「紅葉狩りに行きませんか!」
ある日の朝。ユーリが本を手にそんなことを提案した。本は何かの雑誌らしく、表紙には秋の特集のようなことが書かれている。それに影響を受けたのだろう。
「紅葉狩りか……。我は構わんが……」
ディアチェが視線をシュテル、レヴィ、そしてシュウへと向ける。どうする、という問いかけだ。この場合はユーリに同行するか否か。もしも三人とも断れば、ユーリとディアーチェが二人で行くことになる。
シュウとシュテルは顔を見合わせしばらく考えていたが、すぐに返答する者がいた。当然、レヴィだ。手を上げて、元気よく言う。
「行きたい!」
そして、レヴィが行くならとシュテルも参加を表明し、シュテルが行くならとシュウも同行することになる。
「うむ。では昼から向かうか」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ユーリが満面の笑顔で言う。その笑顔を見られるだけでも十分だった。
少し早めの昼食の後、五人は隣町の公園へと向かった。この辺りでは紅葉が一番きれいに見れると聞いた場所だ。その話は正確で、公園の道は紅葉の木のトンネルとなっており、とても幻想的に思える。わあ、とユーリが瞳を輝かせた。
ユーリとディアーチェに先頭を歩いてもらい、シュウはシュテルと最後尾を歩く。赤と黄色のトンネルは、時折太陽の光で輝いて見えたりもする。綺麗なところだな、と素直に思えた。
「ねえ、シュテるん」
ディアーチェたちと一緒に歩いているはずのレヴィが戻ってきた。頭上に疑問符を浮かべ、何かを考えているようだ。シュテルが、何でしょうと先を促す。
「いつ紅葉をかるの?」
「…………」
シュテルが小さくため息をつき、シュウは苦笑する。どうやらレヴィは紅葉狩りの意味を理解できていなかったらしい。ある意味レヴィらしいとも言えるが。
「紅葉狩りは、簡単に言えば紅葉を見て楽しむことだよ」
シュウの言葉にレヴィが驚いて目を丸くした。
「どこかの地域では実際に紅葉の天ぷらなどがあるそうですが、ここにはありまん」
レヴィが残念そうに肩を落とした。どうやら珍しいものを食べられる、といったイメージがあったらしい。最初に言っておくべきだったか、と少し反省する。
「レヴィ。帰りに紅葉まんじゅうとかでも買おう。ね?」
「紅葉まんじゅう?」
「うん。紅葉の形をしたおまんじゅう」
おまんじゅう! とレヴィの顔が輝く。現金なもので、すぐに上機嫌になり鼻歌などを歌い始める。シュウはその様子を見て、安堵のため息をついた。
前を歩くディアーチェたちに合わせ、シュウとシュテルものんびりと歩く。平日の昼間のためか、他の人は少ない。周囲を気にせず散策できるというのはいいものだ。
「ふむ……。弁当でも用意すればよかったか」
不意にディアーチェが足を止め、道の脇にあるベンチを見る。スーツの男がそこでおにぎりを頬張っていた。仕事の合間の軽食、だろうか。その男の隣に置かれた包みを見て、シュウは少し驚いた。白い紙にお菓子のようなものが置かれている。
「ここで休憩しない?」
突然のシュウの言葉にディアーチェが怪訝そうに眉をひそめるが、すぐに頷いてくれた。来た道にもベンチがあったはず、ということで五人で少し戻る。誰も座っていないベンチがあったので、そこで休憩することになった。
「近くに売店でもあればいいのですが」
シュテルが周囲を確認して、すぐに肩をすくめた。仕方がない、とディアーチェが苦笑する。
「シュテル。ちょっと一緒に来てくれない?」
「何でしょうか?」
ちょっと離れる、とディアーチェに告げると、ディアーチェは二人を一瞥しただけで軽く手を振った。礼を言いつつ、シュテルの手を取って道の先へと行く。まだいればいいのだが。
「シュウ、どこに行くつもりですか」
「ちょっと待ってね……」
道を少し進み、すぐに目的の人物を見つける。おにぎりを食べ終えたところなのか、水筒のお茶を飲んで一服していた。その男へと近づくと、シュウたちに気づいた男が首を傾げてこちらを見てくる。
「何か用かな?」
シュウが口を開くよりも先に男が言った。シュウが頷いて聞く。
「それ、ここの近くで買ったんですか?」
「ん? ああ、これか」
