前話より時間が飛んで、スカさん事件終了後のお話です。
邂逅(前編)
「スバル、現在位置は?」
「……ごめん……」
「……はあ……」
表の通りから外れた入り組んだ道。二人の少女がそこで呆然と立ち尽くしていた。一人はスバル・ナカジマ。時空管理局機動六課に所属している魔導師だ。もう一人はティアナ・ランスター。こちらもスバルと同じく、時空管理局機動六課所属の魔導師である。
二人は休日を利用してドライブに出かけていたのだが、スバルが郊外の裏路地に興味を示し、たまにはいいかとティアナもそれに付き合った。二人で少し歩いて分かったことは、あまりにも複雑な地形でたやすく迷える構造になっていたということだ。
早い話が、迷子である。
「どうしようティア……」
「落ち着きなさい。とりあえずは来た道を戻れば……」
「……どこから来たっけ?」
スバルがぽつりとつぶやいて、ティアナが絶句した。周囲を見回してみる。今自分たちがいる場所は狭い十字路だ。どこから来たかなどすぐに分かる。
と、思っていたのだが。
「……どうしてどこを見ても同じ景色なのよ……」
小さな違いは確かにあれど、周囲の建物はほとんど同じ構造だ。少し見ただけでは、どの道がどこに繋がっているのか皆目見当もつかない。来た道を戻る、という選択肢も早々に潰されてしまった。
打つ手がなくなり、茫然自失とする二人。そんな二人へと、掛けられる声があった。
「どうかしましたか?」
平坦ながらも女性の声だ。二人は嬉しそうに声の主を見て、次の瞬間にぽかんと口を開けてしまった。二人に見つめられた声の主は、怪訝そうに眉をひそめている。
「なのはさん? どうしてここに……。あれ、でも髪型が……」
「え? あれ? どうして?」
二人が混乱していると、自分たちの隊長によく似た目の前の女性は、二人の言葉で何事かを察したのか、なるほどと小さく頷いた。二人へと会釈をしてくる。
「初めまして、と申しておきましょう。私はシュテルです。ナノハとは知り合いではありますが、別人ですよ」
その言葉に二人は驚くとともに納得もする。世の中にはよく似た顔の人が三人いるとどこかの世界で聞いたこともある。こういったこともあるのだろう、と。少し無理矢理だが、実際に目の前にいるのだから仕方がない。
「それで、どうしましたか?」
シュテルと名乗った女性に簡単な経緯を説明する。するとシュテルはわずかに呆れたようなため息をつき、
「事情は理解しました。表の通りまででよろしければ、ご案内しましょう」
そう言って、シュテルはきびすを返して歩き始めた。スバルとティアナは顔を見合わせたが、すぐにその背中を追った。
そして気づけば、二人は表の通りまで戻ってきていた。安堵して胸をなで下ろす二人に、シュテルの声が届く。
「確かに送り届けましたよ。では、さらばです」
その声に慌てて二人が振り返ると、シュテルはもう裏路地の奥へと歩いて行くところだった。
「あの! ありがとうございました!」
スバルが慌ててお礼を言って、ティアナがしっかりと頭を下げる。その言葉を受けて振り返ったシュテルは、いえ、と小さく首を振った。
「困った時はお互い様です。……ああ、あと。ナノハによろしくお伝えください」
そう言って、今度こそ振り返らずにシュテルは裏路地の闇の中へと姿を消した。
翌日。朝の訓練の前、朝食の席で、スバルとティアナは昨日のことを幼い同僚に聞かせていた。同じ席に座るその同僚は二人、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。スバルたちと同じ、機動六課所属の魔導師である。
「そんなにそっくりだったんですか?」
エリオの言葉にスバルがすぐに頷いた。
「髪型とか雰囲気とかは違ったけど、本当によく似てた! ね、ティア!」
「ええ。一見しただけじゃ分からないぐらいに」
へえ、と反応したのはキャロだ。そんなこともあるんですね、と驚いた様子を見せている。
「別れ際になのはさんによろしくって言っていたから、知り合いみたいではあるんだけど……」
「私がどうかした?」
「いえ、ですから……。って、ええ!」
スバルが振り返ると、優しく微笑むなのはがそこにいた。すでに朝食を食べ終えているのだろう、その手には何も持っていない。なのはの両隣には、フェイトとはやてもいる。
