ギフテッド   作:龍翠

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今回はレヴィsideです。
こちらはフェイトのところでお泊まり、ですよ。


出立(レヴィ)

 

『子供を人質に取るとは! ゆるさん!』

『ふはは! 何とでも言うがいいわ!』

 デパートの屋上、大きめのステージで今話題の特撮ヒーローと悪の怪人が向かい合っていた。小さな男の子が怪人に捕まっており、男の子は涙目でヒーローを見つめている。あまりに純粋な瞳に、ヒーローと怪人の中の人が心の中でごめんよと謝っていることは誰も知らない。

 レヴィはそれを集団の最後列で見ていた。隣にはユーリもいて、二人で瞳を輝かせている。ヒーローと怪人が変わっても展開はほとんど同じなのでこの後の話も予想がつくのだが、それでもヒーローが活躍する様はとても格好いい。二人はそのショーを、飽きることなく最後まで見続けていた。

 ショーの後、レヴィとユーリはメモを片手に食品売場に来ていた。メモはディアーチェから渡されているもので、そこには買い出しの内容が書かれている。売場の位置まで丁寧に説明されているので、迷わずに食品売場を歩いて行く。それほど時間もかからずに買い物は終わり、二人はまっすぐに自宅のマンションへと戻った。

「やっぱりかっこいいね! また見たい!」

 リビングでレヴィが弾んだ声で言う。レヴィはまっすぐにテレビへと向かうと、電源をつけて目的のチャンネルに合わせた。画面に映るのは、先ほどショーで見たヒーローが主役の特撮だ。オープニングテーマが流れ初め、二人揃って歌う。

「でももう見られないのが残念ですね」

 オープニングが終わり、ユーリが沈んだ声でそう漏らす。レヴィはそのことを忘れていたのか、一瞬ぽかんと間の抜けた表情をした後、ほんとだ、とうつむいてしまった。途端に重たくなった空気に、隣のキッチンで料理をしていたディアーチェが苦笑した。

「あちらにも同じような特撮ぐらいはあるだろう。だからそう気を落とすな」

「違うんだよ王様! このヒーローだからかっこいいんだよ!」

「そうです! ディアーチェは何も分かっていません!」

 二人の反論にディアーチェは苦笑を濃くする。それを何度言うつもりだ、と。

 ずっと放映し続ける特撮などほとんど存在しない。一つの番組が終わり新しいものが始まるたびに、レヴィとユーリは一時的に落ち込み、そして次のヒーローに夢中になる。そのため今の落ち込みも一時的なものだろう、とディアーチェは心配していない。

「ところ今日の夕食だが、ハンバーグカレーでいいな?」

「カレー! もちろんだよ王様!」

「ハンバーグですか! 大好きですディアーチェ!」

 夕食のメニューだけで先の落ち込みが嘘のようだ。その二人の様子に笑みをこぼし、ディアーチェは料理に取りかかった。

 

 

 食卓にディアーチェ特製のハンバーグカレーが並べられる。その頃になって翠屋に出かけていたシュテルが戻ってきた。その手には一冊の本が抱えられている。

「あれ、シュテるん。新しい本も買ってきたの?」

「いえ、もらい物ですよ。夕食後にでも読もうかと」

 シュテルは本を部屋の隅に置く。そこには引っ越し先へと持って行く荷物が纏められている。量は少なく、大きめのかばんが一つあれば十分収まる量だ。シュテルはキッチンに向かうと、ディアーチェに料理を手伝えなかったことを詫びていた。

 二人も食卓につき、揃って手を合わせる。そしてすぐに一口頬張った。

「うん! やっぱり王様のカレーが一番だよ!」

「む……。そうか」

 ディアーチェがそう言ってそっぽを向く。いつもまっすぐに言いおって、とディアーチェはつぶやいていたのだが、レヴィはカレーに夢中で聞き取れず、それを聞いたシュテルとユーリが苦笑していた。

 夕食後はいつも通りにテレビを見て過ごし、少し早めに就寝した。

 翌朝。レヴィとユーリが起きた時、すでにシュテルは出かけた後だった。なのはと共に過ごすらしい。食卓にはシュテルが用意してくれている朝食が並んでいた。おにぎりとお味噌汁だ。

