アースラのブリッジ。そこにシュウの知る魔法の関係者が全員集まっていた。マテリアルの皆はもちろん、なのはやフェイト、はやて、ヴォルケンリッターもいる。シュテルのことを聞いて駆けつけてくれたようだ。
そしてもう一人、コウがいすに座らされてぼんやりとしていた。特に何かをするわけでもなく、集まっている面々を興味深そうに眺めている。シュウがそんなコウの様子を観察していると、リンディが口を開いた。
「初めまして、東江幸司君。私のことは知っていたりするのかしら」
「アースラ艦長、リンディ・ハラオウンやろ。もちろん知ってるよ」
すらすらと応えるコウ。リンディは真剣な表情で頷き、続ける。
「まず君のことを聞きたいところなんだけど、他に問題ができたわ。貴方はどこまで知っているの?」
シュテル救出に向かう前に得られる情報があれば、と思っての問いだろう。コウもその意図を正しく察して、しかし首を横に振った。そして短く、知らない、と口にする。教えない、ではなく知らない、だ。コウが嘘をついている様子もないので、今回の件については本当に知らないのだろう。
残念そうな表情を見せるリンディに、しかしコウは続けて言った。
「でもまあ、これだけは分かる。今行っても無駄やで」
Side:Stern
シュテルは薄暗い部屋に監禁されていた。監禁といっても縄で縛られたりなど動きを封じることはされていない。ただ単純に、この部屋に閉じ込められているだけだ。だが自力で脱出することはできないだろう。
この部屋には誰の魔法かは分からないが、初めて見る類いの魔法がかけられている。この部屋を結界が囲んでいるのだが、その結界が通常のものとは違うのだ。結界は二層構造となっており、層の間には魔法を無力化する空間があるらしい。一度砲撃魔法を撃ってみたが、一層目は破壊できても二層目にたどり着くことができなかった。
――せめて貫通できれば……。
そんなことを考えたが、シュテルはすぐに首を振った。自分の力で貫通できるものなら、相手はまずデバイスを置いていったりはしないだろう。デバイスを置いていったのは、シュテルの魔法ではどうすることもできないと理解させるためか。
シュテルは小さくため息をついて、その場に座り込んだ。無論諦めるつもりはない。現在の手札で脱出する術を考える。思考の海に沈もうとしたところで、シュテルは外からの足音に顔を上げた。部屋の扉が開かれ、人が入ってくる。見覚えのある顔に、シュテルはわずかに目を瞠った。そこにいたのは、以前シュウと共に翠屋を訪れた少女だ。確か、音奈といった名前だったか。なぜここに、と思っていると、音奈が薄く嗤う。
「こんにちは、シュテルさん。私のこと、覚えてる?」
音奈からの問いに、シュテルは静かに頷いた。忘れたくても忘れられない。
「以前、シュウと一緒に翠屋に来ていましたね。まさか魔法の関係者とは思いませんでした」
「ふふ。無事に隠し通せたみたいで良かったよ」
音奈は楽しげに微笑むと、ゆっくりとシュテルへと近づいてくる。シュテルがデバイスを向けると、音奈はすぐに立ち止まった。
「私を捕まえてどうするつもりですか?」
デバイスを下げてシュテルが聞く。その行動に音奈が少し驚きながらも、質問には答えてくれる。
「貴方には、紫天の書には用はないよ。私に必要なのは、ギフテッドだけ」
そう前置きして、音奈は教えてくれた。管理局の上層の人間がギフテッドを欲していること。願いを叶えてもらうためにはシュウに自発的に叶えてもらわなければならない。それ故に、シュウの弱みとなり得るシュテルたちに目を付けた、言うなれば、捕らえられたシュテルはシュウを動かすための鍵のようなものなのだろう。
「だから大人しくしてね。大丈夫、悪いようにはしないから」
音奈はそう言って微笑むと、きびすを返した。そのまま部屋を後にする。シュテルはその背へと今一度デバイスを向けるが、
「…………」
一瞬シュウの悲しげな表情が頭をよぎり、力なくデバイスを下ろした。
Side:Hero
「二層の結界に、層の間は魔法の無効化、か」
ディアーチェのつぶやきに、コウが頷いた。
「そや。ただ完全な無効化やなくて、魔法を急速に消してしまう空間、やな」
それは厄介だな、とディアーチェは難しい表情をする。シュウも何となくだが理解することができる。魔導師が攻めたとしてもシュテルを助けることは難しく、一般人ではそもそも魔導師の相手にすらならない。
「ユーリの力ならどう?」
レヴィが聞いて、しかしディアーチェは首を振った。
「確かにユーリなら、とは思うが、逆に出力が大きすぎる。助けるべき相手も巻き込むだろう」
そっか、とレヴィが項垂れる。そのレヴィへとさらに言う。
