ギフテッド   作:龍翠

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みんながんばってる、そんなお話です。


第二話

 

 アースラの休憩室。シュウはそこの隅の席を借りて、リンディに用意してもらった教材を開いていた。デバイスマスターの資格のための教材、ではない。無論そのための教材であることに違いはないのだが。

 シュウは魔法の知識が根本的に足りていない。そんなシュウがいきなりデバイスマスターの資格の勉強などできるはずもなく、そのための教材を開いても書いている語句の意味すら理解できなかった。故に今は、基礎中の基礎から学んでいる。

 基礎といっても簡単なものでもない。この教材の全てを理解できるようになるだけでも一年はかかりそうだ。シュテルたちの力になれるのはいつになることか、見当もつかない。だが、それでも途中で投げ出すことはないだろう、とは思う。明確な目的があるのだから。

「ふう……。疲れた……」

 シュウは教材から目を離し、ぐっと伸びをする。ここに来てからすでに三時間が経っている。そろそろ帰らなければシュテルたちが不審がるかも知れない。

 今日は休日だ。シュテルたちには友達と遊びに行くと言って出かけている。実際のところはここで勉強をしているのだが、送迎はなのはやフェイト、はやての誰かにしてもらっているのであながち嘘というわけでもないだろう。ただ、それでも嘘をつくことに後ろめたさはあるが。

 そろそろ帰ろうかな、とシュウは荷物を片付ける。携帯電話を取りだして一緒に来たなのはに連絡を取ろうとして、

「あれ? お兄ちゃん」

 その声にシュウはわずかに目を見開いた。どうしてここに、と思いながら声のした方向、背後へと振り返る。妹の文花がそこにいた。

「お兄ちゃんがいるなんて珍しいね。どうしたの?」

「ちょっと勉強をね。シュテルたちには知られたくないからここで……」

「へえ……。何の勉強?」

 文花が興味深そうに、机の上に広がっている教材を見る。一つ一つ確認していき、やがて文花が得心したように頷いた。

「デバイスマスターになりたいの?」

「その通りだけど……。よく分かったね」

「実家にある教材も多いから、何となく」

 へえ、とシュウは頷いた。実家に同じものがあるのなら、そこから答えが導き出されるのも頷ける。それでもよく覚えてるなあ、と感心していたところで、

 ――ちょっと待て。

 聞き捨てならないことを聞いた。

「え? 家に……実家に同じものがあるの?」

「あるけど……。それがどうしたの?」

 文花は、何を今更と首を傾げている。シュウの唖然とした表情をしばらく見つめ、文花はため息をついた。

「お父さんとお母さんは研究者だよ」

「うん」

「お母さんはデバイス関係の方に特化してるの。もちろんデバイスマスターの資格もある。だから教材ももちろんあるよ」

 初耳だった。シュウが両親の魔法関係のことで知っているのは、ロストロギアのついて調べていたことぐらいだ。デバイスの方面にも詳しいとは知らなかった。

「お母さんに教えてもらったら? きっと喜ぶよ」

 文花のそんな言葉。シュウは苦虫を噛み潰したような表情になる。両親とは今でもあまり連絡を取っていない。今までが今までだけに、簡単に許すことはできないためだ。そんなシュウの心情を理解しているのだろう、文花は小さく肩をすくめただけだった。

「まあ私も人のこと言えないから、お兄ちゃんにも何も言わない。でも、利用できるものは利用した方がいいと思うよ」

 文花の笑顔。何か悪いことを考えているような表情だ。文花は、じゃあ行くねと手を上げるときびすを返した。シュウが慌てて呼び止める。

「ちょっと待って、文花」

「なに?」

 文花がすぐに振り返る。その文花へと言う。

「文花はどうしてここに?」

「ちょっと呼び出しを受けて……。そ、それじゃあ!」

 この話題になった途端、文花はかなり慌て始めた。聞かれたくなかった、見られたくなかった、そんな表情と慌て方だった。急いで立ち去っていく文花を、シュウは怪訝そうに眉をひそめながらも黙って見送る。どうかしたのかな、とは思うがシュウに手伝えることはおそらくないだろう。

 シュウは携帯電話を取り出すと、番号の入力を始めた。

 

 

 Side:Humika

 シュウと別れた後、文花はアースラの小部屋にたどり着いた。ノックをして中に入る。そこにいたのは、リンディとクロノだ。文花はしっかりと一礼してから中に入り、二人の対面に座る。

「急に呼び出してごめんなさいね、文花さん」

「いえ。大丈夫です」

 今朝方、リンディたちから連絡があり、アースラに来てほしいと呼び出しを受けた。内容は単純で、依頼されていたことが終わったからだ、と。

 文花がリンディとクロノに依頼したこと。それはデバイスの解析だ。自分が使っていた鎌のデバイス。その詳細な情報を調べてもらっていた。文花の依頼ではあるが、リンディとクロノにも調べさせてほしいと頼まれていたことでもある。

 文花が使っていた鎌のデバイスは、文花の両親が用意したものではない。ある日突然、文花の机にあったものだ。そのデバイスと一緒に置かれていたメモ用紙には、たった一言、これで目的を果たすといい、という簡潔な言葉だけが残されていた。最初は当然不審に思っていたものだが、そのデバイスを手に取ると不思議とその感情は消え失せてしまった。

 デバイスが暴走した一件以降、そのデバイスは管理局に、というよりはリンディ個人に預けられている。そこから、口の硬い技術者に解析を依頼してもらっていたのだ。

「それで、どうでしたか?」

 文花がおそるおそるといった様子で聞く。リンディは少しの間だけ文花の目を見た後、やがて口を開いた。

「必要な情報だけを伝えるわね。あのデバイスはインテリジェントデバイスで間違いないのだけど、設定されてある人工知能は異常なものでした」

「異常?」

「簡単に言ってしまえば、主を乗っ取る意思があり、実際に体のコントロールを奪うような術式も組み込まれていたんだ。覚えがあるだろう」

 クロノの言葉に文花は頷く。実際に文花は体のコントロールを奪われた。自分一人ではどうにもできなくなったのだ。あの場に兄やシュテルがいなければ、どうなっていたか分からない。

