そのわりに短いとか言われそうですが、6時間は働いてきたのでこんなものなのです。
……あれ? 休みってなんだっけ?
※ちょっとなのはの性格が崩れちゃったかもしれません……。もしかすると修正するかも。
シュテルたちの家で夕食をご馳走になった翌日。シュウは目覚まし時計の音で目を覚ました。時計を叩いて音を止め、時間を見る。午前七時。いつも通りだ。
起き上がって、ゆっくりと伸びをする。流しの棚へと向かい、そこから昨日のパンの残りを取り出す。租借しながら着替え、すぐに学校の準備は終わった。
「ふう。ごちそうさまでした」
パンを食べ終え、袋はゴミ箱へ。腹が満たされたとは言えないが、食べない日の方が多いので満足はできる。
「さて、行こうかな」
準備も整え朝食も終えた。自宅にいてもやることがないので学校に向かうとする。荷物を持って扉を開けようとしたところで、インターホンの音が鳴った。
「……へ?」
最初、何の音か一瞬分からなかった。それほどこの音は久しく聞いていない。ここを訪ねてくる人などほとんどいないからだ。シュウは警戒しつつそっと扉を開けて、
「おはようございます、シュウ」
シュテルの顔を見て、唖然と口を半開きにして固まってしまった。たっぷり十秒間はシュテルを凝視したまま硬直して、その直後にはっと我に返る。
「ど、どうしたのっ? こんな時間に!」
そう問いかけると、シュテルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そうですね。朝早くにすみません。迷惑だとは思いましたが……」
どうやらいらぬ誤解を与えたらしい。シュウは用件を聞いたつもりだったのだが、来訪の時間を咎められたのだとシュテルは判断したようだ。シュウは慌てて首を振って言う。
「いや別に怒ってるわけじゃないから! 単純に驚いただけ! それで、どうしたの?」
そうですか、とシュテルはわずかに安堵の表情を見せる。だがそれは一瞬で、またいつもの無表情に戻ると小さな包みを差し出してきた。
「どうぞ」
「え……? なに、これ……?」
「ただのお弁当ですよ」
そっか、とシュウは受け取って、その包みをしばらく眺め、そしてすぐに、
「お弁当っ? なんで?」
思わず大声を出していた。
「ナノハから昨日の昼食のことを聞きました。差し出がましいとは思いましたが……。必要なければ、どなたかご友人にでも差し上げてください」
そう言ってきびすを返そうとするシュテル。シュウは慌てて呼び止めて、振り返ったシュテルにおずおずといった様子で問う。
「い、いいの……? 本当にもらっても?」
「ええ、構いませんよ。もとより貴方のために作ったのですから」
「お、おお……。じゃあ……ありがたくいただきます」
お気になさらずに、とシュテルは平坦な声で答え、そのまま立ち去っていく。本当にこれを届けにきてくれただけらしい。シュウはシュテルから手渡された包みに視線を落とし、情けなく相好を崩した。
「シュテルが僕のために……。どうしよう、すごく嬉しい」
もちろんシュテルからすれば深い意味はなかったのだろうとは思う。ただそれでも、弁当を作ってもらったということそのものが嬉しく、思わずその場で小躍りぐらいしてしまいたくなる。シュウは大事そうにその包みを荷物に加えると、スキップしそうになりながら家を後にした。
「おはよ……う……?」
教室に入ってくるクラスメイトのうち、シュウと親交のあるものは皆同じ反応を示した。シュウがどこの輪にも入らずに一人でいる場合のほとんどが寝ているか読書をしているかなのだが、この日は机に頬杖をつきながらにやにやと笑っていたためだ。これほど機嫌の良さそうなシュウを誰も見たことがないだろう。
友人たちは何があったのか聞くべきかと考えたが、触らぬ神にたたり無しという判断のもと、そそくさと自分の席に向かっていく。誰も話しかけようとはしない。
授業のチャイムがなって教師が入ってきた時も、シュウの様子に目を丸くしたものだった。
昼休み。待ちに待った昼休み。シュウは誰よりも早く道具をしまい、弁当箱を取り出して、目を輝かせながら開けようとしたところで、
「シュウ。ちょっと来なさい」
アリサに呼び出された。シュウは待てを言い渡された子犬のような目でアリサを見る。さすがに罪悪感を覚えてしまう。
「……お弁当、持ってきていいから。一緒に食べない?」
「んー……」
真剣に悩むシュウ。普段シュウは誰かに誘われると喜んでついて行くような人間なので、悩まれるとは思わずアリサが表情を曇らせる。やがて聞こえてきた、いいよ、という声に心底安堵してしまった。
アリサたちのいつものメンバーと屋上に来る。シュウは大事そうに弁当箱を抱えたまま笑顔を崩さない。隣を歩くなのはがその様子をおかしそうに笑っているのが気になるが、今は些細なことだ。弁当を食べたい。
屋上のいつもの場所にたどり着き、全員が座ったところで、シュウは何も言わずに早速弁当箱を開けた。なのはたちは何も言えずにその様子を見守っている。
弁当箱は長方形の二段になっているものだった。下段にはのりが巻かれたおにぎりが三個並び、さらに隅に漬け物が添えられている。上段にはある具材がたっぷりと入っていて、あとはサラダとフルーツといったメニューだった。
たっぷりと入った具材、唐揚げと見て、シュウは思わず苦笑していた。どうやら昨日の買い出しの時点ですでに計画していたらしい。言ってくれればよかったのに、と思いつつふと視線を上げると、こちらをまじまじと凝視している女の子たちと目が合った。
