのかシュテルが振り返る。思わずシュウが照れ笑いを浮かべると、
「シュウ。お暇なのでしたら手伝っていただけますか?」
シュテルからそんな申し出があった。
シュテルと一緒に家を出て、近くのスーパーへ向かう。おやつに何かを作るらしいが、何をかまでは聞いていない。材料で分かると思います、とのことだった。おやつの材料にさほど詳しくないのだが、それでも分かるのだろうか。
シュテルと一緒にスーパーの中を歩く。買い物かごを持つのはシュウの役目だ。ついでに夕食の買い物も済ませるつもりらしく、野菜や精肉コーナーも見て回る。豚肉にジャガイモ、人参……。カレーの材料ばかりなのでカレーかと思ったが、肝心のルウを入れていない。それに三日ほど前に食べたところなので、さすがに違うだろう。
「……肉じゃが?」
カレーと共通する材料で連想してそう聞いてみると、シュテルはシュウをちらりと見て、一度だけうなずいた。正解です、と。
「……あれ? おやつは?」
「これから買いますよ」
そう言ってシュテルが買い物かごに入れたのは、餅米と小豆、きなこだ。少し首を傾げたシュウだったが、今日が何の日だったかを思い出し、手を叩いた。
「おはぎか!」
「はい。作るのは初めてなのでうまく作れるかは分かりませんが……」
「僕もできるだけ手伝うよ。……作り方知らないけど」
「図書館で作り方の本を借りておきました。私は覚えてありますので、そちらはシュウが見てください」
このためだけに覚えたのか、とシュウは驚くが、シュテルのことだ。覚えようとして覚えたのではなく、興味を持って読んだら覚えてしまっただけだろう。シュテルの足を引っ張らないように、帰ったら自分も覚えようと思う。
「では帰りましょうか」
シュテルはシュウからかごを受け取ると、レジへと向かっていった。
帰宅後、昼食を済ませ、シュウは料理の本を借りておはぎのページを熟読する。それほど難しくはないようだが、万が一にも手順が抜けて迷惑をかけるということにはなりたくないので、しっかりと頭にたたき込んだ。
覚えてからキッチンに立ち、シュテルと一緒に作業へと入る。シュウは餅米を洗って炊くまで、シュテルはあんこを作るまでだ。シュウの方が簡単すぎる気がするが、シュテルの指示に従っておく。
やがて餅米が炊き終え、あんこも出来上がった。二人で並んで成形していく。シュウは餅米をあんこで包み、シュテルはその逆でさらにきなこをまぶしていく。きなこには砂糖を入れていないようだったが、砂糖を入れると水分が出てしまうからだそうだ。
途中で交代して、今度はシュウがきなこをまぶしていく。一個一個丁寧に。そしてさらにしばらくしてまた交代。それの繰り返し。
「……ちょっと待って。多すぎない?」
「なのはにも頼まれましたので。あとはアースラの方たちにも」
アースラはともかく、なのはは少し意外だった。桃子が作っていそうなものだが。
夕方になる頃にようやく全ての成形が終わった。お疲れ様でした、とシュテルが言って、シュウもお疲れ様と笑顔で返す。シュテルはあんこのおはぎを手に取ると、シュウに差し出してきた。
「味見しましょうか」
「ああ、そう言えば食べてなかったね」
シュテルからおはぎを受け取り、半分かじる。甘過ぎないあんこでシュウの好きな味だ。さすがシュテル、と思っていると、残りの半分をシュテルが横からぱくりと食べてしまった。
「へ? しゅて、る……?」
「なるほど……。それなりの出来、としておきましょうか。機会があればもう一度作りたいですね」
シュテルは何も気にしていないのか、今度はきなこの方を手に取った。それを半分食べ、一人うなずいている。シュウは固まったままだ。そのシュウの目の前へと、半分になったきなこのおはぎが差し出される。
どうぞ、とシュテルが言う。すぐに意図を察して、しかしシュウは動けずにいた。頭が真っ白になっている。なんだろう、この状況は。
「シュウ?」
シュテルが首を傾げる。シュウはシュテルに見つめられるのが恥ずかしくなり、そのきなこのおはぎをシュテルの手から食べた。何度も租借する。ほどよい甘さ……なのだろうが、先ほどより味が分からない。もう何も考えられない。
「どうですか?」
シュテルの問いに、シュウは何とか笑顔を浮かべて答える。
「うん。美味しい、よ」
「そうですか。では私はなのはたちへ持って行ってきます。シュウはゆっくりしていてください」
そう言ってシュテルはパックへとおはぎを詰めていく。そして一礼してキッチンを出て行く。シュウは呆然としたままその後ろ姿を見送った。
