シュテル宅のキッチンにて。てきぱきと作業を進めていく者が三人いる。シュテルとディアーチェ、それにシュウだ。三人はそれぞれ作業を分担してあるものを作っていた。残りの二人、ユーリは足りなくなった材料の買い出しや家事などをこなし、レヴィはそんなユーリの手伝いだ。
「このペースなら間に合うかな?」
手を動かしながら口を開くシュウ。それにうなずくのはシュテルだ。
「こちらの団子は大丈夫ですね。王、そちらはどうでしょうか?」
「問題ない。予定の一時間前には仕上がるぞ」
「さすがです。シュウ、こちらも急ぎましょう」
作業のスピードが早くなり、シュウも慌ててそれに倣う。二人が作っているのは団子だ。白と黄色の二色で、ほとんどが白の団子。昼過ぎから二人で大量生産をしている。ディアーチェは月を模した料理だ。子鴉を唸らせてくれる、と張り切っていた。
今日は十五夜で月見だ。なのはたちから誘われたのをきっかけに、知人友人を多数誘っての大きなものとなっている。高町家の庭で皆で集まる予定だ。月見団子はなのはたちに誘われた時に作って持って行く、とシュテルが申し出て、今現在作成中というわけだ。
「むう……。たまに変な形になる……」
シュウが丸めた団子を見て唸る。ほとんどが綺麗な円形で作れるのだが、なぜか時折歪な形になってしまう。やり方を変えているわけでもないのにとシュウが首を傾げていると、シュテルがシュウの手からそれを取ると、しばらく眺めた後、そのまま他のものと一緒に並べてしまった。
「いや、失敗作だよ?」
慌ててそう言うと、シュテルが首を振る。
「味が違うわけでもありません。もしも残れば私たちが食べればいいことですし」
「それはそうだろうけど、純粋に恥ずかしいなあ……」
苦笑いしつつ、次の団子を丸めていく。そして気づけばまた歪な形に。あ、とシュウが立ち尽くし、シュテルはやれやれと首を振った。
「がんばってください」
「……はい」
肩を落としながらも、シュウは団子作りを続けた。
太陽が西へと沈み始めた頃に、シュウたちは高町家へと出発した。全員の両手に荷物があり、それら全てが団子や料理などだ。購入した材料が多かったために、団子は少し作りすぎたかもしれない。
高町家に到着した頃にはすっかり日が沈んでいた。インターホンを押すと、すぐになのはが出迎えてくれる。いつもの、嬉しそうな笑顔だ。見ているこちらもつい笑顔になってしまう。
「いらっしゃい! もうみんな集まってるよ」
なのはに案内されて庭へと向かう。以前の七夕と同じように、様々な料理が載せられたテーブルがいくつも並んでいる。シュウたちは空いていたテーブルに料理と団子を並べていく。それに気づいた皆がすぐに集まってきた。
「団子、すごい量だね。シュテルが作ったの?」
「シュウにも手伝ってもらいましたよ。やはり作りすぎましたか」
「どうだろう……?」
シュテルとなのはがそんな会話を交わす。その側ではディアーチェとはやてがお互いの料理を並べて唸っている。
「さすが王様や……。月見らしさを出しつつ、家族の好みにもしっかり応えるなんて……」
「そう言う貴様こそ……。月というテーマで考え得る最高のものの一つだな。少しばかり見直し……」
「そうやろ! お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんやで!」
「なぜそうなる! 調子に乗るな子鴉!」
二人で漫才のようなものを始めていた。シュウは微笑ましくそれを見つめながら、月見団子を一個手に取り、口に入れる。満足そうにうなずいた。
レヴィとユーリは夜空の満月を見て楽しそうにはしゃいでいる。それを見守るのはフェイトとリインフォースだ。時折会話を挟みつつ、月を見ている。どこか感慨深そうに。そっとしておこう、とシュウは視線を逸らした。
「……何やってんのよ」
声を掛けられて振り向くと、アリサが呆れたような表情で自分を見ていた。その手に持った紙皿にはディアーチェの料理。何口か食べて、うん美味しい、と言ってくれる。自分の料理ではないが、その言葉にとても嬉しくなった。
「シュウ君は食べないの?」
