今回は反省することがとても多くなりました。もっとがんばらないと……。
シュウの通う学校では土曜は午前授業で終わる。いつもならシュウは授業が終わった後はまっすぐに家に帰り、その後に図書館や近くの書店に行くのだが、今日ばかりは違った。
最後のホームルームの後、シュウはすぐに荷物を持って席を立つ。友人たちに遊びに誘われるが、用事があるからと全て断った。そして、一人慌ただしく教室を飛び出していく。向かう先は決まっている。シュテルたちの家だ。
「曇ってきてるなあ……」
走りながら空を見る。どんよりと黒い雲が空を覆っている。今にも雨が降ってきそうだ。
「せめて着くまでは降りませんように……」
そう祈りながら走る。ひたすらに走る。
だがシュウのそのささやかな願いは、叶えられることはなかった。
「おー! いらっしゃいシュウ! びしょびしょだね!」
扉を開けて出迎えてくれたレヴィが笑いながら言う。シュウは引きつった笑みを浮かべる。シュウが走っている間に雨が降り始め、すぐに土砂降りになった。昼食に招待されたこともありあまり遅くなってはいけないと無視して走っていたのだが、その結果が全身びしょ濡れという有様だ。当然、申し訳なくて家に上がることはできない。
さらに悔しことに、マンションにたどり着いたところで雨足は遠くなっていた。
「ごめん、せっかく来たけど、ちょっと家で着替えてくるよ……」
そう言ってきびすを返すと、一瞬呆気にとられたレヴィがすぐに慌て始める。
「ちょ、ちょっと待って! とりあえずシュテルに聞いてから……!」
シュテルの名前を聞いたところで、シュウはわずかに動きを止めた。だが、ずぶ濡れの今の姿を見られることがなぜか恥ずかしく感じ、やっぱり逃げようと足を前に。そのままエレベーターまで走ろうとしたところで、
「……何をしているのですか」
背後からの冷たい声に、シュウは驚いて固まり、レヴィも、ひぅっと小さな悲鳴を漏らして硬直した。二人そろって振り返ると、玄関で二人の様子を見つめるシュテルの姿。その手に持っているのは、バスタオル。
まったく、とシュテルはため息をつきながらシュウの元へと歩いてくる。そしてその頭にバスタオルをかぶせた。
「わぷっ」
「こんなに濡れて……。急ぐ必要などなかったのに。風邪でもひいたらどうするのですか」
そう言いながら、シュテルがシュウの髪を拭く。シュウはなされるがままになっていたが、やがて小さな声でつぶやいた。
「……ごめん」
「いえ、お気になさらずに」
シュテルはタオルから手を離すと、部屋へと向かって歩き始める。着いてこないシュウへと振り返り、
「予想はできていたので、お風呂を沸かしてあります。そのままでは風邪をひくでしょう。入ってください」
「……いいの?」
「今更遠慮なんてしないでください」
シュテルがどこか寂しげにそんなことを言う。シュウは少し驚いて目を見開き、やがて薄く微笑んだ。
「うん。ありがとう」
礼を言って、シュテルの後に続く。
そして後に残されるのは、完全に放置されてしまったレヴィ。
「……ぶー」
少しふて腐れたように唇を尖らせながら、扉を閉めた。
少し熱めのお湯に浸かりながら、シュウは大きなため息をついた。
バスルームと浴槽は少し広めのものだ。二人程度なら同時に入ってもまだ余裕がある。今は当然シュウしかいないため、その広めの浴槽でのんびりと体を伸ばしていた。
「あー……。気持ちいい……」
体が冷えていたためか、熱めのお湯が心地いい。ぼんやりとしていると、すぐに眠気が襲ってくる。もういっそのこと、少し寝てしまおうか。
――いや、怒られるか。確実に。
シュテルたち四人は、全員がシュウを待っていてくれたらしい。キッチンのテーブルに大きめのお皿が五個並べられているのを見ている。すでに盛りつけも終わらせているらしく、あとは温めるだけだとか。
早く上がった方がいいかな、と判断してシュウは立ち上がろうとする。
「シュウ」
ガラス戸越しの声。シュウは慌ててまた湯船に浸かった。
「湯加減はどうですか?」
シュテルの声だ。驚き慌てながらも、平静を装って答える。
「ちょうどいいよ。気持ちいい」
「そうですか。こちらは昼食を温めてきます。少し時間がかかりますので、ゆっくりと暖まってください。着替えを置いておきますね」
何かを置く軽い音がした後、シュテルの歩き去っていく音が続いて聞こえる。シュウは安堵のため息をついて、ならお言葉に甘えてと再びリラックスする。すぐに眠気が襲ってきた。
「あー……。気持ちいい……」
二度目のセリフ。その表情は幸せそうだ。
そのまま五分ほどが過ぎたところで、至福の時間は終わりにした。バスルームから出ると、足下に小さなかごがあり、そこにバスタオルや着替えなどが入っていた。バスタオルを手に取り、体を拭いていく。全身しっかり拭いたところで、ふとシュウは着替えへと視線を向けた。
――誰の服?
