見渡す限りの白い景色。雪の積もった山を滑っていく大勢の人々。その中にはクラスメイトの姿があり、家族の姿ももちろんある。
冬休み、シュウたちは高町家や八神家に誘われてスキー場に来ていた。海鳴市から離れ、日本の北の地方まで来ている。シュウもここまでの遠出は初めてだ。当然シュテルたちも初めてで、レヴィやユーリはここに来るまでの間にかなり騒いでいた。
シュウはスキー場の隅にある小さな喫茶店でのんびりとホットココアを飲んでいる。そのシュウの目の前で、シュテルとなのはが何かしらの話をしている。少しして、リフトへと向かっていく二人。
レヴィはフェイトと一緒だった。最初は何度も転んでいたレヴィだったが、いつの間にかコツを掴んだらしい。滑り降りてくるたびに楽しそうな笑顔を見せてくれている。
ディアーチェとユーリは、ユーリの希望によりスキー場の隅にあるフリースペースで、雪だるまを作っていた。はやてやヴォルケンリッターも参加していて、和気藹々とした様子で作っている。楽しそうだな、と思っていると、
「ええい、子鴉! 邪魔をするな!」
「手伝ってるだけやで? そや、せっかくやからおっきな雪だるま作らへんか?」
「何をわけのわからんことを……」
「おっきな雪だるま! 作りたいです!」
「うぐ……! ええい、分かった! 作るからにはこだわるぞ! 不本意だが手を貸せ、子鴉!」
「もっちろんや!」
やっぱり楽しそうだな、とシュウは一人で頷いた。そしてすでに冷めてしまっているココアを一気に飲み干す。さて、と席を立った。
「どこに遊びに行こうかな?」
Side:Dearche
フリースペースで作っている雪だるまはなかなかの大きさになっていた。大の大人が手を伸ばしても雪だるまの頭には手が届かない。我ながら、よくこんなものを作ったものだと思う。ただ、ユーリの嬉しそうな笑顔を見られたので価値はあった。
全員がやり遂げたような満足そうな表情をして、雪だるまを眺める。おっきいなあ、とはやてが言って、がんばりましたね、とシャマルが笑う。
「おお、本当に大きな雪だるまになってる」
その声に振り返ると、シュウがいた。雪だるまを感心した様子で眺めている。
「見ておったのなら手伝っても良いだろうに」
「いやあ、邪魔したら悪いかなって」
妙な気の遣い方をするな、とディアーチェが呆れ果て、シュウが困ったように苦笑する。ディアーチェは自分の荷物からインスタントカメラを取り出すと、それをシュウへと放り投げてきた。
「記念撮影だ」
「うん。撮るのはいいけど、カメラなんて持ってたんだね」
「我のではない。たくさん撮れと渡されただけだ」
なるほど、とシュウが頷いた。誰からとはあえて言わなかったが、察しはついているのだろう。このカメラは桃子に渡されたもので、せっかくだから一つのアルバムを作ろうという計画ができているらしい。それを聞いたユーリの希望により、カメラを持ち歩いている。
「よし、じゃあ並んで。撮るよ」
「あ! シュウ君、王様たちの後でええからこっちも!」
「了解、ちょっと待ってね」
ディアーチェとユーリが並び、シュウがシャッターを切る。その後に八神家も同じように撮影し、そして最後に全員で。なぜ貴様らと、と不満を口にしたがはやてやユーリの笑顔に押し切られた。
全員での撮影も完了し、一息つく。次は何をしようかと相談しようかと思ったが、
「かまくらを作ってみたいです!」
次の要望があった。ディアーチェは苦笑しつつも、よし分かったと早速準備を始める。
「シュウ。ここにいるのだ、次は手伝え」
「うん。分かった」
今度はシュウも加わり、さらに人数が増えての作業となった。
Side:Yuri
程なくしてかまくらが完成した。自分たちを見ていた他の人たちもなぜか参加し始めて、フリースペースは雪だるまとかまくらで占領されつつある。いろいろな雪だるまを見るのがとてもおもしろく、ユーリは目を輝かせていた。
「ユーリ、入らないの?」
背後からの声。他の人の雪だるまから視線を移して自分たちのかまくらを見る。大人数で作ったためかなかなかに大きなサイズで、中は五人はゆっくりとくつろげるほどには広い。
