ギフテッド   作:龍翠

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シリアス警報。書いてる本人が引いてます……。
読み飛ばしどころか読まないことを強く推奨しちゃいますよー!


第二話

 

 マンションのシュウの部屋、そのリビングにシュウと文花は机を挟んで、向かい合って座っていた。文花の前にはオレンジジュースとお菓子が置かれているのだが、手を着けようとはしていない。それがとても寂しいのだが、仕方がないことだとも思う。

 隣のキッチンにはシュテルとなのはたちもいる。自分のことを心配してくれており、ここまで来てくれている。さすがに同じ部屋にいてもらうことなどできないが、それでも隣にいると思うだけで心強い。

「お兄ちゃん」

 文花の言葉。無表情に見つめてくる文花の瞳を見つめ返す。文花の目が不愉快そうに少し細められた。

「お父さんとお母さんから、いろいろと聞いたよ。魔法のこと。ロストロギアのこと。………お兄ちゃんのこと」

 そうだろうとは思っていた。今まで会いに来ようとはしなかった文花が突然ここまで来たのだ。考えられる理由としては、父と母が妹に全てを話したことぐらいだ。ただそれでも、わざわざ会いに来るとは思えないので、他にも理由か、もしくは目的があるのだろう。

 シュウは一言も返さずに、じっと文花の言葉を待つ。逆に文花はシュウの言葉を待っていたようだったが、シュウが何も言わないことを察して言葉を続けた。

「お兄ちゃんのせいだね」

 何が、とは言わない。言われなくても分かる。シュウは文花の足を見る。二度と動かない足。両親の魔法ですら治せなかった足。その原因。シュウは静かに目を伏せると、重々しくうなずいた。

「ああ、そうだね。あの時の事故は僕がいたから引き起こされたものだ。だから、文花が歩けなくなったのは僕のせいだ」

 否定はしない。言い訳もしない。そして謝罪もしない。文花がそれを望んでいないことは分かっている。この妹が自分に望むのは謝罪ではなく贖罪だ。文花が望むのなら、自分のできることなら叶えてやりたいと思う。

 だが、文花はそれ以上の言葉を続けなかった。リビングをゆっくりと見回し、鼻を鳴らす。

「お兄ちゃんって、今は幸せ?」

 予想していなかった問いかけ。シュウは怪訝そうに眉をひそめながらも、一度うなずく。その瞬間、文花が嗤った。

「ひどいね。私の足を奪っておいて。私を不幸にしておいて。お兄ちゃんは幸せなんだ」

 お兄ちゃんばかりずるい。文花の言葉に、シュウはわずかに目を見開き、うつむいた。もちろんシュウもここに来て、この土地に来て苦労しているのだが、それでも自由はあった。だが、文花はどうだろうか。一人で歩くことすらできず、日常生活もままならないだろう。その苦しみがどれほどのものか、シュウには分からない。

「お兄ちゃんのせいなんだから、ちゃんと、聞いてくれるよね」

 シュウが顔を上げると、文花が優しげに微笑んだ。自分へと手を伸ばし、手のひらを出す。自分の方へと誘うかのように。

「帰ってきてよ」

 短い言葉。まるで赦しを与えるかのような言葉。すがりつきたくなる言葉だが、その言葉に隠されている意図をシュウは正確にくみ取った。それと同時に、思わず苦笑を漏らしてしまう。文花が不愉快そうに目を細め、差し出していた手を引っ込めた。

「そんな反応、するんだ?」

 冷たい無表情になった文花に言われ、シュウは肩をすくめた。

「文花が言いたいのはつまり……。一生、自分のために尽くせってことじゃないの?」

「ふふ。さすがお兄ちゃん」

 シュウの察しの良さに文花がまた嗤う。背筋が冷たくなる笑みをシュウは真正面から受け止め、内心でどうしたものかと困惑する。自分の妹はとんでもない性格になってしまっているものだ。

「私の言葉に従って、私のために働いて、私のために生き続けてよ」

「……奴隷になれってことかな」

「そうともいうね。でも、人の人生を奪った対価としては安いものでしょう?」

 文花の言葉に、シュウは神妙な面持ちでうなずいた。他の人が聞けば安くはないと言うだろうが、自分にとっては破格もいいところだ。妹の足が治るならこの命を捧げてもいいとすら思っていたこともあったのだから。だが、それは自分一人だけの問題ならの話だ。

 シュウはシュテルたちに助けられ、多くの人に見守られながら今を生きている。そんな自分が妹のためだからと人生を捧げることはできない。だからシュウは首を横に振った。

「悪いけど、それはできないよ。文花」

「……どうして?」

「僕はいろんな人にお世話になったんだ。いや、今もお世話になってる。それなのに、その恩を全て捨てて文花のために生きることはできない」

「なにそれ。結局、私のことはどうだっていいってことじゃないの? 自分の不幸を私に押しつけて、あとは知らんぷり。そういうことでしょう?」

 違う。そうじゃない。そう言っても文花は納得しないだろう。しようとしないだろう。

 そして、その理由もシュウは何となくだが察することができた。

 だからこそシュウは、うなずいた。

「ああ、そうだよ。文花の人生なんてどうでもいい。僕は今の生活を守る」

 恨むといい。憎むといい。そのために自分は存在し続けよう。

 文花は目を見開いてしばらく固まっていたが、やがて冷たくシュウを睨み付けた。そして何も言わずに部屋を出て行こうとする。シュウも何も言わず、部屋の扉を開けてやった。

「……お兄ちゃんだけが幸せになるなんて、認めない。許さない。絶対に」

 文花の小さな言葉。シュウは静かにそれを受け止めた。

 

 