「……なんだこれは」
リビングで読書をしていたディアーチェが呆れていることに、シュウは気づいていない。
シュテルが戻ってくる頃にレヴィとユーリも帰ってきた。テーブルに並べられたおはぎを見て、レヴィが目を輝かせる。先に手を洗ってこい、というディアーチェの言葉に従い、流しへと走って行った。
「急がなくとも消えはしないというのに」
「あはは……」
ディアーチェのため息交じりの言葉にシュウは苦笑。シュテルと共にお茶とジュースを用意する。シュウとシュテル、ディアーチェは熱いお茶、レヴィとユーリはオレンジジュースだ。それをテーブルに置いて、レヴィとユーリが戻ってきたところで手を合わせた。
「やわらかくておいしー!」
レヴィが次々に食べていく。その様子を見ていると、作った方としてはとても嬉しくなる。最も難しいだろうあんこを作ったのはシュテルだが、それでも嬉しいものだ。
「ねえシュテル、青色はないの?」
「ありません」
「ぶー」
レヴィが口をとがらせる。シュウは何を使えば青色のおはぎが作れるだろうと考えるが、答えは出なかった。というよりも、青色のおはぎを想像したところで気持ち悪くなってやめた。
「ふむ。なかなかよくできておるな。さすがはシュテルだ」
「ですね! とっても美味しいです!」
「光栄です」
ディアーチェとユーリの言葉に、シュテルが小さくうなずいた。ですが、とシュテルが続ける。
「シュウにも手伝ってもらいました」
「シュウにも? なるほど、共同作業、ですね!」
「げふっ!」
ユーリの無邪気な言葉に思わずむせてしまう。もちろんユーリに他意はないのだろうが、シュウはずっと味見のことを忘れずにいた。自分が食べたものをシュテルが食べ、シュテルが食べたものを自分も食べ……。思い出すだけで顔が赤くなってくる。何度もせきをしていると、目の前のお茶が差し出されてきた。
「大丈夫ですか?」
シュテルの言葉。シュウは礼を言って受け取り、何口か飲む。そして気づいた。
――あれ、僕のコップ、別にあるよね……。
視線をシュテルの前へ。コップがない。他の皆の前にはしっかりとコップがある。つまりは。
シュテルのコップ。
――これって……間接……。
さらにシュウの顔が赤くなる。心配そうに顔をのぞき込んでくるシュテルへとコップを返し、顔を隠すようにうつむいておはぎを食べる。
そしてふと見ると、シュテルが首を傾げながらお茶を飲む。返されたコップで。
「これは……あれかな。意識されてないってことなのかな」
ちびちびとおはぎをかじりながら、シュウはそんな言葉を小さくこぼす。それを聞いた、聞いてしまったディアーチェは、やれやれといった様子で首を振った。
Side:Stern
夕食後。おはぎはまだまだ余っていたので、それらをパックに入れて自宅へと戻るシュウに持たせた。一緒におはぎを作った後、どうも自分と視線を合わせようとしてくれない。おはぎを渡した後は逃げるように帰ってしまった。テーブルに食べかけのおはぎを残してしまうほどに。
――何か気に障ることをしてしまったのでしょうか。
そう考え記憶を探るが、心当たりがない。王に聞いてみても、知らんとそっぽを向かれてしまった。
――明日、聞いてみましょうか。
シュテルはテーブルにある余りのおはぎをパックに入れていく。冷蔵庫に入れておけば明日でも食べられるだろう。捨ててしまうのはもったいない。だが、シュウが残していってしまったおはぎの処理には少し困ってしまう。食べかけのものをパックに入れてしまうのは気が引けた。
仕方がないですね、とシュテルは独りごち、そのおはぎを手に取った。しばらく動きを止め、そして口に入れる。なぜだろうか、妙に甘く感じてしまう。しっかりと味わってから嚥下し、そしてすぐに片付けを再開した。
ディアーチェはそのシュテルの頬がわずかに朱に染まっていることに気づいてはいたが、あえて何も言わない。ただ本日何回目かも分からないため息をつき、そして薄く笑っただけだった。
お彼岸のお話、ということでおはぎ作りでした。
書きたかったシーンは横からぱくり、です。
コンプエース?で見たコロッケぱくりを見て書きたくなりました^^;
今回はちょっとはっちゃけ過ぎたかな、と思います。
シリアスの反動、ということで笑
ちょっとだけ今後の予定を……。
水曜日常編、土曜シリアス、の更新予定です。
予定なのでどこかが抜けるかもしれませんが……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。