「それ以前に、まず我々は敵がどこにいるのかも分からないのだが」
「あ……」
シュウは彼女たちの話し合いを黙って聞いている。
現在、ブリッジのメンバーは二つに別れていた。一つは、シュテル救出のためのメンバーだ。そしてもう一つは、リンディとコウのグループ。コウの素性や相手の目的を知るために、コウへと質問が続けられていた。
「つまり黒幕は管理局の上層部の人間、と?」
「そう。俺らはその人が雇っている人間に、さらに雇われている人間、やな。だから俺や音奈をいくら尋問してもその人にはたどり着かれへん」
そんなコウを見ながら、シュウは器用だなと思う。コウはリンディからの質問に答えつつ、ディアーチェたちの質問にもしっかりと答えていた。両方の話を聞いているということだろう。シュウはディアーチェたちの方へと意識を向けながら、コウの話も軽く聞くように努めるのが精一杯だ。ただ、どちらの話にもシュウが加わることができないので、双方を理解するだけなら何とかなりそうではある。
コウ曰く。黒幕が雇っている科学者が、シュウの両親がギフテッドについて調べていることを知り、その身辺を調べてシュウに目星をつけたそうだ。そしてシュウの転校先に先回りしてコウを送り込んだ。そして何らかの魔法による黒い玉を預かり、ずっとシュウを監視していたらしい。シュウに生きる目的ができ、弱みが出てくるまで。
「……じゃあどうして報告しなかったの? 僕がシュテルと知り合ったのって、一年近くも前だけど」
コウがそこまで話したところで、シュウが声をかけた。コウはシュウと視線を合わせると、気まずそうに目を逸らす。
「情が移った、は変かもしれんけど……。俺はシュウを友達やと思ってる。友達を売ることなんてでけへん。せやから、俺一人が胸の内で黙っておけばいいと思ってたんや」
それすらあちらさんはお見通しやったみたいやけど、とコウが苦笑する。シュウは、そっか、と淡く微笑んだ。
「僕もコウのことは大切な友達だと思ってるよ。今までも、もちろんこれからも」
「……はは。ありがとな」
コウが顔を伏せ、シュウはコウから視線を逸らした。あまり見られてほしくないだろう、と思ったためだ。見てしまえば、シュウも反応に困ってしまうからだが。……涙など。
コウが落ち着いたところで質問が再開される。コウの身元に関してだった。聞くところによると、コウは孤児で、雇い主である科学者に拾われたそうだ。そこで様々なことを仕込まれていたらしい。そんなこともしてるんだ、と思わず漏らすと、もちろん禁止事項に決まっているだろう、とクロノがため息をついていた。
「俺と同じ人に拾われてるなら、音奈も似たり寄ったりの境遇やろうな。俺は音奈を見たことがなかったけど。いや、俺が覚えてないだけかな」
俺が話せるところはこの程度、とコウが言い終わる。シュウはそこで意識をディアーチェたちに戻した。こちらの問題点は単純だが、難しい。
二層の結界をどうするか。救出そのものの方法は。それ以前に場所は。と、なかなかに多い。
「場所に関してはいずれ分かるだろうな」
そうディアーチェが漏らすと、どういうこと? とはやてが首を傾げる。
「目的がシュウの力であり、弱みを握ることなら、いずれ向こうから連絡を入れてくるだろう、だが、それを待っていては手遅れになるやもしれん」
「一度駆体を放棄するというのは?」
「あれは我らの負担も大きい。それに脱出そのものはできんだろう」
どうして? とシュウが首を傾げると、ディアーチェがコウへと指を指す。コウがわずかに驚いて身をすくませる。
「こやつの話を信じるなら、結界の層の間では魔法が、魔力が消えてしまうらしい。駆体を放棄して脱出しようとしても、消滅の危険性がある」
「じゃあやっぱり、私たちで助けないといけないんだね」
なのはの言葉に、ディアーチェは重々しく頷いた。しかし方法が、と話が戻ってしまう。
シュウはしばらくそれを聞いていたが、どうやら解決方法は簡単には出ないらしい。躊躇いを覚えたが、今回ぐらいは助けてもらおうと再び心の中で念じた。
『あたしに何を期待してるんだい? 今回は助けないよ』
すぐに返答があった。自分の中から聞こえる声に苦笑して、シュウは言う。
――そんなこと言わずに。協力してください。
『今回解決して、次はどうするんだい? 黒幕を捕まえることはできないんだろう? 捕まえられたとしても、あんたがいる限りあの娘たちは確実に巻き込まれるよ』
巻き込まれる、と聞いてシュウは胸が苦しくなった。
今回のことは、全て自分が原因だ。シュテルは自分と親しくしていたからこそ巻き込まれた。自分が一人で生き続けていれば、こんなことにはならなかったはずだ。そこまで考えて、シュウは首を振った。
