ギフテッド   作:龍翠

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メリークリスマス!
更新日がクリスマスということで特別編です。
時系列は全てのプチストーリーが終わってからのクリスマス、でしょうか。
一番最後のお話かもです。
そのため、二人の関係が今よりも親密です。
その点だけご注意くださいませ。


クリスマス(特別編)

 

 自室のこたつで暖を取りながら、シュウは時計を何度も確認していた。現在は昼の一時前。もうすぐ一時だ。準備は済ませているのだが、どうしても不安になってきてしまう。シュウの向かい側にはシュテルが座っており、こちらはみかんの皮をむいている。

「どうぞ」

 むき終わったみかんをシュテルが差し出してくれる。ありがとう、とそれを受け取り、半分に割ってシュテルに返す。二人でみかんを口に入れ、しっかりと味わう。そのみかんを食べ終えた頃、シュテルがさて、と口を開いた。

「そろそろ時間ですね」

「あ、うん……。えっと……。行こうか?」

「はい」

 シュウが立ち上がり、シュテルがそれに続く。シュウが戸締まりを確認し、その間にシュテルが電気類を切っていく。そうして二人同時に最後の準備を終えて、玄関に向かう。もちろん寒さ対策も忘れない。シュウはグレーのマフラー、シュテルは赤いマフラーを着用している。

「それじゃあ……。いってきます」

「誰に言っているのですか」

 シュテルがわずかに苦笑しつつ、二人は扉をくぐる。そして手を繋いで、歩き出した。

 

 クリスマスの飾り付けがされている街を、シュウとシュテルは二人で歩いて行く。お互いの手をしっかりと握り、目的地へ向かって歩いて行く。大人たちであれば、映画館などで恋愛映画など見たりするのだろうが、シュウにそんな趣味はなく、シュテルも恋愛映画はあまり見ない。なので二人が最初に向かうのは、書店だった。

 二人が最初に会った書店。そこでいつものように立ち読みを始める。せっかくのクリスマスだというのに普段と変わらないが、これが二人の関係でもある。

「やる気があるのかあいつは……」

 店主が情けないと首を振っていることにシュウは気づかない。シュテルと一緒に、しばらくは本を読み続けた。

 二時間ほどの読書を終え、二人は店主に挨拶をして書店を後にする。次に向かうのはデパートだ。特に何かを買う目的があるわけではない。ケーキなどはディアーチェが作っているし、それ以前に、今日は何も気にするなとディアーチェから言われている。気にせず遊べ、と。

 それでも普段の生活の習慣か、二人は一階の食品売場に来ていた。試食などを少し食べつつ、ぐるりと一周する。だが何か必要なものがあったわけではないので、商品は手に取らなかった。

 その後もデパートの各種売場を巡り、そして結局何も買わずに外に出る。自分はここに何をしにきたのだろう、と思ってしまうが気にしても仕方のないことだ。

 

 辺りが赤く染まり始めた頃、シュウとシュテルは公園のベンチで一息ついていた。予定のコースを回り終え、マンションに帰る前に少し休憩しようとここに立ち寄っている。結局、今日はいつもより多くの店を回っただけの日だった。それが少し、シュテルに申し訳なく思う。

 クリスマスにシュテルを誘ったのは、シュウだ。忙しい時期でもあるので断られるかもしれないと思っていたのだが、快諾されてしまった。誘ったのはいいものの計画などなく、慌てて親友に相談していろいろとアドバイスをもらったのだが、結果はこの有様だ。