「レヴィ。いつ行くのだ?」

 味噌汁をすすりながらディアーチェが聞いてくる。レヴィは味噌汁とご飯を混ぜながら、少し考える。シュテルがなのはと約束しているように、レヴィもオリジナルであるフェイトと約束をしている。ただそう言えば時間を決めてはいなかった。

 ――でも……。なんだか楽しそうにしてたなあ……。

 フェイトの顔を思い出す。フェイトの誘いを受けた時の嬉しそうな笑顔。それを見ていると、どうしてか自分も嬉しくなった。

「ご飯食べたら、でもいい?」

「我に聞くな。好きにするといい」

 ありがと、とレヴィはねこまんまを急いで食べ始めた。

 

 朝食を食べ終え、ディアーチェとユーリに手を振って自宅を後にする。フェイトの家に遊びに行くといつもカレーが出てくるので、それがとても楽しみだ。レヴィ好みの味を覚えたのか、フェイトの作るカレーはディアーチェのそれに匹敵するほどだと思っている。昨晩もカレーだったが、カレーなら毎日食べられる。

 鼻歌を歌いながらフェイトの家へと向かう。行き交う人がレヴィを見て微笑ましいと笑顔を浮かべるが、レヴィはそれには気づかない。もっとも、気づいたところでやめることもないのだろうが。

 しばらく歩いて、ようやくフェイトに家にたどり着いた。インターホンを押すと、すぐにフェイトが出てくる。

「おいっす! オリジナル!」

「うん。いらっしゃい、レヴィ」

 レヴィの元気な挨拶に、フェイトが柔らかな笑顔を浮かべた。

 

「うん! 美味しい! さすがオリジナル!」

「あはは。ありがとう」

 リビングでレヴィがカレーに舌鼓を打つ。レヴィの向かい側にフェイトは座り、その様子を微笑みながら見守っていた。フェイトの隣に座るアルフは苦笑するだけだ。

「いつも思うけど、本当に子供だねえ。フェイトとは大違いだ」

「私もまだまだ子供だよ?」

「いや、少なくともこいつほどじゃないと思うけどね」

 そうかな、とフェイトが首を傾げる。あまり意識したことがない。

「レヴィ。晩ご飯は何がいい?」

 今日は、シュテルはなのはの家で泊まると聞いている。レヴィもここに泊まる予定だ。好きなものを作ってあげようと思って問いかけると、

「カレー!」

「ま、また? 他にはないの? 何でもいいよ?」

 さすがに二食連続はどうだろうかと思い、聞き直してみる。むう、とレヴィは少し考えると、じゃあ、と前置きして、

「ご飯じゃなくてナンのカレー!」

「……カレーからは離れないんだね」

 フェイトは苦笑しつつも、買い物の計画を組み立て始めた。その隣ではアルフが呆れたような表情をしていた。

 

 昼過ぎ。レヴィはフェイトに連れられて最寄りのスーパーを訪れた。フェイトと共にカレーの材料を選んでいく。

「ねえねえオリジナル! これとか美味しそう!」

「だめだよレヴィ。お菓子は一つまで」

「ぶー」

 レヴィが頬を膨らませ、フェイトが仕方ないなあ、と困ったように笑う。レヴィが持っていたお菓子をその手に取ると、そのまま買い物かごに入れた。レヴィが驚いて目を丸くする。

「あれ? いいの?」

「うん。今日は特別だよ」

「わあい! さすがオリジナル! ありがとう!」

 甘やかせすぎかな、と思いもするが、こうして一緒に買い物をするのは、少なくとも海鳴市では最後だろう。少しぐらいの我が儘なら聞いてあげようとも思える。

 スーパーをゆっくり回っていると、目の前から見知った二人組がこちらへとやって来ていた。レヴィもすぐに気がつき、嬉しそうな表情をする。相手の二人もこちらに気づいて、意外そうな表情をした。