「お、おはようございます!」
四人が慌てて立ち上がり、挨拶をする。おはよう、と自分たちの隊長は朗らかに返してくれた。
「話を盗み聞きするつもりはなかったんだけど……。二人はなのは隊長によく似た子と会ったんだね?」
そう聞くのはフェイトだ。緊張した面持ちで、はい、と頷く。
「そっか。シュテルは元気そうだった?」
「はい、道に迷っていたところを案内していただいて……。って、え?」
あまりに自然に、フェイトの口からシュテルの名前が出てきた。そのことにスバルたち四人が驚いている前で、隊長三人は楽しげに会話を進めていく。
「そっか。最近は忙しくて顔を出せてないから、そろそろまた行きたいね」
「うん。レヴィはどうしてるかな?」
「王様やユーリもちゃんと元気にしとるやろか」
シュテルの名前の他に、知らない名前や王様という仰々しいものまで出てきている。一体どんな人たちでどういった関係なのだろうと四人が困惑していると、なのはがそうだ、と手を叩いた。とても楽しげな、どこか悪戯っぽく笑う珍しい笑顔だ。
「いい機会だから、みんなにも紹介しておこうかな。デバイスのことでも頼りになるし」
「あ、そうだね。それがいいかも」
「ええなあ。それじゃあ休みを調整するな。ちょっとここが空いてまうけど、シグナムたちに任せておけば大丈夫やろ」
どんどんと話が進んでいる。急展開に話に割っては入れないが、どうやらシュテルという人を正式に紹介してくれることになったらしい。唖然としたままの四人へと、はやてが笑顔を向けた。
「四人とも、ちょっと悪いんやけど、この日は空けといてな」
そう言われて指定された日を四人が覚えたところで、じゃあそろそろ行こうか、というフェイトの言葉で話は半ば強制的に終わることになった。今ここで詳しく教えてくれるつもりはないらしい。いずれ分かることかと四人は一先ず諦め、先導する隊長たちのあとについて行った。
一週間後。隊長三人を交えた七人は、隊長たちの案内のもとスバルとティアナが道に迷った裏道にたどり着いていた。昼前だというのに不気味なほど薄暗い通りへと、なのはたちは気にせず歩いて行ってしまう。スバルとティアナも、顔を引きつらせているエリオとキャロを促して、裏道へと入っていった。
何度も曲がり、方向感覚がすっかり分からなくなり、それでもまだまだ歩き……。やがてたどり着いたのは、周囲の建物とは違った雰囲気を持つ建物だった。見覚えがある気がして四人が首を傾げていると、隊長たちの言葉ですぐに思い出すことができた。
「やっぱりここに来るとちょっと落ち着くね」
「なのはは特にだろうね。地球の翠屋と似通った建物だし」
「味も翠屋そのものが多いしなあ」
なるほど、と四人は納得した。以前地球を訪問した時に訪れた翠屋という喫茶店の建物だ。なのはの実家が経営する喫茶店なのだが、こんなところで見るとはさすがに思わなかった。気になって看板を見て、すぐに目を丸くした。
喫茶店翠屋ミッドチルダ支店『ギフテッド』
地球にではなく、なぜミッドチルダに支店があるのか。困惑している四人へと、なのはが振り返って笑顔で言う。
「それじゃあ、入ろうか」
隊長たちに促され、四人は先にその喫茶店に入れられた。からんからんと鳴る鈴の音と、その直後の、
「いらっしゃいませー!」
元気な女性の声。その声を聞いて、四人は思わず振り返ってフェイトの顔を見た。
「……私じゃないよ?」
どこか笑いを堪えているような表情だ。珍しいものを見たと思いつつも声の主を探して正面へと向き直り、
「え……。えええ!」
思わず声を上げて驚いた。
「うわ! びっくりした! なに? どうしたの?」
そこにいたのは、エプロン姿のフェイトだ。ただし髪の色や雰囲気がまるで違う。
「ふぇ、フェイトさんが……二人……?」
きょとんと目の前の女性が首を傾げ、そしてすぐに四人の背後にいる隊長たちに気がつき、表情を輝かせた。手を上げて、挨拶。
「おいっす! 久しぶりだね、オリジナル!」
「うん。こんにちは、レヴィ。相変わらず元気そうだね」
「なになに? 今日はどうしたの? この子たち誰? もしかしてこの前言ってた教え子ってこの子たち?」
矢継ぎ早に繰り出されるレヴィと呼ばれた女性の質問にフェイトが思わず苦笑いする。そうだよ、とフェイトが返事をすると、レヴィはへえ、とスバルたちに視線を向けた。
