そしてここからご都合主義、駆け足展開要注意ですよ!
「久しぶりに来たけど、やっぱりすごいなあ」
周囲の光景を見て、シュウはぽつりとつぶやいた。現在、シュウがいるのはアースラのブリッジだ。今は緊急時でもなければ航行しているわけでもないので、数人の職員が働いているだけとなっている。
なぜシュウがここを訪れたかというと、それは今目の前にいる人物に会うためだった。
「ようこそ。お久しぶりね」
リンディが笑顔でシュウを出迎えてくれていた。
リンディの部屋、和室のような部屋にシュウは案内された。シュウとリンディの二人だけで、他には誰も居ない。
リンディへの連絡、アースラへの送迎をしてくれたシュテルも別件の仕事へと向かっている。リンディとの話の後はシュテルを待ってから帰る予定だ。
「私に話があるそうだけど、何かしら」
そう言いながらお茶菓子を出してくれる。シュウは礼を言うが、今はまだそれには手を着けなかった。
「えっと……。他の人に聞いてもいいことなんでしょうけど、一番信頼できるのはやっぱりリンディさんかなと思って。ちょっとだけ相談です」
「あら、ありがとう。それで?」
「シュテルたちと一緒にいるためには、どうすればいいですか?」
リンディが一瞬目を丸くし、そしてすぐに困惑の色を示す。質問の意図が分からない、といった様子だ。それをすぐに察して、シュウは慌てて言い直した。
「えっと……。シュテルたちは魔導師で、これからも魔法を使い続けると思います。でも、僕が側にいたら、僕の存在で彼女たちを縛っちゃうような気がして……。僕は魔法が使えない一般人ですから」
妙なものが体にありますけど、とシュウが苦笑する。そのシュウの目の前で、リンディはなるほど、と一つ頷いた。シュウの言いたいことを理解してくれたらしい。リンディはシュウの目を見て、言う。
「一緒にいるなら魔導師であるシュテルさんたちの力になりたい、そういうことかしら」
「はい。そうです」
シュウは魔法のことに関しては無知に等しい。シュテルたちの役に立ちたいとは思っても、自分に何ができるかすら分からない。シュテルたちに聞いても、自分たちのことは気にしないようにと言われるだけだ。実際にシュテルに言ってみたことがあったのだが、やはり気にするなと言われただけだった。
それなら、とシュウは思う。シュテルたちに知られないように自分にできることを探そう、と。それを示せれば、彼女たちの隣、とまではいかなくても少し後ろぐらいなら歩けるかもしれない。
リンディは、なるほどねと考え始める。それを見て、やはりこの人に相談して良かったと思った。魔法と少し関わっただけのシュウのために真剣に考えてくれている。
「シュテルさんと一緒に生活できないといけないわけだから、オペレーターとかはだめね……。あとは……。デバイスマスター、とか?」
「えっと……。何ですかそれ?」
「デバイスを設計したりメンテナンスしたり、まあデバイス全般に関わる仕事、と思ってもらったらいいと思うわ」
デバイス、と聞いてシュウはシュテルの杖やレヴィの鎌を思い出す。確かあれらがデバイスと呼ばれるものだったはずだ。あれらにメンテナンスが必要だとは知らなかった。確かにそれができれば、彼女たちの役に立てるかもしれない。
「興味があれば資料を持ってきてあげるけど」
「是非! お願いします!」
「ふふ。それだけやる気があれば大丈夫かしらね。じゃあ手配しておくから」
この後も仕事があるから、とリンディとはそこで別れた。それが昼前のことだ。シュテルが戻ってくるまでは暇なのでシュウは食堂でのんびりと過ごすことにした。休憩の職員と話をしたり、昼寝をしたりしながら過ごす。時折デバイスマスターのことについて聞いてみたが、とても難しい資格だと聞くことができた。
夕方になり、シュテルが戻ってくる。食堂まで迎えに来てくれたのだが、リンディも一緒だった。
「では帰りましょうか、シュウ」
「うん」
シュテルに促され、シュウは立ち上がる。そのまま食堂を出ようとして、
「はい、これ」
シュテルから見えないようにリンディから封筒を差し出された。困惑しながら受け取り、中身を確認する。何冊かの本と資格についての資料。シュウが驚きに目を瞠ると、リンディはどこか楽しげに笑っていた。
「本格的に勉強をするつもりがあるのなら、協力するから。いつでも言いなさい」
それじゃあ、またね。リンディがそう言ってシュウの肩を叩き、休憩室の奥へと向かっていく。シュウはその背中を、呆然としたまま見送っていた。
夕食を終え、自宅に戻ったシュウは早速リンディから受け取った封筒の中身を取り出した。中に入っているのはデバイスマスターが実際に行う業務内容を網羅した本や、その資格のための問題集。さらには資格の概要についての資料など。昼前に話したところだというのに、これほど早く用意してもらえるとは思っていなかった。改めて礼を言う必要がある。
とりあえずシュウは、それらのもの全てに目を通すことにした。
Side:Stern
翌日。朝食の時間になってもシュウは現れなかった。寝坊でもしたのだろうと王が笑い、シュテルへと様子を見に行くようにと告げる。断る理由もないので、すぐにシュウの部屋を訪ねる。シュウから預かっている合鍵で扉を開け、リビングへと向かう。
「……何をしているのですか?」
そこにいたのは、テーブルに突っ伏しているシュウ。彼の体の下には何かの本がある。まるで慌てて隠したように、シュウは引きつった笑みでシュテルを見ていた。
「べ、別に何でもないよ? シュテルこそどうしたの?」
「朝食に呼びに来ました」
「へ……?」