ここは女の子の四人暮らしだ。当然男物などあるはずがない。まだ子供である自分たちにはそれほどの体型の違いはないため着れることは着れるだろうが、女の子の服を借りるのはさすがに申し訳ない。それ以上に少し恥ずかしい。
そっと着替えを取り出してみて、シュウは首を傾げた。
「……男物?」
安心するのと同時に少し不安になる。まさか自分が知らないだけで、他にも誰かが住んでいたりするのだろうか。もちろん住んでいたとしても問題はないのだろうが、なぜだろう、あまりいい気分にはなれない。
複雑な心境のまま服を着る。少し大きめで袖などが余った。自分よりも年上の人の服だろうか。どんな人だろうと考えるが、いくら考えたところで答えが分かるはずもない。シュウは苦笑すると、とりあえずそのことは忘れてリビングへと向かった。
リビングのテーブルにはすでに料理が並んでいた。楕円形の大きめの皿に溶けたチーズ。湯気が立っているので先ほど温め終えたところなのだろう。
「シュウ。ちょうど今呼びに行こうと思っていました」
飲み物を載せた盆を持って、シュテルが立っていた。シュテルに促されて、席へと座る。対面に座るディアーチェと目が合うと、ディアーチェが薄く笑った。
「服のサイズはどうだ?」
「え? あ、ちょっと大きいかな……。誰の服?」
「クロノ執務官の服ですよ。ディアーチェと一緒に借りてきました」
そう答えたのはユーリだ。レヴィと並んで座り、スプーンを持ってじっと皿を見つめている。
「クロノ執務官……。ああ、あの人か」
そこでやっと思い出した。それと同時に心の底から安堵する。クロノはアースラに行った時に世話になった人だ。特に問題がある人ではない。
「なんだかずいぶん安心したって顔だねー。何を考えてたの?」
聞いてきたのはレヴィ。好奇心に瞳を輝かせている。おそらく本当に他意はない。故に余計に恥ずかしい。妙なことを考えていた自分が情けない。
「いや、別に。気にしないで」
そう答えるだけで精一杯だ。
「さて、では食事にしましょう」
シュテルがそう言ってシュウの隣に座り、五人は手を合わせた。
昼食のドリアを食べ終え、五人はそれぞれ会話を交わす。といってもシュウは話を振られない限り会話には参加しなかったが、四人の会話を聞いているだけで楽しかった。それに、聞いているだけでも分かることがある。四人の関係性などは最初の説明よりもむしろこういった会話で察してきた。
ふとシュテルが視線を時計へと向ける。シュウも一緒に見ると、時刻は午後四時になっていた。
「そろそろですね」
シュテルがつぶやき、シュウが何が? と首を傾げたところでインターホンが鳴った。シュテルが応対のために部屋を出て行く。
「……誰かと約束あったの? 帰った方がいいかな?」
対面のディアーチェにそう聞くと、首を振られた。
「気にするな。ここにいろ」
「はあ……」
そして待つこと数分。戻ってきたシュテルと一緒に入ってきたのは、
「こんにちは、西崎君」
なのはとフェイト、はやて、そして見慣れぬ三人組と犬二匹。
「……なにこの集まり」
「ちゃんと自己紹介しておこうかなって。魔法のことについてはあまり話してなかったから」
答えたのはフェイトだ。どうやら自分のために集まってくれたらしい。シュウはどこか他人事のようにへえ、とうなずくと、はやての後ろの三人組に目を向ける。
「ということは、そこの三人がヴォルケンリッター?」
「そうだが……。誰から聞いた?」
そう答えたのはポニーテールの女性。シュウがクロノさんに、と答えるとうなずいて納得していた。
「では我らの出自に関しては改めて言う必要もないな……。シグナムだ」
ポニーテールの人がそう言ったのを皮切りに、順番に挨拶をしていく。
「あたしはヴィータだ」
一番幼そうな赤髪の子が言って、次に金髪の女性が続く。
「シャマルよ。よろしくね、西崎君」
そして最後に、
「ザフィーラだ」
「犬が喋った!」
「うおっ!」