そう聞いてくるのはすずかだ。いくつかの料理が載った皿を差し出してくる。シュウは礼を言いながら受け取り、それを口に入れる。ディアーチェが作ったものではないので、誰かが持ち込んだものだろうか。
「美味しいね」
「でしょ? さすがは桃子さんよね」
ああ、桃子さんが作ったのか、とその姿を探す。縁側で夫と二人並んで座っていた。邪魔してはいけないだろうと思い、アリサたちへと視線を戻す。同じように桃子たちを見ていたアリサもシュウへと視線を戻してきた。
「感想は次の機会に伝えるよ」
「それが無難ね」
三人で笑いながら料理に舌鼓を打つ。ディアーチェや桃子以外にも、はやてやリンディが持ち込んだものもあるらしい。テーブルをよくよく見てみると、自分たちが作ったもの以外にも団子がある。アリサたちに聞いてみると、こちらも桃子が作ったものだそうだ。
「あのさ、シュウ。聞きたいんだけど」
「ん?」
料理を食べて回っていると、アリサが突然そんなことを言ってきた。シュウが振り返り、首を傾げる。アリサはしばらく言い淀んでいたようだったが、やがて意を決したかのようにシュウを見据えた。
「正直なところ、シュテルとどうなのよ」
「ぶふっ!」
盛大にむせた。苦しそうに何度も咳をしていると、誰かが背中をさすってくれる。差し出されたコップを受け取り相手を見ると、すずかだった。礼を言いながらコップに注がれていたジュースを少し飲む。ふう、とため息をついた。
コップをテーブルに置き、アリサたちへと向き直る。満面の笑顔で言ってやる。
「意味が分からないね!」
「シュテルのこと、好きなんでしょ?」
「アリサちゃん、ストレートすぎるよ……」
思わずすずかが苦笑する。シュウはそんな二人の様子をしばらく眺めながら、やがて困惑した表情を浮かべた。
「もしかして僕って分かりやすい?」
「……隠してるつもりだったの?」
そう聞いてきたのはすずかだ。シュウの引きつった笑みを見て、アリサとすずかはそろってため息をついた。呆れ果てたかのようなため息だ。
「まあ……がんばりなさい。あたしたちが言いたいのはそれだけよ」
「応援、してるから」
アリサとすずかの言葉に、シュウはどこか複雑そうな表情をしながらも、ありがとうと言葉を返した。
シュウは時折こちらに来る人と会話をしながら、庭の隅でぼんやりと月を見ていた。他の皆はまだ食事や会話を続けているが、シュウはいつものごとくあまり混じろうとは思えない。魔法関係の話になるとほとんど分からないのはいつものことだ。
「また一人ですか、シュウ」
声をかけられ、そちらを見る。シュテルがそこにいて、コップを二つ持っていた。そのうちの一つを差し出してきたので受け取り、少し飲む。グレープジュースだ。
「何をしていたのですか?」
「……月見?」
「……皮肉にも聞こえますよ。ですが貴方の場合はそのままの意味なのでしょうね」
どうせなら一緒に見ましょう、とシュテルがシュウの隣に立つ。二人で月を眺める。普段は意識して見ないが、改めて見ると綺麗だなと思う。月の周りには幾つもの星が寄り添うように輝いていた。シュウはシュテルを一瞥して、すぐに月へと視線を戻す。
シュテルは自分をどのように思っているのだろう。好きか嫌いかではなく、足を引っ張っていないかどうか、だ。あの時、シュウと共にいなければならないことをシュテルは構わないと言ってくれていたが、それでもやはりいつも気になってしまう。自分という存在が、シュテルを、シュテルたちを縛る鎖になっていないか。
そんなことを心の内で悶々と考え続けていると、不意に手に温かいものが触れた。シュテルの手だ。シュテルを見ると、真剣な眼差しでこちらを見つめている。
「シュテル……?」
シュテルはしばらくシュウを見て、そして言う。
「余計なことは考えなくて構いません」
「え……?」
「私がしたいからそうしただけです。貴方は鎖になどなっていませんよ」
シュウが目を丸くする。どうして、とつぶやくと、シュテルはどこか呆れたようにため息をついた。声に出ていましたよ、と短く告げられ、シュウの顔面が蒼白になっていく。その様子を見て、シュテルは薄く苦笑を漏らした。
「貴方は貴方の思うように生きてください。私も四六時中貴方と共にいなければならないわけではありませんし、私たちもやりたいようにやりますよ」