――選択の時は過去のことだ。今は今の最善を尽くす。
『いい心がけだ。でも繰り返されるって言ってるんだよ』
心の中の声が苛立ちを隠さずに、静かに告げる。だからこそシュウは、言った。自分の計画を。
『……本気かい?』
――最終手段、だけど。
『まったく……。仕方のない子だね』
楽しげに笑う心の中の声。どうやら納得してもらえたらしい。シュウは小さく、ごめん、とだけ告げた。
『何を謝っているのやら。じゃあ早速済ませてしまおうかね。始めようか』
声は楽しくてたまらないといった様子だ。シュウも思わず笑みをこぼし、始めよう、とつぶやいた。
「シュウ……?」
目を開けたシュウを、レヴィが戸惑いながら呼ぶ。シュウはレヴィを見ると、どうしたの? と首を傾げた。よく見ると、レヴィの周りにいる皆が驚きからか目を丸くしている。
「それは……なに?」
フェイトの声だ。何のことかと首を傾げて、自分の体を見て、すぐに得心がいった。
淡い光がシュウを包み込んでいた。そして同時に流れ込んでくる膨大な知識。管理局が有する技術力すら超えた、滅びた世界の知識だ。シュウはそれに思考を傾けながら、悲しげに目を伏せた。
最初の願い。それは、デバイスの知識、そしてカートリッジの知識が欲しいというものだ。シュウが望んだものが、望んだ以上のものが流れ込んでくる。情報量を考えると一度に覚えられるはずのないものだが、不思議と最初から知っていたような、そんな感覚を覚える。
――本来なら……自分の力で覚えたかったことなんだけど……。
今はもう、そんなことは言っていられない。自分の欲などどうでもいい。シュテルを助けることが最優先だ。
やがて光が収まり、知識の吸収も終わった。あまりに膨大な知識にシュウは思わずため息をこぼす。これが終わったら、可能な限り忘れてしまうべきものだろう。
「シュウ、大丈夫か?」
「説明してほしいところやけど……。無理したらあかんで?」
ディアーチェとはやての言葉に、シュウは笑顔で頷いた。
――さあ、始めよう。
「ユーリ。ちょっといいかな」
シュウが呼ぶと、ユーリが困惑しながらも頷いて自分の方にやってくる。ありがとう、と礼を言って、次はディアーチェとレヴィも呼んだ。やはり二人とも困惑しながらも来てくれる。それだけ信頼してくれているのだろう。今はそれが、純粋に嬉しい。
「シュウ。何をするんですか?」
ユーリがかわいらしく小首を傾げる。シュウはそんなユーリへと不敵な笑みを浮かべた。
「シュテルを助ける。そのための道具を作る。手伝って」
それを聞いた三人が、その場にいた全員が、ぽかんと口を開けていた。
Side:Humika
貸し与えられた一室で、シュウは作業を進めていた。手伝うのはレヴィにディアーチェ、ユーリだ。文花はそれを、部屋の隅で見守っていた。リンディとクロノ、なのは、フェイト、はやても静かに見守っている。全員が驚愕に目を見開いていた。
シュウは迷いなく手を動かし、一つのカートリッジを作っている。そのカートリッジはリンディやクロノですら知らない技術で作っているようで、曰く現在のカートリッジよりも膨大な魔力を込めることができるらしい。そんなことを聞いたが、その方面に明るくない文花にはよく分からなかった。
カートリッジに込められるのは手伝っている三人の魔力だ。ゆっくりと、かつ膨大な量の魔力を込めていっている。
「すごい魔力ね……。一体何発分のカートリッジになるのかしら」
「想像もできませんね……」
リンディとクロノがつぶやく。それほどなのか、と文花は感心するばかりだ。
やがて作業が終わったのか、シュウたち四人が動きを止めた。そしてシュウが、作り終えたカートリッジをつまみ、手のひらに載せる。文花たちの視線に気がつくと、シュウが無邪気な笑みを浮かべて自慢げにそれを見せてくれた。
赤い色の弾丸だった。シンプルな弾丸で、文字などは刻まれていない。先ほどまで見ていたものが間違いないのなら、この小さな弾丸にあの三人の魔力が込められているということだろう。あまりに強力で、あまりに危険なカートリッジだ。
「それをどこで使うの?」
なのはが聞いて、シュウは悪戯っぽく笑う。そして、弾丸を自身のポケットに入れた。それを見て怪訝な表情を見せる面々にシュウは告げる。
「ちょっとシュテルに会ってくるよ」
とびきりの笑顔で、まるで遊びに行くかのような気楽なものだった。
主人公の進化の時です……! プチチートですね!
まあ、主人公一人ではやっぱりどうにもできないのがうちの子らしいですが。
現在、第五話を大急ぎで書いています。
これは……間に合わないかもしれない……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。