今回のプチストーリーは日常側のお話ですよー。
運動会。学校に通う子供たちの一大イベント。もちろんシュウの通う学校にもあり、今日の日曜がその日になっている。ただシュウはあまり乗り気ではない。本来なら日曜はシュテルたちとのんびりと過ごせる日だからだ。明日の月曜は振替休日になるが、シュテルたちのうち誰かが仕事に行く可能性が高いのでやはり日曜にのんびりしたい。
シュウは目の前の校庭で行われている高学年の組み体操を見ながら、長いため息をついた。すごいとは思うが、やはり興味そのものはない。
「あかんで、シュウ。先輩らががんばってるんやから」
隣からそんな声がかけられる。シュウはそちらを一瞥して、分かってるよ、とうなずいた。そうして返事をしてすぐに、何か違和感を覚える。今、誰が自分に話しかけた?
「……何してるの、コウ」
いつの間にか隣にいたのは、別のクラスの友人だ。名を東江幸司。シュウはコウと呼んでいる。学校の中では親友と呼べる唯一の友人だ。
今は運動会の真っ最中。シュウたちはクラスごとに別れて集まり、応援している。クラスの違うコウは当然別のグループのはずなのだが、なぜか今、シュウの隣にいる。シュウが怪訝そうにコウを見ていると、コウは目を逸らした。
「みんなまじめすぎて暇やもん……」
「だからって……。いや、もういい……」
コウは良くも悪くも自由奔放だ。好きなこと、楽しそうなことは喜んでやるのだが、嫌いなこと、つまらないことは逃げてくる。今回もその類いだろう。コウはシュウの返事を聞くと、満面の笑顔を見せた。
「さすがシュウ! 話が分かるな!」
「でも呼ばれたら帰るんだよ?」
「分かってるって!」
シュウの肩を何度も叩き、コウは楽しそうに笑う。友人のその笑顔を見て、シュウも釣られて微笑んだ。
競技に出ていない間ははっきり言って暇だ。応援をしなければとは思うが、あまりしようとも思えない。とりあえずはコウと話をしながら自分の競技を待つ。
コウと話し始めて少しして気づいたのだが、いつの間にかクラスごとのグループはかなり散らばっていた。周りを見れば他のクラスの子がいるし、逆に自分のクラスメイトの姿が見えないこともある。教師の目をかいくぐり、うまく立ち回っているらしい。
「お兄ちゃん、見つけた!」
その声にシュウは少し驚きながらも振り返る。笑顔の文花がそこにいた。
「どうしたの? 文花」
仲直りしてからというもの、文花はよくこうしてシュウの元を訪れる。シュウとしても文花は大切な妹なので、訪ねてくるのは大歓迎だ。仲直りをした数日後に、文花はシュウに対しての誤解をとくためにがんばってくれもした。余計に頭が上がらない。
それを言うと、文花は、私が巻いたことだから、ごめんなさい、と謝られた。
文花がシュウの隣に来て、すぐにコウと目が合う。一瞬驚いた後、小さく会釈をする。
「ああ、確かシュウの妹さんやったっけ? 可愛いなあ」
「あ、ありがとう……」
どう返事をしていいのか分からないのか、微苦笑で礼を言っている。文花はすぐにシュウへと視線を戻した。
「文花はこの後は?」
何の競技に出るのか、などそんなことは聞かない。文花は今も車椅子だ。競技そのものに出ることはできない。文花は校庭の反対側のテントを指さした。そこは教師や何かしらの役職についている保護者の待機場所となっている。
「あとで私が放送するんだ」
「へえ……。がんばってね」
「うん!」
文花は笑顔でうなずくと、そろそろ行くねと去って行く。その背を見送っていると、コウがぽつりと漏らした。
「うん。可愛いな」
「……手を出したら怒るよ」
「お義兄さんって呼んでええかな」
「…………」
「……冗談です。怖いからその無表情はやめてくれ……」
シュウの視線から逃れるようにコウが顔を逸らす。シュウは小さくため息をついて、すぐに笑みを漏らした。
さらに時間が経ち、昼休憩となる。午前の部でシュウは一度だけ競技に出た。クラス全員参加の玉入れだが。
昼休憩の予定はない。シュウは自分のクラスの待機場所に戻り、午後の部まで寝ようと目を閉じる。昼食は忘れてきたので、ない。
「……ん?」
瞼を閉じたところで、誰かに肩を叩かれた。誰だろうと振り返り、すぐにシュウは驚きに目を瞠る。そこにいたのは、シュテルだった。黒いキャップを目深にかぶり、他から顔が見られないようにしている。