魔力は届けに来ますので、とシュテルがシュウの手を包み込むように握る。温かいものがシュウの中へと流れ込んでくる。シュウはそれに身を任せ、微笑んだ。
「ありがとう、シュテル」
それを聞いたシュテルは、いつもの無表情で、ただどこか柔らかい雰囲気で、お気になさらずに、とうなずいた。
夜も遅くなってきたところで未成年者は解散となった。皆と挨拶を交わして、シュウたちは家路につく。シュウたちの両手には来た時と同じように荷物があり、余り物の料理などだ。それぞれの家庭がそれなりの量を作ってしまったため、各自好きなものをパックに詰めて持って帰ることになった。
「帰った後は風呂の用意だな。あとは……まあ今日は早めに休むとしよう」
ディアーチェがこの後の予定を組み立て、すぐにレヴィが異を唱える。
「えー! せっかく食べ物もあるんだし、家でもお月見したい!」
「む……。気持ちは分かるが、しかしだな……」
「いい考えだと思います! ディアーチェ、お願いします!」
「よし分かった。帰ったら二次会だ」
レヴィとユーリが歓声を上げる。シュウはその様子を一歩離れて見守っていた。明日も学校があるため早めに休みたいというのが本音ではある。だがたまには夜更かしもいいだろう。
「シュウ。休む時は遠慮なく」
シュウの考えを察したのか、シュテルがそう言ってくれる。シュウは大丈夫だと応えつつも礼は言った。
帰宅後は順番に風呂に入り、その後に料理を温め直してベランダに持って行く。シュテルとディアーチェがどこからか小さなテーブルを持って来て、そこに料理を並べた。五人で並んで座り、月を眺めながら料理を食べ始める。
「今日は晴れて良かったですね」
ユーリの言葉に全員がうなずく。曇りなら月など見られないし、雨ならまず中止だった。
のんびりと話を続けながら料理を食べていく。どれほどそうしていたかは分からないが、いつの間にかレヴィとユーリは眠っていた。最初に気づいたのはディアーチェで、困ったやつらだと言いつつもユーリを背負って室内へど入っていく。シュテルもレヴィを背負い、室内へど姿を消した。
残されたシュウは団子を食べながらぼんやりと待つ。すぐに二人が戻ってきた。
「我は中に戻るが、どうする?」
「私は……シュウに任せます」
二人の視線が自分に注がれる。シュウはそれを感じながら、団子をまた口に入れる。
「もう少しだけ、ここにいていいかな」
「構わん。空いている皿は下げておくぞ」
ディアーチェがいくつかの皿を持って室内へど戻った。
Side:Stern
ディアーチェの姿が消えてから、シュテルはシュウの隣に腰を下ろした。団子をつまみ、口に入れる。我ながらなかなかうまく作れたと思う。ただ桃子が作ったものを食べた後では、まだ改善の余地があると理解できる。
隣のシュウを見ると、何を見るでもなくぼんやりと夜空を眺めていた。思い出したかのように手が動き、団子をつまんでは口に入れていく。何を考えているのかまでは分からない。
静かな時間がゆっくりと流れていく。高町家での月見も良かったが、静かなところで落ち着いて月を見るのもいいものだ。なにより今は、隣に……。
「シュテル」
唐突に呼ばれ、シュテルは内心で驚いた。それを隠しながらシュウへと視線を向ける。
「今頃になるんだけどね」
「はい」
「お団子、おいしいよ」
「…………。光栄です」
今になって、しかも突然言われるとは思わなかった。シュテルはシュウから視線を逸らし、夜空へと向ける。顔が熱いのは何故だろうか。
満月の見下ろす夜の静寂の中、シュテルとシュウの二人は、ディアーチェが呼びに来るまでずっと月を眺め続けていた。
七夕と展開がほとんど同じです。思い浮かびませんでした……。
どうせなら高町家に行かずのんびりと過ごさせれば良かったでしょうか。
今回はちょっとだけアリサとすずかに出番を与えました。
第三者による主人公の気持ちの再確認。一度書いておきたかったのです。
……いや、大した理由はないのですけど。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。