シュウが間抜けな表情を見せ、時計を見る。そして目を大きく見開いた。どうやら本当に気がついていなかったらしい。手元の本にでも熱中していたのだろうか。
「そんなにおもしろい本なのですか? よければ私にも……」
「いや! そういった本じゃないから! 教材だから! 気にしないで!」
慌てふためくシュウに、シュテルは訝しげに眉をひそめる。誰がどう見ても怪しいと思える態度だが、シュテルは詮索せずにため息をつくだけに留めた。シュウも人の子だ。隠したいことの一つや二つはあるだろう。少々寂しくも感じるが、それは仕方がない。
「では王たちが待っていますので、急いでくださいね」
「うん。すぐに行くよ」
シュテルはでは、ときびすを返すと、後ろ髪を引かれる思いをしながらもその場を後にした。
「おもしろいけど難しすぎるよ……」
シュウのその声は聞こえないことにして。
Side:Hero
「なのは。ちょっといいかな?」
朝のホームルームの前。シュウはなのはたちの集まりへと声をかけた。なのはたち全員が驚いたような反応を見せる。それもそのはずで、シュウから彼女たちに積極的に声をかけることはしてこなかったためだ。
「珍しいね。どうしたの?」
なのはが笑顔で聞いてくる。シュウは周囲を見て、なのはたち以外に誰も会話を聞いていないことを確認して言った。
「あとでアースラに連れて行ってもらえないかな? リンディさんに会いたいんだ」
「私は構わないけど……。シュテルは?」
シュテルと一緒に行けばいいのでは、と考えたのだろう、なのはがかわいらしく首を傾げて聞いてくる。ここの皆には言っておいてもいいかなと判断して、シュウは簡単な経緯を説明した。なのはたちだけでなく、話を聞いていたアリサとすずかも驚いていた。
「デバイスマスターの勉強……。そっか、シュウはその道を選んだんだね」
そう口を開いたのはフェイトだ。感心したように何度か頷いている。
「なんや難しいってよく聞くなあ……。がんばってな、シュウ君。応援するで」
「うん。ありがとう」
それじゃあまた放課後に、そう言い残してシュウは自分の席へと戻っていった。
授業が終わり、放課後。シュウは一度だけ自宅に戻り、シュテルたちの部屋へと向かう。今日はリビングに全員揃っていた。
「ちょっと友達と遊んでくるね」
そう言うと全員が驚き、そのことにシュウは思わず笑みが引きつった。そんなに意外なのかと思うのと同時に、確かにこんな言葉は初めて言ったな、と気づいてしまう。自分の交友関係の少なさに気持ちが滅入りそうになるが、今は関係のないことなので一先ず忘れることにした。
驚きから最初に立ち直ったのはシュテルだ。珍しいですね、とつぶやき、続ける。
「お気を付けて。いつ頃戻りますか?」
「ちょっとお話してくるだけだから、二時間ぐらいかな?」
「分かりました。では夕食もそれぐらいの時間に出来上がるようにしておきます」
ありがとう、と礼を言うと、シュテルは黙って首を振った。気にしなくていい、と。
「それじゃあ行ってきます」
そう言って、部屋を後にする。そのシュウの背中へと、
「お気を付けて。リンディ艦長によろしくお伝えください」
「…………」
敵わないな、とシュウは心の中だけで苦笑した。
Side:Kouji
「なるほどなあ……」
真夜中の学校の屋上。コウはフェンスにもたれかかり、目の前のモノから話を聞いていた。
それは、小さな黒い玉だった。特定の形を持たず、周囲の景色と同化して姿を隠す。コウは詳しく知らないが、魔法の一種らしい。サーチャーに近いものだと聞いたことはあるが、興味もないので聞いていない。
これは、ずっとシュウの部屋にいる。ここに本体がいる今も、これの欠片がほとんどの時間をシュウと共に過ごしている。もっとも、魔力に精通した者、夜天の守護騎士やマテリアルたちに見つかればさすがに気づかれる可能性もあるが、そこはうまく隠れているようだ。
今、これの報告によりシュウが何をしようとしているかの見当がついた。デバイスマスターを目指している、と。がんばるな、と他人事のように思ってしまう。彼の親友を名乗る者として、応援したいものだ。
だが、彼の上に立つ者は良しとしないだろう。彼が魔法の世界に出てくることを望まない。それ故に、このことを知れば実力行使に及ぶ可能性がある。
「ご苦労さん。戻ってええで」
黒い玉がひらひらと揺れて、そして姿を消した。シュウの部屋へと戻ったのだろう。それを見送ったコウは、疲れたようにため息をついた。どうしたものか、と。
「まあ、今回も特に変わりなし、でええやろ」
つぶやき、笑う。全て教える必要はないだろう。
自分の上は、まだシュウが孤独な生活を送っているものだと思っている。毎日を適当に過ごしていると思っているだろう。そんなシュウを彼らは必要としていない。シュウに弱みができることを望んでいる。シュウが自発的にその力を使うために。
だからこそ、コウは口を閉ざす。自分の存在意義を自己否定することになったとしても。たった一人の親友のために。
「だからがんばれ、親友」
コウは笑いながらそう言って、その場を後にした。
そしてそれを無感情に見つめる一人の人間。その人間も黒い玉から報告を聞き、そして言う。少女特有の高い声で、たった一言。
――裏切り者め。
ちょっと短め、です。あとあと反動がくるかもですが。
ついにラスボスさんが動きました。影の薄いラスボスさんですが。
あとラスト五話+エピローグ的なものでギフテッドも終わりです。
最後ぐらいは駆け抜けたいと思いますよ……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。