「な、何してるの?」
シュウが戸惑いながら聞くと、シュテルは何も言わずにシュウの手を取った。シュウを立ち上がらせ、歩き始める。未だにどこに行こうとしているのかが分からない。
「……シュテル?」
無言のシュテルに従い、少し歩く。そうしてたどり着いたのは、校舎の一つ。どうしてここに、と思いながら校舎の中に入り、そしてすぐに気がついた。
「……これ……」
「ここまで来れば大丈夫ですね」
シュテルがキャップを取り、シュウを見る。側の教室を指さして続ける。
「王たちもお待ちです。昼食にしましょう」
――わざわざ結界まで張らなくても。
先導するシュテルを追いかけながら苦笑するが、しかしシュテルたちの気持ちは素直に嬉しかった。
案内された教室では、机といすが部屋の隅に片付けられ、中央にビニールシートが敷かれていた。ビニールシートに座るのは三人。ディアーチェとレヴィ、ユーリだ。シートには弁当箱がいくつも並べられている。
シュテルに促され、シュウがシートに向かうと、レヴィが手を上げた。
「やっほ! がんばってる?」
「あー……。うん。一応」
どうしても歯切れの悪い返事になってしまう。がんばったと言っても、参加した競技は玉入れだけだ。後は応援しかできない。それでもシュウの返事に満足したのか、レヴィは、ならよし、と笑っていた。
「まあ座れ。話はそれからでいいだろう」
ディアーチェの声に従い、シュウもシートの上に腰を下ろした。隣にシュテルが座る。
「では、いただきます」
シュテルたちが持ってきた弁当を食べ終え、シュテルから差し出されたお茶を飲んでシュウは一息ついた。外で食べるというのも、たまにはいいものだと思う。教室の中ではあるが。
「シュウはどの競技に出るんですか?」
ユーリがどこから持ってきたのか、運動会のしおりを眺めながら聞いてくる。
「最後の方。クラス対抗リレーだよ。ちなみにアンカー」
「アンカーって、最後に走る人でしたよね? すごいです!」
ユーリが瞳を輝かせる。それがとてもまぶしくて、シュウは思わず目を逸らしてしまった。頬をかきながら、表情を引きつらせながら正直に話す。
「いや、単純に余り物……。いつの間にかそこしか空いてなくて、組み込まれてました……」
「……えっと……。がんばってください!」
ユーリが言葉に詰まりながらもそう言ってくれる。下手なフォローよりはいいのだが、これはこれで心に堪えるものがある。もとはと言えば、競技を決める時間に最後まで手を上げなかった自分が悪いのではあるが。
「でもま、シュウなら大丈夫だよ。がんばれ! 応援するぞ!」
「よもや、無様に負けるつもりはあるまいな?」
いつの間にかハードルが上がっている気がするのは何故だろう。走ることは嫌いではないが、得意というわけではない。負けようとは思わないが、他のクラスにはまじめに勝ちにきたメンバー構成もある。そんな中でシュウがどれほどがんばろうと……。
「シュウ。がんばってください」
シュテルの声に、シュウは思考を中断。頷くことをためらったが、それでも最後にはしっかりと頷いた。
「がんばるよ」
結果的には、シュウは、シュウのクラスは三位だった。バトンを受けた時は四位だったので、順位を一つ上げるに止まったことになる。無論、手は抜かなかった。どこかでシュテルたちが見ていると考えると、そんなことをできるはずもない。格好悪いところは見せられないと、一位になるつもりで全力で走った。
だが、シュウは、走るのが遅いわけではないが早いわけでもない。体力がないわけではないがあるわけでもない。下ではないが上ではない。体力も力も平均より少し上程度だ。そんなシュウがいくら必死になっても、努力を続けてきた子に勝てるわけもなく。そんな結果になった。
運動会が終わり、片付けも終え、生徒たちは帰路につく。リレーの後、シュウは意気消沈していた。クラスメイトたちは、順位が一つ上がっただけでもすごい、と言ってくれているが、それでも自分にとっては不満の残る結果だった。
――こんなことなら、練習すれば良かったかな……。
そんなことを考えながらため息をつき、校門を出る。そして、
「お疲れ様でした」
その声に顔を上げた。