 Side:Stern

 隣の部屋でそれを聞いていた一同は、それぞれ異なった表情をしていた。

 アリサが苛立ちを露わにしながら小声で言う。

「なにあれ。逆恨みもいいところじゃない。シュウが望んで引き起こしたわけじゃないんでしょ?」

「そうだね。ちょっとひどすぎると思う」

 すずかが悲しげに目を伏せる。あんな恨み辛みの言葉を真正面から受けて、シュウは大丈夫なのかと。

「こんなことはあまり聞きたくないんだけど……。はやて。その……」

 フェイトの遠慮がちな言葉。はやてはその言葉の続きを理解して苦笑する。気を遣わなくていいのにと。

「まあ、確かにかなり不便ではあるよ。世の中を恨むのも分からんでもない。でもなあ、あれは行き過ぎや。特に不幸かどうかの話なんて本人次第やろ」

 あたしは今は幸せやし、とはやてが締めくくる。はやての事情も特殊なものだが、それでも理解はできる。少なくとも、先ほどの文花の言葉よりは。

「最後の方、シュウ君は文花ちゃんを怒らせるような言い方をしてたね……。どうしてかな」

 なのはが気になったのはその点だった。謝罪も言い訳もせずに、むしろ自分に怒りの矛先を向けるようにしていたと感じた。シュテルへと視線を投げると、シュテルは少し難しい顔をしていたが、なのはの視線に気がついて口を開いた。

「おそらくですが。実際にシュウは、矛先が自分に向くようにしていたのだと思います」

「やっぱり?」

「はい。私の印象ですが、フミカという方は理解力がある聡い人だと感じました。それでもシュウを憎み続けているのは、その感情故でしょう。そしてシュウに非はないと理解してしまえば、その感情はどこに向けられるのか」

 シュテルが部屋を出て行く。なのはたちが驚きながらもそれに続いてくる。シュテルの視線は、扉の前で立ち尽くすシュウだ。その背中は寂しげで、小さく見える。

「納得のいかない感情の矛先は、次は別の何かに向けられます。両親かもしれなければ、世の中そのものにかもしれませんね。そうなれば、本当にやり直しがきかなくなるでしょう。シュウは、それなら自分を憎み続けてくれた方がいい、とそう判断したのでしょう」

 シュテルの声が聞こえたのだろう、シュウが振り返った。シュテルと目が合い、力なく笑う。とても悲しげな笑みだった。

「せめて、もう少し精神的に余裕を持てれば良かったのでしょうね。感情も納得させることができるぐらいには」

 フミカはまだ幼すぎる。頭で理解はしていても、感情が納得できない。それ故にその原因となったシュウを憎み続ける。例えシュウに非がなかったとしても、憎まなければ自分を見失ってしまうから。自分の存在意義のためにシュウを憎み続けているようなものだ。

 シュウは、間違ってないよと肯定するかのように静かにうなずいた。

「僕の選択は……間違っていたかな?」

 泣きそうなほどに震える言葉。なのはたちはそれに答えることはできない。シュテルはしばらく考えた後、分かりません、と首を振った。

「正しくはないのでしょう。けれど、間違っているとも言えません。これは貴方たち兄妹の問題ですから」

 シュテルの言葉に、そうだねとシュウはうなずいた。

 

 

 Side:Hero

 なのはたちの帰宅後、シュウはシュテルをリビングへと通す。手の着けられていないジュースとお菓子があるままだ。新しいものを用意するためにキッチンへと向かおうとしたが、シュテルは構いません、とオレンジジュースに口をつけた。

「ごめんね、シュテル。嫌な思いをさせちゃって」

 自分と文花の問題にシュテルたちを巻き込み、きっと嫌な気分にさせてしまったことだろう。頭を下げると、しかしシュテルは首を振った。

「一人で抱え込む必要はありません。貴方たちの問題に私が手を出すことはできませんが、支えることぐらいはさせてください」

 シュウは目を瞠り、すぐに悲しげに微笑んだ。ありがとう、と短く答える。シュテルがいてくれて良かったと心から思えた。

「一つだけ……お願いしてもいいかな?」

「何なりと」

「手……繋いでいい?」

 シュテルが首を傾げ、しかしすぐに手を差し出してくる。シュウは照れくさそうにしながらも、その手を握らせてもらう。

 ――ああ……。温かいな……。

「シュウ……。どうして泣いているのですか?」

 言われて初めて、シュウは自分が泣いていることに気がついた。顔に手をあて、不思議そうに呆然とする。自分でも理由が分からない。なぜ涙が出てきたのか。

 ――……いや……。

 文花との和解が叶いそうにない。それどころか、このままいけば一生文花に恨まれ続けるだろう。そのことを考えると、胸が締め付けられるように苦しい。そこまで考えて、気づいた。自分は文花に許されたかったのかもしれない、と。

「……丸くおさまってめでたしめでたし……とはいかないね……」

 シュウのつぶやきにシュテルの手を握る力が少しだけ強くなったような気がする。顔を上げると、真剣な表情のシュテルと目が合った。

「ここには私しかいません。だから、我慢しなくてもいいですよ」

 シュウが顔をゆがませる。涙が止めどなく溢れてくる。小さく嗚咽を漏らし始めたシュウの頭を、シュテルが優しげに撫でてくれる。その温もりに身を任せながらも、シュウは嗚咽を漏らし続けた。

 

 妹が正しく生きるためには、自分を恨み続ける歪みが必要だ。ならば妹を守る兄として、自分はその矛を受け続けよう。それが自分の贖罪だ。

 結局シュウは、その結論にしか至れなかった。

 




主人公は妹様が大好きです。恋愛的な意味でじゃないですよ?
それにしても暗いですね……。
日常回のみにするべきだったと結構後悔しちゃったり……。
でも始めた異常は最後まで書き切りたいとは思います。
嫌いな方は無視してくださいね……!

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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