「もう一つ、なぜか本来の所有者の名前も記録されていたわ。ただ、まるで見つけてくださいと言っているように記録されていたのだけど……」

 リンディがクロノへと視線を投げかけ、クロノは頷いて一枚の紙を取り出した。解析結果でも書かれているのだろう、文字や数値が書かれているのが透けて見える。やがてクロノが口を開いた。

「本来の所有者は東江幸司。心当たりは?」

 その名前を聞いた瞬間、文花は目を大きく見開き絶句してしまった。

 

 

 Side:Stern

 シュウがどこかへと出かけた後、シュテルは王に許可を取り、翠屋に来ていた。目的は桃子から料理の技術を習うことだ。ここ最近、仕事もなくシュウも自宅にいない時は、翠屋で勉強をさせてもらっている。

「どうでしょうか」

 シュテルが桃子へと試作したケーキを差し出す。桃子はそれを一口食べ、感嘆のため息を漏らした。

「ほとんど完璧。すごいわ、シュテルちゃん」

「光栄です」

 丁寧に頭を下げるシュテル。それを見た桃子が苦笑して、でも、と続ける。

「まだ改善するべきところもあるかな。例えば……」

 桃子の指導を受け、またケーキを試作し、そしてまた指導を受ける。その繰り返しだ。ここに来るたびにそのやり取りを何度も繰り返している。

 ちなみに、桃子は試作のケーキを一口しか食べない。残りは捨てる、というわけではなく、

「シュテルちゃんの試作ですか! 食べたいです!」

 最近よく来るためか、ここの従業員と少し話すようにはなっている。誰もがシュテルを歓迎してくれている。さらにシュテルがケーキを試作していると聞いてからは、小さなケーキを皆で取り合っているほどだ。

 今回のケーキもいつの間にか従業員の人が持って行ってしまっていた。

「もう一度、お願いできますか」

 シュテルが聞いて、桃子は笑顔で頷いた。

「もちろん」

 

 シュテルたち四人は、現在ある計画を立て、それぞれが行動を起こし、準備をしている。シュテルのケーキ作りもその一つであり、他の三人もそれぞれ動いていた。計画の目的は単純、これからの生活のためだ。魔法に頼らない生活、それが目的である。もちろん魔法を捨てるようなことはしないが、どこかの誰かに自分を追い詰めるような思考をさせないためでもある。

 シュテルは次のケーキを焼きながら、王たちとの会話を思い出す。シュテルからの相談に三人とも驚きながらも協力してくれている。そのことをとても嬉しく思う。だからこそ、発端である自分はもっとがんばらなければならない。

 そこまで考えたところで、人影が隣に立った。見ると、ディアーチェがそこにいた。

「どうだ?」

 王の短い問いかけ。シュテルは黙って頷く。

「概ね順調です」

「うむ。では我も見てもらうとするか」

 そう言いながら、王もケーキ作りを始める。王も桃子からの指導を受けている一人だ。少しでも近づけるように。そんなことを考えながら、二人はケーキ作りに没頭した。

 

 

 Side:Kouji

「みんながんばるなあ」

 夜。学校の屋上でコウは欠伸をかみ殺しながらつぶやいた。黒い塊から今日の監視データを受け取っているところだ。それらを見て、コウは楽しそうに笑う。

「シュウとシュテルさんはお互いに一言言ってみればいいと思うんやけど……。まあ、俺には関係ないことか」

 二人は行動こそ違うが、その目的は単純でほぼ一致していた。それがとてもおかしく思う。代わりに教えてやろうとも思えないが。続けてコウは最後のデータも見て、そして凍り付いた。慌てたようにまた視線を上げ、ゆっくりとデータを確認する。間違いない、と。

「なんで……。どこでばれた……?」

 そのデータには、アースラの一部職員が自分を探していることが書かれていた。確か文花を担当しているモノからのデータだ。ということは、文花からの何らかの情報だろうか。文花にも分かるようなことはしていないはずなのだが。

「ん……? デバイス?」

 そう言えば、と思い出す。文花のデバイスのことを。暴走してしまったデバイスのことを。

 あのデバイスは、何だったのだろう。

 少なくとも自分は知らないものだ。いずれ調べておく必要があるだろう。そう考え、一先ず身を隠すために一度ここを離れようと立ち上がったところで、誰かの冷静な声が届いてきた。

「悪いけど、貴方は用済み」

 誰かの声。コウの目の前で、黒い塊がその声のもとへと帰って行く。コウが驚いて声の主を見て、

「な……っ!」

 驚きで固まってしまう。どうして、いつから、という疑問が頭の中で渦を巻く。しかし声の主はそれを待つことはせずに、黒い塊へと指示を飛ばした。

「やりなさい」

 黒い塊が形状を変え、小さな槍となる。そしてその槍は、呆然としているコウの体へと突き刺さった。苦悶のうめき声をもらし、その場に倒れるコウ。声の主はすぐにきびすを返すと、その場から姿を消した。

 後に残されたコウから、声が漏れ出る。なぜ、どうして、と。

「なんで……音奈が……?」

 やがて、コウはその瞼を閉じて、意識を手放した。

 




そんなわけで?ラスボスさんは一度だけ登場していた音奈さんです。
そしてコウは大ピンチです。がんばれコウ。

書きだめが早くも終わりそうです。
毎日更新なんて無理があったかな……。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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