「入ります! 入りたいです!」
シュウに手招きされて中に入る。空洞をぐるりと回るように雪のいすがり、すでにディアーチェたちが座っていた。ディアーチェとシュウの間が空いていたのでその間に座る。
「なんだか神秘的ですね。それほど寒くもないですし」
「ああ。作った甲斐があったというものだ」
ディアーチェも満足そうに頷いている。今度はシュウの感想を聞くべく振り返り、
「……あれ?」
いつの間にかいなくなっていた。かまくらにはユーリとディアーチェの二人きりだ。
「あやつなら先ほど子鴉に呼ばれて出て行ったが」
全く気づかなかったことに衝撃を受け、何も言われなかったことに悲しくなってしまう。そうして少し落ち込んでいると、ディアーチェが苦笑した。
「じきに戻ってくる」
「え?」
どういうことですか、と聞く前に足音が聞こえてくる。そしてかまくらに入ってきたのは、盆を持ったシュウだった。盆には湯気の立つお椀が三つ。シュウがそれを自分とディアーチェに順番に渡してくる。
「あ、ありがとうございます?」
「どうして疑問系なの?」
笑いながら先ほどと同じ場所に腰掛け、シュウが手を合わせた。
渡されたお椀を見る。中に満たされていたのは豚汁だった。お椀から伝わってくる温もりが心地いい。ゆっくりと飲み、ふう、と息を吐く。美味しい。
「暖まります……」
「喜んでもらえたなら何より。ちなみにそこの喫茶店で急遽作ったらしいよ」
シュウ曰く、かまくらが大量生産され始めた頃から作り始められていたらしい。販売チャンスだ、と。
「そこの店主には感謝だな」
「ですね! とても美味しいです」
ゆっくりと食べ進めていく三人。そして最初に食べ終わったのはシュウで、すぐに席を立った。
「さてと。それじゃあ、他の二人も見てくるね」
「うむ。気をつけて行ってこい」
ディアーチェが頷き、インスタントカメラをシュウへと放る。受け取ったシュウは一瞬戸惑いを浮かべたが、すぐに笑顔になった。
「いっぱい撮ってくるよ」
「ああ。任せたぞ」
かまくらを出ていくシュウを見送り、静かになる。
「さて、他にしたいことはあるか?」
ディアーチェの問いかけに、シュウが出て行った方向を見つめていたユーリが我に返り、そうですねと考え始めた。
Side:Levi
「あ! シュウだー!」
フェイトと滑り降りていく際、リフトへと向かうシュウを見つけた。レヴィはすぐにフェイトへと目配せし、フェイトが苦笑しつつも頷くのを確認してからシュウへと方向転換。まっすぐにシュウへと向かう。
「ん?」
シュウの方はレヴィのことを見つけられていないのか、周囲を見回している。そしてほどなくしてレヴィを見つけ、すぐに表情が凍り付いた。
「ちょ、レヴィ! 危ない!」
「だいじょぶ!」
シュウの手前で急制動、計画通りにシュウの目の前で停止した。シュウはその場に立ち尽くし、顔を青ざめさせている。
「えっと……。シュウ?」
「…………。怖かった。本気で怖かった」
「ご、ごめんね?」
どうやら予想以上に驚かせてしまったらしい。レヴィが素直に謝ると、シュウは、もういいよと言ってくれる。その頬はまだ引きつってはいたが。
すぐにフェイトもレヴィの隣に到着する。フェイトがシュウへと笑いかけ、シュウも笑顔を返す。
「ずっと一緒に滑ってるの?」
「うん。シュテルに頼まれて……」
シュウが首を傾げ、レヴィを見る。その視線の意図を察して答える。
「慣れてきたから一人で滑ろうと思ったんだけど、シュテるんにだめって言われちゃった。オリジナルと一緒にいるように、て」
「なるほど、コントロール係だね」
「そ、そうなるのかな……?」
シュウのつぶやきにフェイトが困ったように眉尻を下げた。同じ言葉をレヴィも聞いていたのだが、いまいち意味は分からない。
「ま、いいか! シュウは滑らないの?」
言葉の意味などどうでもいいと判断して、シュウを誘うために聞いてみる。シュウは少し考えた後、少し答えにくそうに視線を逸らした。それだけで何を聞きたいのかは理解できる。