「……え? なに?」
シュウがわずかに驚いて問いかけると、なのはが笑顔で言う。
「何でもないよ。それがシュテルのお弁当?」
「うん。そう……。…………。いや待って、なんで知ってるの」
まだ誰にもらったものか言っていないはずだ。それなのになのはに言い当てられたことに驚くが、
「シュテルから、昨日のお昼ご飯について聞かれたの。わざわざ聞いてきたぐらいだから、作ってくるのかなって」
「い、いつの間にそんなやりとりを……」
「うん。念話で」
なんて便利なのだろうかと素直に思う。電話代が浮く。すばらしい。
「へえ、これをあの子がねえ……。料理できるとは聞いてたけど、なかなかやるじゃない」
「…………」
じっとシュウがアリサを見る。またもや待てと言われた子犬の瞳。すぐにアリサはそれを察して、食べていいわよ、と言った。
シュウはすぐに顔を輝かせ、食べ始める。すごい勢いだ。
「なあ、シュウ。おいしいか?」
はやての質問にシュウは一度だけうなずく。
「じゃあ一口だけ……」
「だめ」
「ええ……。ケチやな」
「だめ」
初めて作ってくれたお弁当だ。誰にも譲る気はない。シュウの意思は硬い。冗談やって、とはやては笑いながら自分の弁当を食べ始めた。
「これなら大丈夫そうだね、なのは」
フェイトがなのはに耳打ちする。なのはは笑顔でうなずいた。
「うん。みんな、ありがとう」
シュウの昼食を知ったなのはは、どうしても放っておけなくなっていた。今日は自分たちの弁当を少しずつ分けてあげるつもりでもあった。知ってしまった以上は少しでも助けたい、そう思っていたからだ。
「シュテルちゃんは?」
「シュテルから聞いたわけじゃないけど……。ユーリから毎日作るようなことを聞いたよ」
シュテルの行動の真意は分からない。一人の友人としての気遣いからか、巻き込んだ罪悪感によるものなのか、それともまた別の感情からか。きっと本人にも分かっていないのだろう。なぜだかそんな気がする。
ともかく、これ以上自分たちでできることはない。さすがに人の家庭のことにまで首を突っ込むわけにもいかない。今のところは、二人のことを見守ろう。なのははそう決めていた。
あっという間に完食したシュウは、その後の授業は幸せそうな表情でずっと受けていた。教師たちの間では、今日はそっとしておこうという取り決めがなされたのか、生徒を指名する時でもシュウが当てられることはなかった。
放課後。シュウはいつもの公園へと向かいながら電話をかける。相手はもちろん、
『はい。シュテルです』
聞こえてきた声に、シュウは自然と笑みを浮かべる。
「もしもし、シュウです。お弁当ありがとう。おいしかった!」
それを聞いたシュテルが、電話の向こう側でわずかに微笑んだ、気がした。
『それは良かったです。作った甲斐があったというものです』
「あはは。えっと、お礼とかはどうしたらいいかな?」
昨日の夕食といい今日の弁当といい、さすがに世話になりすぎていると自分でも思う。何かしらの礼ぐらいしたいと思ったのだが、シュテルの返答は必要ないというものだった。
『私が好きでやったことです。本当に気にしないでください』
「いや、でもそれだと……」
『明日は何がいいですか?』
「ええ!」
思わず声が裏返る。申し訳ないという気持ちと、それ以上に嬉しいという気持ちが強い。
「さ、さすがにそれは……」
『気にしないでください。三人分も四人分も手間は変わりません』
「そ、そう……? えっと……。何でもいいよ?」
さすがに希望を言えるわけもない。シュテルは、そうですかとどこか残念そうにつぶやいた後、
『ではまた明日の朝に届けに行きます』
「う、うん。ありがとう……」
『いえ。ではまた後ほど』
そして電話が切れる。シュウは切れた電話を眺めながら、表情をにやけさせながらも首を傾げた。
なぜ、シュテルはこうも自分に良くしてくれるのだろう。ただの友人のはずのシュウに対して。シュウにとってはシュテルは大切な存在になりつつあるが、向こうもそうだとはさすがに思えない。
「今度聞いてみようかな」
そんなことを考えつつ、シュウはいつもの公園に向かった。
Side:Stern
電話を閉じる。小さくため息。豚肉を買い物かごに入れる。
シュテルは近所のスーパーに来ていた。今日の夕食と明日の朝食の準備だ。あとはシュウの弁当用。
ふと考える。どうして自分はここまで世話を焼こうとするのだろう。シュウはただの友人。それだけのはずだ。だが、どうしても放っておけない、そう思っている自分がいる。そのことを王に告げてみると、
「我に聞くな」
という短い答えが返ってきただけだった。
「どうにも……分かりませんね。これが心というものでしょうか」
つぶやく。答えなどは求めていない。誰かに聞かれたくもない。
「不快でもありませんし……。今は気にしないでおきましょう」
この感情もいつか分かる時がくるかもしれない。それまでは、今の関係を続けていこう。
シュテルは微笑みつつ一つだけうなずくと、レジへと向かった。
仕事の日は書けなくなるので、次は来週あたりに更新……できるといいなあ。
感想ってすごいですね。3話を書き上げるのに1ヶ月かかったのが嘘みたいです。ありがたやありがたや。
雀の涙ほどでも楽しんでいただけたのなら幸いなのですよー。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。