「ほら、みんな。挨拶」
フェイトに促されて、呆けていた四人ははっと我に返った。姿勢を正し、
「時空か……」
「あ、役職とか階級とかいらないよ」
レヴィに言葉を遮られ言葉に詰まるスバル。すぐに意味を理解し、名前だけを告げる。ティアナたちも同様に名前だけを告げると、レヴィは満足そうに頷いた。
「ボクはレヴィ。強くてすごくてかっこいい、レヴィ・ザ・スラッシャーとはボクのことだ!」
レヴィの自己紹介に戸惑う四人。後ろの隊長たちから苦笑する気配が伝わってくる。いつものことなのだろうか。
「あの……。聞いても、いいですか?」
キャロの遠慮がちな声に、レヴィはにこやかに、いいよ、と応じる。
「レヴィさんとフェイトさんって……」
だが、最後まで言葉を出すことはできなかった。途中で店の奥から誰かが駆けてくる音が聞こえてきたためだ。一同がそちらへと視線を向けると、出てきたのは二人だった。
「やかましいぞレヴィ! 静かにせんか!」
「…………」
声を出した方、はやてによく似た女性を見て、四人は内心で驚きつつも声には出さなかった。なのは、フェイトときたのだからはやてのそっくりさんもいるのでは、とある程度の予想がついていたためでもある。
「苦労してそうだね、ディアーチェ……」
「王様も元気そうやな」
ディアーチェと呼ばれた女性が怪訝そうに眉をひそめ、自分たちを見てくる。最後にはやてへと目をとめ、視線を逸らして大きな舌打ちをした。
「子鴉か。何しに来た」
「ひどいわあ、王様。そんなに冷たいとあたし、泣いてまうで?」
「黙れ子鴉。貴様のそんな言葉に騙されは……」
「…………」
「ま、待て! 本当に泣きそうになるやつがあるか! ええい、やりにくい奴だ……!」
横柄な態度から一転、慌て始めるディアーチェと、どこか悪戯が成功したような表情を見せるはやて。ディアーチェの態度から仲が悪いのかと思ったが、どうやらその逆らしい。はやての表情に気づいたのだろう、ディアーチェはすぐに顔を大きくしかめてみせた。
「お久しぶりです。その子たちが皆さんの教え子さんですか?」
その声はディアーチェの隣、優しげに微笑む少女からだ。レヴィやディアーチェよりも体格が少し小さい。この少女は自分たちが知っている誰とも似ていない。
「そうだよ、ユーリ。紹介はシュテルが揃ってからと思ってるんだけど……」
なのはからユーリと呼ばれた少女は、興味深そうにスバルたちを観察する。スバルたちと目が合うと、顔を赤らめながら一礼した。
「ユーリ・エーベルヴァインです。えっと、なのはさん。シュテルならそこにいますよ」
ユーリが指し示す先、店の奥へと視線を向ける。最奥のテーブル席には何か工具のようなものが大量に置かれ、そしてその席に二人分の人影があった。一人は本へと視線を落とすシュテルで、もう一人は隊長たちと同い年ぐらいの男性だ。全員の視線に気づいて、シュテルが顔を上げた。
シュテルと視線が合い、なのはが声をかけようと口を開く。だがすぐにシュテルが人差し指を口の前に立てたので口を閉じた。シュテルは一度頷き、隣の男を一瞥して、席を立つ。こちらへと歩いてきてから、ようやく口を開いた。
「お久しぶりですね、ナノハ。お元気そうで何よりです」
「うん、久しぶり。シュテルも元気そうで良かった。……取り込み中だったかな?」
なのはが男の方を見て言うと、シュテルは小さく首を振った。じきに終わります、とシュテルが言った直後、
「できた!」
男の方から小さな歓声が上がる。その声を聞いたシュテルはすぐに振り向き、男へと声を掛けた。
「終わりましたか? シュウ」
シュウと呼ばれた男が満面の笑顔を向けてくる。頷いて、そしてすぐに自分たちに気がついた。
「あ、ごめん。お客様が来てるんだね。すぐに片付けるよ」
「落ち着いてください、シュウ。ナノハたちですよ」
「へ? ……ああ、ほんとだ」
シュウは席を立ち、テーブルの上の道具を片付けていく。側に置いてあった大きめの木箱に丁寧に入れていき、片付け終えてからこちらへと歩いてきた。久しぶり、となのはたちに言ってから。すぐに自分たちにも視線を向けてくる。
「初めまして、だね。僕は西崎秀一。シュウ、と呼ばれてるよ」