「シュテるんならもう少しで下りてくるよ」
「そ、そう? じゃあもう少し待つよ」
「うんうん。そうした方がいいよ!」
レヴィはそれだけ言うと、すぐにリフトへと向かう。フェイトもすぐにその後を追ってきた。
「レヴィ。いいの?」
「ん? 何がさ?」
「シュウと滑りたかったんじゃ……」
リフトの順番を待ちながら、レヴィは楽しげに笑った。オリジナルは分かってないね、と前置きして、
「こういう場合はお邪魔になるんだよ!」
「そ、そうなんだ……。ところで、誰かに言われた?」
あまりに当然なことを聞かれて、レヴィは首を傾げる。それを見てフェイトは、やっぱり、と得心した表情をする。
「王様から聞いたけど」
「うん。……来たよ、今度はどう滑る?」
「えっとね……」
フェイトと話をしながら、レヴィはリフトに乗った。
Side:Stern
シュテルはなのはと一緒に滑っていた。スキーというものに最初こそ戸惑いはしたが、今ではすっかり慣れて頂上付近から滑ってきている。一緒に滑っているなのはを気遣うことも忘れない。
「ナノハ、大丈夫ですか」
「う、うん……。シュテルはすごいね……。こんなに早く覚えちゃうなんて……」
そうでしょうか、とシュテルは首を傾げた。それほど特別なことをしているつもりはもちろんない。だがそれを聞いたなのはは、それがすごいんだよ、と笑っていた。
短い休憩を挟みながら、滑り降りていく。やがてリフトが見えるようになり、シュテルが目を細めた。見知った人影がある。
「シュウですね」
「え? 本当に? どこ?」
「リフトの側です。誰かを探しているようですね。……私がシュウを見間違えるとでも?」
なのはの頬が一瞬染まり、そうだよね、と目を逸らしていた。どうしたのかと首を傾げるが、なのはは何でもないよと笑うだけだ。無理に答えてもらう必要もないと考え、すぐにシュウへと視線を戻す。
「先に行きます」
「うん。私もすぐに行くから」
最後に短い会話を交わし、残りの距離を一気に滑り降りていく。やがてシュウもこちらに気づいたのが、シュテルをしっかりと見たシュウが小さく手を振っていた。シュテルはシュウの目の前で停止する。
「さすが、すごいね。もう慣れたんだ」
「まあ、これぐらいは」
シュウに褒められるのは悪い気はしない。素直にその言葉を受け取る。シュウはその反応に少し驚きつつも、照れくさそうに笑った。
「シュウは滑らないのですか?」
「いや、スキーはちょっと苦手で……」
視線を逸らすシュウ。そう言えば皆でスキー板を借りに行く時も、シュウだけは断固として借りようとしなかったことを思い出す。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。無理に話してもらおうとは思わないが……。
「あ、別に嫌な思い出とかじゃなくて、どれだけ練習しても滑れなかっただけだよ」
「そうですか」
心を読まれたかのようで、思わずシュテルは薄く苦笑する。それならば、と続ける。
「私で良ければ、教えましょうか。せっかくのスキー場ですし」
「う……。すごく魅力的な提案……」
無理強いはしませんよ、とシュウの返答を待つ。シュウはしばらく考え込んでいたようだったが、一分以上も熟考した後、無言でスキー板をレンタルしに行った。
「では、ナノハ。また後ほど」
「うん。またね」
シュウへと滑り方を教えるため、なのはとはリフト前で別れた。後ほどまた一緒に滑ろうという約束をするのも忘れない。その後、なのははしばらくどうしようか考えていたようだったが、フリースペースにみんなで作ったかまくらがあると聞いてそちらへと向かっていった。
なのはを見送った後は、リフトではなく徒歩で山を少しだけ登る。五十メートルほどの距離だ。そこまではスキー板を担いで運び、到着後に準備をする。
「では始めましょうか」
「お手柔らかに……」
一時間後。シュテルの指導のおかげか、シュウは少しだけ滑れるようになったようだ。ただそれでも、ゆっくりと、スピードが出ないように、という状態だったが。
