アースラの部屋の一つに、リンディ、ケインとさくらが向かい合って座っていた。三人の間にあるテーブルにはコーヒーが湯気を立てている。ケインとさくらは先ほど突然の呼び出しを受け、シュウに何かあったのかと慌てて駆けつけたところだ。
「突然お呼び出ししてしまい、申し訳ありません。少しお聞きしたいことがあります」
「私たちに答えられるものでしたら」
ケインの言葉にリンディがうなずき、写真を一枚取り出した。ケインとさくらがそれを見る。娘の、文花の写真だ。なぜこれが、と二人そろって首を傾げる。
「一応言っておきますが、管理局に入局させるつもりはありませんよ」
動揺を抑えながら、釘を刺すつもりでそう言う。だがリンディは首を振った。
「文花さんがシュウ君に取っている態度をご存じですか?」
ケインとさくらが怪訝そうに眉をひそめる。文花から学校の話を聞くことはあるが、特に問題があるようには思えなかった。それとも、あの子があえて話していないだけか。
「詳しく教えてもらっても?」
ケインの言葉に、リンディがうなずいて教えてくれる。なのはたちなど、見た人から聞いただけだがという前置きはあったが、内容は思ってもみないものだった。さくらは目を見開いて絶句し、ケインは愕然としている。
「家ではお兄ちゃんに会えて嬉しい、としか……」
「まさかそんな……。そんなことになっていたとは……」
動揺を隠しきれず、狼狽える二人に、しかしリンディは続ける。
「文花さんが、レヴィさんを襲いました」
「な……!」
「シュテルさんがシュウ君とともに文花さんのもとへ向かってくれています。……それを踏まえて、聞いておかなければならないことがあります。文花さんは鎌の形状になるデバイスを持っていたそうですが、デバイスの詳細を教えていただけませんか?」
我が子に与えるデバイスだ。ただのデバイスであるわけがない。何か特殊な能力を付加させているだろう。そう考えての質問だったのだが、しかしケインとさくらの反応は違うものだった。デバイスと聞いて、唖然としていた。
その表情を見た瞬間に嫌な予感がする。思わず頬が引きつってしまう。
「私たちはあの子にデバイスなど渡していません」
さくらの言葉に、今度はリンディが絶句した。
Side:Humika
まだ自分が今よりももっと小さかった頃、男の子たちにいじめられていたことがある。どうすればいいか分からないでいる間にいじめはひどくなり、ある日小さな怪我を負った。低い段差で突き飛ばされたもので、腕を少し切っただけのものだ。
些細な怪我。足下に気をつけるように、で終わるはずの小さなもの。だが兄はすぐに何かを察したのか、自分を問い詰めてきた。そしていじめのことを知った兄から表情が消える。喜怒哀楽が完全に廃された無表情。
兄はすぐにその男の子たちのもとへと向かった。問い詰める兄に対して男の子たちは無視。それどころか、しつこい兄に対して明確な暴力行為に出る。ただ、それでも兄は自分からは一切手を出さず、ただただ無表情で何度も起き上がり、じっと相手を見据えていく。やがて気味が悪くなったのか、男の子たちは謝罪をすると逃げるように走り去った。
自分が兄を慕っていた一番の理由。その出来事。妹を守ってくれる兄。自分だけのヒーロー。
だが、その無表情は、今は文花に向けられていた。
Side:Hero
夜の闇の中、砂浜に座り込む一つの影。黒い海を無言で見つめるその背中は、とても小さく見えてしまう。シュウはその背中を見つけると、やはり無言で砂浜に立ち、歩いて行く。
「よくここだと分かりましたね……」