待っていてくれたのは、シュテルたちだ。全員が帽子やキャップを目深に被っている。さて何を言われるだろう、と言葉を待っていると、
「すごいじゃん、シュウ! 一人追い抜かした!」
「とても格好良かったです!」
「まああれなら十分だろう」
レヴィとユーリ、ディアーチェがそう言ってくれる。情けない、もっとがんばれ、そんな言葉を予想していたのでシュウは返事を忘れ、しばし唖然としてしまった。だが、よくよく考えればそんなことを言うはずがないと分かるはずだった。
シュウは力なく微笑むと、
「できれば勝ちたかったんだけどね」
「あれには走ることに努力してきた者もいるのでしょう。ならばシュウの結果は十分ですよ。お疲れ様でした」
シュテルがそう言って労ってくれる。それを聞いて、ようやくシュウは胸をなで下ろした。
五人で帰路につく。同じマンションへ同じペースで歩き始める。五人でこの道を歩くのは初めてだ。それがとても新鮮に思える。シュテルたちの会話を聞きながら歩き、それ故に背後からの声に気がつかなかった
「シュウ!」
真後ろからの声。シュウが驚きながら勢いよく振り返り、シュテルたちは言葉を止める。そこにいたのはコウだった。朗らかな笑顔でシュウを見ている。
「帰るの早すぎやで! ちょっとぐらい俺とも話しようや」
「あ、うん。ごめんね」
「まあええけどな。前と違ってちゃんと元気そうやし」
コウの言葉に、シュウは息を呑んだ。コウが言っているのは、まだ文花との関係が悪かった時のことだろう。やはりこの友人にも心配をかけてしまったと反省する。
「ところで、その子らは?」
反省の気持ちは一瞬で吹き飛んだ。代わりに焦燥感に支配される。全員が帽子かキャップを被っているのでそう簡単に分かるものではないと思うが。
「高町さんと八神さん、テスタロッサさん、やでな?」
そんなことはなく、シュテルたちの顔を確認していたらしい。
「あれ? でも三人ともまだ学校にいたような……」
やばいまずいどうしよう。そんな気持ちばかりが空回りして、うまく考えがまとまらない。どうにかしてこの場を切り抜けなければならないのに、頭の中は真っ白だ。そんなシュウの目の前に、シュテルが立った。
「初めまして。シュウのご学友の方ですね」
「そうやけど」
落ち着いたシュテルの声に、コウがわずかに眉をひそめる。シュテルが続ける。
「私はシュテルです。なのはとは友人ではありますが、それだけですよ」
「我も同じく。ディアーチェだ」
「レヴィ」
「ユーリ・エーベルヴァインです」
シュテルに続いてディアーチェとレヴィ、ユーリが簡単ながら自己紹介をする。それで納得する者がどれだけいるのかと不安になるが、しかしコウはその数少ない者だったらしい。そうかそうかと何度も頷いて笑顔になった。
「世の中には似た人が三人居るってゆうもんな! 東江幸司です! コウって呼んでな」
屈託なく笑うコウに、それでいいのかとシュウは思わず苦笑してしまった。シュテルもまさかこれで通るとは思っていなかったのだろう、少々戸惑っているようだ。
「それにしても、シュテルさんか……」
「何でしょうか?」
コウはしばらくシュテルを見つめる。シュテルもわずかに首を傾げながらも視線は逸らさない。やがてコウが破顔した。
「クールで格好いいな!」
「はあ……。ありがとうございます」
シュテルの戸惑いが強くなる。シュウたちも突然なんだと訝しげに眉をひそめる。そしてコウが、言った。
「一目惚れしました。付き合ってください」
「……はい?」
シュテルが珍しく間の抜けた声を漏らし、ディアーチェたちが絶句する。
そしてシュウは。
「……え?」
予想もしていなかった親友の言葉に、何一つ反応できずにいた。
書きたかったのは一番最後のシーンです。
本当はリレーの最中も書きたかったのですが……。
あと友人くんが告白する前にもう少し会話をと思っていたのですが……。
ただでさえぐだぐだになりつつあったので、ばっさりカットしました^^;
ちなみに友人くんの名前、東江は「あがりえ」と読むそうです。
さてさて、次はクリスマスです。ちょっと時系列がとぶですよー。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。