ギフテッド   作:龍翠

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最終話、ですよ。


エピローグ

 桜が舞い散る季節。そこはちょっとしたお祭りだった。大きな桜の木の下に、これもまた大きなビニールシートを広げ、知り合いたちが騒いでいる。誰もが笑顔で、とても楽しそうだ。ここはシュウのマンションの側にある公園だ。皆で花見をすることになり、ここに集まっている。

「シュウ、どないしたん?」

 声をかけてきたのは、コウだ。少し離れたところには音奈もいて、こちらの様子をうかがっていた。

「いや、楽しそうだなって。コウたちは今の生活には慣れた?」

「ああ。シュウのおかげでな」

 現在、コウと音奈は西崎家の養子となっている。シュウの両親は二人を喜んで迎え入れていた。我が親ながら心が広すぎると思う。もう少し、自分に対してもそれができなかったのかと思うほどには。

 そんなことを思っているシュウも、今は両親と少し歩み寄っている。パストの言葉があったためでもあるが、きっとパストは、今の両親と不仲のままなのを心配していたのだと思う。

「お兄ちゃん、何してるの?」

 コウの奥、文花が怪訝そうに眉をひそめる。そんな文花に、音奈が言う。

「邪魔しちゃだめだよ」

「何が……。あ、はい。分かりました」

 音奈の言葉に首を傾げた文花だったが、シュウの背後を見て得心したように頷いた。コウもすぐに、じゃあまたな、ときびすを返してしまう。シュウ一人わけが分からないままだ。

 文花は現在、シュテルと、さらになのはからも魔法を教わっている。管理局に入局するつもりはないらしいが、嘱託魔導師としてなら悪くないかも、とのことだった。文花にとって自由に動き回れるのは魔法を使っている時だけなので、魔法を使えるようなところで働きたいのだろう。シュウは文花の足を見て、静かに顔を伏せた。

「シュウ。ここにいましたか」

 背後からの声。振り返ると、シュテルがそこにいた。

「こちらも準備が整いましたよ」

 そう言って歩き始めるシュテルに従い、シュウも歩く。そしてたどり着くのは、小さな桜の木の下だ。小さなビニールシートが敷かれ、そこにはディアーチェとレヴィ、ユーリがいた。

「遅いよ、シュウ!」

 ごめんごめん、と笑いながらシュウはシートに上がった。いつもの夕食と同じような順番で座る。五人の中央には、様々な弁当箱が並んでいた。

「今回は上手に焼けました!」

 そう言ってユーリが弁当箱を差し出してくる。その中には、こんがりと美味しそうに焼けているハンバーグがあった。たっぷりとケチャップもかけられている。シュウはそれを一切れもらい、口に入れた。

「うん。すごく美味しい。がんばったね、ユーリ」

「はい! がんばりました!」

 褒められて嬉しそうなユーリ。その笑顔を見ていると、こちらも幸福感に包まれる。

 次はボクだ、とレヴィが差し出してくるのはカレーだ。弁当箱に、と思いながらも一口耐え、シュウは目を丸くした。

「冷めても美味しいものだね……」

「でしょ! もっと食べてもっと食べて!」

 興奮してスプーンを突き出すレヴィを苦笑しつつ宥める。いつものことながら、やはりレヴィは今日も元気だ。

「さて、我の番だ」

 そんなレヴィを無視してディアーチェが言う。そして差し出された弁当箱には、オムライス。まだ温かく、どうやら先ほど作ってきたところらしい。冷めぬうちに食せ、と促され、シュウはオムライスにスプーンを入れる。半熟卵がとろりとご飯にかかって、とても美味しそうだ。

「うん……。すごく美味しい。いや本当に。さすがディアーチェ」

「まあ、これぐらいは当然だ」

 そう言いながらも、ディアーチェは顔を赤くしてそっぽを向いた。どこか胸をなで下ろしているようにも見える。

「では最後に私ですね」

 シュテルが差し出してきたのは、ホールのショートケーキだ。それを五等分に切り分け、全員に配る。レヴィとユーリが歓声を上げ、その反応にディアーチェが呆れてしまっている。