「こんなところで会うとは思わなかったよ。こんにちは、フェイト」

 笑顔でそう言うのは、シュウ。シュウが押す車椅子に座る文花も、こんにちはと頭を下げる。

「シュウ、ボクには?」

「いつも会ってるからいいかなと思ったんだけど。こんにちは、レヴィ」

 そう言ってシュウがレヴィの頭を撫でると、レヴィが嬉しそうに相好を崩した。

「二人も晩ご飯のお買い物?」

 フェイトが聞いて、文花が頷いて答える。

「はい。せっかくだからお兄ちゃんの好きなものを作ろうと思ったんですけど……」

 最後で言葉を濁し、背後のシュウを睨むように振り返る。フェイトが困惑していると、レヴィが得心したように手を叩いた。首を傾げるフェイトにレヴィが説明する。

「シュウには好きなものがないんだ!」

「ちょっとレヴィ、それだと僕がとても嫌な奴に聞こえるんだけど」

 きょとんとするレヴィにシュウがため息をついた。その一連の流れでフェイトは理解する。つまりシュウは、レヴィにとってのカレーのような、一番好きな料理、というものがないのだろう。

「作る側にとっては何でもいいが一番困るんです……」

「あ、あはは……」

 文花の、シュウに負けず劣らずのため息には苦笑を漏らすしかない。レヴィの好物が分かりやすくて良かったと少し思ってしまう。

「ところでレヴィ。さっきディアーチェと会ったよ」

「王様に?」

 レヴィが目を丸くする。王様は今日は何をするんだっけ、と腕を組んで考え始めた。すぐに思い出したのだろう、手を叩き、

「ユーリと一緒にお出かけだった!」

「うん。はやてと一緒にいたよ。ちょっと喫茶店のことで聞いていないことをいきなり言われて、すごく驚いた……」

「……何があるの?」

 複雑そうなシュウの表情が気になり、フェイトがレヴィに問いかける。だがレヴィも首を傾げ、知らない、と首を振る。レヴィに知らされていないのか、単純にそれと気づいていないのか、どちらかは分からないが。

「王様が聞きにくいことがあるって言ってたけど、それは違うような気もするし……」

「え? なに? その言い方、すごく気になるんだけど」

 途端にシュウが不安げに聞いてくる。レヴィは一度頷いて、真顔で言った。

「シュウってシュテるんといつ結婚するの?」

 レヴィのその一言でもたらされた反応は、三者三様、そして劇的だった。

 シュウが一瞬唖然とした後、見る見るうちに顔を赤くし、いやそれはちょっとなんというか、としどろもどろになっている。文花はそんな兄の様子を興味深そうに、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて観察し、フェイトは顔を真っ赤にして、しかしやはり興味があるのかシュウの反応をじっと見ていた。

「ところで結婚って何するの?」

「あ、知らないのか! いや何だろうね! 分からないなあ!」

 ちょっと外に出るよ、とシュウが慌てたようにその場を走り去る。逃げたな、とフェイトと文花は笑っていた。

「文花。車椅子は私が押すから、一緒に買い物する?」

「あ、はい。じゃあお願いします」

 文花の車椅子の後ろに回り、押し始める。レヴィは、どうしたんだろう、とずっと首を傾げていた。

 ――悪気が一切ないっていうのが、レヴィの怖いところかな……。

 レヴィを手招きしながら、フェイトは苦笑していた。

 

 夕食後。レヴィはフェイトお手製のナンを大喜びで食べてくれていた。焼きすぎたかな、と思えた量だったのだが、レヴィはそれを苦も無く平らげてしまっている。むしろお代わりを要求されたほどだ。さすがに材料がなかったためにパックのご飯で我慢してもらったが。

 ごちそうさまでした、と手を合わせ、二人で片付けを始める。洗い物をしながら、フェイトはレヴィの家族の話をずっと聞いていた。レヴィが家族の話をする時は、とても楽しそうに、自慢げに話してくれる。皆のことが好きだということがよく分かる。

「そう言えばオリジナルの家族の話を聞いたことがないような……。せっかくだから教えてよ」

 そうレヴィにせがまれて、フェイトは少し考える。フェイトにとって、レヴィは妹のような存在だと言える。話しても問題ないだろう。他言無用だと言えば、レヴィはきっと守ってくれるはずだ。