シュテルのそんな声が聞こえる。シュウ自身にも分からなかったが、なぜかここにいるという確信があった。兄妹で繋がる何かがあるのか。今となってはどうでもいいことだが。
少しずつ歩いて行くと、座り込む影が、文花が振り返った。シュウの姿を認め、嬉しそうに嗤う。背筋が冷たくなる笑顔だ。
「来てくれると思っていたよ、お兄ちゃん」
文花の言葉。しかしシュウは何も応えない。ただ静かに文花を見据えるだけだ。
「何しに来たの? お説教? 説得? それとも……私と一緒に来てくれる気になった?」
そこまで聞き終えて、シュウが小さくため息をつく。首を振って、言う。
「違う。どれでもない」
「じゃあなに?」
怪訝そうに眉をひそめる文花。対するシュウはやはり無表情。
「叱りに来た」
「……は?」
「僕のせいで文花が傷ついた。今回の文花の行動も僕が原因の一つだと思う。だから、僕は偉そうなことを言うつもりはない」
しかしそれでも。
「文花のしたことは悪いことだ。だから、文花のお兄ちゃんとして、文花を叱りに来た」
そして一歩を踏み出す。そこからは早い。どんどんと文花へと歩いて行く。文花はそれに驚き、すぐにカードのようなものを取り出した。すぐに光り始め、形状が変化、鎌へと変わる。文花は黒いローブ姿になっていた。
「来ないで!」
文花の叫び声。同時に射出される魔法。それはシュウの足下に着弾して、シュウは足を止めた。少し振り返り、シュテルを見る。シュテルもデバイスを取り出していた。そのシュテルをじっと見つめる。
「…………」
意図を察したのか、シュテルが一度だけうなずいてくれる。
『危なくなったら手を出します。それまでは好きにしてください』
シュテルの声が頭の中に響く。これが念話というものなのだろう。どうして急に聞こえるようになったのかとも思ったが、シュテルの魔力をもらっている影響かもしれない。シュウはうなずくと、再び文花に向き直った。
「あ、あはは……。そこの人に助けを求めるの?」
文花の嗤い声。だがその声はかすかにだが震えている。そしてシュウは、また一歩を踏み出した。その直後に足下から土煙が上がったが、シュウは気にしない。今度はわずかにも止まることなく、歩いて行く。
驚いた文花が何度も魔法を放ってくる。その全てがあらぬ方向へと飛んでいき、シュウには当たらない。威嚇射撃だとわかりきっている。だからこそ、恐れる必要がない。
文花はまだ恐れている。人を傷つけるということを。レヴィから念話を受けたシュテルの話では、最後はずっと笑い続けていたらしいが、相当無理をしていることは見れば分かる。
それでもやはり壊れかけていることには違いないのだろう。このまま放っておいたら、おそらく二度と取り返しのつかないことになる。だからこそ、文花の兄として、妹の間違いを正さなければならない。それが、妹と向き合わなかった自分の責だ。
一歩一歩、しっかりと近づいていく。右手に力を込めていく。愚昧の文花を叱るために。
「こ、来ないで……。来ないでよ!」
文花の叫び声。同時に右腕に激痛が走る。血が流れ、砂浜に落ちて吸い込まれていく。
シュウはすぐに振り返った。シュテルに、まだ大丈夫だという意思を示し、また文花に向き直る。シュテルの表情がわずかに怒りのものとなっていたが、今は文花が先だ。
魔法が当たったことが文花にとっても予想外だったのか、文花の顔面が蒼白になっていた。おそらく、レヴィを襲った時もこんな表情をしたに違いない。激しい後悔に彩られた表情に。
シュウが文花へと歩く。もう魔法は飛んでこなかった。文花は蒼白になりながら、唖然とした様子でシュウを見つめている。やがて文花の前までたどり着く。狼狽える文花に、シュウは、
「てい」