 どうぞ、とシュテルに促され、シュウは一口食べてみる。桃子に習っているだけあり翠屋に近い味となっているが、シュテル独自の工夫もあるのかしっかりと区別のできる味だ。

「うん……。全く問題ないね。さすがシュテル。ところでおかわりは?」

「いや待てシュウ。さすがにないだろう」

「こちらに」

「あるのか!」

 ディアーチェがシュウへと苦言を呈し、シュテルが平然と二ホール目を取り出してディアーチェが今度は驚く。その様子がおかしくて、シュウも柔らかく笑っていた。

「じゃあ、僕だ」

 シュウがシュテル、ディアーチェ、レヴィにあるものを渡す。それは、預かっていたデバイスだ。三人はそれを簡単に調べ、満足そうに頷いた。

「これ以上ないほどに素晴らしい仕上がりです。問題ありませんね」

 シュテルの言葉に、シュウは静かに頷いた。

 シュウは願いによって与えられた知識のうち、管理局の技術を超えない程度を使っている。明らかにオーバーテクノロジーの知識は可能な限り忘れるようにしていた。無論完全に忘れることなどできず、たまにそれを見たリンディとクロノに注意されている。

「では、計画に関しては技術面では大丈夫だな」

 ディアーチェの言葉に、その場にいる全員が頷いた。シュテルが引き継いで続ける。

「ではあとは、シュウの卒業を待つだけです」

「あはは……。がんばるよ」

 飛び級のような制度はないのでしっかりと勉強を続けるしかないが、どうせなら後味よく卒業したい。その気持ちを込めて言うと、四人はがんばれ、と応援してくれた。

「ではあちら側に戻りますか」

 シュテルが大きいシートの方を見る。相変わらずの騒ぎ方だ。

「あ、その前に」

 立ち上がろうとした四人をシュウが引き留め、四人が首を傾げる。シュウは小さな箱を取り出すと、それをシートの中央に置いた。箱を開け、中身を取り出す。ペンダントが四つだ。

「これ、お守り代わりに」

 それらのペンダントを四人に渡す。ディアーチェには月、レヴィには雷、ユーリには太陽、そしてシュテルには星がそれぞれ象られた宝石が装飾されている。四人はそれに少し驚き、そして互いに顔を見合わせた。

「これは?」

 代表してシュテルが聞いてくる。シュウは照れくさそうにしながらも答えた。

「まあ、プレゼント、みたいなものだよ。半年以上前に両親に頼んで、作ってもらったんだ」

 本当はもっと早く渡すつもりだったが、出来上がったのがつい先日だった。だが、この場で渡せて良かったとも思える。

「ありがとうございます、シュウ。大切にしますね」

 シュテルの柔らかい微笑みを見て、渡して良かったと心から思えた。

 

 そして五人は大きな桜の木へ向かう。シュウたちに気づいたなのはたちが、大きく手を振ってくれていた。その温かい輪の中へと、シュウたちは遠慮がちに入っていった。

 

 

 そして月日は流れ。

 ミッドチルダの郊外に、知る人ぞ知る喫茶店がある。その喫茶店は表通りに面しておらず、入り組んだ道を通らなければたどり着けないので立地条件はとても悪い。だがそれでも、その喫茶店の味を求めてやってくる人は多い。

 その喫茶店の建物は周囲と違い、地球という世界の建物を模して造られている。落ち着いた外観で、客からの評判も上々とのことだ。そしてその喫茶店の前には立て看板があり、他の喫茶店ではあり得ない張り紙がされていた。

『魔法のお仕事、請け負います。お気軽に店員までお声かけください』

『デバイスの修理及びメンテナンスを請け負います。ご用の肩は店主まで』

 その二枚の張り紙の下には、それぞれの予定も書き込まれている。

 喫茶店の中に入ると、最初に出迎えてくれるのは二人の少女だ。

「いらっしゃいませー!」

「い、いらっしゃいませ!」

 明るく元気な青い髪の少女と、少し恥ずかしそうにしながらもがんばっていることがよく分かる金髪の少女。二人に案内されて席に着くと、そこからは厨房を見ることもできた。中で調理をしているのは、銀髪の少女だ。手際よく料理を作っている。本来ならもう一人いるのだが、どうやら今は厨房を離れているようだ。

 店の奥、隅の席を見ると、黒髪の少年がなにやら雑多な道具を広げて座っていた。初めてここに来る人は、この少年が店主だとは思いもしないだろう。そしてその少年の隣には、もう一人の料理人、茶髪の少女。休憩中なのか、少年の隣で静かにコーヒーを飲んでいた。