 あまりにも情けなくて項垂れていると、シュテルの声が降ってきた。

「どうかしましたか?」

 問われて、シュウは答えに窮する。正直に答えられるものではない。ただ、だかろいって何も言わないわけにもいかない。シュウが選んだ言葉は、

「ごめんね」

 その一言だった。だがシュテルにはその一言で通じてしまったらしく、わずかに苦笑するのが分かった。

「私は十分に楽しかったですよ。ですので、お気になさらずに」

「でも……」

 納得できずに言葉を続けようとする。だが、不意に手を握られ、シュウの言葉は最後まで出なかった。シュテルがいつもの無表情で、しかし柔らかい声音で言う。

「貴方と一緒に回れるだけで楽しいものですよ、シュウ」

「……う……」

 シュウの頬が朱に染まる。それを知ってか知らずか、シュテルは視線を前方へと移していた。シュウの表情を見ないように。

「あまり遅くならないうちに帰らないといけませんね」

 シュテルの言葉にシュウは頷く。夕食は七時からと言っていたので、それまでには帰らなければならない。まだ時間はかなりあるが、今の時間が続けばいいのにとも思ってしまう。

 手から伝わるシュテルの温もりを感じながら、シュテルの横顔を見る。正面を見るシュテルはいつもの無表情だ。

「あ……」

 シュテルの声。シュウがシュテルの視線を追うと、子猫が一匹、二人のことを見つめていた。どこか切なげな鳴き声で、にゃあと鳴く。周囲を見ても親猫の姿はない。エサでも探しに行っているのだろうか。

 シュテルが手を差し出すと、子猫がおそるおそるといった様子で近づいてきた。目の前まで来て、少し躊躇した後、シュテルの膝の上へと飛び乗る。そしてまた、にゃあと鳴いた。

「猫によく好かれるよね」

「何故でしょうね……」

 子猫ののどを撫でてやりながら、シュテルが首を傾げる。慣れた手つきだ。

「寒そうだね」

 シュウはすぐに自分のマフラーを取った。適当に丸めてくぼみを作り、子猫を入れてやる。子猫はすぐにその場で丸くなった。その様子に、シュウの頬も自然と緩む。何ともかわいらしい姿だ。

「シュウ、寒くないのですか?」

「これぐらいなら大丈夫だよ」

 子猫の相手をしながら答える。本音を言えばマフラーを外しただけでかなり寒く感じているのだが、だからといって今更子猫からマフラーを取り上げるわけにもいかない。気を遣わせたくもないので、平気な振りをする。

 だがやはり体は正直なもので、答えてしばらくした後、シュウは大きなくしゃみをした。鼻をすすり、隣から感じる白い視線を見ないようにする。やがてシュテルが小さくため息をつくと、自分のマフラーを外した。

「シュテル?」

 シュテルはマフラーの端の方を自分の首に巻き、もう片方をシュウの首へ。長めのマフラーであったため長さは足りたが、それでも本来の用途ではないため少し短くなり、シュテルが足りない分を補うために体を寄せてきた。

 シュテルの体が密着し、温もりが直に感じられるようになる。シュウの顔が恥ずかしさのあまり赤く染まっていく。

「シュテル……」

「何も言わないでください」

 見ると、シュテルの頬も朱に染まっていた。シュテルにとってもやはり恥ずかしいらしい。それでもシュウのためにマフラーの片側を譲ってくれた。それだけで、シュウの心が温かくなっていく。

「ありがとう」

 シュウが礼を言うと、シュテルはそっぽを向いてしまった。その様子がおかしくて、シュウから笑みがこぼれる。

 シュテルの温もりを感じながら、時折子猫の相手をしつつ、時の流れに身を任せる。

 どれほどそうしていただろうか。別の猫の鳴き声が聞こえてきた。シュテルと共にそちらを見ると、少し大きい猫がこちらを見ていた。親猫、だろうか。

 子猫がにゃあ、と一鳴きして、二人から飛び降りる。一度だけこちらに振り返りもう一度鳴くと、親猫の元へと走っていってしまった。

「行っちゃったね」

「そうですね」

 そこで二人は黙り込む。シュウは自分のマフラーを回収して、膝の上で丸めた。

「シュウ。マフラーは……」

「もう少しこのまま、とか……。だめ?」

「……仕方のない方ですね」

 シュテルがわずかに苦笑を浮かべるが、しかし拒否はしなかった。シュテルに甘えて、もう少しこのままここで過ごすことにする。

 寒さから逃れるように、二人はお互いに身を寄せ合う。お互いの温もりがとても心地いい。

 やがて太陽が沈み、辺りが暗くなっていく。そろそろ時間かなとシュウは時計を見て、肩を叩かれてシュテルを見た。シュテルは空の何かを見ているようだ。同じように空へと視線を移し、すぐにそれに気がついた。