青い犬が口を開いた瞬間、シュウは目を輝かせて身を乗り出していた。青い子犬は突然のことに驚いて固まっている。
「撫でていい? 噛まない?」
「いや、私は……」
「大丈夫。噛まへんよ」
「主っ?」
シュウが青い犬の頭を撫でる。犬は不服そうにしていたが、大人しく撫でられていた。
「守護獣だっけ? 犬だね」
「かわいいやろ?」
「…………」
犬は無言。ヴィータが笑いをかみ殺しているのが少し気になったが、シュウは気にせずなで続ける。
「ちなみにこっちの赤い犬がアルフ。かわいいでしょ?」
フェイトがそう言って、赤い子犬を差し出してきた。シュウが再び瞳を輝かせる。
「かわいい!」
「撫でていいよ?」
「フェイトっ?」
「では遠慮なく」
青い犬から手を離し、今度は赤い犬を撫でる。両方ともふわふわの毛で、とても撫で心地がいい。顔がだらしなく緩んでしまっていることを自覚しているが、止められない。
「西崎君は動物が好きなの?」
そう聞いてきたなのはにシュウは視線を向け、うなずく。
「うん。あとシュウでいいよ。友達はみんなそう呼ぶから」
「え……? いいの?」
「え? 友達じゃだめ?」
驚いて聞き返すシュウに、なのはもわずかに驚く。だがすぐに笑顔になって、
「そんなことない! よろしくね、シュウ君!」
「はいよろしくー」
そんな会話を交わしている間に、いつの間にかシュテルが出かける準備をしていた。財布と折りたたみ傘の確認をしているシュテルにシュウが首を傾げると、シュテルはすぐに気づいて説明する。
「夕食の買い出しに行ってきます。少し量が多いので……。なのは、ご一緒していただけませんか?」
「うん。もちろん」
なのはがうなずいてこちらも準備を始める。といっても折りたたみ傘を持っただけだが。
「買い物なら僕が……」
「いえ、貴方はここにいてください。せっかくなので、他の方とお話を。では行きましょうか、なのは」
「うん。それじゃあいってきます」
二人そろって部屋を出て行く。シュウはどこか寂しそうにその背を見送った。一部始終を見ていたはやては、どこかおもしろそうな笑顔になる。
「なるほどな」
「なるほどって、何が?」
はやてのつぶやきに反応したにはヴィータだ。はやては首を振って、何でもないよと笑った。
「ところでシュウ君……でええかな? 王様の料理はどうやった?」
「なっ! 何を言うか子鴉!」
皆がきて我関せずと読書を始めていたディアーチェが即座に反応する。シュウの方は、言葉の意味が分からずに怪訝そうな表情を浮かべた。
「ディアーチェの料理って……。もしかして、あのドリアはディアーチェが?」
驚いて聞くと、ディアーチェがそっぽを向いた。ほんのりと頬が赤くなっている。
「そうらしいで。それで、感想は?」
「ええい、黙れ子鴉! 感想などいらぬわ!」
「あ……。そうだよね、僕の感想とかどうでもいいよね」
「な……! ま、待てシュウ! そういう意味ではなくてだな……!」
シュウが悲しげに目を伏せ、ディアーチェが慌てふためく。このようなディアーチェの反応は滅多に見れるものではないので、レヴィとユーリは目を丸くしていた。
「もちろん聞きたいとは思うが、その、なんだ……」
「うん。すごくおいしかった。本当に」
「む……。そ、そうか……。いや、それならばいい……」
再びそっぽを向いてしまうディアーチェ。ユーリがこっそりとディアーチェの前へと場所を移動して、
「ディアーチェ。顔がにやけてます」
「ユーリ……!」
その言葉にディアーチェが再び慌て、はやてたちが笑う。シュウはぼんやりとディアーチェを見て、
――かわいいところもあるんだなあ。
こっそりと心の中でつぶやいた。
シュテルとなのはが帰宅して、すぐに夕食の準備が始まる。どうやら全員がここで夕食を食べていくらしい。人数が多いので、鍋とカセットコンロははやてとなのはがそれぞれ一セットずつ持参した。