「あうっ」
拳骨を落とした。頭を押さえてうずくまる文花と、手を揺らすシュウ。殴った時に右腕の傷に激痛が走ったのだが、人を殴る代償だと考えれば安いものだろう。シュウはその場にかがみ込むと、うずくまる文花をしっかりと見た。
「文花」
シュウに呼ばれ、びくりと体を震わせる。おそるおそる顔を上げる文花にシュウは言う。
「文花のやったことは、間違いだ。どんな理由であれ、関係のない人を巻き込んだらいけなかった」
「そんなの……! お兄ちゃんが……!」
「分かってるよ。文花と向き合わずに逃げ続けた。僕が文花を追い詰めてしまったんだと思う。でも、それなら僕を襲えばいいじゃないか」
「……っ」
文花が言葉を詰まらせる。シュウはその様子を見て、やがて薄く微笑んだ。まだ大丈夫だと。自分の行いに悔いているなら、二度と同じ過ちは犯さないだろう。
「文花。僕を恨め。僕を憎め。それで文花の心が安定するなら、僕はいくらでも文花の矛を受け止めてあげる。その代わり、他の人を巻き込まないで」
「え……?」
文花が顔を上げる。間の抜けた表情でとシュウを見つめてくる。シュウは、余計なことを言ったかと少し後悔したが、言った以上は取り消すことはできない。さて、と言って立ち上がる。
「お兄ちゃん、もしかして最初から……?」
「さて、何のことかな?」
いつものように笑うシュウ。言いたいことを言えて、ようやく自分の気持ちも落ち着いてきた。あとはアースラに行くだけだ。
「文花、今回のことは犯罪だからね。アースラに行こう。一緒に行ってあげるから」
シュウが差し出した手を、文花は躊躇しながらも、その手を取った。
「人に迷惑をかけた者同士、行くとしようか」
「……一緒じゃないよ。お兄ちゃんと違って、私は自分の意思で人を殺したんだから、もう後戻りはできないよ……」
「ああ……。それだけど……」
本当にレヴィが死んでいたら、こんな簡単な話で済むはずがない。ディアーチェたちがどうあっても許さないだろうし、何より自分も妹相手であろうと怒り狂う自信がある。思えば強く依存してしまったものだ。罪は罪だが、少しでも安心させようと口を開こうとして、
「……え……?」
自分の腹から突き出た刃を見て、絶句した。
Side:Humika
「それでは困りますね、文花様」
デバイスの声。自分の握る鎌からの声。鎌の刃は兄の体に突き刺さっている。
「……え……?」
シュウと同時に、シュウと同じ声を漏らす。自分は、何をしているのだろうか。
「シュウ!」
奥から聞こえてくる声。兄と一緒に来た人の声だ。文花は呆然としたまま兄を見る。兄は振り返ると、戸惑いの表情を浮かべていたが、やがてすぐに微笑み……。
どしゃりと、地面に倒れた。その腹部からは大量の血が流れ出していく。
「あ……ああ……」
かすれた声を漏らし、文花は後退る。こんなことをするつもりではなかった。こんなはずではなかった。そう心が叫ぶ。
「何を今更。どんなことをしてでもお兄様を奪い取ると、言っていたではありませんか」
デバイスの声。震える瞳で鎌を見る。鎌は静かに明滅している。
「貴方ができないのなら、私が手伝ってあげましょう」
直後に、文花は体の自由を失った。勝手に手が、足が動き、魔法を展開し、空へと浮かぶ。鎌は激しい光を放ち、次の魔法の展開を始める。
「さあ、まずはお兄様にとどめを。そうすればどんな願いでも叶うはずですから。あとはとりあえず、邪魔な者たちも一掃しなければなりませんね」
文花の口からそんな言葉が漏れ始める。違う。そんなことはしたくない。心が叫ぶが、文花の意思ではもう何もできない。
――いやだ……! お兄ちゃん、助けて……!