よければそう呼んでね、とシュウが屈託のない笑顔を見せてくれる。
「それじゃあ、改めて紹介するね。この子たちは私たちの部隊に所属してる……」
「スバル・ナカジマです!」
「ティアナ・ランスターです」
「エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエです」
四人が名乗り、次いで目の前の体長たちに似た人たちが自己紹介してくれる。
「ディアーチェだ」
「さっきも言ったけど、レヴィだよ!」
「ユーリです。私も先ほど名乗っちゃっていますけど」
三人が名乗り、そして空白。全員の視線が残り二人に注がれる。シュテルはいつもの無表情だが、シュウの方は少し困惑しているようだった。
「え、あれ? シュテルは名乗らないの?」
「ここは先に店長から、と思いましたが……。まあいいでしょう。シュテルです」
シュテルが名乗ったのを聞いて、シュウは安堵のため息をついた。
「さっきも言ったけど、シュウでいいからね」
そう言って、シュウはおもむろに出入り口のドアへと向かった。どうしたのかとその動きを追えば、外へと出て行ってしまう。突然何が、と驚いていると、すぐにシュウが戻ってきた。
「とりあえず臨時休業ということにしておいたから」
「ええ! さすがにそれはまずいんじゃ……!」
そう声を上げたのはなのはだ。だがシュウは、別にいいよと笑い飛ばす。今日は君たちの貸し切りだ、と。
「店長がそう言っていますので、お気になさらずに。さて、ご注文をどうぞ」
いつの間に持ってきたのか、シュテルとディアーチェがエプロンを着用していた。どうやらこの二人は厨房担当らしい。じゃあお言葉に甘えて、となのはたちは側のテーブルからメニュー表を取ってきて開く。スバルたちはその様子を唖然として見ていたが、フェイトに、見ないの? と声を掛けられて我に返った。
「あ、あの! 聞きたいことが……!」
スバルのその言葉に、しかしシュテルは首を振った。
「私たちのことを、ですね。少々長い話になりますので、先に昼食の用意をしてしまいます」
「そういうことだ。さっさと選べ」
腕を組み、自分たちを睨み付けながらもメニュー表を差し出してくるディアーチェ。ティアナが恐縮しながらもそれを受け取った。
「シュテるん! ボクはカレーがいい!」
「あ、じゃあ私はハンバーグで!」
「分かっています。ハンバーグカレーを用意しましょう」
そう言って厨房へと消えていく。すでに隊長たちも注文を決めたようで、ディアーチェに何かを伝えていた。これは早く決めなければならないだろう。四人が慌ててメニュー表に視線を落とし、ページを捲っていく。
「今日も平和で何より」
そんな光景を眺めながらのシュウの一言は、なぜかとても感慨に満ちていた。
お待たせしました! StS編開始です!
……すみません冗談です調子に乗りました。待たれているどころか忘れられていますよね……!
あ、StS編というのも違います。あくまで後日談の一つです。
時期としてはスカさん事件後、数週間、としておきましょう。
機動六課メンバーとマテリアルズとの出会い編です。
大した事件も起きません。のほほんまったりいつもののりです。
前後編にわかれてしまっているのは、長くなってしまうから……。というわけではありません。
ぶっちゃけ時間がなかったですよ! ここまで書くだけでも1ヶ月かかりましたよ!
アナザーの方に時間が取られすぎですね……。がんばらねば。
後編もおそらく来月となります。次回は文花たちとヴィヴィオさん登場予定。
この時期におけるマテリアルズとシュウの簡単な現状など。
シュウ:店長兼デバイスマスター。作業場はお店の奥。
シュテル:パティシエ。厨房担当。嘱託魔導師として不定期活動。
ディアーチェ:料理長。厨房担当。嘱託魔導師として不定期活動。
レヴィ:接客担当。嘱託魔導師以下略。
ユーリ:接客担当。嘱託以下略。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
※ちなみにアナザーとは1日1Pずつ更新している『ギフテッドAnother』です。
こちらもまとまった量……原作一期分が終わったらまとめて投下できればと思っています。
……需要なんてないとは、分かってはいますけども……。