男が傍らの紙袋に視線を落とす。そこに入っていたものはすでになく、何かのお菓子でも入っていたのか、小さな欠片だけが残されている。男はその紙袋を丸めて小さくしながら、道の先を指さした。
「もう少し行ったところで小さな屋台が出ているよ。行ってみるといい」
「ありがとうございます」
シュウが頭を下げ、シュテルも意味が分からないままとりあえずは頭を下げる。
再びシュテルを伴って、少し早足で道の先へ向かう。もうシュテルも何も言ってこなかった。何かを買おうとしている、というのは伝わっているのだろう。
やがて、ちょっとした広場になっているところで小さな屋台を見つけた。何かを油で揚げるような香ばしい匂いが漂ってくる。シュウは嬉しそうに顔を綻ばせると、その屋台へと向かった。
Side:Dearche
――遅いな……。
ユーリとレヴィの会話を聞きながら、ディアーチェは首をひねっていた。待っているのは、当然ながらシュテルとシュウだ。どういった目的で離れるかを聞いておけば良かったかと少し後悔する。先に出発していいのかすら分からない。
念話でも送るか、と何度か思ったが、二人の邪魔をすることにならないかと結局送れずにいる。気にしすぎだとは思うのだが。
どうしたものか、と腕を組んで考えていると、道の先から走ってくる二人分の足音が聞こえてきて、ディアーチェは顔を上げた。シュテルとシュウだ。シュウの手には紙袋が抱えられている。
「お待たせ!」
文句の一つでも言うべきかと迷っていたが、満面の笑顔で言われると何も言えなくなる。ディアーチェは、仕方のない奴らだ、と苦笑する。そのすぐ後に鼻を動かし、シュウの抱えている紙袋を見た。
「それは何だ?」
ディアーチェの問いかけに、シュウが悪戯っぽく笑う。そして紙袋から取り出したものは、お菓子のようなもの。いつの間にかレヴィとユーリの視線もそれへと釘付けになっている。
「紅葉の天ぷら。屋台が出てたから買ってきた」
「ほう、これが……」
話には聞いたことはあったが、見るのは初めてだ。ディアーチェはそれを一つつまむと、口へと入れる。ほのかに甘く、かりんとうが連想される。
「お菓子みたい! おいしい!」
いつの間に取っていたのか、レヴィとユーリも頬張っていた。ぱりぽりと皆で咀嚼する。
「これもどう?」
そう言ってさらに差し出されるのは、紅葉の形をしたまんじゅうだ。レヴィとユーリが顔を輝かせる。
「うむ。とりあえず落ち着こうか」
収拾がつかなくなりそうなので、ディアーチェは苦笑と共にそう言った。
紅葉の天ぷらと紅葉まんじゅうを全員に配り終え、シュウが満足そうに一息つく。
現在、ベンチに座っているのはユーリとシュテル、レヴィだ。三人とも、初めて見て食べる紅葉の天ぷらというものに興味深そうにしている。
ディアーチェは、その側で一仕事終えたとばかりに満足そうに笑っているシュウの隣に立った。
「わざわざすまぬな」
一言、そう声をかける。するとシュウは少し驚いたように目を瞠り、すぐに首を振った。
「せっかくだから、ね。ちゃんと喜んでもらえて何よりだよ」
「しかし、気にしなくて良かったぞ? わざわざ探さなくても……」
「ただの気まぐれだから。それに、喜んでもえていたら十分だよ」
シュウが優しげに目を細め、ユーリを見る。ディアーチェもそちらを見ると、楽しげに談笑しているユーリたちの姿がある。ユーリはディアーチェたちに気がつくと、手を振ってきた。それに少し躊躇しながらも振り返すと、シュウが薄く笑う。
「うん。満足だ」
――……かなわぬな。
シュテルの気持ちが少しは分かる気もする。ディアーチェは小さくため息をつきながらも、その頬は緩んでいた。
ユーリメインと見せかけてからのシュテルメインとみせかけたディアーチェメインかもしれないお話、でした。なんだこれ。
書きたかったシーンは特になかったりします。
ただ作中で秋になったので、紅葉狩りぐらいには出かけさせてやろうかなと……。
ただそれだけです^^;
ちなみに紅葉の天ぷらですが、実在?します。
店によっては通販もしていますので、興味がありましたら調べてみてくださいね。
私は小学生の頃に先生企画の小規模遠足で食べました。美味しかった覚えがあります。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。