心で叫ぶ。通じるはずがないと分かっているのに。
だが、その直後、シュウが目を開き、立ち上がった。腹部から流れ出る血は止まらない。駆け寄った少女が治癒魔法を施しているが、そう簡単に治る傷でもないだろう。
「文花……」
兄の声。じっとこちらを見据えてくる兄の姿。何を言われるのかと怯えるが、しかしいつもの笑顔を浮かべてくれる。
「大丈夫……」
そうつぶやきながら。
Side:Stern
「シュテル。お願いがある」
シュウに治癒魔法を施していると、そんな声が降ってきた。何を、とは聞かない。言いたいことは分かる。だが、今魔法を止めてしまえば、シュウの命が危ない。
「大丈夫。僕なら大丈夫だから。だから、文花を止めてあげて」
「シュウ……」
シュテルはしばらくシュウの顔を見つめ、やがて小さくうなずいた。すぐに念話を飛ばし、なのはや王、リンディに助けを求める。一方的に助けを求め、シュテルは念話を打ち切った。
「すぐに助けが来ます。動かないように」
「うん。了解」
シュウが力なく笑い、シュテルは一つうなずいた。ルシフェリオンとバリアジャケットを展開し、空にいる文花と対峙する。
「邪魔をするのですか? いいでしょう、相手になりましょう」
文花が嗤う。狂気に満ちた嗤い声。
「貴方の目的も本来の主も私には分かりませんが……」
言いながら、ルシフェリオンを突きつける。魔力の収束を始めていく。
「シュウにその子のことを頼まれました。容赦はしません。灰も残さず……消え果てなさい」
そして、シュテルの収束砲撃の第一射が放たれた。
Side:Nanoha
「シュウ君!」
最初に駆けつけたのはなのはだ。そのすぐ後からディアーチェたち、リンディたちが続く。はやてに連絡を回してくれたのか、リンディとともにはやてとシャマルも来ていた。
「ひどい傷……。シャマルさん!」
「はい!」
リンディの声にシャマルがすぐに魔法を展開。治癒にあたる。
なのはは上空を見る。シュテルと文花が戦闘をしている。文花の接近しての攻撃をかわしながら、シュテルは牽制を織り交ぜつつ攻撃を続けていく。押しているのは、シュテルだ。
「まさか本当に……文花が……」
遅れてきたのはケインとさくらだ。呆然とした様子で戦闘を見ている。リンディから少しだけ聞いたが、どうやら本当に何も知らなかったらしい。
「こんなことって……」
シャマルがそんな声を漏らす。全員が驚き、そちらを見る。シャマルの魔法は正常に機能しているのだが、シュウの顔色は一向に良くならない。むしろ悪化しているような気さえする。
「おい、どうしたのだ!」
ディアーチェの焦ったような声。シャマルが分からないと首を振る。
「魔法が届かないの……! まるで、何かに拒絶されてるような……」
「……なに?」
ディアーチェが目を見開く。なのはもすぐに思い当たった。シュテルから聞いた話では、シュウはシュテルの魔力しか受け付けない、と。だがまさか治癒魔法なども拒絶してしまうとは。
「シュテルに加勢してきます! シュテルの魔法なら……!」
ユーリがそう言葉を放つと同時に、何かが空から降ってきた。それは自分たちの側に突き刺さる。黒い鎌の刃だ。
「お待たせしました」
シュテルがゆっくりと降りてくる。その背には、ぐったりとした文花の体。いつの間にか決着がついていたらしい。シュテルはすぐに周囲の様子に気がつき、眉をひそめた。
「何かありましたか?」
Side:Stern
魔法を受け付けないと聞き、さすがにシュテルも驚いた。しかしよく考えれば、その可能性も考慮しておくべきだった。自分の短慮に後悔しつつも、シュテルはすぐに行動に移る。シュウへと駆け寄り、治癒魔法を施そうとして、
「…………」
すぐに理解する。間に合わない、と。なのはたちが来た時に戦闘を代わっていれば、と後悔するが、今は後悔しても仕方がない。ならば最終手段だ。
シュテルは治癒魔法を放棄、ありったけの魔力をシュウへと注ぎ込む。周囲が何を、と困惑しているが、口を挟む者はいない。