「レヴィ、次の注文は!」

 厨房から声が響く。レヴィと呼ばれた青い髪の少女が答える。

「えっと……。なんだっけ、ユーリ」

「注文待ち、です。ディアーチェ、少しゆっくりしておいてください」

 ユーリと呼ばれた金髪の少女が言って、ディアーチェと呼ばれた銀髪の少女が、そうかと声を返していた。

「よし、できた!」

 店の奥から少年の明るい声。デバイスだろうものを持ち、とても嬉しそうにしている。

「お疲れ様です、シュウ」

「うん。ありがとう、シュテル」

 シュウと呼ばれた少年が、シュテルと呼ばれた茶髪の少女からコーヒーを受け取って飲む。少女が使っていたカップなのだが何も気にしていない二人を見ていると、こちらが恥ずかしくなってしまいそうだ。

 少年少女五人だけで経営される小さな喫茶店。訪れた人は皆口をそろえる。味も良く、雰囲気も良く、居心地の良い店だ、と。

 その店の名称は、表の立て看板に控えめながらもしっかりと書かれている。

 

 喫茶店翠屋ミッドチルダ支店『ギフテッド』

 




今度こそストーリーでの最終話、エピローグです。
主人公とマテリアルズが選択したのは、小さな喫茶店の経営、でした。
裏設定として、高町夫妻の許可もちゃんともらっています。
細々とした経営ですが、嘱託魔導師としても働いているので実はそれなりに稼いでいる、かもしれない。
もう一つ裏設定。今回主人公がシュテルたちに渡したペンダントは、『黄昏』で父親がシュテルに渡したものと同一だったりします。

初登校が9月9日だったので、ちょうど5ヶ月、ですね。長いようでとても短く感じます。
投降し始めた時はまだ暑かったのに、今朝は大雪でしたよ……!
こんな駄文を最後まで読んでいただけて、とても嬉しく思います。
いつも感想を書いてくださっている方々、評価をつけてくださった方々、たまたま目を通しただけという方々も、本当にありがとうございます。
最後まで書き切ることができて、とりあえず一安心、ですよ……!

誰も興味ないとは思いますが、今後の予定を……。
StS編についてですが、おそらくありません。
ですがちょっとした後日談として、スバルたちは出してみたいなと思います。
たまたま主人公たちの喫茶店に立ち寄ったスバルたち→シュテルを見て驚愕、とか書いてみたい。
あとはまあ、ネタが思い浮かべば一話完結の何かを時折投降しているかもしれません。
その時はいわゆる空白期の間でのお話になると思いますよー。
まあ、今後は完全に突発的に更新、となると思います。更新そのものがないかもしれません。

そしてもう一つ予定を。
時間逆行ものとか書いてみたい。主人公とシュテルたちを過去に送ってみたい。
そんなわけで、そんな話を書いてみるつもりはあります。
二番煎じな上にいつエタるか分からないので、きりのいいところまで書いてから投降になりますが。
それまでは自分のブログで一日100文字程度で連載しているかも、です。しないかもです。
見つけられた方がいましても、また駄文書いてるぞこいつ、と笑ってスルーしてください^^;

以上、書きたいことは書き終えました!
ではでは皆様、長々とお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
またどこかでお目にかかりましょう。



最後に、こっそりとオリキャラたちの現状を。

西崎文花:中学卒業後、ミッドチルダに移住して嘱託魔導師として活動。管理局からスカウトされたりもするが、今のところは全力で断り続けている。偶然シュウたちの喫茶店を見つけた後は、その側のマンションを拠点にしている。最近話題の不屈のエースの弟子ということもあり、時折雑誌で名前が出たりもしているらしい。師の一人であるなのはからは、今でも時折指導を受けている。

東江幸司:中学卒業後、文花と共にミッドチルダへ。早々に移住してしまったシュウに代わり、文花のサポートを続けている。文花とは良い関係を築き恋仲になったりもしているのだが、完全に尻に敷かれている。お兄さん助けて、妹さんが怖いです。

音奈:中学卒業後、行方不明。家族への書き置きで、自分の過去を清算してくる、というものがあった。コウと文花が捜索しているが、手がかりすらつかめていない。

パスト:シュウたちを見守りながら、爆睡中。目覚めの時はまだ遠い。



それでは、またどこかで。
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