「シュウはスポーツが苦手、というわけではありませんよね?」
「そのはずなんだけどね……。普通を自負してる」
「ではこれももう少し練習してコツを掴めばとは思いますが……」
考えながら、シュテルは隣のシュウを見る。ゆっくりと滑るシュウの表情は、必死そのものだ。もしかすると、技術面ではなく何かしらの恐怖心からくるのかもしれない、と思ったところで、
「うわっ」
シュウの短い悲鳴。直後に何かが倒れる音。見れば、シュウが尻餅をついて嘆息していた。単純に、シュウには合っていないだけ、という可能性もある。
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差し出す。シュウはその手をしばらく見つめ、
「……情けないなあ……」
「は?」
「いや、何でも」
シュウがシュテルの手を取る。少し力を入れてシュウを立ち上がらせ、また滑り始める。
「シュウ」
「ん?」
再び必死の表情なり滑り始めたシュウへ、シュテルは短く告げた。
「これが終わったら休憩にしましょう。かまくら、があるのですよね? 私も見てみたいです」
「ん……。そうしようか……、わあ!」
再び尻餅。シュウの表情がどこか悲しげな、泣きそうなものへと変わっていき、シュテルはどうにも声が掛けづらくなってしまう。無言で手を差し出し、再び引っ張り起こす。
「って、シュテル勢いよすぎ……うわっ」
「は……? きゃっ」
勢いよく引っ張り上げすぎ、シュウがシュテルを押し倒す形になって再び倒れた。シュテルのすぐ目の前に、シュウの顔。しばらくそのまま無言で見つめ合ってしまう。
「……シュウ。離れてください」
「あ、ご、ごめん!」
慌ててシュウが飛び起きる。シュテルも立ち上がり、服についた雪をはらいながらシュウから顔を背けた。一瞬前のことが脳裏によぎり、顔が赤くなっていく。
――なんて情けない声を……。
シュウに聞こえていなければいいのだが、と思いながら振り返る。シュウも服の雪を払い終え、また滑る準備を終えていた。そのシュウと視線が合う。
「ん? どうしたの、シュテル」
「いえ……。何でもありません」
どうやら聞かれてはいなかったらしい。そのことに安堵のため息をつきつつも、二人は再び滑っていく。
「シュテルもあんな声を出すんだなあ……」
そんなシュウの声は、シュテルには届かなかった。
Side:Hero
数日後。学校でなのはから渡されたアルバムを大事に持ち帰り、シュテルたちと一緒に見る。そこには、
「ほう」
「へえ」
「わあ」
ディアーチェ、レヴィ、ユーリの驚きの入り交じった吐息。そして、
「い、いつの間に……!」
「…………」
シュウが慌て、シュテルの表情が凍り付いている。
ちょうどシュウがシュテルを押し倒す形となった時の写真が収められていた。
「……夕食の準備をします」
シュテルはそれだけ言って、キッチンへと消える。残されたシュウは捨てられた子犬の心境となりつつも、シュテルの表情に驚いていた。頬に赤みの差した表情に。
――少しでも照れてくれていたら……。それはそれで嬉しいかも?
そんなことを思いながら、この写真を撮った誰かに少しだけ感謝した。
高町家。そのリビングにて。
「ふふふ……。あの子たち、どんな反応してるかな?」
「お姉ちゃん……」
なのはの姉、美由希が悪戯っぽい笑顔を浮かべ、なのはが呆れつつ苦笑している。そんな一幕があったとかなかったとか。
本文に書けなかったのであとがきにこっそり裏話。
美由希さんがおそらく初登場にもかかわらず、あとがきのみ、1セリフのみという扱いです。
ごめんなさい美由希さん……!
今回書きたかったのは、シュテルが主人公を引っ張り起こす場面、からの押し倒し?です。
見ててにやにやできるものが書ければ良かったのですが……。
シュテルがこんな女の子っぽい悲鳴を出すとは思いませんが、どうしても書いてみたかったですよ。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。