「頼るべきではないと分かってはいます。ですが、どうか一度だけ……。その力を貸してください。お願いします……」
パスト。シュテルがそう締めくくる。反応はない。それでも魔力を注ぎ続ける。
やがて、全員に対する念話で、シュテルしか知らない声が聞こえてきた。
仕方ないね、と。
『シュテル。君はあたしに、ギフテッドを利用しない、と言っていなかったっけ?』
パストの声。周囲が驚きで困惑している中、シュテルは苦笑した。
「すみません。私でどうにかできれば良かったのですが……。しかしそれを言うなら、貴方も治癒魔法ぐらいは受け取ってくれても良かったのでは?」
『悪いね。そんな細かい設定はめんど……あ、いや、できないんだ』
シュテルの目がわずかに細められる。ばつが悪そうにパストは咳払いをすると、分かったよと承諾した。
『魔力ももらったしね。まあこの子を治すだけなら、やってやるよ。ただ、追加で約束しておくれ』
「何なりと」
『この子と、そこの文花って子。あまりケンカしすぎないように見ててくれ。正直、情けなさ過ぎるんだよ』
どういうことかと文花が首を傾げる。パストは文花が聞いていると気づいていないのか、それとも知っていてあえて言っているのか。言葉を続ける。
『同じ魔力を分けた兄妹でケンカするなってことさ。ギフテッドの祝福を受けて生まれたんだからね』
なるほど、とシュテルがうなずく。さすが理解が早いねとパストが楽しそうに笑う。そして唐突にパストの声は聞こえなくなり、それと同時にシュウの顔色が良くなっていく。体の傷も、腕も含めて消えていく。やがて、シュウの体から傷が消え去り、整った寝息を立て始めた。
「ありがとうございました、パスト。……おやすみなさい、シュウ」
Side:Hero
ギフテッドは願いを叶えるロストロギアだ。その効果は絶大で、魔力さえあれば何かを生み出すことでない限り、どのような願いも叶えてしまう。
西崎秀一の場合はどうだろうか。ギフテッドそのものが人の形を取ることにより願いは叶えられた。ただしその代償として魔力を必要とし、足りなくなれば外部から魔力を帯びたものを呼び寄せる。だが、少し待ってほしい。
これは願いを叶えたと言えるのか。何かを呼び寄せるなど、ただの人間ができるはずもない。人外と言わざるを得ない体質。最初からその予定だったとは思えない。本来、魔力は十分に足りていた。だが、ギフテッドはもう一つ願いを叶え、魔力が不足したのではないか。
それが文花だ。ケインとさくらはシュウに愛情を注ぐ一方で、実子も望んだのだろう。それを聞いたギフテッドが、自身を維持する魔力を使ってまで叶えてしまった。今回は、少しばかり父親と母親の体に干渉し、子を宿させるというやり方で。その時に、おそらくギフテッドの魔力がその子、文花にも宿ったのだと思われる。
文花の魔力のランクは、AA相当。なのはたちと比べるとどうしても劣っているように思えるが、両親のランクはCだそうだ。純粋な魔力量なら管理局でも随一で、これはギフテッドから与えられたものだろう。
アースラの一室で目覚めたシュウにそう説明してくれたのはシュテルだ。本人に聞いたわけではないので仮説ですが、という前置きはあったが、何となくそれで正しいと分かる。
「お兄ちゃん!」
話を終えた頃、部屋の扉が開き文花が入ってきた。車椅子を押しているのはリンディだ。
「お兄ちゃん、良かった……。ごめんなさい、ごめんなさい……!」
何度も謝り続ける文花。シュウはどうしたものかと苦笑してしまう。
「大丈夫だから。それより、今後の話をしよう」
リンディさんもいることだし、と続けると、文花の表情が硬くなった。何の話をするのか理解できたらしい。文花もリンディへと向き直る。
「リンディさん。文花の罪のことなんですけど」
「ええ」
「全て、とは言えませんが、半分ぐらいは僕が負うことはできますか?」
これに驚いたのはリンディはもちろん、文花もだ。シュテルは一人、予想していたのか表情を変えずに嘆息しただけだった。
「お兄ちゃん……」