太陽が沈み始めた頃に鍋が煮え、食べ始める。せっかくだからと、それぞれの鍋で水炊き、すき焼き、うどんすきにした。ちなみにうどんすきのレシピははやての提供による。
各自それぞれ移動しながら食べていく。その時々で人の組み合わせは変わり、会話の内容も変化していく。それでも皆が意識してシュウを会話に入れようとしていたので、シュウも遠慮なく会話に参加することができた。
やがて夕食も終わりかけ、箸の動きが鈍くなる。移動も少なくなり、のんびりとした会話になっていく。シュウはその頃を見計らって、そっと部屋を後にした。
キッチンに面しているベランダに出る。物干し竿があるだけの少し寂しいベランダだ。このマンションのベランダはそれなりに広く造られているため、少し寂しくも感じる。
室内から聞こえてくる会話の声を聞きながら、シュウはのんびりと空を眺める。
「シュウ。どうかしたのですか?」
呼ばれて振り返ると、シュテルが立っていた。手には湯気の立つお椀。シュテルはシュウの隣まで歩いてくると、お椀を差し出してきた。
「雑炊です。いかがですか?」
「ありがとう。もらうね」
シュテルからお椀とお箸を受け取り、まだ熱いそれを少しずつ食べる。
「うん。おいしい」
「それは良かった。ところで、何をしていたのですか?」
「んー……。空を見てただけ、だよ。あまり意味はないかな」
「空、ですか」
シュテルもとなりで空を見る。まだ雲が濃くかかっていたはずだが。
「ほんの少し前まではさ」
シュウが口を開くと、シュテルがこちらへと視線を向けてくる。それでもシュウは空を見上げたまま、続ける
「ずっと一人で家にいて、ご飯食べて……。寂しいと思うこともなくなって、なんて言えばいいのかな、いろいろとどうでもよくなってたんだ」
「…………」
「シュテルと会って、一緒にご飯を食べたりして、今日みたいなことにも一緒にいさせてもらえて……」
そこでシュウは笑った。自嘲するかのように。自分に対して冷たく笑う。心を冷やそうとする。
「一人のご飯がつらくなりそうだよ……」
心を冷やす。また一人になった時に耐えられるようにと。だが、ぬくもりを知ってしまうと、そんなことは当然できるはずもなく。
「……一人は、嫌だなあ……」
気づくと、涙が流れていた。ぬくもりをもらったがために、家での孤独が怖くなる。孤独の冷たさを思い出すだけで体が震えてくる。ただただ一人。ただただ無音。もう慣れてしまっていたはずなのに、たった数日こうして過ごしただけでそれが何よりも怖い。
「シュウ」
シュテルがシュウの頬に触れる。手で涙を拭い、薄く笑みを浮かべた。
「一人でいる必要はありません。いつでもここに来てください。私たちはいつでも貴方を歓迎しますよ。貴方はもう家族も同然ですから」
「……シュテル……。ありがとう」
シュテルにつられるように、シュウも微笑んだ。
二人はそっと手を繋ぎ、今度は無言で星空を眺める。いつの間にか雲はなくなり、星の淡い光が二人を優しく包んでいた。
※今回の反省点。展開が唐突すぎる。主人公のキャラがぶれているような。登場させた人数が多くて把握しきれていない。
……地の文は言わずもがななので省略! 精進します……。
今更ながらミスに気づいたことが一つあります。
シュテルたちの家はコミックスのマテリアル娘を参考にしていたはずだったのですが、あれは一戸建てですよね……。今更書き直すこともできないので、この話ではマンション住まいということで。
うどんすきについて。大阪の地方料理だと今日初めて知りました。なのではやて直伝ということで。
今回はぶっちゃけ最後のシーンが書きたかっただけですそれだけのはずなのにとても長くなってしまいました。どう考えてもみんなが集まる必要も夕食のシーンもいらなかったですね……! ホットミルクのはずが雑炊になっちゃいましたし!
でも最後のシーンが書けたので満足です。シュテるん万歳。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。