 雪がゆっくりと落ちてくる。真っ白な雪の粒が空から落ちてくる。

「ホワイトクリスマス、だね」

 ただの雪だ。クリスマスまでにも何度か降っている。そう思っていても、やはり今この時に降っていると何かが違うような気もする。人の心とはいい加減なものだ。二人でしばらく雪を眺めていたが、やがてシュテルが薄く微笑んだ。

「いい物が見れました。さて、そろそろ帰りましょうか」

「うん」

 返事はするが、立ち上がらない。シュテルは怪訝そうに眉をひそめながらも、何も言わないようにしてくれた。雪をしばらく眺め続け、やがてシュウはシュテルに向き直る。

「シュテル」

「はい?」

 同じように雪を見ていたシュテルがシュウを見る。シュウはその眼をまっすぐに見て、行った。

「シュテル。大好きだよ」

「…………。以前にも聞きました」

 頬を染め、シュウから視線を外すシュテル。シュウは笑いながら、続ける。

「何度でも言う。好きだよ」

 シュテルが小さくため息をついた。シュウの方へと向き直り、視線が合う。身を寄せ合っていたため当然なのだが、顔が近い。

「私も好きですよ、シュウ」

 いつもは見せない、優しげな微笑。

 そして、目を閉じる。

 その少女の唇に、シュウはそっと唇を落とした。少しして、すぐに離す。かなり短い時間のソフトキスだが、二人にとっては十分以上だ。次の瞬間にはお互いに視線を逸らし、気まずそうにしてしまう。まだまだ片手の指で数えられる程度しかしていないとはいえ、慣れたいなとも思う。

 それに、せっかくのクリスマスだ。

 シュウが視線をシュテルへと戻す。シュテルの頬はまだ赤い。自分だけが見ることのできる表情。そのシュテルの体を、シュウは抱きしめた。

「あ……。シュウ……?」

 シュテルが戸惑いの声を上げ、シュウを見る。だが抵抗はしない。自分に身を預けてくれる。

「シュテル」

「はい」

「シュテルを守れるように、がんばるから」

 せめて自分の一番大切なものを守れるように。守ってもらうのではなく、自分が守れるように。そんな意思を込めてつぶやいた言葉を、しかしシュテルは苦笑で流した。

「人には得手不得手があります。貴方は貴方の道を歩いてください。それに……」

 シュテルが左手をシュウの背中へと回し、右手でシュウの頬に触れる。しっかりとシュウの顔を見つめてくる。

「あの時から……。シュウは私にとって、ヒーローですよ」

 シュテルの言葉にシュウは一瞬呆けたように呆然として、そしてすぐに照れくさそうに笑う。シュテルも自分で言って恥ずかしくなったのか、頬をさらに染めてしまう。

 やがて二人は、もう一度だけ、お互いの唇を重ねた。

 

 静かな、暗い公園の中。

 ゆっくりと落ちてゆく雪の中。

 一つの影を作る二人の姿を、星の光が優しく見守っていた。

 




クリスマスだし砂糖を増やそうかな!
とか思っていたら間違って全投入してしまったようなそんな気分です。
そして内容はクリスマスあまり関係ないという……。
最後のシュテルのセリフの『あの時』は本編ではまだ起こっていません。
……というより、その話をちゃんと書くのかも未定ですが……。
あとせっかくなので同じマフラーを巻く、というのもやってみました。
こういった感じで良かったのでしょうか……?

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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