「僕の責任でもあるって言ったよね。だから、半分は僕が負うよ」
どのような罪になるかは分からないが。リンディへと視線を向けると、困ったような笑顔を浮かべていた。
「そうね。文花さんの罪のことだけど……」
「はい」
「何もないわよ」
「……はい?」
リンディ曰く、今回文花が起こした事件はレヴィに対する傷害事件と、海での暴走。後者に関してはデバイスの暴走ということで落ち着いているし、前者に関しては被害者であるレヴィが、そんなことはなかったと言い張っているらしい。
「ど、どうして……?」
戸惑う文花。シュウも怪訝そうに眉をひそめる。
「本人に聞いてみればいいんじゃないかしら? 私としても、何もしていない一般人を拘束するわけにはいかないから」
そう言いながらもリンディは文花を見る。監視だけは付けさせてもらうけど、と付け足した。
シュウは文花を伴って、自宅のマンションへと帰ってきた。そのまま荷物を置いてシュテルたちへの部屋へと向かう。話を聞いていたのか、全員がリビングで待っていた。
「レヴィ、どういうこと?」
開口一番、シュウが言う。今朝に戻ってきたというレヴィはカレーを幸せそうに食べながら、何が? と首を傾げる。
「文花のことだよ」
「あ、それか。いやだって、痛かったけどそれだけだし。生きてるし」
「で、でも! 私がレヴィさんを襲ったのは事実ですし……!」
シュウの後ろから文花が言う。レヴィはカレーをもう一口食べて、それはそうだけど、とうなずいた。
「だからボクからお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん。ボクは文花に対して怒らない。許してあげる。だから文花も、シュウのことを許してあげてよ」
シュウと文花が目を丸くし、レヴィはまたカレーを食べ始める。文花はしばらく呆然としていたが、やがてしっかりとうなずいた。分かりました、と。
「え? 文花……?」
「そういうことだから。私はもうお兄ちゃんを恨まないし憎まない。今までごめんなさい」
そう言って頭を下げる。そして顔を上げた時には、明るい笑顔があった。
「……ああ……。ありがとう……」
シュウは、そう言うことしかできなかった。
しばらくして。
文花もシュウと同じ学校に通い続けることになった。だがやはり思うところがあるのか、シュウと一緒に暮らそうとは思えなかったらしい。今までと同様、両親が交代で文花の様子を見に来る生活をしているそうだ。
その文花は、時折シュウの部屋へと遊びに来る。目的は、
「シュテルお姉ちゃん! 魔法、教えて!」
シュテルだ。ディアーチェたちに対してはさん付けで呼んでいるのだが、なぜかシュテルに対してだけお姉ちゃんと呼んでいる。理由を聞いてみると、戦う姿がかっこうよかったから、らしい。
「それにお兄ちゃんと結婚したら本当のお姉ちゃんだし」
「ん? 何か言った?」
「何でもないよ!」
屈託なく笑う。そんな笑顔をまた見ることができて、シュウも自然と頬が緩む。
シュウはシュテルと話す文香の笑顔を見ながら、幸福感に浸っていた。
だから、文花のデバイスのことなど忘れてしまっていた。
これにてchapter1は終わりです。
我ながらすさまじいご都合展開です。
前回の壊れたような笑いとかやるんじゃなかったと激しく後悔しております。
妹様改め、妹ちゃんとは無事に仲直りしました。
ちなみに初期のプロットでは廃人コースでした。
……さすがに救いななさすぎるのでボツにしましたが^^;
それにしても、妹ちゃんの心情描写が足りないなと反省中です。
いろいろと思うところがあったはずなのに、まるまるカットしちゃっていますね。
簡単に書いてしまうと、恨んでもいるし憎んでもいるけど、それと同じぐらい兄を慕っていて、どうしても帰ってきてほしかった、といったところでしょうか。
……本文中で書かなければならないことなのに……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。