「そうだね。じゃあ長くなるから、寝る時にでもいいかな?」

「いいよ! じゃあお風呂だ!」

「え、レヴィ、ちょっと待って!」

 早く話が聞きたいのか、レヴィがバスルームへと駆けていく。フェイトも慌ててそれを追った。

 

「……ほんと、ガキンチョだね」

 アルフは一人、リビングでテレビを見ながらそんなことをつぶやいた。少しだけ、フェイトに構ってもらえないことを寂しく思いながら。

 

 フェイトの部屋のベッドに、フェイトとレヴィは一緒に横になっている。最初はフェイトがベッドを譲ろうとしていたのだが、

「ええ! オリジナルも一緒に寝ようよ!」

 レヴィのその一言により今の状態になった。そして今は、フェイトの家族のことを話し終えたところだ。

「ふうん……。オリジナルにも色々あったんだね」

「あはは……」

 ジュエルシードを巡っての事件を説明したが、その一言で片付けられてしまった。レヴィにとっては資料などで知っていることが多かったため当然なのかもしれないが。

「じゃあオリジナルのお姉ちゃんとは会えないのか。残念」

「うん……。私も会ってみたかったんだけど、ね」

 フェイトはアリシアのことは記憶でしか知らない。実際に会ったことなど一度もない。一度ぐらいは会って話をしてみたかったと思うが、アリシアが死ななければ自分は生まれなかっただろう。そう思うと、複雑な心境になってしまう。

「よおし、オリジナル! 今日はボクがお姉ちゃんだ! 好きなだけ甘えてもいいぞ!」

 レヴィのそんな言葉にフェイトは目を見開き、次いで微笑んだ。レヴィの頭を撫でる。

「ありがとう、レヴィ」

「えへへー、もっと撫でて……って、違うよ! 甘えてって言ってるんだよ! でももっと撫でて!」

「うん。なでなで」

 えへへ、とだらしなく相好を崩すレヴィ。やっぱり姉というよりは妹かな、とフェイトは思いながら、レヴィの嬉しそうな笑顔を飽きずに見つめ続けていた。

 

 翌日。

 フェイトはレヴィを見送るために玄関まで来ていた。ちなみに朝食が昨日の残りのカレーだったことは言うまでもないだろう。

「それじゃ、元気でね、オリジナル」

 レヴィが元気よく手を振る。彼女はこれから自分たちの部屋の片付けの仕上げをするそうだ。手伝おうかとも思っていたが、レヴィにそれはだめ、と拒否されてしまっている。家族の大事なものもあるから、だそうだ。

「レヴィも元気でね。こっちも落ち着いたらお店に行くから」

「うん! その時はボクの手料理をご馳走してあげよう!」

「……料理できたの?」

「……次に会う時までにがんばる」

「えっと……。た、楽しみにしてるね?」

 顔を逸らして答えるレヴィにフェイトは反応に困ってしまう。レヴィは一度しっかりと頷くと、

「だからオリジナル、ちゃんと店に来るんだぞ! 待ってるからな!」

「……っ。うん。絶対に行くから……」

 レヴィなりの激励なのだろう。フェイトは嬉しそうに微笑み、そして、

「じゃ、またね! フェイト!」

 レヴィの最後の言葉に、フェイトが目を丸くして絶句した。その間にレヴィは走り去ってしまう。ようやく立ち直った時には、すでにレヴィの姿は見えなくなっていた。

「……名前……呼んでくれた……」

 そのことが嬉しくて、フェイトの頬は自然と緩んでいた。

 

 

「さてと! 今日も一日がんばろう!」

 楽しげに鼻歌を歌いながら、レヴィは歩く。ふと振り返り、フェイトの住まいを見て、

「元気でね、フェイト」

 とびきりの笑顔でそう言った。

 




今回はレヴィ編。流れはシュテル編に近いですね……。
あちらは少々湿っぽくなりましたが、こちらは明るい感じを意識しました。
レヴィは料理苦手のイメージがありますが、実際はどうなのでしょうね……。

次回は王様+ユーリ編です。……でもそろそろ砂糖たっぷりの甘い話を書きたいです……。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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